もし、西住みほに双子の妹が居たらという物語   作:青空の下のワルツ

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遅ればせながら明けましておめでとうございます!
今回はプラウダ編の終わりと次への導入って感じです。



あたしの戦車道

「なんていうか、やたらと逃げる判断が上手くなったわね。あなた……」

 

 プラウダ高校での最後の練習……、紅白戦を終えた私はカチューシャさんからそんな評価を頂いた。どうやら私は逃げ足が早くなったらしい。

 うーん。そう言われてもなぁ……。

 

「カチューシャさんが前回と全く戦い方を変えて、フラッグ車を囮にして包囲殲滅戦なんて仕掛けて来るからですよ。あたしの車両はフラッグ車なんですから、そりゃあ大慌てで逃げますって」

 

 カチューシャさんは大胆にもフラッグ車を囮にした作戦であたしたちのチームを迎え撃ってきた。

 あたしたちはまんまと策略にハマって突出してしまい、早々にやられそうになってしまう。あたしの車両はフラッグ車だったので全力で逃げに徹した。その結果、カチューシャさんの作った包囲網を何とか突破して瞬殺を免れたのだった。

 

「でも、まぁ。このカチューシャを手こずらせた事は褒めてあげても良いわ。逃げ足の速さだけは認めてあげる」

 

「ええーっと、あたしは褒められているのでしょうか?」

 

 カチューシャさんは手こずったとは口にしていたが“逃げる”ことが上手いと褒められても、何とも微妙な気分である。

 

「当然でしょ。ここに来たときは、ただの器用貧乏だったあなたとは大違いよ。逃げ足が速いヤツが敵だとイライラするの。ちょっと本気になっちゃったじゃない。ノンナがマミーシャをフラッグ車にしたのは当然ね」

 

 カチューシャさんの言うとおり、プラウダに来る前のあたしは取り立てた特徴もない選手だった。だから、1つでも特技が出来たことは大きな前身だったみたいだ。

 

「この数日でマミーシャの被弾率は大幅に減少しました。ならばそれを活かそうとするのは当然かと」

 

 確かに目隠しの特訓のあと、私は無駄に被弾しなくなった。視野が広くなったのか、安全な場所を早く探せるようになっていた。

 ノンナさんはそんな私を評価してフラッグ車に抜擢してくれたみたいだ。

 

「しかし、最後には逃げ道をワザと作られてやられちゃいましたから。ノンナさん、面目ないです。せっかく期待してもらえたのに」

 

 結局、善戦はしたんだけど、最終的に再び包囲された上に、カチューシャさんが敢えて作っていた包囲網の薄い所からあたしが脱出を計り、そこを狙い撃ちされて負けてしまった。

 みほ姉だったら罠に気付いたんだろうなぁ。悔しい負け方をした。

 

「いえ、あの場面は私が気付いて指示を出せば回避出来ました。マミーシャに責任はありません」

 

「ノンナもまだまだね。カチューシャが背中を預けているんだから、もっと頼れるように大きくなりなさい」

 

Понятно(パニャートナ)(承知しました)」

 

 カチューシャさんはノンナさんを誰よりも信頼しているからこそ、そんなダメ出しもするんだろうな。だってノンナさん、背中を預けているって言われたとき少しだけ嬉しそうにしてたもん。最近、彼女の機嫌の良いときの表情がわかってきた。

 

 ちなみにノンナさんはちょいちょいロシア語を会話に挟む。彼女はロシア語が堪能らしい。カッコいいなぁ……。

 

「カチューシャさん、ノンナさん。最後のご指導をありがとうございました! プラウダ高校で学べるのも今日が最後になるっていうのは――寂しいです」

 

 プラウダ高校での一週間は短かった。カチューシャさんにも、ノンナさんにも良くしてもらってもらったので、あたしは二人に感謝の気持ちを述べる。そして、別れはやっぱり寂しい……。

 

「マミーシャ……、あなたさえ良ければウチに来たっていいのよ。同志としてはまだまだ頼りないけど、あなたみたいな子は嫌いじゃないわ」

 

 そんなあたしにカチューシャさんはプラウダに来ないかと勧誘してくれた。素直にあたしは嬉しいと思った。でも――。

 

「ありがとうございます。でも、あたしには目標が出来たので」

 

「目標?」

 

「もう、才能が無いとか言い訳にしません。あたしはあたしのままで強くなります。そして、戦車道をまだやったことない人に……、戦車道は誰にだって“平等”に楽しいものなんだってことを多くの人に知ってもらいたい。だから、新しく戦車道を開設する大洗女子学園で頑張りたいんです」

 

 あたしはここに来てようやく自分のやりたいことが見つかった。それは戦車の楽しさを知らない人に知ってもらうこと――。

 自分が誰にも負けないことは“楽しむ”ってことだったことにようやくあたしは気付いたんだ。

 西住流と離れて、プラウダ高校で“マミーシャ”として戦車道をやってみてあたしは毎日が楽しくて仕方がなかった。カチューシャさんがあたしに足りないことを教えてくれたりするのを見て、自分もいつかこんな風になりたいと思うようになっていた。

 

「マミーシャのくせに言うじゃない。別にいいわよ。か、カチューシャは寂しくなんてないんだから」

 

 カチューシャさんは少しだけ声を震わせて、そっぽを向いた。もしかして、ちょっと寂しいって思ってくれてたりして……。

 

「あたしは本当に寂しいですよ。あー、カチューシャさんの天使みたいな顔が見られないなんて! 寂しすぎる〜〜!」

 

「こ、このバカーシャ! 離れなさいって! 何度言ったら分かるのよ! ノンナぁ! 見てないで助けなさい!」

 

 あたしが力いっぱい彼女を抱きしめると、カチューシャはノンナさんに助けを求める。

 最後だから良いかなって思ったんだけど……。ああ、でもやっぱり可愛い。

 

「ふふ、マミーシャが来てからカチューシャは随分と変わりましたね」

 

「はぁ? 何言ってるの? こんな小さな子なんかに偉大なるカチューシャが影響なんてされるはずがないでしょ」

 

「しかし、後輩に指導をされる時間がいつもよりも多くなりました。貴女を恐れているだけだった1年生たちも徐々に積極的になってカチューシャの教えを乞うようになっていますし」

 

 ノンナさん曰く、あたしが来てからカチューシャさんは後輩をよく指導するようになったという。面倒見のいい人だと思っていたけど、違ったのか……。

 

 そういえば、最初の頃はカチューシャさんと話していると「怖くなかった」とかよく同級生の子に聞かれてたなぁ。あたしは的確なアドバイスを貰えるってことを伝えたりしてたけど。

 

「外から来たマミーシャにばかり教えていたら、カチューシャがどこの隊長なのか分かんなくなるじゃない。この子がグイグイ来るのがいけないのよ」

 

「あ、あたしってそんなに遠慮なくいってましたっけ?」

 

 カチューシャさんはあたしがよく彼女に話しかけていたから、バランスを取るために後輩の指導をするようになったと説明する。大洗女子学園の生徒であるあたしにばかり構っていてはならないと考えたようだ。

 

「あなたはずーずうしいの。犬みたいに付きまとってきて鬱陶しいったらありゃしないわ」

 

「い、犬みたいに――ですか?」

 

 どうやらあたしはかなり図々しくカチューシャさんに付きまとっていたらしい。思い起こせばトイレの外で待っていたら悲鳴を上げられたりしたような……。

 

「次に会うときはもっと大きくなってなさい。そうね。全国大会でカチューシャとやり合えるくらいには。このカチューシャに教わったんだから、あなたは西住まほよりも強くなるのよ」

  

 最後にカチューシャさんは全国大会で戦えるくらい強くなれと激励した。そして、まほ姉よりも強くなるようにとも。

 

「まほ姉よりかぁ……。あはは、そりゃあ大変だ……。でも、もう後ろを振り返りません。真っ直ぐに背中を追い続けます!」

 

 あたしはそれを了承して、カチューシャさんに手を差し出した。戦車道を続けていく覚悟を持って……。

 

「待ってるわ。でも、カチューシャは気が短いから……、のんびりしてると置いてくわよ」

 

 カチューシャさんはニヤリと微笑んで小さな手であたしの手を握ってくれた。そんな彼女は誰よりも大きな人だとあたしは感じた。

 

「ノンナさんも、今日まで色んなことを教えてくれてありがとうございます」

 

「あなたと一選手同士として戦える日を私も楽しみにしています」

 

 ノンナさんとも固く握手をした後に、あたしは大洗女子学園の学園艦への帰路についた。

 さて、ここで学んだことをちゃんと活かさないといけないな……。あー、早くみほ姉に会いたいよー。

 

 

 

 学園艦の寮につく頃には夜になっていた。ふぅ、この部屋に戻るのも一週間ぶりだ。疲れたなぁ……。

 

「まみちゃん。おかえりなさい!」

 

 あたしが玄関のドアを開けるとみほ姉が笑顔で出迎えてくれた。この笑顔……、癒やされるわ……。

 

「ただいま。みほ姉。一人でもご飯ちゃんと食べられた? 何か困ったこととか……」

 

「もう、子供扱いしないでよ。大丈夫だったから」

 

 ご飯のこととか心配したら、彼女は少しだけ拗ねたような顔をした。ムッとしてる顔も可愛いんだけど。なんで、同じ顔なのにこんなにキュートな感じになるんだろう。

 

「あはは、ごめんごめん。プラウダは楽しかったよ。黒森峰とも大洗とも違ったけど」

 

「そうなんだ。まみちゃんってどこに行っても楽しそうな顔してる気がする。すぐにお友達作ってるし」

 

 あたしが楽しんできた事を話すとみほ姉はあたしが何処でも楽しくやってそうとか言ってきた。まぁ、順応性はある方かもしれないけど……。

 

「えっ? そうかしら? まぁいいや……」

 

 そんな会話をしているとどうにも我慢できなくなってあたしはみほ姉にもたれかかった。

 

「ど、どうしたの? 体の調子が悪いのかな?」

 

「あー、やっぱりみほ姉とこうしてると癒やされるわ。多分、マイナスイオン出てるよ」

 

 彼女は心配そうな声を出したが、あたしは単純にみほ姉に触れたかっただけである。

 あー、本当に生き返った気分がする〜。絶対に科学的に何かしらの成分が出てるって。

 

「出てないよ〜。――まみちゃん、ちょっと大人っぽくなってるね」

 

「うん。あたしはもう一回……、戦車道をやってみるって決めたんだ。前にアンチョビさんを見て凄いと思った。そして、カチューシャさんを見て、こんなふうに人に教えることが出来たらって思ったから……」

 

 あたしはアンチョビさんとカチューシャさんの背中を見て西住流以外の戦車道との向き合い方を学んだ。

 才能とか強さとかそういうのに拘るよりも、好きだって気持ちを、楽しいって気持ちを優先してやりたいようにする勇気が湧いてきたのだ。

 

「まみちゃんはいつかそう言うかなって思ってた。ごめんね。私はまだやふぇ――」

 

 みほ姉があたしの話を聞いて何か言おうとしたから、あたしは彼女のほっぺをつまんで伸ばした。うわぁ、柔らかいなぁ。

 

「みほ姉のほっぺ柔らか〜い。何とかこれ、商品化出来ない?」

 

「ふぁみちゃん、ひぃま真剣(ひんへん)な話を」

 

 彼女は手をバタバタさせながら面白い感じになっている。

 良いんだよ。みほ姉は無理しなくてもさ。あたしとみほ姉じゃ止めた理由は全然違うんだし……。

 

「何言ってるか分かりませーん。あははっ……」

 

 あたしはみほ姉の変顔を見ながら、彼女に笑いかけた。

 でも、いつかきっとみほ姉も……。戻ってきてくれるよね……。

 

 

 ◇ ◇

 

 

「とりあえず、春休み中に1、2年生からアンケートを取った結果なんですけど……。戦車道履修者をする生徒はかなり少なくなりそうですね〜。当たり前っちゃ、当たり前なんですけど」

 

 今日は春休み最後の日。明日からあたしは2年生になる。

 あたしは、今年度の戦車道履修者がどれくらいになりそうなのか予測するためにアンケートを取った結果を生徒会のみんなに発表している。

 

「2年生で興味があるのは自動車部くらいか。1年生もお前らの友人連中を除いたら少ないな」

 

 自動車部のメンバーは戦車の整備をしているうちに戦車道に興味を持ってくれた。彼女らのスキルはとんでもなく高いので一緒に始めてくれるとありがたい。

 そして、1年生はというと沙織たちを除いたら、歴史好きの4人組くらいで確かに履修したいと思っている子たちは少なかった。

 

「そど子先輩はする人が少なかったら、風紀委員から何人か誘ってくれるみたいなことを言ってくれましたけど。まぁ、どのみち車両の数に限りがありますし、人が多すぎるよりは良いのではないでしょうか?」

 

 そど子先輩は無理やり参加してもらったにも関わらず、思ったよりも戦車道にハマってくれて、風紀委員の人間を人数が足りなかったら回しても良いとまで言ってくれた。

 学園艦を頑張って探した結果見つかった車両が全部で8両。逆に百人とか履修者が集まってもそれはそれで困るので、あたしは最初始めるにあたっては丁度いいと思っている。

 

「新入生も戦車道やりたきゃ、有名校に行くだろうしね〜。ま、気楽にやるにはいい人数なんじゃない?」

 

「全国大会で結果を残そうとか、そういう話じゃないもんね。私たちの代で少しでも地盤を作れれば成功じゃないかな?」

 

 角谷先輩も小山先輩もあたしの意見に同調してくれた。

 そう、あたしたちは何とか戦車道というものを大洗女子学園に定着させられれば大成功なのである。

 

「はい。黒森峰やプラウダみたいに常勝を義務付けるみたいなのじゃなくて、戦車道というゲーム性を楽しんでもらって、まずは好きになってもらえるようにしていきたいです」

 

「ほう。プラウダ高校に行ってから随分とやる気になったじゃないか」

 

 あたしがこの学校での戦車道の指導方針を語ると河嶋先輩があたしが気合を入れていると指摘した。そう、あたしはやる気に燃えている。みんなに戦車道が好きになってもらえるように頑張るんだ。

 

「それで、まみ子のお姉ちゃんはどんな感じ?」

 

「――みほ姉ですか? 彼女はあたしとまた事情が違うので……。まだ迷ってるみたいです」

 

 角谷先輩にみほ姉のことを尋ねられたので、あたしはそれに答える。みほ姉はあの事故のことを大きく引きずっているみたいで、未だに再開することを迷っていた。

 

「まぁ簡単にゃ、決められないよね。もちろん来てほしいし、教えてもらいたいと思ってるけど」

 

「基本的な戦車の運用方法なら私や優花里で何とか。あと、麻子ならすぐに何でも覚えられますので、問題ないかと。自動車部の皆さんもとんでもない人たちですし。まさか、あのポルシェティーガーを……」

  

 知識的な話ならあたしたちで教えられるし、みほ姉の力を借りるとしたら戦略や戦術的な指導についてになるだろうけど、それはまだ先の段階だから焦らなくても良いと思っていた。

 そして、あたしは自動車部の話題を口にする。

 

「最初にあの戦車見たとき、これは授業では使えないって思ったけど、よく乗りこなせているよね。自動車部……」

 

 ポルシェティーガーとかいう珍しい戦車を見つけて直してもらったのは良いけど、起動してすぐに壊れて動けなくなったので運用を諦めていた。

 しかし、自動車部の皆さんはそのポルシェティーガーを僅か数日で乗りこなせるようになってしまった。何かに火がついて色々と頑張ったらしい。

 さらに彼女たちは戦車道の授業にも参加してくれると言ってくれたので整備などの心配は皆無となる。

 

「まぁ、少なくとも5両くらいはまともに動かせないと練習試合も組んでもらえんだろうからな。既に来週に教官の指導と再来週にはサンダース大付属との練習試合の手配は済ますことが出来たが……」

 

 河嶋先輩の言うとおり新学期早々に戦車道の教官による特別演習、さらにその翌週にはあのサンダース大付属高校との練習試合が予定されている。サンダース大付属は三軍まであるらしいから、多分一軍とは戦えないだろうけど……。

 

「その時までには、お姉ちゃんの結論は聞きたいところだね〜」

 

「戦車道からの逃げ場所として、あたしがここを勧めたので――。どうしても強く誘えな――あれっ? 電話鳴ってますよ」

 

 角谷先輩としては、最初の演習までにはみほ姉の返事が聞きたいみたいだ。うーん。あたしから強引に誘うのもなぁ……。

 とか思っていると、生徒会室の内線電話が鳴り響いた。なんだろう?

 

「――文科省からですか? はい。わかりました。――なんだろう……? この時期に」

 

 小山先輩曰く、文部科学省の学園艦を取り仕切る部署の役人さんがあたしたち生徒会に用事があるとのことだ。

 うーん。年度の初めに何の用事かしら? あたしは文部科学省の人が来るって言われてもピンと来なかった。

 

 そう、あたしはまだ知らない。この先、楽しんでばかりいられなくなってしまうことを――。

 負けられない戦いに身を投じることになることを――。

 




ということで、ようやく原作開始の時系列に追いつきました。
次回から大洗女子学園の戦車道チームが始動します。

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