もし、西住みほに双子の妹が居たらという物語   作:青空の下のワルツ

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いよいよ、2年生編の開始です。原作とはかなり違った展開にしていきますので、その点にも注目してください。


大洗女子学園戦車道チーム始動

「はぁ……、どうしよう。こんな状態で戦車道をしなきゃならないなんて……。全国大会で優勝って、みほ姉が仮に居たとしても……」

 

 文科省から来たという辻さんって名前の役人と我々生徒会の話し合いが終わり、あたしは肩を落として帰路に着こうとしていた。

 話し合いの結果、あたしたちは戦車道の全国大会で優勝しなくては学校が廃校になることになってしまったのだ。

 何としても、みほ姉の力を借りたいけど……。彼女に戦車道を強制するのは――。

 

「まみちゃん! 私がどうしたの?」

 

「――ひゃうっ!? み、み、み、みほ姉!?」

 

 考え事をしながら歩いていると、不意にみほ姉に話しかけられたあたしは、心臓が止まりそうなくらいびっくりした。

 

「驚きすぎじゃないかな? たまには外でご飯食べようって誘いに来たんだけど。メール見てないの?」

 

 みほ姉はあたしと外で食事をしようと誘いに学校まで来たらしい。あっ、確かにメール来てたわ。

 

「そ、そうだね。やったー、みほ姉とデートだ!」

 

「大きな声で変なこと言わないの。ねぇ、何かあったの? 顔色が悪いよ」

 

 あたしがテンションを上げて誤魔化そうとしたが、彼女はあたしの異変を見逃さない。顔色……、そんなに悪いかなぁ。

 

「あははっ、そうかな? 普通だよ」

 

「…………また誤魔化してるでしょ? 正直に話しなさい。お姉ちゃんじゃ、頼りない?」

 

 あたしは笑いながら大丈夫だと口にするが、みほ姉は下からあたしの顔を覗き込んで、悲しそうな顔をする。自分が頼りないから、あたしが本心を打ち明けないと思っているみたいだ。

 

「――ううん。頼りないなんてことないよ。むしろ、みほ姉にしか頼れない」

 

「まみちゃん……」

 

「ねぇ、みほ姉……。今年度から、大洗女子学園で戦車道を始めるでしょ」

 

「うん」

 

「例えば、さ。今年の戦車道の全国大会で何とか優勝って出来ないかな?」

 

 あたしはみほ姉の顔を見て観念してぽつりぽつりと話し出す。今年から戦車道を始める大洗女子学園が優勝することが可能かどうか質問をしながら。

 

「ゆ、優勝? 優勝は難しいんじゃないかな? お姉ちゃんやダージリンさんたちにも勝たなきゃいけないし……」

 

 彼女は常識的なセリフを口にした。しかし、意外だったのは“無理”とは言わなかったことだ。あたしだったら、最初に言っちゃうけど。

 “優勝は難しい”とは言っていたが、みほ姉としては不可能ではないことだと思っているのかもしれない。あたしは少しだけ希望が湧いた気がした。

 

「はぁ、やっぱそうだよね〜。あのさ、みほ姉。あたしたち、全国大会で優勝しなきゃいけなくなっちゃった」

 

「え〜っ!? なんで? 急に……」

 

「だから、そのう。ええーっとね。無くなっちゃうんだ。この学園艦……。戦車道の全国大会で優勝しないと……。来年の3月末に……」

 

 そして、あたしはさっき聞いた役人の話を始める。文科省は維持費のかかる学園艦の統廃合を進める計画を立てており、大洗女子学園は「学校としての活動実績に乏しく、生徒数も減少傾向にある」からその計画遂行のターゲットとなった。

 そのことを告げた役人が「昔は戦車道が盛んだった」と口にしたので、会長がある提案をした――。

 

「――で、会長が廃校を撤回する条件として、今度の戦車道の全国大会で優勝という条件を出したのよ……」

 

 そう、彼女は今年度から大洗女子学園が戦車道を始めることを彼に告げ、全国大会の優勝を条件に廃校の撤回を約束したのである。

 

「それで、優勝……」

 

「ごめん。でも、あたしどうしたら良いかわからなくて。この学校大好きだし……、無くなるなんて嫌だ。――でもこんな気持ちで戦車道するのが怖くて……」

 

 あたしは戦車道を再開することを楽しみにしていた。今度は勝ち負けには拘らずに楽しく自分の戦車道を模索しようと思っていた。

 だけど、これで負けるわけには行かなくなる。これまで以上に負けてはならないという重圧と戦わなくてはならないのは怖かった。

 そして、こんな泣き言を姉に話すことも辛かった――。

 

 そんなあたしを見て、みほ姉は優しくあたしを抱きしめる。

 

「じゃあ、一緒にやろうか? 戦車道――」

 

 その声は静かだったけど、今までに聞いたどの彼女の声よりも力強い意志の籠もった声だった。

 恐怖を吹き飛ばしてくれるみたいな安心感をあたしに与えてくれるような……。

 

「み、みほ姉?」

 

「まみちゃんが辛いなら、私も一緒に半分背負うよ。私だってこの学校が好きだし、無くなって欲しくないから。優勝しよう。次の全国大会で」

 

 あたしはみほ姉があっさりと戦車道を再開することを口にした事に驚いた。

 ずっと悩んでいたのに……。

 彼女は自分のためじゃなくてあたしの為にもう一度立ち上がってくれたのだ。みほ姉の優しさは嬉しかったけど、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 

「でも、みほ姉は……」

 

「私は大丈夫だから。ねっ、一緒に頑張ろ」

 

「あ、ありがとう……。みほ姉……。ぐすっ……」

 

 でも、あたしは彼女の優しさに甘えてしまう。涙がとめどなく溢れてきてどうしようもなかった……。

 

「ほら、泣かないの。これで、涙を拭いて」

 

 涙でグシャグシャになった視界。みほ姉は酷い顔になったあたしにハンカチを渡してくれた。

 あたしがそれで顔を拭いたとき、あたしたちは声をかけられる。それは友人の声だった。

 

「まみさん、みほさん。話は聞かせてもらいました」

 

「華? そ、それにみんな……」

 

 校門の陰から出てきたのは華と沙織と優花里と麻子。戦車道の履修を決めていて、既にⅣ号戦車に乗って、チームとしての練習を開始しているグループだった。

 

 あたしの構想ではみほ姉が復帰した場合、現在通信手と車長をやっている沙織には通信手に専念してもらって、みほ姉にこのチームの車長をやってもらうつもりでいた。

 

 なんせ、このチームは上達の早さが異常だ。既に麻子の操縦は高校戦車道界でもトップクラスと言っていい実力で、沙織の車長としての腕を除くと他の乗員たちも強豪校のレギュラーと比べて遜色ない実力になっている。

 ここにみほ姉が入ってくれるとⅣ号戦車はおそらく戦況を単騎で変えてくれるような、そんな気がしてならなかったのである。

 

 ちなみにあたしは生徒会の他の三人と一緒に38tに乗っている。あたしの特技を活かすには装甲は弱くても機動力と小回りが利く車両が良い。だから、あたしたち生徒会はこの車両を選んだ。

 

「まみが何やら神妙な顔をしていたからな。立ち聞きしたのは悪いと思ったが……」

 

 麻子曰く、あたしがあまりにも酷い表情をしていたから心配であたしたちの会話を立ち聞きしていたのだそうだ。

 

 

「廃校ってマジなの? 優勝ってかなり難しいんでしょ?」

 

「難しいなんてものじゃないですよ。去年ようやくプラウダ高校が優勝して、その前までは黒森峰が9連覇していたのですから……」

 

 沙織の言葉に優花里が一般論を言う。そう、まほ姉の居る黒森峰女学園とカチューシャさんの居るプラウダ高校に勝つなんて並大抵じゃない。

 特にまほ姉は西住流の奥義書を手に入れている。絶対に去年より数段強くなっているはずだ。

 

 聖グロリアーナやサンダース大付属も強いし……。

 

「じゃあ諦めるか」

 

「嫌だよ! てゆか、勝とう! 絶対に! まみりんもみぽりんも居るんだし。頑張れば何とかなるよ!」

 

 麻子の諦めようという言葉に沙織は大きな声でみんなで頑張ろうと口にする。こういう切り替えの早さは彼女の美徳だと思う。

 沙織だって馬鹿じゃない。優勝することが、どれだけ難しいかくらい理解できている。

 それでも彼女はこの一瞬で死ぬほど努力することを心に決めてその言葉を声に出したのだと私は思った。

 

「わたくしも可能な限り努力します。ですから、皆さんで力を合わせて大洗女子学園を守りましょう!」

 

「そうですね。ここで引き下がるわけにはいきません。私も微力ながら全力を尽くします」

 

「面倒だが、それしか方法がないなら仕方がない」

 

 それに続いて、華も優花里も麻子も覚悟を決めた顔付きになり、優勝のために全力を尽くすことを誓いあった。

 

「みんな……」

 

 あたしは彼女たちの心意気に素直に感動した。みんなで頑張れば何とかなる、か……。不思議とそんな気がしてきたよ……。

 

 その後、メールで角谷先輩から今日のことを内緒にしろって言われたので、沙織たちに知られてしまったことを伝えた。

 彼女たちには口止めしとかなきゃなぁ。でも、いつ角谷先輩はみんなに話すつもりなんだろう? 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 それから、先輩たちの提案により戦車道を履修した生徒には単位や遅刻見逃しなどの特典を盛り込んだ上にプロパガンダ映像的なものを全校生徒に見せたりして履修者を募った。

 こうして集まった戦車道履修者はあたしを含めて33人。まぁ、風紀委員にはかなり無理をお願いしたし……。それに――。

 

「まみさん、バレー部復活の件、お願いしますよ」

 

「う、うん。戦車道の全国大会でいい成績が残せたら、あたしが必ず何とかするよ。典ちゃんは運動神経良いから、きっと戦車道も上手く出来るはず」

 

「よーしっ! 戦車道でアタック決めるぞー!」

 

 今年度、バレー部は廃部となった。理由は部員不足だから。先輩たちが卒業して、部員は今、あたしに話しかけてきた2年生の磯部典子だけになる。

 そこから新入生の部員が3人入ったが、4人ではバレー部として成立しないのでやむを得ず廃部ということになってしまったのだ。

 

 そして、生徒会は交換条件を出す。戦車道を履修していい成績を残せたらバレー部を復活させるという条件を……。

 

 結果としてバレー部の4人は戦車道を履修した。

 典子は前向きで運動神経抜群だから、戦車道をやらせるといい選手になると思うな。あと、他のバレー部の子たちも有望そうだし……。

 

 そんなバレー部チームは自分たちの戦車に89式中戦車を選んだ。この戦車は火力がないから偵察とか陽動向きかな。

 

 

 こんな感じで仲のいい人同士でグループで履修してくれたからチーム分けもスムーズだった。

 さらに何故か、どの戦車にするかという選択も被ったりしなくてあっさり決まった。

 

 カエサルさんたち、歴史好きの女子4人が集まった、いわゆる歴女チームはⅢ号突撃砲。彼女たちは去年度に何度か開催したプレ授業に参加してくれて戦車を動かせるようにはなっている。

 彼女らは戦車の知識や戦略戦術の知識が豊富なので、非常に飲み込みが早かった。

 

 1年生仲良し6人組が集まった、1年生チームはM3リー中戦車を選ぶ。彼女たちはノリで戦車道を選んだっぽい感じだから、ちょっとずつ、好きになってもらおう。

 

 そして、そど子先輩たち風紀委員3人組のチームはルノーB1bis、自動車部の4人はポルシェティーガーを選択した。

 

 そど子先輩は戦車道の経験者だから、後輩二人を引っ張ってほしい。

 

 自動車部はプレ授業に参加していて、ポルシェティーガーを自在に操ってみせた。ポルシェティーガーは大洗女子学園の戦車で最強の火力なので、それを何とか活かしてもらいたい。

 

 

 さらにあたしが最初に乗っていた三式中戦車は――。

 

「まみさん、戦車道にボクも誘ってくれて嬉しかったけど、大丈夫かな? ネトゲは得意なんだけど……」

 

 猫耳のカチューシャを付けたクラスメイトのメガネ女子である猫田さんこと、ねこにゃーがあたしに話しかけてきた。

 

 彼女が戦車のゲームが得意という話を聞きつけて、あたしは彼女を戦車道に勧誘した。すると、ねこにゃーは興味を持ってくれて、ネトゲ仲間二人を誘って戦車道を履修してくれたのだ。

 

 こうして大洗女子学園の戦車道チームは始動した――。

 

 初日である今日は、あたしの知り合いの特別教官を呼んでいる。教官の名前は蝶野亜美さん。陸上自衛隊の1等陸尉で戦車教導隊に所属している。

 彼女は昔、よく母の指導を受けていたのであたしやみほ姉と顔見知りで、大洗女子学園の戦車道チームの指導をお願いしたら二つ返事でオッケーしてくれた。

 

 さて、そろそろ亜美さんが来るはずなんだけど……。あー、来た来た、輸送機で来たんだ……。10式戦車が空から降ってきて――。

 

 あーあ、理事長のフェラーリがぺちゃんこだよ。相変わらず豪快な人だなぁ。

 

「特別講師の戦車教導隊。蝶野亜美教官だ」

 

「みんな〜、こんにちは〜」

 

 河嶋先輩の紹介で亜美さんは戦車から出てきて挨拶をする。

 

「戦車道は半分くらいの方が初めてだと聞いてますが、一緒に頑張っていきましょうね〜!」 

 

 亜美さんはそうみんなに声をかけてあたしとみほ姉の方に向かって歩いてきた。

 

「西住師範の娘さんから電話がかかってきた時は驚きました。師範にはお世話になっているので。お姉様はお元気?」

 

「姉は元気ですよ。ついでに母も。亜美さんもお元気そうで良かったです。また、母のところに遊びに行ってあげてください」

 

「ええ! そうさせてもらいますね!」

 

 亜美さんに改めて挨拶をするあたし。みほ姉は人見知りを発動してるみたいで黙ってるし……。

 

「西住師範?」

 

「それって、有名なの?」

 

 師範という言葉を聞いて、主に1年生たちがざわつきだした。

 戦車道の世界ではあたしの家って結構有名だけど、興味ない人からするとそんなこと知ってるはずないもんなー。

 

「西住流はね、戦車道でもっとも由緒ある流派なの」

 

 亜美さんは掻い摘んで西住流について説明する。

 日本の戦車道の二大流派は西住流と島田流と言われている。自分の家のことなのであまり大っぴらに言わないし、あたしの場合は次期家元の娘にしてはアレなんで余計に言いたくない。

 ただ、門下生の数は日本一多いし、実力のある選手も西住流を学んだ人間が多いことも事実である。

 亜美さんだって高校の全国大会で15両を単騎で撃破したとか、12時間ぶっ通しで戦い続けたとか、数々の伝説を残し、今は実業団チームで活躍している凄い戦車乗りなのだ。

 

「教官、本日はどのような練習を行うのでしょうか?」

 

 そんな話をしてる中で、今日を待ちわびていた優花里が挙手をして質問をする。そういえば、何をするって聞いてなかったな……。

 

「そうね、本格戦闘の練習試合、早速行いましょう。8両あるから、4両ずつに別れて紅白戦をしましょうか。ルールは殲滅戦で」

 

「えっ、あの、いきなりですか?」

 

 なんと、亜美さんはいきなり4対4の殲滅戦をしようと提案した。マジか……。確かに実戦に勝る練習はないけど……。

 

「大丈夫よ、何事も実戦、実戦! 戦車なんてガーッと動かして、バーっと操作して、ドーンと打てば良いのよ!」

 

 亜美さんはポジティブを全面に押し出して、実戦の大事さを説いた。

 しかし、このセリフは母が聞いたら何と言うだろうか? 

 

「それじゃ、西住みほさんとまみさんの二人が紅組と白組に別れてそれぞれ隊長として指示を出してね。あとのチーム分けはテキトーにやっちゃって、指定の地点にそれぞれが集まるように!」

 

 やっぱり、あたしとみほ姉が別れてそれぞれチームを率いることになったか。戦車を動かせるⅢ突チームとポルシェティーガーチームもバラけさせるとして、チーム編成は次のようになった。

 

 紅組は、Ⅳ号戦車、八九式中戦車、M3リー中戦車、Ⅲ号突撃砲の4両。

 

 白組は、38t戦車、ルノーB1bis、ポルシェティーガー、三式中戦車の4両。

 

 大洗女子学園の戦車道チームの初練習メニューである、紅白戦がスタートした――。

 

 




半分は戦車を動かせるところからスタートで、その上最初から8両あるので、いきなり殲滅戦にしてみました。
既にⅣ号チームは経験値を積んでるので、かなり強くなってます。

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