もし、西住みほに双子の妹が居たらという物語   作:青空の下のワルツ

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今回、原作とかなり変わる要素が出てきます。


姉の転校

「まみ殿これは……」

 

「うーん。思った以上に強かったわね……、プラウダも。でも、これでかなり形勢は黒森峰に傾くわよ。そこを抜ければ――」

 

 プラウダ高校も相当頑張っていたが、黒森峰女学園に勝利への天秤が傾きかけていた。

 少なくともあたしはそう思っていた――が、しかし……!

 

「えっ? 戦車が川に落ちちゃったみたいだけど、大丈夫なの!?」

 

 みほ姉の車両の近くの車両がなんと崖から転落して川に落ちてしまう。

 あたしたちはあまりの出来事にあ然としてしまった。

 

「大丈夫なハズがありません。早く救助をしないと……」

 

「車両内が浸水したら大変だ。――っ!? み、みほ姉……!? な、何を!?」

 

 あたしは自分の目を疑った。何故ならみほ姉が戦車を降りて、崖を下り――川の中に飛び込んでしまったからである。

 バカな……。下手したらみほ姉まで死んでしまう。

 あたしの頭は真っ白になってしまった――。

 

 

 

『プラウダ高校の勝利!!』

 

 

「まみ殿……」

 

「あー! 良かった〜〜!」

 

 あたしは心底ホッとした……。はぁ……、まだ心臓がバクバクしてる。 

 

「「えっ?」」

 

「だって、みほ姉が無事だったのよ……! もちろん、あの車両の子たちのことは心配だけどさ……。姉さんが川に飛び込んだとき、あたしは心臓が止まりそうだったわ……。まったく、心配かけて……」

 

 あたしはみほ姉が無事に川から出てきた姿を見て、涙が止まらなかった。

 普段はほんわかしてるのに……、やっぱりみほ姉は強い人だ……。

 本当に無事で良かった……。

 

「確かにわたくしもびっくりしました。でも、素晴らしいですね。あの咄嗟にあんな風に人を助けようと動けるなんて……」

 

「うん! まみりんのお姉ちゃんって凄いじゃん! 私、感動しちゃった。お姉ちゃんはきっとモテると思うよ!」

 

「あの場面でチームの勝敗よりも人命を第一に考えて、すぐに動く姿勢……。私も感動しました」

 

 三人はみほ姉を称賛してくれた。あたしもみほ姉は正しいことをしたと思っている。

 尊敬もしている……。でも――。

 

「ありがとう。ただ、心配だなぁ。母さんは……、絶対に許されないと思うし……」

 

 あたしは頭の中には凍てついた視線を放つ鉄の女の顔を思い浮かべる。

 

「――絶対に許されない?」

 

「ん? ああ、ごめん。こっちの話……。気にしなくていいわよ」

 

 あたしは母の顔を思い浮かべながら、沙織の疑問を受け流した。

 勝利至上主義の彼女は決してみほ姉を許さないだろう。

 あたしは才能が無かったから母から咎められることと言えば技術面に関することだけだった。

 

 だから、みほ姉やまほ姉と比べると普通の母親として接してもらった部分が多かったかもしれない。

 皮肉な話だが戦車道の選手として期待されてない分、自由にさせてもらったし、こういう性格だから姉妹の中で一番母と話す時間が多かったりする。

 

 でも、双子で同い年である、みほ姉は違う。技術面が完璧な上に、王道を行く西住流をひっくり返すような新しい戦車道――柔軟な発想から成る既存の箱にとらわれない彼女のやり方を母は良しとしなかった。

 母には才能のあるみほ姉に対して彼女なりの期待もあったのだろう。みほ姉には特に厳しく西住流のあり方を教育していた。

 

 西住流の戦車道は何があっても勝ちへと進むことが鉄則。

 だから、仲間を助けて敗けたなど許されるはずがないのだ。

 

「それでは、まみ殿、私はこれで」

 

「戦車道って迫力があるんだね。本当にやったらモテるのかなー?」

 

「今日は知らない世界を知ることが出来ました。いつかお姉様にもお会いしたいです」

 

 試合が終わってしばらく雑談をしたあと、夜になってしまったので三人は自分の家に帰宅した。

 沙織と華は初めて戦車道の試合を見て興味を示したみたいだけど……。

 やることはないだろうなー。大洗女子学園には戦車道の科目はないし……。

 

 

 

 

 その日の深夜――多分起きているであろう、みほ姉に私は電話した。

 

「試合見たよ。みほ姉、最高に格好良かった! あたしは姉さんを誇りに思う……」

 

『まみちゃん、ありがとう。でも私も、もう戦車道できないかも……』

 

 やはり、みほ姉は意気消沈している様子だった。おそらく、母にこっ酷く叱られたのだろう。

 母は不器用な人だ。西住流という大きな物を背負っているからこそ、自分の意見は曲げられない。

 

 でも、みほ姉もまた自分の信念みたいなものがある人であり、心を壊さなくては西住流の戦車道を徹底するなんてこと到底出来ないであろう。

 

 あたしはみほ姉の戦車道が好きだったが、このまま彼女が壊れていく姿は見たくなかった。

 

 だから――。

 

「そっか。あたしはとっくに逃げちゃったから、頑張れって言えないや。もし辛かったらさ、みほ姉もこっちに逃げて来なよ。まほ姉もわかってくれると思うわ」

 

 あたしはみほ姉に大洗女子学園に転校することを勧めた。

 多分、このままだと彼女は重圧に押し潰されてしまう。

 

 戦車道の才能があるみほ姉がそれを止めてしまうのは大きな損失かもしれないけど……。

 今日の彼女の行動を見て、あたしはこれ以上彼女に西住流を強制すると逆にもう二度と戦車道をしなくなるのでは、と危惧してしまった。

 

 落ち着くまで戦車道から離れた方がみほ姉の心には良いのではと、あたしは思ったのだ。

 

『こっちにって、大洗に?』

 

「うん。大洗女子学園はいい所よ。それに戦車道もないし」

 

 大洗女子学園には戦車道の科目はない。昔は盛んだったみたいだけど、止めちゃったらしい。

 ただ、適当に学校を探索しただけで2台くらい戦車を確認したから名残はまだあるのかもしれない。

 

『転校なんて考えてなかったけど、今はそうしたいかも。勝たなきゃいけない戦車道に疲れちゃったし』

 

「あたし、みほ姉と一緒に学校に通いたいわ」

 

 みほ姉があっさりと本音を吐露したので、あたしも本音を言う。

 まほ姉には悪いけど、寮に一人暮らしでちょっと寂しかったんだよね……。

 

『私もまみちゃんに会いたい。2年生になったら本当に転校しようかな?』

 

「転校するって決めたら早い方が良いんじゃない? あたし生徒会に入ってるから、会長に頼めば手続きもサクッと出来るわよ。みほ姉さえ良かったら2学期からでも来られるようにするけど……」

 

 本当は学園艦から別の学園艦に新年度以外で転校するのはかなり面倒なのだが、権力の中枢である生徒会の力を以てすれば、そういう手続きも楽にスキップすることが出来る。

 だから、あたしは2年生からでなく、2学期からの転校をみほ姉に勧めた。

 

『2学期から? そんなに早く? えー、ちょっと考えてみるよ』

 

 思った以上にみほ姉の反応が良くて、最初よりも幾分明るい声になった。

 

「うん。ゆっくり考えてね。大好きだよ、みほ姉……」

 

『まみちゃんは相変わらずだね。少しだけ楽になったよ。おやすみなさい』

 

 彼女は穏やかな口調で寝る前の挨拶をして、あたしもそれに応えて電話を切った。

 みほ姉はどう判断するだろうか? こっちに来てくれたら嬉しいな。

 

 

 そこから、生徒会の仕事に追われながらあっという間に夏休みが過ぎ去り――。

 

 

 ◇ ◇

 

 

「えっ、良いんですか? こんなに大きな部屋で……?」

 

「いいって、いいって! 二人部屋は余ってたからさー。まみ子も頑張ってくれてるし、出来るだけいい部屋に住んでもらおうって思ったんだよ」

  

 ツインテールで小柄な体格の大洗女子学園の生徒会長、角谷杏先輩は手をプラプラと振りながらみほ姉の言葉を流している。

 ちなみに“まみ子”は角谷先輩があたしに付けたあだ名である。全く浸透してないが……。

 

 双子の姉である、みほ姉は夏休みの最終日に大洗女子学園の学園艦に引っ越してきた。

 そして、こんな時期に転校してきて色々と不便もあるだろうと、角谷先輩はあたしとみほ姉に二人で暮らせる寮の一室を用意してくれた。

 

「会長、ありがと〜。転校の手続きだけじゃなくって、部屋の手配まで……」

 

 あたしは角谷先輩に抱きつきながら、お礼を言う。

 この人はいつもは割と無茶ぶりしてくるけど、面倒を見るとなると決して手を抜かない人だ。

 敏腕という言葉は彼女の為にあるのかもしれない。

 

「会長の心遣いに感謝しろ! あと、いい加減、会長に敬語を使え! まみ! そして、西住みほも大洗女子学園の生徒になったからには規律をキチンと守り、素行の面もだな――」

 

 モノクルという片眼鏡が特徴的な生徒会の広報である河嶋桃先輩はいつものようにあたしに向かって小言を言う。

 

「まぁまぁ、河嶋〜! 堅いこと言わないでさ、まみ子のお姉ちゃんを歓迎してあげようよ」

 

 角谷先輩はそんな河嶋先輩をなだめていた。

 これもいつもの光景だ。河嶋先輩はよく怒る……。

 

「す、すみません。まみちゃん、先輩には敬語を使わないとまずいよ〜」

 

 そして、先輩にタメ口を利いているあたしに対してオロオロしながらみほ姉は注意をしてくる。

 

「良いんだよ。ウチは先輩風とかあんま吹かせたくないからね〜」

 

 そんなみほ姉に角谷先輩はニカッと小気味よい笑顔を見せて、これがあたしたちの間では普通だと説明した。

 実はこんな風にあたしがフランクに先輩と接しているのには理由がある。

 角谷先輩と最初に出会ったとき同級生だと勘違いして、タメ口で接してしまった。彼女が何も言わなかったから……。

 

 それからしばらくして彼女が生徒会長であり、上級生だということを知った。

 謝って敬語で話そうとしたんだけど、彼女はあたしとは気軽に話したいと言ってきて生徒会に入ることを勧めて、彼女への敬語が禁止となってしまったのだ。

 

 だから、生徒会の中ではあたしは角谷先輩にだけ敬語を使ってない。未だに河嶋先輩だけはイラッとして小言を言うけど……。

 

「そうそう、みほ姉もそんな心配そうな顔しなくて大丈夫だから。河嶋先輩だって、本気で怒ってるわけじゃないのよ」

 

「何度も言ってるが私は本気で怒ってるぞ!」

 

 あたしが河嶋先輩も実は黙認していると説明すると、先輩はムッとした表情で反論する。

 

「でも、髪の色以外で本当に見分けがつかないわ。一卵性双生児ってことよね?」

 

 生徒会の副会長、ポニーテールが特徴的な小山柚子先輩は優しく微笑みながら、みほ姉に話しかける。

 

 彼女はおっとりした性格で誰にでも優しい人だ。しっかりした人で角谷先輩や河嶋先輩に振り回されるあたしをよくフォローしてくれた。

 

「えーっと、そ、そうです。小山先輩」

 

「そんなに緊張しないでいいから。途中から入っても今日から私たちの大事な後輩なんだよ? 何でも頼ってくれて良いからね」

 

 小山先輩はニコリと笑顔を見せて、みほ姉の手を握ってこれからは後輩だから、自分を頼るように言葉をかける。

 

「あ、ありがとうございます! 今日からよろしくお願いします!」

 

 みほ姉は優しい先輩たちの言葉が嬉しかったのか、アワアワしながらも大げさに頭を下げて改めて挨拶をした。

 大洗女子学園に早く馴染めるといいなぁ。

 

「そーいや、お姉ちゃんは必修選択科目どうする? 前の学校ではあれだっけ? 戦車道やってたんでしょう? ウチはそれやってないから適当に選んで欲しいんだけど」

 

 そして、角谷先輩は思い出したように一枚の書類をみほ姉に見せながら急いで必修選択科目を選ぶ必要があることを伝えた。

 必修選択科目は茶道や書道などの文化的作法を身に着けることを目的とした科目であり、必ず1年で1つ選択しなくてはならない。

 

「あたしは忍道を取ってるのよ。分身の術とか覚えられなくて残念だなって思ってるけど、結構楽しいわ」

 

「あ、じゃあ、まみちゃんと同じで」

 

 あたしが自分の選択した科目を話すと驚くほどあっさりとみほ姉は同じ科目を選択した。

 

 あたしもそうだったからわかるけど、彼女にとっても戦車道以外の科目というのはどれも未知であり、等しく興味深いものだろうから、どれを選ぶかよりも、誰とするかの方が大事だったのだろう。

 

「ん、わかった〜〜。すぐに手続きしとくわ。まっ、まみ子と同じクラスだからすぐに馴染むでしょ。慣れてきたら部活とかも探したりしてみても良いし、生徒会ならいつでもウェルカムだよ。入らなくても良いから、いつでも遊びに来な」

 

 角谷先輩は彼女らしい気さくな感じでみほ姉に声をかけて、河嶋先輩と小山先輩を引き連れてヒラヒラと手を振って部屋から出ていこうとした。

 

「はい! 何から何までありがとうございます!」

 

 みほ姉はそんな先輩たちにもう一度頭を下げてお礼を言う。

 ふぅ、彼女の大洗女子学園の生活は順調にスタート出来たな。明日は友達に彼女を紹介して、学園艦を案内したりしようっと……。

 




原作とは違って、まだ廃校の話が来る前の大洗女子学園にみほを転校させてみたのですが、如何でしたでしょうか?

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