もし、西住みほに双子の妹が居たらという物語   作:青空の下のワルツ

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今回からみほとの大洗での生活が始まります。


ようこそ大洗女子学園へ

「じゃあ、改めて。大洗女子学園にようこそ。みほ姉……」

 

 先輩たちが帰って、部屋の片付けも一段落ついて、あたしはみほ姉に改めて彼女に歓迎の言葉をかけた。

 みほ姉は“ボコられグマのボコ”という一風変わった熊のキャラクターが大好きだったが、その趣味は未だに健在で彼女のベッドの周りは“ボコ”のぬいぐるみに囲まれていた。

 

「えへへ、来ちゃった。まみちゃんが色々とやってくれたから、助かったよ。でも、お姉ちゃん怒ってるだろうな」

 

 あたしの言葉を受けて、彼女は最初にまほ姉のことを気にかけた。

 まほ姉は優しい人だからきっと何も言わずにみほ姉を送り出したんだろうな……。あたしの時と同じで……。

 

「まほ姉だってわかってくれるわよ。でも今度、一緒に謝りに行きましょ。あたしも実は気まずいんだ、最初に逃げ出しちゃったし」

 

 あたし自身もまほ姉には二重の意味で後ろめたいと感じている。みほ姉に転校を勧めたせいで、西住流の重圧を全部彼女に押し付けたから……。

 

「まみちゃんが止めちゃったのは驚いた。中等部の最後の大会だって優勝したのに……」

 

 みほ姉はあたしが戦車道を止めたことに驚いていたらしい。

 

 確かに中等部最後の大会でみほ姉が隊長を務めていて、あたしも試合に参加して、大会で優勝した次の日に止めたから、突然だと感じられても仕方がない。

 

「優勝しちゃったからよ……。みほ姉……」

 

「えっ?」

 

 あたしは西住流を背負える実力がないことを理解して、その上で凡庸な自分が西住の名で試合することが恥ずかしくなり戦車道を止めた。

 その決定的な出来事が中等部最後の試合に起こったのだが、彼女はそれに気付いていない。

 そんな愚痴みたいな話を双子の姉にするわけにもいかないのであたしはずっと止めた理由を誤魔化し続けていた。

 

「ううん。なんでもないわ。あたしの場合はみほ姉よりももっと子供っぽい自分勝手な理由だから。――でも、わからないものね。どっちも戦車道をしなくなるなんて、昔は思わなかったわ」

 

 それにしても、運命というのは皮肉なものである。

 才能があっても無くても双子のあたしたちは二人共戦車道を止めることとなったのだから。

 

「昔は戦車に乗るのも楽しかったな」

 

 みほ姉はそんなあたしの言葉を聞いて昔は楽しかったと懐古した。

 

「そうね。てか、今だってあたしは戦車道は嫌いじゃないし、何のしがらみもなかったら戦車に乗っても楽しいと思うんだけど」

 

「ふえっ? そうなんだぁ。まみちゃんはてっきり戦車道が嫌いになったのかと思ってた」

 

 あたしが特に戦車道や戦車を嫌っていないと口にするとみほ姉は意外そうな顔をしてあたしを見た。

 

「考えてみてよ。絶対に勝たなきゃいけないのは西住流の戦車道でしょ? そうじゃなくてさ、もっと自由に気楽な感じで――戦車に乗れるんだったらみほ姉も楽しめるんじゃない?」

 

「勝たなきゃいけないのは西住流だから……? 勝たなくても良いなんて考えてもみなかった」

 

 勝たなくても良いという考え方は母の教えとは正反対だ。

 だから、あたしの言葉はみほ姉には結構衝撃的だったみたいである。

 

「まぁ、今は深く考えなくっていいと思うわ。どっちみち、あたしたちは当分の間は戦車道から離れて生活するから。あっ、でもね。この学園艦にも戦車はあるのよ。今度、友達と動かしてみようって計画を立ててるの。みほ姉も来る?」

 

 あたしはちょっと前に見つけたⅣ号戦車を優花里と一緒に洗車やメンテナンスをして動かそうと計画していることをみほ姉に話した。

 

「ええーっ! そ、そんなことを勝手にして怒られないの?」

 

「大丈夫、大丈夫。文化祭の出し物にしようと思ってるだけだから。あと生徒会として戦車で学園艦を回って文化祭の宣伝をするの。面白いでしょ?」

 

 みほ姉は驚いていたが大丈夫なのである。近々行われる文化祭の告知に戦車を使おうというアイデアは既に通っており、そのための準備はもう出来ているのだから。

 

「戦車で文化祭の宣伝!? ふふっ……、そんなの聞いたこともないよ。お姉ちゃんが聞いたら渋い顔をすると思う」

 

 確かに黒森峰では戦車をそんな風に使うなんて言語道断であろう。

 まほ姉は渋い顔もするかもしれないが、何だかんだで懐の深い人だから笑って許してくれるかもしれない。

 

「でもさ、あたしたちが楽しかった戦車ってさ。もっと自由だったじゃん。昔はまほ姉の操縦で釣りに行ったりしてたし」

 

 あたしは幼い日の想い出を話しながら戦車に乗ることが楽しかったと口にする。

 

「そうだったね。なんか、懐かしくなっちゃった。私も手伝おうかな。久しぶりにまみちゃんと一緒に戦車に乗ってみたいし」

 

 意外なほどあっさりとみほ姉は戦車に乗ると言った。

 ()()()という言葉があたしには飛び上がるくらい嬉しかった。

 

「やった! きっと楽しいわよ。戦車道から離れて戦車に触れるのって。じゃあ友達にも伝えておくわ。良かった〜〜。二人じゃ少しだけ不安だったの」

 

「まみちゃんがそんなに喜んでくれるなら、嬉しいよ。戦車道以外で戦車に乗るなんて久しぶり」

 

 こうしてあたしたちは久しぶりの再会で昔話やお互いの話に花を咲かせ――いつの間にか同じベッドで眠りに落ちていた――。

 

 

 

「――もう家じゃないんだった!」

 

「んん? み、みほ姉?」

 

 目覚しが鳴って素早く動き着替えを開始していたらしいみほ姉が妙に感激したような顔で家から出たことを声に出していた。

 

「だって、家だと起きたら早く準備しなきゃってなってたから、つい……」

 

「えっ? そうか……、みほ姉はそういうのにも、そんなに力を入れてたのね」

 

 あたしはみほ姉が実家にいるとき、かなり気張って生活していたことを忘れていた。

 戦車道は天才的なのだが、他のこととなると何故か要領が悪くなり、彼女もそれを自覚しているので、普段の生活では人の倍は気を使っているのだ。

 

「私はまみちゃんやお姉ちゃんみたいにテキパキ動けないんだもん。――って、いつの間に着替えて朝食を?」

 

 ゆっくりと着替えの残りを済ませたみほ姉はリビングに朝食が用意されているのを見て驚いた声を上げる。

 

「あたしは一人暮らししてそれなりに時間も経ってるから、こんなの普通じゃないかしら?」

 

「うーん。私がぼんやりしていたからかなぁ? まみちゃんって昔から器用だよね」

 

「朝食くらいで大袈裟すぎ。ほら、一緒に食べるわよ」

 

 昔からみほ姉はよくあたしを褒めてくれる。要するに彼女はあたしに甘い。

 朝ごはんくらいでここまでのリアクションをとってくれるのだから。

 

「「いただきます」」

 

 両手を合わせて、あたしたちは朝食を取り始めた。

 

「勉強の方はどうなの?」

 

「戦車道やらなくなったから成績だけは良くなったわよ。1学期の成績も学年で2番だったし」

 

 今日から登校するからなのか、彼女はあたしの勉学について尋ねてきたので、それに答える。

 

 生徒会の仕事は忙しかったけど、体力的にも精神的にも戦車道の練習の方がキツかった。

 なので、比較的に得意だった勉強に身が入るようになり、中等部時代よりも成績は良くなった。

 まぁ、学校が違うから一概には言えないけど……。

 

 ちなみに学年1位は沙織の幼馴染の冷泉麻子という子だ。彼女は小柄で低血圧のせいでいつも眠たそうな表情をしている。

 まぁ、彼女は勉強が出来るとかそういう次元じゃないけど……。

 だって、教科書をパラッと捲っただけで全部理解するんだもん。

 沙織の紹介で彼女と友人になったが、みほ姉以外に天才だと思ったのは彼女が初めてだった。

 

 遅刻の多さで風紀委員に目を付けられて早くも卒業が危ぶまれているけど、何とか頑張って単位を取得して欲しいものである。

 

「すっごーい。いいなぁ、まみちゃんは何でも出来て……」

 

「あたしはみほ姉が羨ましかったけど……」

 

 みほ姉はあたしのことが羨ましいと良く口にする。それは心底本音なんだろう。

 だけど、あたしはみほ姉に憧れていた。みほ姉の戦車道が好きだった――。

 

「えっ?」

 

「――これ、美味しいのよ。最近よく買ってて……」

 

 しまった。止めたあたしが何を言ってるんだ。みほ姉の人生だし、あたしが口出す権利なんてないのに……。

 あたしは慌てて、漬物を口に運び誤魔化そうとする。

 

「ほ、本当だ。美味しいね」

 

 みほ姉は不思議そうな顔で首を傾げて、漬物の味の感想を口にした。

 ごめんみほ姉……、その漬物は昨日初めて買ったものなんだよ……。

 

 

 

 ◇ ◇

 

 

 朝食を食べて、いろいろあって、今から昼食をとる。

 

 いや、いろいろというのはみほ姉が転校初日で自己紹介をして盛大に噛んだこととか、突然あたしとそっくりな双子が入ってきたので質問攻めにあって困った顔をしていたこととか、そんな感じ。

 

 授業は問題なさそうだったから、とりあえず安心だ。

 

 

「武部沙織さんと、五十鈴華さんだね。よろしくお願いします」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 あたしはみほ姉を連れて、沙織と華と一緒に食堂に行って、食事を取りながら雑談をする。

 

「よろしく〜〜。みほは、まみりんとそっくりだけど、全然タイプが違うんだね」

 

 沙織は興味深そうにみほ姉を見つめて、ニッコリ笑った。

 こういう距離感の詰め方が沙織は抜群に上手い。

 

「そ、そうかなぁ?」

 

「うんうん。なんか、アワアワしてて面白い感じ!」

 

「あはは……」

 

 沙織は何故か自信満々でみほ姉の印象を語り、みほ姉は困ったような顔で苦笑いする。

 

「みほさんと話してると、とても癒やされます。まみさんから聞いていたとおりです」

 

「そ、そんなことないよ〜。華さんこそ、おしとやかで女性らしくて羨ましい」

 

「まぁ! 堅苦しいとよく言われるのですが……。ありがとうございます」

 

 そして、華とみほ姉は互いに褒め合うというよく分からない状況になっていた。

 華は独特の話し方だけど、あたしは好きだなー。

 

 

 

「それはそうと、今度の文化祭の実行委員がどうしても集まらなくって困ってるのよ。沙織と華にお願いしたいんだけどダメかしら?」

 

 しばらくして、あたしは文化祭の実行委員が集まらない話を振った。

 

 本当は1学期の終わりには決めておかなくてはならなかったのだが、立候補者が少なくて夏休み中の登校日にも募集をかけたものの、それもダメに終わって困っていたのである。

 

「わたくしが文化祭の実行委員ですか? まみさんがお困りなら、わたくしは構いませんが」

 

「今度の文化祭って、今までと違って他の学園艦と合同でするんでしょ? 彼氏を作るチャンスかも! 私もやるやる!」

 

 華と沙織はすんなりオッケーしてくれた。ああ、この二人が友人で良かった〜。

 面倒を押し付けるから何となく気が引けてたけど、思い切って話してみて正解だ。

 

「そうそう。あたしが会長にそれを提案したら採用されちゃって。今、何校かに問い合わせて、返事を待ってるところなんだー。二人とも引き受けてくれて、ありがとう! 助かったわ!」

 

 今回の文化祭は今までにない大きなことをやりたいと角谷先輩が言い出したので、みんなで意見を出し合った。

 そして、あたしが考えたのが、学園艦同士の交流も兼ねた合同文化祭だ。

 

 まだ返事を待っているというのは本当だが、実際は現時点で予定を合わせてくれるという前向きな返事をしてくれた“アンツィオ高校”と“聖グロリアーナ女学院”と一緒に行う三校合同の文化祭になると思われる。

 

 もちろん、共学の高校にも打診をしたのだが、今の時点で返事がないので難しいだろう……。

 

 沙織……。もう少しだけ夢を見ていてくれ……。もしかしたらがあるかもしれない……。

 

「へぇ、文化祭の実行委員かぁ」

 

「よろしければ、みほさんも一緒にやりませんか?」

 

 みほ姉があたしの話に相槌を打ったところにすかさず華が彼女に共に実行委員にならないかと誘う。

 

「えっ? 私が実行委員? ふぇっ、そ、そんなの無理だよ〜〜」

 

 案の定、みほ姉は断りを入れる。彼女は人見知りだし、転校初日に実行委員になるのはハードルは高いかもしれない。

 

「大丈夫だって! 人間、習うより慣れろっていうし、きっと文化祭が終わる頃にはこの学園艦に馴染んでるよ」

 

「確かに良い考えかもしれないわね。あたしも生徒会としてフォローするから、みほ姉もやっちゃいなよ」

 

 しかし沙織の謎理論を聞くと、確かにみほ姉にとっていい影響があるかもしれないと思って、彼女に「やってみたら」と促してみる。

 

「うーん。――じゃあ、まみちゃんも頑張ってるし私も頑張ってみようかな?」

 

 みほ姉は少しだけ考え込む仕草をして、実行委員になることを承諾してくれた。

 

「本当に!? 人手不足だから、そうしてくれるとすっごく助かるわ。転校早々に無茶言ってごめんね」

 

「ううん。今まで戦車道ばっかりだったから、せっかくだし、こういう学校の行事を頑張ってみたい」

 

 あたしがみほ姉に無茶ぶりをしたことを詫びると、彼女は今までやってなかったことを頑張りたいと声を出した。

 

「でも嬉しいわ! 一緒に頑張りましょう!」

 

 あたしはそんな彼女の決心が嬉しくて、つい、いつものように彼女に抱きついてしまう。

 

「へっ? ま、まみちゃん。みんな見てるよ〜〜」

 

 するとみほ姉は顔を真っ赤にして、恥ずかしがっていた。

 しまった。久しぶりに会って興奮して人目を憚ることを忘れてしまった。

 

「あらあら、まみさんがみほさんを慕っていることは聞いておりましたが……」

 

「あんまり過剰だと、彼氏出来ないよ……」

 

 そんなあたしのことを華と沙織は若干呆れ顔で見ている。

 ううっ……、だって頑張ろうとするみほ姉が可愛すぎたんだもん……。

 

 こうして、あたしたちは文化祭の準備をみんなで協力して頑張ることとなった。

 

 しかし、あたしもみほ姉もまだ知らない……。

 この文化祭があたしたちを再び戦車道の世界に呼び戻す()()()()になることを――。

 




この合同文化祭がまみとみほが再び戦車道を始めるきっかけになります。
続きもぜひ見てください。

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