もし、西住みほに双子の妹が居たらという物語 作:青空の下のワルツ
「さて、昨日キレイにしたⅣ号戦車だけど……」
「正直言って私は本物の戦車の整備は初めてですので自信がありません……」
あたしと優花里は昨日必死でⅣ号戦車をキレイに洗車して、今からこの車両が動くようにと整備をしようとしていた。
しかし、あたしも正直言って長いこと動かしていない車両の整備には自信がない。
「と、思ってね。今日はもう一人助っ人を呼んでいるのよ」
「そ、そうなんですかぁ? しかし、この学園艦に他に戦車に詳しい人がいましたっけ? ああ、もしかして自動車部の方ですか?」
あたしが助っ人がいると告げると優花里は首を傾げる。
確かに自動車部の人たちなら何とかしてくれそうな感じはある。にっちもさっちも行かなくなったらお願いしてみようかな?
「はぁはぁ……、まみちゃん、お待たせ……。ごめんね。実行委員の話し合いが長くなっちゃって……」
そんなあたしたちの所に息を切らせながら、みほ姉が走ってやってくる。
どうやら、文化祭の実行委員の仕事が思ったよりも長引いたようだ。しかし、最近みほ姉は楽しそうに実行委員の仕事をしている。
沙織や華とも上手くやっているようだ。
「ま、まみ殿が二人!? じゃなくて、もしかして西住みほ殿ですか!?」
「は、はい! そうです! わ、私のことを知っているんですか?」
そんなみほ姉を見て驚く優花里。優花里は戦車道のファンとしてみほ姉に憧れている。要するにあたしと一緒ってこと。
「それはもう、よく存じております。大洗女子学園の制服ということは――。こちらに転校されたのですか?」
「え、あー、はい」
「まぁ、色々とあって、みほ姉はこっちで生活することになったの」
驚きながらも優花里はみほ姉が転校して来たことを知り、嬉しそうである。
まぁ、その理由も察してくれるだろう。
「色々? そうでしたか……。では、助っ人というのは西住みほ殿のことだったんですね」
「そゆこと。じゃあさっそく始めましょう」
案の定、優花里はみほ姉の転校理由を察して、深くは聞かなかった。
そして、あたしたちはⅣ号戦車のメンテナンスを開始する。
ええーっと、まずは――。
それからしばらく経って、一通り作業が終わり、エンジンをかけてみたんだけど――。
Ⅳ号はうんともすんとも言ってくれなかった。
「――とは言ったものの。さすがに長い間動かしてないから、簡単には動いてくれないか」
「一応、ネットでメンテナンス方法を調べてプリントアウトしたのですが……。そのとおりにやってみても上手く行きませんね」
「触った感じだと、これでちゃんと動くと思ったんだけどなぁ。何がダメだったんだろう?」
あたしたちはⅣ号が動かない理由が分からずに途方にくれていた。
あれ? 優花里がプリントアウトしてくれた資料はどこだっけ?
キョロキョロと資料を探していると、聞き覚えのあるテンションの低い声が耳に届く。
「――そこの部品、反対に付けてるぞ……」
「あっ!? 本当です! よくわかりましたね! ――って、どなたですか!?」
小柄なロングヘアスタイルの女の子が資料片手に指差しながら、あたしたちの整備の間違いを指摘してくれた。
優花里は誰なのか知らないみたいだけど、あたしは彼女を知っている。
「あれ、麻子じゃない。どうしてここに?」
指摘してくれたのは冷泉麻子。沙織の幼馴染にして学年首席の天才である。
しかし、資料を一瞥して整備の不良箇所を一瞬で見つけるとは――。
「その倉庫の陰は絶好の昼寝スポットなんだ。まみこそ、戦車なんて直してどうするつもりだ?」
どうやら、麻子は戦車が置かれていた倉庫の裏で昼寝をしていたらしい。
そして、あたしたちの作業の音で目を覚ましたのだそうだ。
「今度の文化祭で使うのよ。さて、もう一回、エンジンをかけてみようかしら?」
あたしは今度こそⅣ号が動いてくれることを願いつつ、車両に乗り込もうとした。
「ふーん。これが操縦方法か……。どれ……」
すると、麻子はペラペラっと念の為に持ってきたⅣ号のマニュアルを読むと、眠たげな表情からは考えられないくらいの身軽さでⅣ号乗り込む。
「――えっ? 麻子、何を?」
「あっ、エンジンがかかった。まみちゃん、あの子って戦車道をしていたの?」
何と麻子は一発でエンジンをかけた。初心者は大体失敗するのに――。
そりゃ、みほ姉も麻子が戦車道経験者なのか疑うのも当然である。
「い、いや……。沙織の幼馴染なんだけど、そんな話は聞いてないよ」
麻子は戦車道をやっていないはずだ。やっていたら幼馴染の沙織が戦車道の話題を出したとき何も言わないのはおかしい。
「しかし、動いてますよ。Ⅳ号……。とても戦車に乗ったことのない人の操縦ではないのですが……」
優花里の言うとおりⅣ号は初心者とは思えないほどスムーズできれいな動きを見せていた。
とても、ちょっとマニュアルを見ただけの操縦には見えない。
「参ったわね……。天才って知ってたけど、ここまでとは思ってもみなかったわ……」
あたしは冷泉麻子という人物の規格外さ加減に驚いていた。
何でもできる人って本当に居るんだなぁ。漫画やアニメの世界だけだと思ってた……。
「動かしたら、右側の履帯から少し異音が聞こえた……。事故には気をつけるんだな」
「それを調べるために試運転してくれたのね」
戦車から降りた麻子は右側の履帯に違和感があるとアドバイスしてくれた。
あとで調べたら、確かに右の履帯に少し修繕しなくてはいけない部分があったので、あたしは更に驚かされた。
「沙織が文化祭の実行委員を頑張ってるからな。このくらいは協力してやる……」
麻子は実行委員となった沙織のために文化祭の協力をしてくれたようである。
この子はクールだけど、友達想いの人なんだよね。
「冷泉さん! あ、ありがとう!」
「ん? まみの双子の姉か……。礼には及ばない」
みほ姉は麻子にお礼を言うと、彼女は彼女らしくそれを流す。
でも、きっとみほ姉の気持ちは通じてるはずだ。
「冷泉殿の操縦はお見事でした! 私は感動しました!」
「そうか……」
そして、優花里の言葉を背中に受けて麻子はそのまま去っていく。
彼女が戦車道をやったらとんでもない選手になるだろうなー。
「じゃあ、さっそく文化祭の宣伝に行ってみようか? あたしが操縦するわ」
みほ姉はあまり操縦が得意ではないので、あたしがⅣ号の操縦をする。
文化祭の告知用のスピーカーも設置したのでいつでも宣伝に行ける。
「それでは私が砲手と装填手を務めます。みほ殿は車長で」
「ええーっ!? 別に撃ち合いをする訳じゃないんだし、役割分担はしなくても良いんじゃないかな?」
優花里がノリノリで役割分担の話をすると、みほ姉はごもっともなツッコミを入れる。
宣伝に行くだけだから操縦手以外の役割なんて要らないからである。
「いえいえ、こういうのは雰囲気が大事ですから」
優花里もそんなことは承知しているみたいだけど、初めて戦車に乗るのでそういう雰囲気を味わいたいだけみたいだ。
「まぁ、万が一にも事故れないし、みほ姉が見通しのいい場所から指示を出してもらえれば助かるわ」
試合でもない普通の街道を走るだけなので、事故など起こさない自信はある。
ただ、あたしはみほ姉に見て欲しいのだ。何のしがらみもなく乗った戦車から見える風景を――。
そして、あたしはたまらなく好きなのである。キューポラから半身を出して辺りを確認するみほ姉の姿が――。
「そ、そう? まみちゃんがそう言うなら……」
「じゃあエンジンをかけるね」
みほ姉が納得してくれたところであたしはエンジンをかける。
「ヒャッホー! 最っ高だぜぇい!!」
「「パ、パンツァーハイ?」」
すると優花里が急にハイテンションになったので、あたしたちは声を揃えて同時にツッコミを入れてしまった。
この日からしばらくあたしたちは戦車を走らせて学園艦を回った。
そして、寄港日には大洗の町を一周して文化祭の宣伝をした。
みほ姉は戦車道以外で戦車に乗ることは平気というか楽しいみたいで、笑顔を見せる日が増えていった。
そして、寄港日の翌々日……。あたしとみほ姉は生徒会室に呼び出された。
「いやー、大好評だったよー。戦車での宣伝! 学園艦でも、大洗町でもさ〜」
「寄付金も前年度比で20パーセントほど上がっております」
「やっぱり、戦車ってインパクトがあるんだね。この前の寄港日以降の反響がすごいことになってるのよ」
どうやら戦車での宣伝活動は概ね好評らしく、寄付金なんかも増えたみたいで先輩たちは喜んでくれたみたいだ。
「それはよかったです。頑張った甲斐がありました。ねー? みほ姉」
「う、うん。結構手を振ってくれる人とかもいたから、印象は悪くないと思っていたけど」
戦車を走らせていると声をかけられることも少なくなかった。
たまにあたしたちの学校が戦車道を復活させたと勘違いする人たちもいたけど……。
そのせいなのかもしれないが、河嶋先輩からこんなことを告げられた。
「実は、大洗の商工会から提案があってな。我が校はその昔、戦車道が盛んだったのだが、それを止めてからというもの地元で戦車が戦っている姿が見られなくて寂しいという声が多かったのだそうだ」
「はぁ……」
確かにこの大洗女子学園は20年ほど前までは戦車道の強豪として君臨していたらしい。
それを覚えている地元の人は寂しく感じているのかもしれない。
「そこでだ、試合とまではいかなくても良いから、戦車同士が戦っている姿を見せてほしいという打診を受けた。出来るのなら、それなりの寄付金を出してくれるのだそうだ」
河嶋先輩は戦車の戦いを地元で見たいという声が上がっているという話をする。
だけど、それは――。
「それって、あたしたちに戦車道をしろということですか? あのう、あたしもみほ姉も……」
あたしたちは戦車道を止めるためにこの大洗女子学園にやってきた。
だから、戦車を使って戦うなんてことは出来ようはずもなかった。
「まぁまぁ、戦車道のことはよく分からないけど、演劇みたいなもんだと考えてよ。別に勝った負けたをはっきりさせようとかそういうんじゃなくて、それっぽい事をすればいいだけなんだから」
そんなあたしたちの気持ちを察してか、角谷先輩はニコリと笑いながら真剣勝負をしなくても良いと言ってきた。
あくまでも見せる用の芝居をしてくれれば、と……。
「演劇かぁ? みほ姉はどう思う?」
「うーん。それなら確かに角谷先輩の言うとおり戦車道とも違うとは思うけど……」
あたしがみほ姉に意見を求めると彼女も迷ったような声を出す。
「長年、良くしてもらってるOGの人たちからもお願いされてるの。文化祭の出し物だと思って引き受けてくれてくれないかな?」
更に小山先輩が援護射撃のようにOGことまで出して、お願いをしてきた。
「――まみちゃん、やってみようか?」
すると、みほ姉はしばらく沈黙した後に意を決したように口を開く。
「えっ? い、いいの? だって、みほ姉は特に……」
あたしはみほ姉の言葉が信じられなかった。戦車に乗ることはともかく、それで曲がりなりとも戦うということはまだ彼女には出来ないと思っていたからだ。
なんせ、あたしだって戦車で戦うなんて抵抗があるのだから……。それもみほ姉の前で……。
「うん。私が転校してくるとき生徒会の皆さんにはお世話になったし……、それにまみちゃんの先輩の頼みだもん。勝ち負けにこだわらないなら、怖くないよ」
みほ姉は生徒会に義理を返すために戦車で戦う見世物をすることを承諾したみたいである。
「み、みほ姉がそういうのなら、あたしは構わないけど……」
そんなみほ姉のやる気を削ぐようなことをあたしは出来ない。
もう一度、彼女が戦車で戦う姿が見られるならあたしだって頑張ってみせる。
弱くて情けなくて戦車道を放り出してしまったあたしだけど、大好きなみほ姉がトラウマに打ち勝つために一歩進もうとしているなら、あたしは自分の抱えている下らない意地を捨てよう。
あたしはそんな決心を密かに固めていた――。
ということで、文化祭の出し物という名目で戦車で戦うことになった二人です。まずはリハビリからって感じです。