もし、西住みほに双子の妹が居たらという物語   作:青空の下のワルツ

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今回はちょっと長いです。キリを良くするのって難しいですね。


天才と凡人

「では、決まりだな。至急、自動車部に連絡して、お前が前に見つけたという三式中戦車とやらを動けるようにしてもらう」

 

 河嶋先輩はあたしが駐車場で見つけた“三式中戦車”の整備を自動車部にしてもらえるように手配すると言ってくれた。

 あーよかった。整備はちゃんとした人がやった方が良いに決まってるもの……。

 

「でも、二両動かすとなると、戦車に乗れる人を増やさなきゃ……」

 

 河嶋先輩の言葉を聞いたあたしは戦車に乗る人員を集めなくてはならないと口にする。

 あたしとみほ姉と優花里の3人だけじゃ戦車同士で戦うなんてことは出来ない。

 

「まみ子の友達の実行委員の子はどーよ? そっちをやるなら彼女たちの仕事を少なくするように手を回すよー」

 

 角谷先輩は沙織と華の名前を出して、彼女らにお願いできないか聞いてきた。

 

「沙織と華かー。興味がないことはなさそうね……。二人には後で話を聞いてみる」

 

 前に戦車道の話をしたとき、ちょっと戦車に乗ってみたいというようなことは二人とも口にしていた。

 なので、誘えばいい返事がもらえるかもしれない。しかし、面倒ごとを頼むのはやはり気が引けるな……。

 

「あと、お姉ちゃんの何だっけ、アレ? あの、体を車両から出して戦車に乗ってるヤツ。あれ、評判良いんだけど、まみ子は同じこと出来んの?」

 

「えっ? あれは一応はあたしもやるけど……」

 

 角谷先輩はあたしがみほ姉のようにキューポラから半身を乗り出して戦車に乗ることが出来るかどうか聞いてきたので、あたしはそれを肯定した。

 まぁ、師匠は同じく母親なのだから、まほ姉も含めて全員似たような感じで車長をしている。実力は全然違うけど……。

 

「じゃあさ、二人ともあんな感じで戦ってみてよ。お姉ちゃんが凛々しいって声もすごいもらっててさ。双子でアレやって戦うと盛り上がると思うんだよね〜」

 

 確かにみほ姉は戦車に乗ると人が変わったように凛々しくなる。そして、普段の様子からは考えられないくらいの戦上手っぷりを発揮する。

 その姿に密かに魅了されたのはあたしだけじゃないはずだ。

 

 しかし、あたしじゃ格好は真似は出来ても実力は真似できない。見栄えが良いと言うなら従うけど……。

 

「それだと、操縦が出来る人も二人いるわね……。麻子に頼んでオッケー貰っても、あと一人か……」

 

 戦ってる風を見せるだけなら装填手や砲手はある程度の誤魔化しが利く。

 しかし操縦手は別だ。拙い動きだと白けてしまうだろう。

 麻子は全く練習をしなくてもあの動きを見せてくれた。何とか協力をお願いできないだろうか……。

 

「小山ー。後輩だけにやらせるのも悪いからさ」

 

「まみ、私も戦車に乗るわ。操縦のやり方をあとで教えて」

 

 小山先輩は角谷先輩の一言であっさりと戦車の操縦をすると立候補する。

 責任感の強い彼女らしい……。

 

「小山先輩が入ってくれて……、三人が仮にやってくれるとして」

 

「あと一人は必要かも。砲手が装填手を兼任しても出来るけど……」

 

 あたしとみほ姉は顔を見合わさて必要な人員の数を計算した。

 通信手は一対一だから要らないとしても、各車両4人ずつくらいは欲しいな……。

 

 そんなことを考えていたときである。勢いよく生徒会室の扉が開きオカッパ頭の女の子が入ってきた。

 

「――会長! 最近、文化祭の宣伝なのか知りませんが、戦車がよく学校から飛び出しているのですが、それって風紀的にどうなのでしょうか!!」

 

 角谷先輩に意見をしているのは風紀委員の園みどり子先輩。2年生で次期風紀委員長になることが決まっている人である。

 真面目一辺倒で麻子の遅刻にはよく渋い顔をしていた。

 

「およっ、そど子じゃん」

 

「後輩たちの前で変なあだ名で呼ぶのは、やめてください! 次期風紀委員長としての威厳がなくなりますから!」

 

 “そど子”というあだ名で呼ばれて彼女は声を荒げる。

 うーん。威厳はあるかもしれないけど、あたしと違ってそのあだ名は定着しつつあるんだよなぁ……。

 

「んじゃ、あと一人はそど子でいっか!」

 

「だから“そど子”って呼ばないでください! ん? あと一人ってなんの話ですか!?」

 

 角谷先輩の一言でそど子先輩は今度の文化祭で戦車に乗ることが決まってしまう。

 

 彼女は戦車で風紀が乱されないかどうか監視する役割をお願いしたいみたいなことを言われて半ば強引に納得させられていた……。

 

 その後、生徒会が麻子に戦車に乗ってもらう代わりに遅刻見逃し10日間とかいう特典を与えたことがバレてあたしがそど子先輩にこっぴどく叱られてしまったのは別のお話……。

 

 ちなみに沙織と華は二つ返事で戦車に乗ることを了承してくれた。本当にありがたい……。今度、何かお礼に奢らなくては……。

 

 ということで、戦車に乗って文化祭で出し物をする八人が決まる。

 最初にあたしたちがやったことはチーム分けだ。

 まぁ、車長と操縦手以外は適当にクジで決めちゃったけど……。その結果……。

 

 Ⅳ号戦車は車長がみほ姉、操縦手は小山先輩、砲手が優花里で装填手が沙織だ。

 

 三式中戦車は車長があたし、操縦手は麻子、砲手が華で装填手がそど子先輩となった。

 

 

 そして、あたしとみほ姉の指導の元、戦車を動かす練習をしてみたんだけど……。

 

「たった数日でここまで動かせるなんて……」

 

 あたしはみんなの要領の良さにびっくりしていた。

 麻子は別として、小山先輩も十分すぎるくらいの飲み込みの早さで戦車を操縦出来るようになった。

 

 優花里は最初からシュトリヒ計算が出来ており、停止射撃で見事な狙撃技術を見せた。

 華も砲手が楽しいらしく、すぐにやり方を覚えて初心者とは思えない精度の狙撃をやってのけた。どうやら華道で培われた集中力が役に立ったらしい。

 

 沙織とそど子先輩は筋力の関係でさすがに装填には多少手間取っていたが、それでも普通に試合っぽいことをする分には十分な速度装填を行えるようになっていった。

 

 

「ねぇ、まみー。戦車で戦う練習はしなくていいの?」

 

「そうね。そろそろ台本を作ったほうが良いかもしれないわね」

 

 沙織の言葉にあたしは答える。

 車両の運用は思った以上に出来ているから、ちゃんとした台本があれば思いの外、面白い戦いが演出できるかもしれない。

 

「台本ですか? 戦車での試合になぜ台本が必要なのでしょうか?」

 

 華は台本という言葉が引っかかったらしい。

 何故そのようなものが必要なのかあたしに質問してきた。

 

「だって、普通にあたしとみほ姉が戦ったら、あっさりとあたしが負けちゃって盛り上がらなくなるもの」

 

 あたしとみほ姉が勝負した一瞬で終わる。

 もちろん、他の乗員の力量とかも関係するけど、初心者だけしか居ないので大差がない。

 

 それならば、車長の腕で大体決まる。あたしはみほ姉にもまほ姉にも()()()で戦って勝ったことは一度もない。

 

 その上、みほ姉はあたしを相手にしたとき一度も本気を出したことがなかった――。

 

「そ、そんなことないよ〜。まみちゃんは強いし……」

 

 みほ姉……、変なフォローは止めてほしい。あたしじゃあなたに本気を出させることすら出来ない。

 

「それを置いておいても、初心者ばかりで戦車に乗るんだから、打ち合わせ無しで戦ったらトラブルがあるかもしれないし」

 

 それについてどうこう言っても埒が空かないので、あたしは初心者同士の戦いで起こりうる危険性について口にした。

 

「でも、八百長は良くないと思うわ! 学園艦の風紀的にも!」

 

 それに噛み付いてきたのはそど子先輩だ。八百長は良くないと言ってくる。

 いや、プロレスとか台本はあるけど立派な興業だし……。相撲についてはノーコメントだけど……。

 

「八百長は風紀には関係ないだろ……。そど子……」

 

「麻子、ちゃんとそど子先輩って呼ばなきゃダメよ」

 

「冷泉さん! もう何回も言ってるけど、私の名前は園みどり子! 西住まみさん! 先輩を付ければ良いってもんじゃないの!」

 

 そど子先輩はあたしと麻子に口を尖らせて注意をする。

 しまった。あだ名が余りにもハマり過ぎて間違ってしまった……。

 

「わかった……。そど子」

 

「むきーっ!」

 

「麻子、その辺にしなって」

 

 それでも改めない麻子に対してそど子先輩は怒り心頭で、沙織が麻子を諌めていた。

 

「真剣勝負もいいけど、やっぱり文化祭の出し物だし、多くの人が見に来るから生徒会としては最低10分くらいの尺は欲しいかな」

 

 そして、文化祭の運営に大きく関わっている小山先輩はやはり直ぐに勝負が決してしまうことを危惧しているみたいで、10分は引き伸ばして欲しいと希望を述べる。

 

「じゃあさ、最初の10分だけはどうするか台本を決めておいて、その後は真剣勝負するというのはどうかな?」

 

「わたくしも、せっかく練習したのですからキチンと戦ってみたいです」

 

 沙織と華はそれでも戦車で勝負をするという部分にこだわっているみたいだ。

 戦車も楽しそうに乗っているし、やっぱり試合みたいなことがしたいのかな? うーん。彼女たちには助けてもらったし……。

 

「まぁ、それなら……。みほ姉はそれで大丈夫?」

 

 あたしは10分経ったら二両で真剣勝負をするという沙織の案を飲み込んだ。

 勝った負けたで何かある訳じゃないし、気楽にやればいいか……。

 

「私は大丈夫だけど、まみちゃんは……」

 

「ふふっ、あたしは久しぶりに間近でみほ姉が戦う姿が見られるんだから嬉しいだけよ。ブランク長いけど、楽しめるように頑張るわ」

 

 みほ姉が戦車で応戦する姿が見られて嬉しいというのは本音だ。

 すべてを見通すような鋭い感性に裏打ちされた超人的な戦車道はあたしの心をいつも揺さぶってくれた。

 

 問題はあたしがそんなみほ姉を何分見ていられるか……。なんせ撃破されたらそれでもう終わりなのだから……。

 

 これが戦車に乗って戦うみほ姉を見る最後の機会かもしれない――。

 それならば……、最後の最後にもう一度鍛え直してみよう。せめてブランクが埋まるように……。

 出来るなら、()()()()()本気のみほ姉の姿を引き出してみたいとあたしは思っていた――。

 

 その日から文化祭の準備をしつつ、あたしたち姉妹は久しぶりに戦車に明け暮れた。

 みほ姉もやる気になっている沙織や優花里を蔑ろに出来ないみたいで、色々と教えているみたいだった。

 

 あたしはあたしで、麻子や華の技術を分析して、どうやって戦おうか思案していた。

 同じ初心者たちが搭乗者だが、あたしの車両が有利な点は操縦が麻子ってことだ。

 信じられないが、既に麻子の操縦技術は強豪校のレギュラーレベル。あたしの操縦よりも上手いと思えるくらいである。

 

 小山先輩も十分初心者の領域を超えているのだが、麻子の成長速度との差が大きかった。

 それでもハンデとしては少な過ぎるくらいだけど……。もしかしたらいい勝負が出来るかもしれない。

 

 

 

 そして、秋の3連休を利用した三校合同の文化祭が始まった。

 初日は大洗女子学園の母港がある大洗、二日目はアンツィオ高校の母港がある清水、そして三日目は聖グロリアーナ女学院の母港がある横浜に学園艦が寄港して文化祭を行う。

 アンツィオは栃木県が本籍だが港がないので、静岡県が寄港先なんだって。だから、愛知県や静岡県の人が多く進学するのだとか……。

 

 

「うわぁ! 学園艦が3つも並ぶと壮観ですね! まみ殿!!」

 

「アンツィオもグロリアーナも学園艦に個性があって良いわね。イタリア風とイギリス風か……」

 

 港に並ぶと3つの学園艦を眺めながらあたしたちは口々に感想を漏らした。

 

「みほ殿たちは実行委員の仕事が忙しくて今日はあまり回れないみたいですね」

 

「今日は大洗女子学園がホストだから、実行委員の人たちは文化祭を回るどころじゃないわ。あたしは逆に明日と最終日の仕事が多いんだけどね。他の学園艦の実行委員さんと連携しなきゃいけないから」

 

 残念ながら実行委員のみほ姉たちと合流するのは戦車の出し物の際になるだろう。

 今日は本当に彼女たちは忙しいのだ。

 

「冷泉殿はお昼以降に来るみたいです。文化祭を見るよりも寝たいのだとか」

 

「はは、麻子らしいわね。じゃあ二人で見て回ろっか? どっちの学園艦に行こうかしら?」

 

 麻子もサボりモードになっているみたいなので、あたしと優花里は二人で他の学園艦に行ってみることにする。

 

「そうですね〜〜。やはり戦車道の強豪校である聖グロリアーナ女学院を見たいです」

 

「優花里ったら、本当に戦車が好きなのね。それなら、グロリアーナの学園艦に行ってみよう。今日は我が校の生徒手帳を見せれば入れるようになっているの」

 

「他の学園艦に入るなんて初めてですから緊張します」

 

 優花里の希望を聞いてあたしたちは聖グロリアーナ女学院の学園艦に行くことにした。

 

 

 聖グロリアーナ女学院は淑女たちの学園って感じでイギリスのイメージにピッタリだった。

 生徒たちはみんなどこか品があり優雅だった。

 

「戦車の格納庫とかありませんかね〜?」

 

「さすがに、文化祭で格納庫とか見せてくれないんじゃないかな? ウチはともかく、アンツィオ高校も戦車道をやってるみたいだし」

 

 あたしはアンツィオ高校が戦車道をしていると口にして情報はオープンにしていないのではと予測する。

 

「アンツィオといえば、知ってますか? 去年から戦車道を盛り上げようと愛知県から優秀な選手を引き抜いて、指導させているという噂ですよ」

 

 すると、優花里はアンツィオについての豆知識みたいなことを披露してきた。

 どうやってそんな情報を入手しているのだろう?

 

「へぇ、そうなんだ。去年というとまほ姉と同世代か……。優秀な選手なのに強豪には行かずに、敢えていばらの道を行くなんて凄いわね……」

 

 優秀な選手は大体強豪校である黒森峰やプラウダやサンダース大付属や聖グロリアーナに行ってしまう。

 だから、そういう人があまり強くない所に行って、戦車道を再興させようと努力しているという話はすごいと思った。

 

「あのう、よろしいかしら? 見たところ、大洗女子学園の方でいらっしゃいますわね?」

 

 そんな会話をしていると、あたしたちは後ろから聖グロリアーナ女学院の生徒に話しかけられる。

 金髪を後ろに束ねている女の子――うーん、どこかで見たことあるような無いような……。

 

「――は、はい。そうですが……。あたしたちに何か?」

 

「いえ、先ほどから戦車道のお話をされていましたので……。もしかしたら、このあと始まる大洗女子学園の方が行う戦車の試合についてご存知かと思いまして」

 

 彼女はあたしたちが行う戦車の出し物に興味があるみたいだ。

 見覚えがあるということは、多分、戦車道の選手なのだろう。

 

「え、ええ。あたしたちが一応、その試合を行う予定です」

 

「まぁ、貴女たちが……。――そうでしたの」

 

 あたしはこのあと試合のようなことをすると伝えると、彼女はあたしたちを興味深そうに観察してきた。

 この視線……。ただ者じゃなさそうだ。

 

「あのう。それで……」

 

「いえ、わたくしの先輩が戦車道の無い学園艦で行われるという試合に大層興味があるみたいでして……。どのようなものかと、わたくしも少しだけ気になっただけです。でも――」

 

「あっ――」

 

 彼女は先輩の付き合いでこのあとの試合を見せられるというようなことを言いながら、あたしの手を取り、撫でるように触る。

 な、何をしているのだろうか?

 

「良い手をしていますのね。かなり修練を積まなくてはこのような手にはなりませんわ。でも、不思議……。これだけの練度があれば戦車道の強豪校にだって入れたでしょうに……」

 

 ブランクはあるが、確かにその前まではオーバーワークだと怒られるくらい練習に明け暮れていて、あたしの手はかなりゴツい感じになっていた。

 この人は手を触っただけであたしの練習量を看破したみたいだ。

 

「ええーっと、まみ殿はですね」

 

「優花里! 初対面の方よ……!」

 

「す、すみません」

 

 優花里があたしのことを話そうとしたので、つい大声で彼女を止めてしまう。

 こっちこそ、大声出してごめん……。

 

「あら、わたくしとしたことがはしたない事をしてしまいましたわ。しかし――貴女の試合が見られるなら、先輩の気まぐれに付き合うのも悪くないかもしれませんわね……」

 

 聖グロリアーナの金髪の女の子はニコリと笑って手にしたティーカップに口をつけた。

 というか、ここの生徒さんよく紅茶飲むな……。

 そして、あとで先輩と共にあたしを見に行くと言って、颯爽と去っていってしまう。

 あの人は何者なのだろうか?

 

 そうこうしている内に、大洗町での戦車の出し物の時間が迫り、あたしと優花里は控え室に向かって行った。

 みほ姉と戦うのは久しぶりだなぁ――。

 




聖グロリアーナ女学院の謎の女性の正体とは!?

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