もし、西住みほに双子の妹が居たらという物語   作:青空の下のワルツ

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今さら気付いたことは、戦車道の試合を書くなら一人称視点より三人称支店の方が書きやすいのではということ。
でも、主人公の心理とかそのへんは一人称の方が書きやすいのでこのままでいきます……。


三校合同文化祭エキシビションマッチ

「うわ〜! 富士山があんなにキレイに見える!」

 

「絶景とはこのことね。夜景も評判良いみたいなんだけど、時間的に見られないのは残念だわ」

 

 みほ姉の歓声に合わせてあたしも隣で景色を見ながら声を出す。

 富士山がよく見える県立の自然公園――今日はここで聖グロリアーナ女学院と試合を行う。

 ふむ、細い山道で挟み撃ちとかされたら一巻の終わりだな。気を付けないと……。

 

「うんうん。彼氏と二人きりで夜景を見るって最高のシチュエーションだよね」

 

 沙織も高いところからの景色を堪能しながら、理想のシチュエーションの1つを語る。

 

「彼氏と夜景をみたことあるのですか?」

 

 すると、華がお決まりの質問を沙織に投げかける。そろそろ、やめて差し上げてもいいんじゃない?

 

「沙織の脳内彼氏だ。名前はマサツグ……」

 

「ええ〜っ! 武部殿の脳の中には彼氏さんがいらっしゃるのですか〜!?」

 

 さらに麻子が追い打ちをかけると、このやり取りになれてない優花里が驚いた声を出していた。

 

「ゆかりん、麻子の言葉を真に受けなくて良いから。てか、マサツグって誰!?」

 

 そして、沙織がいつもの様に足をジタバタさせてツッコミを入れる。

 まぁ、こんな沙織が可愛いから意地悪を言いたくなるのだろう。

 

「あなたたち学園艦の外に来たからってあまりはしゃいじゃダメよ。風紀の乱れに繋がるんだから、大洗女子学園の生徒だということを常に意識しなさい」

 

「今日はアンツィオ高校や聖グロリアーナ女学院の方たちとも交流するから、大丈夫だと思うけど失礼のないようにしてね」

 

 あたしたち1年生組がはしゃいでいると、先輩たちは外からの目も気にするようにと忠告した。

 そど子先輩も小山先輩も真面目な人だから、こういう時は引率の先生みたいになっている。

 

「あっ! アンチョビさんだ」

 

 そんな中、一緒に戦うアンツィオ高校のアンチョビさんが後ろに二人の女の子を引き連れてこちらにやってきた。

 

「今日はよろしく頼む! 一緒に戦車に乗る後輩を連れてきたぞ。私が卒業するまでにこいつらを一人前にするつもりなんだ」

 

 アンチョビさんは、連れてきた二人を自分の後輩だと紹介する。

 ということはあたしたちと同じ1年生ということか……。

 

「あたしはペパロニ。よろしくっす。姐さん。今日はマジで気合い入ってるんすね!」

 

「カルパッチョです。今日はよろしくお願いします」

 

 黒髪を三つ編みにしたボーイッシュな感じのペパロニと長い金髪で上品な感じのカルパッチョがそれぞれ挨拶した。

 アンツィオ高校はイタリアの食べ物的な感じのあだ名なのか?

 

「「よろしくお願いします」」

 

 あたしたちは声を揃えて挨拶を返した。こちらは殆どが1年生になるみたいだ。

 

「いいか、お前たち! 聖グロリアーナ女学院だろうが、疾風アールグレイだろうが関係ない! 私の作戦にノリと勢いが加われば、恐れる物は何もないんだ!」

 

「「おおーっ!」」

 

 アンチョビさんは隊長らしく威風堂々とした感じで士気を高めるような話し方をしている。

 この人は人の上に立つ器みたいなものある。これは、来年あたりアンツィオ高校の躍進もあり得るかもしれない。

 

「戦車道ってノリと勢いが大事なんだ。なんだか恋愛と似てるかも」

 

「何を大事にしてるかは校風によって違うかな」

 

 沙織が恋愛と戦車道を絡めて話していると、みほ姉は校風によって大事にしている事は違うと話す。

 戦車道は本当にそこのところは顕著に現れるかもしれない。聖グロリアーナ女学院は騎士道精神を重んじているんだっけ?

 

「こういうタイプのチームは調子に乗せると手強いわ。チームの士気がそのまま強さになるって感じでね」

 

「わかってるじゃないか。まみ。今日はお前やみほにも存分に調子に乗ってもらうぞ」

 

 アンチョビさんは満足そうに笑ってあたしの言っていることを肯定する。

 

「あのう。アンツィオ高校はどんな車両で挑むのでしょうか?」

 

 そんな話をしていると、優花里が遠慮がちに手を上げて、アンツィオ高校の車両について質問した。

 さすがに3対3の殲滅戦で火力がほとんど皆無なCV33はないだろうけど……。何にするんだろう?

 

「セモヴェンテM41だ。ウチの車両で最も火力のある戦車だからな。もっと強い秘密兵器を買おうと貯金はしているのだが……」

 

 アンツィオ高校は資金不足らしく、アンチョビさんはバツの悪そうな顔をして、セモヴェンテM41を使うと話す。

 うーむ。砲塔が回転しないタイプか……。

 

「戦車道ってお金がかかりますからね〜。そりゃあ国が推進しなきゃ衰退するか……」

 

 戦車1台の値段とかその他設備や部品の金を考えると気が遠くなる。

 書記会計をやって、学園艦の予算について知ることも多くなったが、黒森峰女学園ってとんでもない費用を戦車道に回していたんだなぁ。

 

「わたくしは、どういった作戦を立てて頂いたのか気になります。作戦会議なんてしたことありませんから」

 

 華はアンチョビさんが立てると言っていた作戦について興味があるみたいだ。

 

「あー、私も気になる。男を落とすのも作戦次第だし」

 

「落としたこともないのによく言う……」

 

 さらに沙織が彼女らしいことを口にして、麻子がローテンションでツッコミを入れる。

 恋愛云々は置いておいて、戦力差が明らかに下回るこちら側に勝機があるとすれば、アンチョビさんの作戦がキッチリと決まるかどうかである。

 

 もちろん、あたしもそれには注目したいと思っていた。

 

「良いだろう! さっそく、作戦を教えてやる! よーく聞くんだぞ! お前たちにもやってもらいたいことがあるからな! まず、今回のルールは殲滅戦だ!」

 

 そしてアンチョビさんは作戦の説明を開始しだした。

 そう、今回はもちろん殲滅戦ルールだ。理由はフラッグ戦だとすぐに終わる恐れがあるからである……。

 

「姐さん、殲滅戦ってなんすか?」

 

「ペパロニ! お前たちにはこの前説明しただろうが」

 

 アンチョビさんが説明を開始して早々に、ペパロニは殲滅戦とは何なのか質問をしたので、彼女は呆れながら忘れていることを咎める。

 

「沙織は覚えてる? 前に試合を見たときに話したけど」

 

「もっちろん! ……って、何だったけ?」

 

 沙織は胸を張って答えようとしたが、途中で首を傾げて忘れたと素直に告白した。

 

「殲滅戦とは全ての車両を撃破したチームが勝ちとなる試合形式のことですよ。武部殿」

 

「あー、そうだった、そうだった」

 

 優花里がそんな沙織に殲滅戦の説明をして、彼女はポンと手を叩いて思い出したという顔をする。

 

「つまり、あたしたち側の3両がやられちゃう前に、聖グロリアーナ女学院の3両を倒しちゃえばいいってわけ」

 

 あたしは優花里の説明に付け加えるようにそう話した。

 まぁ、それが難しいんだけど……。特にアールグレイさんは相当な実力者……。

 いくらみほ姉が強くても、他の搭乗者が初心者の集まりなので、まともに戦って勝つのは難しいだろう。

 

「話が脱線したから戻すぞ。3両同士の少数で行う殲滅戦だ。だから、最初に1両撃破した方が劇的に有利になるのは間違いない」

 

「その瞬間に3対2になるからですね」

 

 アンチョビさんの言葉にカルパッチョが相槌を打つ。

 後で話したときに知ったが、カルパッチョは大洗女子学園に友人がいるらしい。

 鈴木貴子という名前で覚えがないかと言われ、あたしが言葉を窮していると、みほ姉が『カエサルさん』のことだという。

 

 あたしたちは忍道を必修選択科目で履修しているのだが、同じ忍道の履修者で歴史が好きな子の集まりみたいな4人組のグループがいる。

 その子たちはソウルネームという歴史上の人物にちなんだ名前でお互いのことを呼んでいて、その中の一人が『カエサル』だった。

 みほ姉によれば、『カエサル』の本名は『鈴木貴子』なのだそうだ。

 

 彼女は転校初日に同学年の名前と生年月日を覚えているからまず間違いないだろう。

 時々、みほ姉はサラリと凄いことをしているからびっくりする。

 

「そうだ! 恐らくそこから一気に形勢は撃破を成し遂げたチームの方に傾くだろう」

 

「ということは、アンチョビさんの作戦というのは――」

 

「確実にこちらが先に1両目を葬る作戦だ」

 

 話を作戦の方に戻そう。アンチョビさんは確実に1両を先に倒す作戦を考えたと豪語する。

 本当にそれが成功したらかなり有利にはなる。

 果たしてどのような作戦なのだろうか? あたしたちはアンチョビさんの作戦に耳を傾けた。

 

 

 ◇ ◇

 

 

「私たちの挑戦をよく受けてくれた! 今日はいい試合をしようではないか!」

 

「聖グロリアーナ女学院を踏み台にして、我々の躍進が始まるのだ! 覚悟しろ!」

 

 各チームの代表者として、アールグレイさんとアンチョビさんが互いに挨拶をして、握手をする。

 さあ、いよいよ試合開始だ。こういうのは本当に久しぶりだな。精々、みんなの足を引っ張らないようにしないと……。

 

『これより、三校合同文化祭エキシビションマッチを開始します。一同、礼!』

 

「「よろしくお願いします!」」

 

 昨日の審判団の人が引き続き試合開始を宣言して、あたしたちは互いに頭を下げた。

 聖グロリアーナ女学院の車両はアールグレイさんの乗るクロムウェル巡航戦車の他には、チャーチルとマチルダがそれぞれ1両ずつだった。

 ダージリンさんはチャーチルの車長で、指揮は彼女が取るみたいだ。

 

『作戦どおり動いてもらうぞ! まみ! ()()は車両に乗せたか?』

 

 アンチョビさんはあたしが例の物を車両に乗せたかどうか最後の確認をしてきた。

 まさか、こういう作戦を立てるなんて思ってもみなかった。アンチョビさんはみほ姉とどこか似てるところがあるかもしれない。

 

「はい。大丈夫です。何かあったら予備の方を使わせてもらいます」

 

「まさかこのような物を準備しているとは……。戦車道って面白いのですね」

 

 あたしがアンチョビさんからの通信に返事をすると、華が興味深そうな顔をして、車両に乗せた“ある物”を眺めていた。

 

「うん。私も()()を実際に使うのは初めてだ。西住流はこういった作戦は弱者のすることだと切り捨てるからね」

 

 母はこのような手段は小細工だと言って決して認めないだろう。

 しかし、あたしはこういった創意工夫も戦車道の醍醐味だと思っている。

 みほ姉が思いもよらない作戦を取ると、あたしの胸はいつだって高鳴り、楽しい気持ちにさせてくれた。

 だからあたしはこの作戦も気に入っていた。

 

「しかし、有効ではあるな。少しでも足止め出来れば、回り込んで挟撃することも可能だ」

 

「そのとおり、バレない角度に設置しなきゃいけないけど……」

 

 この作戦というのは聖グロリアーナ陣営とあたしたちの陣営の最短距離を繋ぐ道のど真ん中に、“デコイ”を置いて撹乱する作戦である。

 

 しかし、よく出来てるなぁ。しかも一晩でⅣ号のデコイまで……。

 

 セモヴェンテM41のデコイとⅣ号のデコイを置いて、その前にあたしたちの三式中戦車が停止して相手を待ち構えることにより、3両がこの場にいると相手に誤認させる。

 

 あたしたちだけがここに留まっているのは、1両だけ本物を混ぜて威嚇射撃でもすれば、信憑性がずっと高まるからだ。

 

 恐らく、こちらにもっとも早く辿り着くのは、アールグレイさんのクロムウェルだろう。

 彼女はあたしたちがここに全車両で待ち構えていると分かれば必ずや引き返し、仲間と合流するはずだ。

 

 しかし、その頃には本物のⅣ号とセモヴェンテM41は山道を大きく迂回しておりクロムウェルを挟撃する準備を整えている。

 

 クロムウェルが引き返したが最後、そこを3両で一網打尽に出来るという寸法だ。

 

 もちろん、3両が足並みを揃えて来る可能性もあるが、その場合もあたしが少しでも3両の足を止めることが出来れば、背後から不意討ち出来るので優位に立てるはずだ。

 

「デコイは設置は私に任せなさい。得意分野よ!」

 

「では、園先輩におまかせします」

 

 園先輩は彼女らしい几帳面さを出しながらデコイの設置をして車両に戻ってきた。

 さて、みほ姉たちも大きく迂回しているところだから、少なくともあと5分はデコイがバレないようにしなくてはならないけど……。

 

 そう思ったときである。想定していたよりも早くに履帯の音があたしたちの元に届いてきた。クロムウェル巡航戦車だ……。

 

 よし! 確かに早い到着には驚いたけど、どうやら1両だけだ。

 これなら間違いなく引き返すはず――。

 

「よし、今だ! 撃て!」

 

 あたしの号令と共に、華は上手くクロムウェルの車体付近に砲弾を放つ。

 彼女は当てられなかったことを気にしていたが、こちらが待ち構えていることに気付いて貰えれば十分だ。

 

 クロムウェルは、急いで方向転換するだろう――。

 

 え!? どうしてこちらに突っ込んでくる?

 

「嘘でしょ!?」

 

「――さて、お手並み拝見と行こうか!」

 

 あたしが動揺していると、クロムウェルからの砲撃で後方のⅣ号のデコイが粉々になる。

 なぜ、一瞬でバレた? 確かにエンジン音もないし、完全に停止しているから、近くで観察すれば分かるとは思うけど……。

 

「なるほど、デコイを使った作戦だったのか! 面白いことをするな!」

 

「――この人は最初から3両を相手取るつもりで……!? 裏目に出てしまったみたいね……」

 

 あたしたちは見誤っていた。

 聖グロリアーナ女学院の隊長は高々3両くらいで立ち止まりはしない。

 この人は3両で待ち伏せしていても、お構いなしに真正面から戦いを挑んできたのだ。

 

「しかし、この三式中戦車は本物なのは間違いない!」

 

「しまった! 動きが速すぎて――」

 

 そして、あたしの車両はあっという間に側面に回り込まれて、至近距離から砲撃を――。

 

「舌噛まないように気を付けろ……」

 

 あたしが動揺して指示を疎かにしていると、麻子が車両を急発進させて、砲撃を回避する。

 

「麻子、助かったわ! アンチョビさん、作戦に失敗しました。そちらと合流します」

 

『そうか。悪かったな、まみ。危険な役割にも関わらずよく生き残ってくれた。MO1043地点で合流しよう。逃げ切るのは難しいかもしれんが頑張ってくれ』

 

 作戦は失敗して、後ろから追いかけられることとなってしまったあたしたちの車両……。

 やはり聖グロリアーナ女学院は強い……。試合開始早々にあたしたちは既に窮地に追い詰められつつあった――。

 




エキシビションマッチは次回くらいで終わらせられればと思ってます。
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