ある日、ギルド美食殿にて。
「──駄目ですよコッコロちゃん! お肉は元気の源ですから!」
「いいえペコリーヌさま。お肉を食されるという事は他の命を頂く、奪うという事に類します。
そこには豊満な胸を揺らしつつ机を叩き、かたや涙を流し泣きながら対立する二人の少女。
「ユウキくんがこんなにも嬉しそうに食べてるのに、それを奪うんですか!?」
「ペコリーヌさまも主さまも、動物たちの哀しみと苦しみの声が聞こえないのですか? ああ、お労しや……!」
その間に挟まる様にニコニコしながら肉を頬張る男の子──ユウキ。
笑顔は純粋無垢な子供のようで、実際彼の精神年齢は子供である。生まれたてよりは成長した三歳児だ。
「おいしいよ、お肉。
「良かったです! 腕によりをかけたんですよ──これで貴方が白人だったら良かったんですけど」
「ちょっとペコリーヌ何言ってんの!?」
そこに現れた救世主、キャル。
バイト代をパチンコに使われてるとか、親がヤバい宗教にハマってて人生ヤバいとか、色々可哀想な子である。猫と人間の耳の二つを兼ね揃えているのが特徴である。
「あ、あんた流石にそれは(コンプラ的に)ヤバいわよ……」
「そうですか? まあキャルちゃんも××××で獣人ですもんね」
「ヤバいわよ!」
メタ的電波を受信したキャルが全てを賭けてペコリーヌを止めに掛かる。そこに作用した力は凄まじく、まるで世界の修正力を信じろと言うかのような強さだった。
「私は白人ですよ!? 劣等人種が……!」
「ぎゃー! 助けて陛下ー!?」
「主さま、お野菜を食べましょう。命は皆平等であります故、私たちだけが奪う権利はないのです」
「うん、わかった」
「コロ助は何言ってんのよ! コイツは成長期なんだからよく食べさせないと駄目でしょ!? 野菜だけとか絶対ダメよ、身体に良くないわ!」
キャルの妙に説得力のある言葉だがコッコロは聞く耳を持たない。
今の彼女はコッコロではない。
死んだ動物の声を加工済みの肉から聞き取りその怨嗟の声を妄想する、現代社会の生み出した怪物だ。
「……! こうなったらエリザベスパークに囚われている動物たちを解放するしか……!」
特に理由のない暴力がエリザベスパークを襲う! リマの悲痛な叫びが木霊した。
「やめなさいよ! ほらユウキ、あんたも手伝いなさい!」
「白人偉い、イエロー偉くない、覚えた!」
「駄目えええぇぇ! それだけは駄目ー!」
◇
何とか差別問題を納め、ペコリーヌを黙らせ、過激派ヴィーガンへと至りエリザベスパークの牧場を襲撃しようとしたコッコロを止めたキャル。最早英雄と呼べる功績だが、彼女は力なく尻尾を垂らし机に顔を突っ伏していた。
「…………何時の間にあんな過激な思想手に入れたのよ」
人種問題に過敏すぎるペコリーヌ。
あんなこと言ってる所は見たこと無いとキャルは一人愚痴を吐いた。
「え、なに、猫被ってたの? 私に対して? 猫の獣人の私を皮肉ってたの?」
疑心暗鬼に陥るキャル。
ちなみに騎士クンことユウキだが、どうしてもペコリーヌとコッコロの間から離れたくないらしく現在すっぽりと間に挟まっている。まるで百合の間に挟まる男みたいだぁ……(直喩)。
「ああもう、なんでこうなったのよ。昨日までは仲良くご飯食べてたじゃない! ……魔物の肉だけど」
調理風景を思い出して無表情になるキャル。
叫び声を上げながら絶命する魔物を見ていれば確かに過激派のヴィーガンになるのも無理はないと正直思った。締めるのに失敗はしてないが、失敗してないだけで痛みと苦しみが無いわけでは無い。
「思い出したら気分悪くなってきたわ……あ、ていうかご飯食べ損ねたじゃない!」
そう、彼ら彼女らは朝ご飯の最中に言い合いをしていたのである。キャルが一番起きてくるのが遅いから気づくのに遅れたが、もっと早く起きるべきだったと悔やんだ。
「お腹減った~……何か残ってるのあるかしら」
そう言いつつ余り物のご飯を探す。
残っているのは鍋とちょっとしたサラダだろうか。それぞれ机に置き一人で食卓に座った。
「頂きまーす……」
もそもそと料理を口にする。
「普通に美味しいじゃない。どこも動物の声なんてしないわ……」
そこまで言って彼女は何かしらの電波を受信した。
遠い記憶だ。
意味不明な根拠を元に何かを盲信する肉親。タガの外れた母親。自立の許されない支配された環境で唯一信じた存在。細くやせ細り、自分の拘りを持つことすら許されない地獄のようなぬるま湯。
「ああもうやめやめ! 全くもう」
ロクな思い出がねぇ。
キャルは切実にそう思った。
──一方その頃、美食殿やべー奴トリオ。
「──往きます、征伐に」
「美味しい肉を狩るのは賛成ですけど解放は許しませんよ!」
打倒エリザベスパークを諦めない魔人コッコロと抑圧を好み革命を許さない独裁者ペコリーヌは対立していた。
変わらず間に挟まるユウキもいる。
「止めないでください、ペコリーヌさま。これは世にとって必要な犠牲、世界を変える大切な行為なのです」
「やっぱりエルフは駄目ですね……
ストッパーの存在しない二人は止まる術を知らない。
黒と白、正義と悪。決して混ざり合う事の無い二つの強烈な個は激突する事でしか互いを図る事が出来ない。どちらかの意志を通し貫いたものだけが勝者になる。
世の理とはそうやって形作られて来たのだ。
「コッコロちゃん……!」
「ペコリーヌさま……!」
排斥し合った後に残るモノは切ない。
歴史が証明するその事実を理解し反映できる程二人に掛かった力は弱くなかった。ユウキは変わらず間に挟まれている。
「あ、お前ら! こんなところで何してるんだ、訓練か?」
そこに通りかかった新たな被害者──否、正常な人間。
ムイミ、またの名をノウェム。
この世界でも数えるほどしかいない正史の理解者であり今まさに抗っている最中に革命家ともいえる存在だ。ペコリーヌも本来そう? 確かにね。
「ムイミさま……ムイミさまは、お肉を食べられますか?」
「何だよ藪から棒に。食べるぞ、肉は大好きだ!」
また一人殺すリストに入れたコッコロだが、次はペコリーヌのターンである。
「そう言えば抑圧からの解放者でしたね……今は協力しますが、次は無いですよ」
「は??」
ペコリーヌからはオッケーが出た。
これで2vs1の形になる。既にタイトル詐欺になりつつあるが気にしていない。
「さあ、やってしまいましょう! ここでコッコロちゃんを止める事で世界を一先ず押しとどめる事が出来ます!」
「え??」
「ムイミさま、仕方ありません……この秘密に合成したエルフ伝承のドーピングを使えば二人がかりでも私を止めることは出来ませんよ!」
「なんだそれ!?」
ポーチから取り出した薬を手に取り脅しのような形をとるコッコロ。
「ちょちょちょ、ちょっと待て。お前ら一体どうしたんだ? なんで戦ってるんだよ、これ冗談じゃないだろ?」
「事情を話せば長くなりますが──コッコロちゃんが酷い思想に囚われてしまいました」
嘘は言ってない。
「コッコロが……? まさか、アイツの仕業か!」
はい、
事実が湾曲され最早本当のことなど分からなくなった頃に、ムイミは悩みぬいた末の答えを出した。
「──取り敢えずコッコロを止めるぞ! そしたら縛って、正気に戻す!」
「もちろんです、協力は義務ですよ。平民は貴族の言う事を聞くものですから」
「……ん?」
「え?」
満面の笑みで言い放ったペコリーヌをあり得ない物を見たような顔で見つめるムイミ。三秒ほどフリーズした後に復活を果たし、やがて考える事を止めた。
「あれ、プロテクト、上手くできてないのかな……?」
ぶつぶつ呟きながら、高らかに謳い上げる。
「──顕現せよ! 天楼覇断剣!」
その剣が振るわれ、コッコロへと光が届く──その前に介入する影。
「──主さま!?」
薬を飲むより早く光が届き直撃は免れなかったコッコロだが、どうしても間に入り込むユウキの妄執に寄った執念が追い縋った。
伝説の剣の速度を超え、ムイミの剣戟を超越し、やがて百合の間に至る。
「あ、主さま────!」
人によっては寝取り寝取られ、おねショタ反転クラスの悪だからこれはこれで良かったのかもしれない。しかし世に男と女がある限り、そして百合という曖昧で非生産的な存在がある限り第二第三のユウキは生まれてくる。そこだけは確かだった。
「し、しまった! 人に向ける威力じゃないぞ!」
ナチュラルに考えてなかったムイミは焦る。こんな最後でプリンセスコネクトが終わっていいのか? いや、良くない。
「残念です……さようなら、私の公爵」
「ここで言っていい台詞じゃないだろ」
作り直しが発生してないから多分生きてる。
その事実を知らない三人はユウキの死を悼み、改めて武器を手に取った。コラテラルダメージという言葉を三人ともよく理解していた。
「くそっ! こんなに犠牲を出すことになるなんて……!」
その手で一人葬り去ったと思っているムイミは悔やんでいる。
「私達の美食殿はここからです……! 異端者を弾圧し、王政を崩し、私が天に立つ! ここから!」
ここからじゃないが。
「主さまの悲願……私が必ず達成して見せます。どうか天から見守っていてください……!」
薬を飲みその身からオーラを発するコッコロ。
レイシストのペコリーヌvs過激派ヴィーガンのコッコロvs何故かいたムイミvsダークライ、ここで始まる──かに思われた。
「ストーップ!!」
そこへ現れたのは救世主キャル!
一人だけなんの影響も受けてないのは世界から祝福されているからである。周りと共感を得る事は無いと言う
「やっと追いついたわよ、ペコリーヌにコロ助……あれ? ユウキは?」
「星になりました、ヤバいですね……☆」
「星になった!?」
「私を庇って……お労しや、主さま……」
まるで信じられぬモノを見たかのような表情で涙を流すコッコロ。
「まあでもドラゴンに喰われても生きてるんだから多分生きてるでしょ」
「それもそうですね」
あまりにも淡白である。
これも信頼故か、今頃ユウキは別の場所で別の間に挟まろうとしているに違いない。多分女子学院とかかな。
「くっ、それよりも今はアンタ達を止めるわ! 正気に戻りなさいよ!」
「私は今でも正気です! いつか支配した末に爵位は上げられませんけど、獣人の人権くらい差し上げますので協力してください!」
「なんでその条件で協力すると思ったの!?」
ナチュラルに人権が無いという扱いをされたキャルは驚きを隠せない。
「キャルさま、今でしたら私と一緒に他種族を開放する征伐へと」
「行く訳ないでしょ!?」
「あー、なんか正気に戻って来たな」
「アンタはなんなの!? さっき見えた光ってもしかしてソレ!?」
場が混沌としてきた。場を納められる人材は混乱の最中、全身全霊で現状の理解に励んでいる。
「やはり抑圧からの解放というカタルシスには抗えませんか……仕方ないですね。ギルド美食殿は維持しますがその実態を大きく変えてしまう事は避けられません」
「いや、これまで通りご飯食べよう?」
「お肉を使用しない、命を奪わないと言う条件で尚且つ征伐へと往くなら」
「コロ助は黙ってて!」
きゅ、と不満げ。
(〇×〇)。
「こうなったら……あの時の仮面を使ってでも……!」
キャルの寿命を使用し魔力をオーバードライブする仮面の登場だ。別に本編ではそういう効果がある訳では無いが、この話の中ではそういう効果という事にする。
どこからか仮面を取り出し仮面ライダークルスニクみたいになった彼女は空に浮かび上がり、その命を縮めて魔力光を展開する。
紫の花が空一面に咲き染まる。
その色鮮やかな様子は桜満開の春のようで、紅葉で染まりきった秋のようだった。
「──覚悟しなさい。絶対に止めて見せるから」
キャルの輝きを持った魔力球が、放たれた。
因みにその対象は選択されておらず、並列的な処理を辛うじて行っているキャルは目標をナチュラルにミスった。具体的にはペコリーヌやコッコロでは無くムイミに飛んでいった。
「こ、ここでアタシか!? ──どひぇー!」
戦意喪失していたムイミ、ここでまさかのターゲットに油断する。
研ぎ澄まされた魔力がブチ当たりムイミは飛んでいった。やられ役がハマっているのは彼女なりの流儀だろうか。
「あ、間違った」
「はああああぁ──! コッコロちゃん、覚悟──!」
キャルが吹っ飛んだムイミを見送っている最中にペコリーヌがコッコロへと突撃する。前衛のタンク、中衛のヒーラーでは性能に差があるがここでコッコロは肉弾戦を選んだ。
式神使いが肉弾戦が下手だと見せ油断させるように、コッコロもまたそのパターンだった。
振り下ろされた王家の剣をコッコロがいなし、オコエリーヌが追撃をする。
二度、三度四度繰り返し場は膠着した。
「やりますね……! 劣等人種の割には……!」
「声も聞こえない人類にしては中々……!」
こんな声聞きたくなかった。
「あたしを──無視すんじゃないわよ!」
そこに入るキャルの命の形をした魔力球。
極太ビームは自らの事を姉だと思い込んでいる精神的異常者に防がれた訳だが、今回は違った。
コッコロペコリーヌ、双方が魔力球に注意を向けなければならない程の威力。木々を薙ぎ倒し岩を砕き大地を穿つ、とある超能力少女の火力へと今彼女は至ったのである。
「グリムバースト!」
そんな状態でUBを撃てばどうなるか──?
答えは明白である。
「全力全開、プリンセス──!」
ペコリーヌの現状最大火力、トリコみたいな消費エネルギー方式で放たれる釘パンチならぬUBが放たれる。
特大のエフェクトを謎エネルギーで捻りだしたペコリーヌは一撃を避ける事のみに注力した。大陸を旅し武者修行を終えた姫は屈強であり、決して柔な身体をしているわけではない。
「──ストライク!」
キャルの砲撃に対して斬撃で対抗する。
互いに拮抗した末に消滅したエフェクトと共に、その影響下に居たコッコロから少しずつオーラが薄れて行った。
「……あれ、キャルさま、ペコリーヌさま、どうされました?」
爆発の下で一人佇むコッコロ、それを見てキャルは目を見開いた。
「コロ助、正気に戻ったの!?」
「正気、でございますか。私に何か……もしや、何かしらの術で攻撃を……?」
「やった、やったわ! ちょっとペコリーヌ、コロ助は元に戻っ──」
そう言って地上に降りたキャルが目撃したペコリーヌはきょとんと表情を固定したまま固まっていた。
「……ペコリーヌ?」
恐る恐るキャルは聞いた。
これで治って無かったらどうしよう。もう一回命削れば治るかな、でもこれ以上削ったら死んじゃうかも。これで死ぬのは本望かな、でも陛下に役立たずって言われたくないし──そんな事を高速で考えた。
やがて俯き、立ち上がったペコリーヌ。
その手に剣は握られていないが、拳一つで魔物を粉砕できる装備を身に付けている事を忘れてはいけない。バキだったら全身が凶器でハイジャックみたいな概念だ。
「……い」
「……い?」
「いやぁー、お腹空いちゃいましたね! ご飯にしましょうか!」
腹に手をあて後ろ頭を掻くペコリーヌ。
その姿を見てキャルはやっと安堵したと言わんばかりに息を吐きながら腰に手を当てた。
「全くよ、朝ご飯食べ損ねたじゃない」
「正直さっきまで何やってたかわかんないんですけど、酷く恐ろしい思想を抱えてた気がするんですよね」
「それ以上は思い出さなくていいわ」
心底疲れたと言いたげな表情でぶっきらぼうに言う。
「でもまあ何とかなって良かったわよ。変なモノでも食べたんじゃない? あんたら三人とも」
「うーん、変なモノ……あっ」
若干心当たりがあるのか、ペコリーヌが表情を変えた。
「今日の朝ご飯、よくわかんないキノコ使ったんですよね」
「それじゃない原因! いい加減にしてぇ!」
魔物料理は嫌だが、せめて食べて問題にならない美食を追求しよう──キャルはそう願った。
一方その頃、吹き飛ばされた男騎士ユウキ。
彼は未だ謎改変の力から逃れられず、ある場所に留まっていた。
「っ、ぷー……で、なんでウチらの教室に突っ込んで来たの? 正直意味わかんないンだけど」
「まあまあクロエ君、きっと彼にも彼なりの事情があるんだろう。寝ながら空を飛ぶ美少女が目撃されてるアストライアだ、吹き飛んできた先がたまたま僕らの学び舎でも不思議じゃないさ」
聖テレサ女学院──ランドソル有数の女学院。
新たな悲劇が、始まろうとしていた。
この後多方面へと侵食した呪いに直面し絶望したキャルが目を覚ました所で投了!