「この物語の始まりは、
ひとつの手紙の形をしていた。」
などと呟いてみた独り言が、瓢箪から出た駒になるとは。
今時、手紙なんて古風なものを一個人から宛てられることはないだろう。 僕もそう思っていた。 だから急に訪れた封筒を見て、その正体に気づくまでに時間を要した。 コンピュータのアイコンにしか見たことがない、典型的な
封蝋こそ施されていなかったが、しっかりと封がなされていた。その口を切るまでに、意外に時間がかかった。
「いったいどんな奇人が、この朗読部に手紙を送ってきたのだろう。月に一度、やるかやらないかという『朗読会』と銘打たれた、ラジオとは名ばかりの『昼時の校内放送』のコーナーの一部になっている茶番のために開けられた『朗読部
そこまで言い上げて、封が切れた。…不器用であったからかもしれないけれど、結局、ペーパーナイフを持ち出してしまった。…どうして高校の、しかも朗読部などというほかの学校ではまずお目にかかれない部活の部室に、そんな物があるのか疑問だろう。 僕に訊かれても困る。 変人で有名だった前部長が置いていった、アンティーク風な調度品の一部だったんだ。 あれば使うだろう。
「封を開けてみると、…一枚の便箋が三つ折りになって入っていた。」
そういえば封筒には、差出人の名前はなかった。ただ『独部へ』とだけ書かれていた。朗読部を独部と呼ばないで欲しいものだ、などと今更僕は思わない。 入学から半年あまり、すでに慣れた呼び名であったのだ。
「一人しかいない朗読部に宛てた手紙なら、僕を名指しで宛てているようなものだった。部への文句というよりも、僕への文句なのだろうか、はたして…」
手紙を見てみると。
「なになに…、」
『いま、あなたは幸せでしょうか。独りきりの部活に打ち込む…いえ、
高校という集団生活の場にいながら、友達の一人もいないような学校生活を送るあなたは、とても損をしていると思うのです。わたしにはわかりません。だって友達がたくさんいた方が、楽しいではないですか。
(中略)
ともかく、友達はいいものです。一人の世界に物理的にも精神的にも社会的にも閉じこもるのは、よくありません。
有り体に言って損をしています。
今すぐ、お友達作りに励むべきです。』
「な…、何じゃこりゃ。」
『匿名のリア充より。』
「なんじゃこりゃぁああ!」
周りの教室から、ガタガタッ、と椅子から立ち上がる音が響いた。許してください。
それくらい、腹に据えかねた手紙だったんです。
校舎四階東側。空き教室がいくつもあった我が高校の区画。『あった』と言ったのは、現在空き教室など一つ二つしかないからだ。何故ならそこは今、いくつもの文化部が、軒を連ねるエリアと化している。
さきにも説明した通り、僕が今いるのは、独りきりが所属する朗読部の部室であった。
けれど部屋にいる人影は二人分。一人は僕で、もう一人が、ある意味で今回の主要人物だった少女だ。
「それで、ジャック。返事は書くの?」
「書くよ。」
「おや珍しく即答だね。そんなにひどい手紙だった?」
「そりゃもう。」
「さっき手紙のあたまを少し見たけど、…君の機嫌も納得だな。これでもか! と君の地雷が踏み抜かれていたもんね。」
「…、…そうだねスズキ。 きみに僕が理解されているのが、今日は少し腹立たしいよ。」
朗らかに笑いながら、ぐったりした僕に物怖じせずに話しかけてくる。…たぶん親を除けば、そんなのは、きみにしかできない芸当だよ。
彼女はスズキ。 名前なのか姓なのか、気になる人は数多い(たぶん)。 語りにすると謎が程よいから、僕はとりあえずスズキと呼んでいる。
一言で言って『対人スキルの怪物』。 彼女の前では人は人、仲良くならずにいられないほどのコミュニケーション能力を持った、全ての人と友達になるために生まれてきたような人間であった。 冗談でなく。 これが一年生か、と思うほど、宣伝も悪目立ちもしないまま、学校に所属する生徒や先生と親しくなってしまった人脈の化け物なのだ。
彼女のことは、いい。
当然僕とは仲がいいから、誰も寄り付かないような『朗「独」部』へと足を運んでくれたのだろう。…などととぼけてみても、モノローグでは意味がない。
『これ』だ。どこでこれを聞いたのかは、もはや訊くまでもない。
だから問題は、『これ』であったのだ。
「君のことはだいたいわかるよ。だって長い付き合いだもん。」
「それじゃあ次に僕が言うのは?」
「『分かっているだろう? この「大層ご親切な」手紙へ、「これでもかと丁寧に」お返事を書きたいから、部屋から出て行ってくれ。』かな?」
「そうだよ。」
「はいはーい。」
きりっと椅子から立ち上がり、颯爽と部屋から出て行ってくれた。…本当に僕はわかりやすいんだな、と少し落ち込んだ。僕からスズキの内面は、さっぱり見えなかったっていうのにね。
小一時間ほど悩みながら、僕は手紙に返事を書いた。
何を書いたかは語るわけにはいかないくらいに稚拙な文だと理解しているが、思いの丈はぶつけてやった。僕は読む者であって、書く者ではないのだ。
僕が便箋に書いた手紙を封筒に入れた頃、スズキは朗読部に戻ってきた。
「ありゃ、覗くには来るのが遅かったかな。 しっぱい失敗。」
「…、見られても困るような、大人気ない喚きが入っているだけだけどね。」
「あたしたち大人じゃないじゃない。」
「…。 帰るよ。」
「ちょ、怒らないでよ。 まだ一年生も二学期目だし、十分子供だから…」
「別に、きみのせいじゃないから。 『返事を書きたいなら、書いてください。あなたの下駄箱に放り込んでおけば、きっと私が回収します。 』とか最後に書いてあったからだよ。」
「…そっか。」
「手紙を出しに行くついでに、帰るだけだ。 この部屋にいるからといって、何をするわけでもないからね。」
その顔を見て、僕は思った。
だから、僕は一人でいるんだ。 他人の顔色を気にして、機嫌を損なわないように振舞っていくのは、…いくら好きでも、疲れるものなのだから。
僕はカバンを持ち上げた。 教科書すら入っていない、ぺらぺらのカバンであるけれど。
「ちなみにきみはどう思う。」
「んー?」
「この手紙の差出人さ。 僕が独りで朗独部なのは…まあ周知の事実だけど。 その僕宛にいたずらメールは、送る人が限られるよね。 僕はこの学校の誰にとっても、毒にも薬にもならない人なんだし。」
「…そんなことないよ。」
「…、…。」
一言、だったけど。 簡単には言い返せないくらい、深い感情と重みを帯びた言葉であったのは、印象的だった。
「けれど。」
「…?」
「この辺りの人かもね。」
「文化部の誰かかもしれないって?」
「その字、すごく綺麗だよね。」
「…言われてみれば、達筆だな。」
「それに、…やっぱりジャックを心配して送られた手紙だと思うから、君を心配するくらいには顔見知りな人だよ。…憶測だけど。」
「…。」
「…え、っと。」
「君が言うならそうだろう。」
「…うん。」
「それじゃ、僕は帰るから。」
「あっれー!?」
「なんだいうるさいな。 部室を閉めるから、早く出てよ。」
「…、分かったよぉ。」
渋々、という表現が似合うテンションで、彼女は先ほどと違い、のっそりと立ち上がった。たぶん、彼女はこう思っていたのだろう。
『どうしてすぐに、事情を聞き出しに行かないの?』と。
文化部の誰か、まで犯人候補を絞ったのだから、その情報を元に犯人探しをしたらいいじゃない、と。 …普段はほとんど腹の中は見えないが、この時ばかりは僕にもその落胆が語りかけてきていたのだ。
その後も自転車小屋まで歩いたが、互いにそれ以上の情報のやり取りはなかった。
ただ、文章にぶつけた分、僕の心は落ち着いていたように思う。
この日から、僕に失礼な…もとい、お節介な手紙を書いた犯人を捜す日々が始まったのだ。
次の日。
授業風景などという、クラスの端で僕が授業をひっそりと受ける光景と、お昼休みという、教室の隅で僕が弁当を控えめに突っつく情景は、語っても仕方ないだろう。 だから昼間の学校の描写は、ただ一つの事実を語るのみである。
下駄箱の中に入れた『お返事』は、朝の時点で消えていた。
はて、誰が回収したのだろう。 それは放課後の聞き込みで判明した。
そうして終業のチャイムが鳴り、放課後が訪れた。
いつものように部室に直行した。
「もちろん誰もいなかった。 もとより一人しか所属しない部活動の部室に入れるのは、僕を置いて他にいないだろう。」
カバンをパイプ椅子に立てかけて、僕は早速部室を出た。
スズキの顔が目の前に…あるのがいつもなのだが、今日は誰も扉の前に待ち伏せてはいなかった。 少し不思議に思ったが、本来はいないのが当たり前である。
「慣れというのは、怖いものだ。」
「ありがた迷惑な手紙、かぁ。」
「その反応を見る限りだと、少年さんではないようですね。」
「まあそうだね。ぼくもセンパイも、奇人変人と呼ばれておかしくないし、君を煽るような文を書いたらブーメランになっちゃうよ。」
「…言われてみれば。」
「だから、多分だけど、社交的な人がそれを書いたと考えるのが自然かもね。 憶測でしかないけどさ。」
「…その推理はいただきます。そういう方向で犯人探しを続けてみますね。」
「力になれたなら、嬉しいな。 がんばってね。」
「はい。 では。」
そうして、思ったよりもスムーズに聴き終わり、嵐が来る前に部屋から出られた。…光画…写真部部長には、軽率に会いたくないものだ。 あの三年生女子部長は大層忙しない人物であり、有り体に言えば、相手にしていてとても疲れる。
僕は半分逃げるように、朗独部へと退いたのだ。
早々に聞き込みに行かなくてはならなかった光画部には、すでに行った。 改めて、朗独部に投函された手紙を確認してみた。 朗独部のポストを見ると、やはりというかなんというか、あれが入っていた。
「…僕の返事を読んだのだろうか。 昨日と寸分変わらずに同じ姿で投函された、例の手紙が入っていた。」
すぐに僕は、ペーパーナイフを手元に引き寄せた。
「孤独というのは悪いものではない、友達はいないわけでない、気を使わずに過ごすにはひとりが一番だ、などと反論を書いてはみたが、…本質は伝わっているだろうか、さて。」
封を開けた。 中に入っている三つ折りの便箋一枚を、早速開いてみた。
うん、まあ、なんだ。
要約すると次の三つだ。
『いいえ、孤独は悪いものです。 寂しいでしょう。』
『友達がいるのは良いことです。 その調子でお友達をどんどん増やしましょう。』
『ひとりの時間は必要ですが、そればかりになると孤独になります。 よくありません。』
「本質が……言いたいことが何にも伝わってなぁあい!?」
ガタガタッ、と周りから椅子を引く音が響いた。 ごめんなさい文化部同盟のみなさま、迷惑を承知で叫んでおります。
自分の文章力のなさを、これほど悔いたこともなかった。
「それでジャック。 犯人の目星はついたの?」
「全然だよスズキ。 そもそも、昨日の今日で見つかるわけないじゃないか。」
「まあ、それもそうだね。」
「ジャックくんさ、意外に大きい声出るよな。 昨日、今日ってあたし、椅子引いて飛び上がったもん。 舞台でも朗読やればいいのに。」
「けいさん。 激部に引抜こうったってそうはいきませんよ。 僕は人前に立つのが苦手なんです。」
「残念だねえ。」
ジャックこと僕と、スズキと、今日は聞きなれないであろう名前がひとつ追加されていた。
けい、というあだ名を持つ、演劇部脚本担当である。 二年生の女子であり、スズキと最も馬が合う生徒の一人であった。
演劇部はお隣である。 さっきの僕の叫びを聞いて、何事か、とスズキと一緒に朗読部を覗きに来たのだ。
演劇部とは、一味二味ちがった苛烈な人柄の変人が集まる部活動であり、伝統的に『演「激」部』などと呼ばれている。
とはいえ目の前のけいさんは、比較的おとなしい部類に入り、僕もまだまともに話せる人物であった。
「ジャック。 今回も返事書くんでしょ?」
「…そうしたいんだけどね。」
「…?」
「今日のお返事を見る限り、どうも伝えたいことが伝わっていなかったらしい。 誰か文章力のある人に代筆を願いたいくらいだよ。」
「…だ、代筆? だれか、いるかな…」
にやり、と笑った人物がいた。
「あたしやろうか。」
「えっ。」
「本当ですか。」
けいさんであった。
「うん。面白そうじゃない。」
「…。」
「引き受けていただけるんですか。」
「そう言ってるじゃん。 ほら、早く何を書いて欲しいか聞かせてちょうだい!」
そう言いながら、けいさんはメモ帳を取り出した。 …だいぶ使い込まれているように見えた。 脚本担当の物書きは、どうも取材を重んじるようだった。 …案外、僕の返事すらも、人間観察と取材の一環になっていたのかもしれない。
当然、昨日思いの丈を手紙の返事にぶつけたように、けいさんに代筆してほしいことを、口頭で吐き出しておいた。 …けいさんが大笑いしながら聞かなければ、もう少し簡素な返事になっていたろう。
スズキはいつのまにかいなかった。 …誰かお友達に誘われて、ボウリングにでも行ったのかもしれない。
取材、もとい代筆依頼は夕方まで続き、喋り尽くした僕がぐったりとするまで、けいさんは元気にメモを取っていた。
「ようし。 じゃあこれで書かせてもらうよ。 しかし君は本当に、」
そこで言葉が切れたため、おれは思わずけいさんを見た。
「…ひとりが、好きなんだね。」
そう言って踵を返したけいさんを、おれは無言で見送った。
彼女のメモを盗み見たが、やはりというかなんというか、例の手紙と同じような字であったことを思い出した。
演激部のしかも脚本担当なのに、女優だな、と思った。
さて、一夜明けて三日目になった。
ここまでくると概ね犯人の目星はついたが、もうひと押しが欲しかった。
すなわち、動機である。
…某サスペンス劇場のように、犯人まで辿り着ければ動機はすべて喋ってくれるような流れを、期待してもいいのだが、…なにより僕自身が釈然としていなかった。
そうして放課後に向かったのは、文芸部である。とはいえ、目標の人物はいなかった。
「え、のぞむ?」
「はい。 センパイはご存知ないんですか。」
「ん、まあ、今は部誌の執筆の時期じゃないからな。 …いや、いつだってあいつの居場所なんかおれは知らないんだが…」
「?」
「ともかく。 今時期なら三階の空き教室にいるかもな。 双眼鏡を構えて野球部を覗き見しながら。」
「…そうですか。 ありがとうございました。」
「ちょい待ち。」
「はい?」
「どうしてあれを探してんだ。 書き物のネタでも引き出したいのか?」
「僕は読む者であって、書き手ではありませんよ。」
「…そういえば、そうか。」
「ただ。」
「?」
「観察されていたのは知っているんです。 友好関係の少ない僕の様子が漏れるとすれば、彼女からしかないはずですから。」
「…それは、どういう?」
以上のやり取りを一時間前に終えて、僕は今、書いた手紙を手に持ったまま、独部の部室の窓際に立った。
のぞむに言伝を頼んだけれど、彼女は無事に取り次いでくれたのだろうか。 …そうでなければ小一時間考えた、言いあげるべき台詞が無駄になってしまうのだが。
果たして。
「…ジャック、話って?」
スズキは、控えめに部屋に入ってきた。
「まずは、今までの状況を整理しよう。」
「…?」
「三日前になるが、始まりは一通の手紙だった。」
「あ、手紙の話?」
「差出人はなく、宛名は部名で。」
「うん。 独部へ、って書いてあったね。」
「そして中身が酷いものだった。」
「…。 君の地雷をたくさん踏み抜くような内容だったものね。 初めから終わりまで。」
「誰が書いたのか気になった僕は、犯人探しを始めた。」
「三日間、周りの部活動を三つも回ってね! すごいじゃない。 控えめに言ってぼっちな君が、三つも部活を聞き込むなんて!」
「ばかにしてる?」
「してないしてない!」
「それとも、」
「…?」
「『狙い通り』だったのかな。 スズキ?」
「なっ…」
彼女の顔色が、変わった。 それを逃さず、僕は畳み掛けていった。
「おかしいな、とは思ってたんだ。 僕は一度だって、『一人でいるのは寂しい』と、誰かに言ったことはない。 独部、などと呼ばれているのは、孤独な部活であることが周知の事実であり、僕自身が好んで、独部という名前を使っているからだ。 独部の朗読をお聞きください、だなんて、ラジオで言っているのを聞いていれば、寂しいのでは、などと心配する人はなかなか現れないだろう。」
「…。」
「次に、犯人の絞り方だ。 光画部の少年さんの意見として、『社交的な人が手紙を書いたんじゃないか』というのがあったが、僕はこれに同意した。 にもかかわらず君の見立ては、『文化部の誰かじゃないか』、だった。 矛盾しているとは言わないが、どうも誘導されていた感じがあるな。」
「…」
「途中まで、けいさんは容疑者だったんだ。」
「え。」
「だけど、動機がなかった。 もちろん、いたずらな手紙を書いて、僕の反応を楽しんで、脚本のネタにしようとしているんじゃないか、と勘繰ったりもしたけれど。 …そんな人ではないし、彼女の作風にも合わない。 きみと仲がいいし、僕を弄ぶようなことはしないはずだと思った。 ただし、共犯ではあったみたいだね?」
「…ジャックには、バレてたんだね。 けい先輩が、手紙の代筆をしていたこと。」
「昨日の取材メモを見て、確信したんだ。 字のクセが同じだったから。」
「ジャックが代筆をお願いしたのは…」
「筆跡を見るためさ。 …まあもっとも、語彙力がある人に、手紙を代筆して欲しかったのは確かだけれどね。」
「…君には、かなわないなぁ。」
「もう一つあるんだ、スズキ。」
「…え?」
「きみの動機だよ。 きみ、のぞむから聞いたんだろ?」
「…。」
「僕が部室にひとりきりの時、たまに泣いているらしいって。」
「…、…うん。 聞いてた。」
文芸部の変人筆頭、恋に臨む女、のぞむ。 彼女を探していたのは、まさに先ほど僕が語った、独部に聞こえた泣き声の噂の出どころであったからだった。
会話の内容はまあ長かったため、要約するが。
『ええ、私が言いました。 スズキさんに直接。 こちらの狙い通りに動いてくれましたから、私としては観察しがいがありました。』
『いい趣味してるなきみ。』
『でしょう? 恋はいいですよ。』
『…遠慮する。』
『ただ、私としても気になりますね。 あなたが泣いていたのが、どうしてなのか。ご本人から真実を聞きたいんですけど。』
『それは…』
「あれな、寂しくて泣いていたわけじゃないんだぞ。」
「…は、…え? そうなの?」
「嘘だろスズキ。 僕ときみの仲なのに、どうしてそんなの真に受けちゃったんだ?」
「お、幼馴染にだって、間違いはあるよ! …あー恥ずい恥ずい…え、うそ、本当に? じゃ、じゃあなんで!?」
「まくし立てるな。 落ち着いてくれ。」
「…、…ご、ごめん。」
「…朗読の本を探す中で、泣けるものってあるじゃん?」
「え、まさか?」
「そう、そのまさかだよ。」
「……………」
「クールキャラで通してる、デビューしたての男子高生が、子ども向けみたいな絵本で涙してました! 紛らわしくてごめんなさい!」
「……………まじで?」
「まじで。」
「うそぉ!?」
「ホントお! うわー、恥ずい恥ずい!」
「お、落ち着いて、落ち着いて!」
「…くそー…恥かかすつもりが逆に恥さらしてどうすんだ僕のバカバカ…」
「あージャックがめんどくさいモードに! も、戻ってこおおい!!」
では失礼して、少し時間を飛ばします。 お目汚し失礼いたしました。
まあ十分弱経って、ようやく二人とも落ち着きを取り戻した。 …落ち着くまでに周りの部室で、のべ何個の椅子が引かれたのだろうな。
「で、だ。」
「うん。」
「犯人は、きみだね? スズキ。」
「そうです。 ご迷惑おかけしました。」
ようやく、推理モノのシメに入れた。 …ここまで長かったけれど、伏線の回収がうまくいって満足だ。 語り部冥利につきるね。
だから、ここからは本質の話だった。
「始まりは、まあ、勘違いからだったけど。」
「ジャックへの誤解も、ジャックからの誤解も解けたみたいだし、一件落着、かな?」
「…実は、きみは一つ思い違いをしている。」
「…、…え? もう、ないんじゃ…」
「そもそも、僕は独りじゃない、という話だよ。」
そうして、僕はやっと、彼女へ最後の手紙の返事を出した。
「返事、なの?」
「そう。 今日の、けい先輩代筆のきみの手紙も読んだよ。 変わらず、友達がいるとは素晴らしい、孤独の寂しさは、人でなければ埋められない、などと書かれていたけれど。 きみの手紙に書いてあったことは、すべて正しいし、だから、僕には当てはまらないんだ。」
「…!」
封をしていない封筒から、便箋が落ちた。
「きみがいるじゃないか。」
「…。」
「僕は独りの部活に入ったけど、そのきっかけはきみだった。 きみが、入学早々に独りになれる部活を見つけてきてくれたから、僕は朗読部に入ったんだ。 それを、きみは後悔したんじゃないか?」
「…、そう、だよ。 孤独は寂しい。 独りは嫌だ。 誰かと一緒にいるから、人は生きていける。 …わたしはそう思って誰とも仲良くしてるんだ。」
「それは、疑いようもなく正しい。 僕もそう思っているよ。 だから、それが愛だと思うなら、どうか心配しないで欲しいんだ。 僕は、この一人きりの教室にいたとしても、決して『独り』じゃないんだから。」
「…そう、だったね。」
「たった三日で、人見知りのコミュ障が、他の部活のそれも年上に、事情聴取できると思うなよ。 きみが僕を変えなけりゃ、僕がこんなに人と話せるはずがないんだぜ。」
「そう…なんだね。」
「うん。」
スズキは途中から、僕のことは見ていなかった。
ただ拾い上げた白い便箋に、目を落としているだけだった。
『お節介をありがとう。でももう気にかけないでくれ。
いま、幸せですかって?
最高な仕合わせに、僕は感謝している。』
「名無しのジャック。 きみが名づけてくれた、名前を覚えてもらえないことを逆手に取った、クラスの変わり者のあだ名を添えて。」
最後にきみの顔を語りあげて、物語を閉じたいんだ。
「スズキ。 今回はありがとう。 またこれからも、よろしく。」
彼女の顔は、…少し細かく描写するのは控えよう。ちょっと、視界が歪んでいるかもしれないからさ。
外に目をやって。 僕は困って空を見上げた。
「この物語の終わりには、
その笑顔は華やかすぎるよ。」
あとがき
こちらでは初投稿になります。
煎煎です。
本作『それが愛だと思うなら』は、甘く仄暗い泡沫さま(ツイッターで大変お世話になっております)の企画、『びっくり箱アンソロジー』にNo.5として参加させていただいたものになります。
コンセプトが『俺の愛を喰らえ!』だったものですから、自らの性癖をこれでもかと詰めて書きました。
例えば『独りきりの部活だから,「朗[独]部」』、『過激なキャラが集まる部活「演[激]部」』などなど。もちろん、これだけではありませんが、筆を尽くしました。
書き足りない分は、次の、別の『文化部』で。
またこちらに書き足していけるよう、書き手を続けていきます。
それでは,また。