本当に欲しいもの   作:火の車

12 / 44
12話です


愛は近くに

看護師「__生まれましたよ!元気な男の子です!」

 

 9月17日。

 四宮亜蘭は生まれた。

 

亜蘭父「よくやった!よく頑張った!」

亜蘭母「もう、声が大きいですよ。」

亜蘭父「これからはさらに、この子のためにも頑張らないといけないな!」

亜蘭母「私も頑張ります。」

 

 この時、亜蘭父は決して給料が高いとは言えず、生活も決して裕福とは言えなかった。

 だが、夫婦仲は良好で亜蘭母もバイトをしているが二人の時間を大切にする、そんな夫婦だった。

 

 亜蘭が生まれてから時が過ぎ、亜蘭が2歳の時、それは起きた。

 

亜蘭父「__聞いてくれ!俺の昇進が決まったんだ!」

亜蘭母「まぁ、それじゃあ、今日は豪勢な夕飯にしましょうか。」

亜蘭父「この子が生まれてから仕事が面白いくらいに上手くいくんだ!」

亜蘭母「頑張ってるあなたに神様がくれた幸福の神様なのかもしれませんね。」

 

 亜蘭が生まれて以降、亜蘭父の社内評価は上がり続け、気付けばいつの間にか部長に昇進していた。

 それからも、大企業との契約、売り上げの向上、上層部に気に入られるなど、面白いように出世ルートをたどっていた。

 それは、最初こそ喜ばれ、亜蘭は神の子と呼ばれ両親にも深く愛されていた。

 だが、亜蘭が4歳の時、事態は急変する。

 

園児「__おい!」

亜蘭「?」

園児「お前!かっこいいカバン持ってるな!よこせ!」

亜蘭「やめて。」

園児「うるさいうるさい!」

亜蘭「あっ......」

園児「これは貰っといてやるよー!」

 

 その園児は亜蘭からカバンを取り上げ、遊具で遊びだした。

 

亜蘭「先生、カバンとられた。」

先生「カバン?そんなの帰りまでいらないでしょ?返してくれるから待っていなさい!」

亜蘭「......はい。」

 

 そして、少し時間が経ち、事件は起きた。

 亜蘭のカバンを取り上げた園児が滑り台に乗ると、その滑り台が倒壊したのだ。園児は大きい滑り台だけに体が打ち付けられ大けが。

 そして、亜蘭に怒鳴った先生もその日の帰りに坂道で自転車が壊れ壁に激突し骨折した。

 

亜蘭「......」

 

 それからも、亜蘭の周りでは、亜蘭に危害を加えた人物は決まって不幸な目に遭った。

 そして、次第に亜蘭に疑いの目がかけられていった。

 そんな中でも両親は亜蘭を献身的に支えていた。

 だが、決定的となる事件がおこる。

 

誘拐犯「__へへへ、こいつがあの四宮亜蘭か......!」

亜蘭「......」

誘拐犯「こいつの家はそこそこ金があるからな、金をむしるだけむしってこいつも殺す。」

亜蘭「......助けて。」

誘拐犯「あぁ?__って、うわぁぁぁ!!!」

 

 その誘拐犯は鉄骨の下敷きになり死亡した。

 だが、それ自体は決しておかしくはなかった、誘拐犯が逃げ込んだのは工事中の廃墟、鉄骨だってある。

 落下しても全く不思議じゃない。

 だが、亜蘭の周りにだけ鉄骨が落下していないのだ。

 まるで、壁にでも遮られたように誘拐犯だけを下敷きにしていた。

 

亜蘭父「......呪いの子。」

亜蘭母「こ、こんなのうちの子じゃない......!」

亜蘭「......」

 

 そして亜蘭は両親に公園に鎖で繋がれ、捨てられた。

 だが......

 

 ブブー!

 

亜蘭父、母「__!!!」

 

 その帰り、大型トラックに轢かれ死亡した。

 そのトラックの運転手は二人を轢いた部分のみ欠落していた。

 

亜蘭「......」

 

 亜蘭は7歳にして孤独になった。

 公園につながれてから、5日間、食事も何もとらなかった。

 幸運だったのは雨が降ったことだった。

 

谷戸「__おや?こんなところに?」

亜蘭「......誰。」

谷戸「私は谷戸要。先ほど執事をクビになってしまいまして。」

亜蘭「......へぇ。」

谷戸「君はどうしてこんなところに?」

亜蘭「......」

谷戸「お父様とお母様は?」

亜蘭「......」

谷戸「うーん、困りましたね。」

亜蘭「......四宮亜蘭。」

谷戸「四宮亜蘭?その名前、どこかで。」

亜蘭「お父さんは呪いの子って俺を呼んでた。」

谷戸「あ、思い出しました。」

亜蘭「近づかない方がいいよ。お兄さんも死んじゃう。」

谷戸「ほう......」

 

 この時、谷戸はどこまでも可哀そうな子供だと思っていた。

 こんなにやせ細って、もう鎖から腕も抜けてるのにここで座ってる。

 

谷戸「なんで、ここでずっといるんですか?」

亜蘭「お父さんとお母さんが迎えに来てくれるから。」

谷戸(なんと......噂では両親は......)

 

 谷戸は亜蘭の前に屈んだ。

 

谷戸「ご両親の所にお連れいたしましょう。」

亜蘭「ほんとに?」

谷戸「はい。ですが、時間がかかってしまうかもしれません。」

亜蘭「うん。行こ。」

 

 そして、亜蘭と谷戸は二人で時を過ごした。

 それから亜蘭の元には身元不明のお金が大量に舞い込んできた。

 その合計、実に600億。

 

亜蘭「谷戸。」

谷戸「はい?」

亜蘭「お家、建てたい。」

谷戸「お家ですか?」

亜蘭「うん。お母さんが大きいお家に住みたいって。だから大きいお家があれば帰ってきてくれるかなって。」

谷戸「そうですね。それでは建てましょうか。」

 

 そうして、今住む屋敷が完成した。

 この時の亜蘭は9歳。

 たった9歳の少年が莫大な富を有し、資産家の仲間入りを果たした。

 そして、未だに亜蘭の富は増え続けている。

 

 亜蘭はずっと失った愛を探しているのだ。

__________________

 

谷戸「__これが、亜蘭様の過去です。」

燐子「そ、そんな......」

谷戸「亜蘭様は未だに家族を探しています。ですが、それはもう見つかる事はありません。」

 

 私には信じられませんでした。

 四宮君が呪いの子と言われていたことも、何もかも。

 

谷戸「それでは、私は失礼いたします。」

燐子「は、はい......」

谷戸「......亜蘭様は上の階のベランダにおられますよ。」

燐子「!」

 

 谷戸さんはそう言い残して部屋を出て行きました。

 すぐに私も立ち上がり上の階のベランダに向かいました。

__________________

 

亜蘭「__もう、両親が亡くなったことは知っているんです。」

 

 俺は自分の過去を氷川先輩に語った。

 

紗夜「四宮君......」

亜蘭「だったら、もうすることは一つ。自分の責務を全うするだけです。」

 

 俺は立ち上がった。

 

紗夜「四宮君?」

亜蘭「戻りましょう。」

紗夜(あの背中、どこか危うさを感じます。このままでは......)

  「四宮君、待って__」

燐子「__四宮君......!」

亜蘭、紗夜「!」

燐子「はぁ......はぁ......」

 

 俺が戻ろうとすると、白金先輩が走ってきた。

 かなり息もあがってる。

 

亜蘭「すみません。今、戻ります。」

燐子「ま、待ってください......!」

亜蘭「白金先輩?どうしました?」

燐子「えっと、あの、その、えい......!」

亜蘭「__!」

紗夜「!?」

 

 突然、白金先輩が抱き着いてきた。

 俺は一瞬状況を把握できなかった。

 

燐子「し、四宮君の過去を......聞きました。」

亜蘭「!(谷戸か。)」

燐子「ご家族の愛を失って、今までずっとご家族を探してると......」

亜蘭「......もう、俺は分かってますよ。」

燐子「四宮君......?」

亜蘭「俺の家族がもういないことは知っています。だから、もう未練なんてないです。」

 

 俺はそう言った。

 

亜蘭「だから、放してください。女性が不用意にこんなことをするものじゃありませんよ。」

燐子「ダメ......です。」

 

 白金先輩は力を強めた。

 

燐子「こんなに......悲しそうな顔をしてる人を放っておけません......!」

亜蘭「悲しそうな顔......?」

 

 ガラスに俺の顔が映ってる。

 

亜蘭(な、なんで。俺は......)

燐子「誰だって、家族がいないと寂しいです......」

亜蘭「!」

燐子「私は、お母さんにもお父さんにも愛されて生きてきました......そんな私に四宮君の気持ちが分かるなんて言えません......」

 

 さらに力が強くなった。

 

燐子「でも、こんな私でも......理解する事は出来ます......!」

亜蘭「白金先輩......」

燐子「四宮君は、私を助けてくれました。ですが、私は四宮君に何もできてません......!」

亜蘭「そんなことは__」

燐子「あります。だから、四宮君の苦しみが......少しでも和らぐようように......支えたいです......!」

 

 白金先輩はよく顔が見えないが多分、泣いているんだろう。

 なんで、俺なんかのために......

 

燐子「辛いときは......頼ってください。」

亜蘭「......」

燐子「頼りないかもしれないですけど__」

亜蘭「もう、いいですよ。」

燐子「四宮君......?」

 

 なんだろう、この気持ちは。

 もう、悲しまない、泣いたりしない、何にもすがらない、そう決めた。

 なのに......」

 

亜蘭(なんで、なんで......!)

燐子「四宮、君__!」

亜蘭(なんで、俺は泣いているんだ......)

 

 頬に温かい感触。

 一体、何年ぶりに涙なんて流しただろう。

 

燐子「四宮君......」

亜蘭「白金先輩__!?」

燐子「思う存分、泣いてください......」

 

 白金先輩の胸に飛び込む形になった。

 この感じ、どこかで......

 

亜蘭母『__亜蘭、どうしたの?』

亜蘭『今日、幼稚園で失敗して......』

亜蘭母『こっちにおいで。』

亜蘭『?__!』

亜蘭母『いくら失敗してもいいの。何があっても亜蘭は自慢の息子なんだから。』

亜蘭『お母さん......』

 

亜蘭(__思い出した。)

 

 3歳の時の記憶。

 今まで忘れていた、遠い記憶。

 

亜蘭(なんで、俺は忘れていたんだ......愛はすぐ近くにあったじゃないか......)

燐子「四宮君......」

 

 久しく忘れていた、愛。

 それをやっと、見つけられた。

 ありがとう、ありがとう......

 

亜蘭「......ありがとう、白金先輩......」

燐子「......はい。」

__________________

 

 しばらく時間が経ち、俺は白金先輩から離れた。

 

亜蘭「__ありがとうございました。」

燐子「いえ......///(い、勢いとは言え、し、四宮君を......///)

亜蘭「恥ずかしい姿を見せてしまいましたね。」

 

 俺は立ち上がって、白金先輩に手を差し伸べた。

 

亜蘭「戻りましょう。白金先輩。」

燐子「は、はい......///」

 

 白金先輩は俺の手を取って立ち上がった。

 

燐子「も、もう、大丈夫そうです......」

亜蘭「そう見えますか?」

燐子「はい......とても、綺麗で、かっこいい顔をしています......」

亜蘭「......ありがとうございます。」

 

 少し、気まずい空気が流れる。

 

紗夜「__あの、喋ってもいいでしょうか?」

亜蘭、燐子「!?///」

 

 完全に氷川先輩の事を忘れていた。

 つまり、あのシーンを見られたと言う事......

 

亜蘭(やってしまった。)

燐子「うぅ......///」

紗夜「えっと、ごめんなさい。」

亜蘭「い、いえ。氷川先輩もありがとうございました。」

紗夜「いえ、私は何もしていません。」

 

 氷川先輩は俺の顔をじっと見た。

 

紗夜「憑き物が取れたようですね。」

亜蘭「はい。」

紗夜「良い事です。四宮君。」

 

 氷川先輩は柔らかく微笑んでそう言った。

 

亜蘭「もうこんな時間ですか。戻りましょう。」

燐子「そ、そうですね......///」

紗夜「あ、白金さんは先に戻っておいてください。四宮君と話しておきたいことがあるので。」

燐子「え?あ、はい......?」

亜蘭「?」

 

 氷川先輩にそう言われると白金先輩は戻って行った。

 

亜蘭「話とは何でしょうか?」

紗夜「四宮君は白金さんをどう思いますか?」

 

 氷川先輩はそう問いかけて来た。

 

亜蘭「自分の弱さを受け止めてくれた、素敵な人です。」

紗夜「そうですか。」

亜蘭「はい。それだけですか?なら戻りましょう。」

紗夜「待ってください。」

亜蘭「?」

紗夜「私は知っていますよ、四宮君、白金さんが好きなのでしょう?」

亜蘭「!?」

紗夜「どうなのですか?」

 

 氷川先輩は真剣な顔だ。

 そうだな、認めよう。

 今度は素直に......

 

亜蘭「はい。俺は白金先輩が好きです。」

紗夜「そうですか。」

 

 氷川先輩はそう言って微笑んだ。

 

紗夜(よかったですね。白金さん。)

  「それでは、告白の予定は?」

亜蘭「それはまだです。」

紗夜「え?」

亜蘭「今の俺じゃ、白金先輩に相応しくありません。もっと、自分を磨き上げます。」

紗夜「え?いや、あの__」

亜蘭「それでは、戻りましょうか。」

紗夜「はい......(大変ですね、白金さん。)」

 

 紗夜は天を仰いだ。

 なんで、成功率は100%なのに、とそう思った。

 

紗夜(でも、まぁ、両思いになったなら及第点、なのでしょうか?)

亜蘭「どうしました?早く戻りましょう。」

紗夜「はい。(頑張ってください、白金さん。)」

 

 紗夜はそう思いながら、屋敷の中に戻った。

 

 

 

 




感想などお願いします。

来週は何を投稿しましょうか?
楽しいのでこれでもいいんですが。何にしましょう?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。