本当に欲しいもの   作:火の車

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”谷戸について”

亜蘭「谷戸の趣味は迷彩柄の服を着たり、ベンツを集めたり、銃を集めたりすることだ。そのくせ、家事をしてる時はフリルが付いたエプロンを着たりと......まぁ、有能なんだが変な奴だ。」

雫「好きな食べ物は多分だけど、辛い物だね。下にガツンと来る感じの。刺激的なものが好きなのかな。」


激昂するもの

亜蘭「__谷戸、目星はあるか?」

 

 俺たちは学校を出て、車に乗っている。

 目的は弦巻様の居場所を特定し、救出する事。

 

 制限時間は極めて少ない。

 こころ様が完全に向こうに手に入れられればその時点で終わりだ。

 

亜蘭(どこだ。弦巻家周辺の監視カメラ、目撃情報......)

 

 パソコンの画面には数多くの情報が次々出てくる。

 西園寺兄妹の訪問は確かにあった。

 だが、それ以降、西園寺兄弟二人以外が出た映像はない。

 

亜蘭(どういう事だ?監視カメラが切れてるならわかる、でも、そんな事はない。)

燐子「だ、大丈夫ですか......?」

亜蘭「大丈夫、とは言えません。」

 

 落ち着け。

 西園寺海斗が見せてた映像を思い出せ。

 

 駄目だ、あんな場所は見たことがない。

 

亜蘭「まて、おかしい点があるぞ。弦巻家の従者たちは何をしてる?」

 

 監視カメラの映像には一切、弦巻家の従者は写っていない。

 いつも訪ねた時は必ず何人かはすれ違うし、誰もいないなんてことはなかった。

 

亜蘭「谷戸、弦巻家の従者は最近入れ替わったりしたか?」

谷戸「従者ですか?......確か、この間手紙で来ていたような。」

紗夜「どういう事ですか?」

燐子「従者が、入れ替わった......もしかして。」

亜蘭「はい、恐らく間違いないです。」

 

 確信した。

 弦巻様が外に出されてる映像がないこと、従者が一切写らないこと、そして最近の従者の入れ替え。

 

亜蘭「弦巻様は弦巻邸にいる。」

谷戸「なるほど。それなら不可能に近い弦巻様誘拐も成立させられますね。」

亜蘭「あぁ。そして、従者の入れ替えで入った従者は西園寺家からのスパイだ。だから、従者も動かなかった。」

紗夜「でも、そうだとすれば四宮君が抑えるのは簡単なのではないですか?」

亜蘭「はい。西園寺家なら難しかったですが、弦巻邸かつ内装を把握しきっていない従者がいるなら侵入もたやすいです。」

 

 希望が見えて来た。

 これならなんとかなるかもしれない。

 

亜蘭「谷戸、弦巻邸まで急ぎだ。」

谷戸「かしこまりました。」

 

 俺たちを乗せた車は弦巻邸まで走って行った。

__________________

 

谷戸「__っ!」

 

 弦巻邸が見えて来た。

 だが、車が止まった。

 

亜蘭「どうした?」

谷戸「これは......」

亜蘭「なんだ?......なっ!」

燐子「こ、これって......」

 

 弦巻家を囲むように武装した集団がいる。

 そして、あのマークは。

 

亜蘭「西園寺か。」

谷戸「厄介ですね。流石にこれで進むのは不可能です。」

紗夜「どう見ても、歓迎してるようには見えませんね。」

谷戸「恐らく、向こうも亜蘭様の事を知っていたのでしょう。そして、居場所にこの早さで気付くことも。」

亜蘭「やられたか......」

 

 この距離でも銃をこちらに向けてる。

 それ以上近づけば撃つって事だ。

 

亜蘭(どうする。このまま車で特攻する?いや、この二人がいるからできないし、そもそも危険だ。)

?『__こころを出してください!』

亜蘭「この声は!」

 

 聞き覚えがある声が外からメガホンを通して聞こえて来た。

 でも、まさか。

 

 俺は疑ったが、車の外に出た。

 

亜蘭「若葉さん!」

若葉「あれ?亜蘭さん?」

 

 やはり、若葉さんだったか。

 

亜蘭「なぜ、ここに?」

若葉「どうしたもこうしたも、弦巻家との連絡が途絶えたので来たのです。それで、来てみれば。」

 

 若葉さんは弦巻邸の方に目をやった。

 若干だが、若葉さんの目が鋭くなった。

 

若葉「やってくれましたね。西園寺風情が。」

亜蘭「ですが、流石に近づくのは困難です。」

若葉「だいたいの状況は来るまでに聞きました。おじさまとこころを向こうに握られてしまったようですね。」

亜蘭「申し訳ありません。」

若葉「いえ。ですが、少し亜蘭さんの屋敷をお借りしてもよろしいでしょうか?流石にこの状況じゃどうしようもありません。」

亜蘭「かしこまりました。__谷戸、一旦引くぞ。」

谷戸「はっ。かしこまりました。」

 

 俺たちは飯地撤退のため、屋敷に向かった。

 

 その間、若葉さんに詳しい事情を話した。

__________________

 

 屋敷に着いた。

 

 俺たちはすぐに部屋に入り、話し合いを始めた。

 

若葉「__面倒なことになりましたね。」

亜蘭「はい。」

若葉「正直、武力で弾圧するのは簡単ですが、近隣への被害を考えると......」

紗夜「難しいですね。」

亜蘭「理想は弦巻邸に忍び込み、二人を救出。その上で西園寺家を片付けるですが。」

燐子「そう簡単には......いきませんよね......」

 

 どんな見積もり方をしても、時間は残されてない。

 少なくとも明日には実行しないといけない。

 

 だが、そんなのは向こうも計算内だろう。

 

亜蘭(1対1なら銃弾を避けるくらい造作もないが、流石にあの数に一斉に狙われたら......)

 

 流石によけられる可能性は格段に減る。

 多分、一人一人がプロだ。

 そだけでもかなりきつい。

 

若葉「......亜蘭さん。」

亜蘭「はい__」

 

 Prrrrr!!!

 

亜蘭、谷戸、若葉、紗夜、燐子「!!!」

 

 突然、備えてある電話が鳴り響いた。

 

 この電話が鳴らせる人物は若葉さんともう一人。

 

亜蘭「......弦巻家か。」

若葉「気を付けてください。」

亜蘭「はい。」

 

 俺は通話を開始した。

 今で言う、スピーカーというやつだ。

 

こころ『__もしもし、亜蘭?』

亜蘭「はい。こころ様。」

 

 予想通り、相手はこころ様だ。

 この電話は若葉さんとこころ様しかならせないんだ。

 

こころ『何か大変なことになってしまったけど、大丈夫、すぐに終わるわ。』

亜蘭「......」

若葉「こころ?」

こころ『あたしは明後日、西園寺家に籍を入れることになったわ。お父様にも会えたし、無事だったわ。』

若葉「こころ、断りなさい!あなたには__」

こころ『いいのよ、若葉。』

若葉「!」

こころ『あたしはいいの。本当ならこうなるはずだったのだから。』

 

 こころ様の声色はどこか寂し気で悲しそうだ。

 

こころ『ねぇ、亜蘭?』

亜蘭「はい。」

こころ『初めて出会ったあの日を覚えているかしら?』

亜蘭「......はい。」

こころ『あたしは生まれた時から外に出たことがなくて、とっても寂しかったわ。』

若葉「こころ......」

こころ『でも、亜蘭はあたしを始めて外に、自由へ連れ出してくれたわ。あの時は凄く嬉しかったわ......』

亜蘭「っ!」

 

 こころ様は多分、泣いてる。

 

 心臓が締め付けられるようだ。

 

こころ『あの時の気持ちは今でも覚えてるわ。』

亜蘭「......」

こころ『あの日から、亜蘭はあたしのヒーローよ。あたしに笑顔を与えてくれた最高のヒーロー......』

亜蘭「......こころ様......」

こころ『そして、何より。』

 

 こころ様は一息置いて、こう言い放った。

 

こころ『__あたしの最初で最後の愛する人よ。』

亜蘭「っ!」

燐子「......!」

こころ『出来る事なら、ウィディングドレスは亜蘭の隣で......着たかったわ......』

若葉「こころ!___」

こころ『だから。』

 

 こころ様から放たれた言葉は、確実に俺に覚悟を決めさせた。

 

 俺には心に決めた人がいる。

 だから、こころ様の気持ちに答えるとは言えない。

 でも、今のままじゃ確実にこころ様は救われない。

 だから、こころ様を救わないといけないんだ。

 

こころ『__あたしを奪いに来て、亜蘭。』

 

 その言葉と共に通話が切れた。

 

 そして、場が静寂に支配された。

 

亜蘭「......」

 

 奪いに来て、こころ様は確かにそう言った。

 だったら、奪いに行くまでだ。

 

亜蘭「若葉さん。」

若葉「分かっています。」

亜蘭「谷戸。」

谷戸「はい。」

亜蘭「俺は、こころ様を奪いに行きます。決行は明日の夜、10分以内に終わらせる。」

若葉「やっと、本気ですか?亜蘭さん?」

谷戸(気の毒だ。実に気の毒だ、愚かな西園寺家よ。)

 

 俺は服装を正し、立ち上がった。

 

亜蘭「作戦に必要なものを用意する。頼むぞ、谷戸。」

谷戸「はっ、かしこまりました。」

若葉「私達もアシストします。」

亜蘭「感謝いたします。」

 

 ”谷戸視点”

 

谷戸(本当に気の毒だ、同情する。)

 

 私は亜蘭様の方を見ました。

 今までにないほどの激昂なされている。

 

 こんなに激昂した亜蘭様は私も始めてみました。

 

谷戸(西園寺家よ、お前たちは虎の尾を踏み、龍の逆鱗に触れた。その怒りは何人たりとも止められはしない。)

亜蘭「谷戸、氷川先輩と白金先輩は安全な場所に頼む。これ以上、危険な場所に近づけられない。」

谷戸「かしこまりました。」

亜蘭「さぁ、制圧を開始するぞ。向かい来る火の粉は払うまでだ。」

谷戸「承知いたしました。」

 

 本当に愚かな者たちだ。

 

 お前たちは本当の亜蘭様の力を目の当たりにしてしまうぞ。

 かつて、呪いの子と言われたほどの、あの力を。

 




今週はこれですかね。
もしかしたら他のも気分で出すかもですが。

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