本当に欲しいもの   作:火の車

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”若葉”

若葉「そう言えば亜蘭さん?」

亜蘭「はい?」

若葉「今回の最後に言わないといけない事があるのですが。」

亜蘭「はい?なんでしょうか?」

若葉「そうですね......それは本編の後で♪」

亜蘭「?」


救出

亜蘭「__谷戸、敵の様子はどうだ。」

谷戸「変わらずに弦巻邸を囲っています。」

 

 弦巻邸から離れた場所から、俺と谷戸は双眼鏡で弦巻邸を見ていた。

 

 昨日見た通り、武装した兵が弦巻邸を取り囲んで近づけそうにない、というのが普通の意見だ。

 

若葉『亜蘭さん。』

亜蘭「は、若葉さん。」

 

 若葉さんから通信が入った。

 もう少しで、作戦開始だ。

 

亜蘭「谷戸、作戦の確認だ。まず、若葉さんの家の飛行機から煙幕が落ちたと同時に弦巻邸に侵入する。そして、谷戸は弦巻様がいる一階の部屋、俺はこころ様のもとに行く。」

谷戸「かしこまりました。」

亜蘭「ルールは一つ、絶対に誰の命も奪うな。西園寺家二人もだ。」

谷戸「はっ。」

亜蘭「後、この話を頭に入れておいてくれ。」

谷戸「はい?」

亜蘭「恐らくなんだが__」

 

 俺はある予想を口にした。

 

谷戸「__なるほど。それなら、今回の暴挙も納得がいきます。」

亜蘭「あくまでも予想だ。頭の端にでも置いておいてくれ。」

 

 話し終えると同時に通信が来た。

 

若葉『作戦開始、一分前。』

亜蘭「了解。行くぞ、谷戸。」

谷戸「かしこまりました。」

 

 俺たちは弦巻邸に向かって行った。

__________________

 

 ”弦巻邸”

 

 弦巻邸の一室では、西園寺兄妹が大笑いしていた。

 

海斗「あはは!気分がいいなぁ!」

南「そうね!お兄様!」

海斗「四宮亜蘭は手に入らなかったが、こころを手に入れれば俺たちだけでも十分、資産家たちと対等どころか上を取れるぜ!」

南「それにしても、弦巻こころはあっさり手に入ったね?」

海斗「まぁ、自分の父親を人質に取られればな!まぁ、一回の窓のない部屋に閉じ込めてるだけなんだがな!」

 

 二人はもう、資産家の頂点に立つ間近で最高の気分だ。

 なんせ、弦巻家の娘を手に入れたんだ、それはもう最高に気分だろう。

 

海斗「明日にはこころは家の籍に入る!そうすれば__」

執事「__か、海斗様、南様!」

海斗「なんだ?騒々しい。」

南「何?」

執事「さ、先ほど謎の飛行機から煙幕が落とされ、四宮家が攻め込んできました!」

海斗「なんだと!?」

南「か、数は!?」

執事「それが......1人、当主、四宮亜蘭のみなのです。」

 

 執事がそう言うと、西園寺兄妹は肩を落とした。

 

 そして、ため息をついた。

 

南「なんだ、1人なら警備の人たちがいるでしょ?撃ち殺されて終わりよ。」

海斗「そうだ。一体、何人いると思ってる?」

執事「い、いえ、もう、7割が戦闘不能です......」

海斗、南「!?」

 

 西園寺兄妹の背筋はその一言で凍り付いた。

 

 あそこにいるのは紛れもないプロだ。

 今回の計画のために呼んだ、世界でも最高レベルの者たち。

 それが、たった5分で7割倒されたのだ。

 

 だが、時間は止まってはくれない。

__________________

 

 ”四宮家”

 

若葉「__始まりましたね。」

 

 作戦が開始されると、若葉は腰を落とした。

 

燐子「あ、あの、四宮君は大丈夫なんですか......?」

若葉「?」

紗夜「銃を持った集団を引き付けるおとりになるだなんて、正気の沙汰じゃないです。」

若葉「あぁ、大丈夫ですよ。」

紗夜「な、何を根拠に......?」

若葉「そうですね。根拠をあげるとすれば、四宮亜蘭が怒ったと言う事でしょうか?」

燐子「そ、それだけですか?」

 

 燐子と紗夜は困惑している。

 

 根拠が亜蘭が怒っただけなんて、どう考えても不安が多い。

 

若葉「そんなに心配なら見てみるのが一番ですよ。」

 

 若葉がそう言うと、大きなスクリーンに弦巻邸と、それも前に立つ亜蘭、そして__

 

燐子「え......?」

 

 亜蘭の目の前で倒れている、多くの人が写っていた。

 

若葉「一つ言っておきますが、亜蘭さんは指一本、彼らには触れていませんよ。」

紗夜、燐子「え?」

若葉「見てください。」

 

 二人はスクリーンに目を移した。

 

燐子「し、四宮君!」

 

 そこには亜蘭に銃口を向けた二人が映っていた。

 

 距離から考えて、確実にあったってしまう。

 

燐子「四宮君!逃げてください!」

紗夜「まずいじゃないですか!」

若葉「大丈夫ですよ。」

紗夜「何を根拠に__」

 

 バン!!!

 

 銃声が聞こえた。

 銃弾は亜蘭に向かって真っすぐ__

 

燐子「__え?」

紗夜「な、なんで?」

 

 飛んでいくことはなかった。

 

 まるで亜蘭の身体を避けるようにそれ、撃った2人それぞれにあたった。

 

若葉「亜蘭さんは昔、呪いの子と呼ばれていました。

紗夜「はい。それは聞いています。確か、四宮君だけ事故に巻き込まれなかったと。」

若葉「はい。ですが、それを科学的に解明することは不可能だったのです。」

燐子「不可能......?」

若葉「はい。あの状況で亜蘭さんの周りだけ鉄鋼つが落ちない確率は0%。それで、結論が出ました。」

紗夜「結論?」

若葉「亜蘭さんは異常に運がいいのです。」

紗夜「はい?」

燐子「運がいい......?」

若葉「はい。ですが、普通じゃないのです亜蘭さんの強運は。なにせ『神の愛』と呼ばれたほどなのですから。」

 

 若葉はそう言って、また、スクリーンに目を移した。

__________________

 

 俺が自分の運が良い事に気付いたのは、10歳の時だ。

 色んな研究室に行き、色々な実験をされたが、俺の周りで起きる現象の説明はつかなかった。

 

亜蘭「__もう、撃たない方がいい。」

 

 そして、研究室を回ってるうちに俺は不思議な感覚に襲われた。

 

 自分の運をコントロールできるようになった。

 ただし条件があった。

 それは__

 

亜蘭「俺は猛烈に怒っている。」

 

 怒る事、それだけだ。

 

亜蘭「......って、もう全員自滅てるのか?」

 

 ま、まぁ、多分、死んではいないだろう。

 後で、救急車を呼ぼう。

 

亜蘭「さて、行くか。」

 

 俺は弦巻邸の中に入った。

__________________

 

 ”谷戸”

 

谷戸(えーっと、どこでしょうか?)

 

 私は弦巻邸内で弦巻様を探しています。

 

 亜蘭様のお陰で見回りが誰も来ません。

 

谷戸「メインから脇役まで完璧にこなす......流石は亜蘭様です!」

こころ父「__だ、誰かいるのか?」

谷戸「おや?この声は?」

 

 私は声がした方に行きました。

 思ったよりも厳重に鍵がかけられてあります。

 

谷戸「弦巻様でしょうか?」

こころ父「その声は、谷戸君か!」

谷戸「はい。亜蘭様の命により、お助けに上がりました。」

こころ父「亜蘭君が。ありがとう。」

谷戸「今から扉を壊すので少し離れておいてください。」

こころ父「あ、あぁ。」

 

 私は少し下がって、ドアに思い切り蹴りを入れました。

 バキッ!

 ドアはたやすく割れました。

 

谷戸「__さぁ、早く避難しましょう。」

こころ父「こ、こころは?」

谷戸「問題ございません。亜蘭様がすでに。」

こころ父「!」

 

 私は弦巻さんを連れて、弦巻邸の外に避難しました。

__________________

 

 ”こころ”

 

 外から、色んな音が聞こえるわ。

 

こころ「__一体、何が起きているの?」

 

 窓から外を見ても、煙が濃くて何も見えないわ。

 

こころ(......外に出たいわ。)

 

 ここに閉じ込められてから、ドアは固く閉められて、窓は開かないようにされたわ。

 

こころ「......亜蘭。」

 

 そう呟くと、少しづつ煙が晴れてきたわ。

 

 今日はとてもきれいな満月が__

 

亜蘭『__暗い表情をなされていますね。』

こころ「__!!」

 

 そこにいたのは、亜蘭だったわ。

 月の明かりに照らされて、とても綺麗な顔をしてる。

 

 そう思っていると、亜蘭は固く閉ざされた窓をあっさりと開けてこちらに手を伸ばしたわ。

 

亜蘭「奪いに来ましたよ。こころ様。」

こころ「亜蘭!」

 

海斗『__おい!こころ!』

 

こころ「!」

 

 外から西園寺海斗が話しかけて来たわ。

 

 かなり怒っているわ。

 

亜蘭「さぁ、こちらに来てください。」

こころ「え、えぇ!」

 

 ガチャ

 

 あたしが亜蘭の方に手を伸ばすと、ドアが開いたわ。

 

海斗「四宮亜蘭......!」

南「あなた、何しに来たの!?」

亜蘭「そうですね、悪い人たちから姫を救いに来ました。」

こころ「!///」

亜蘭「さぁ、こちらに。」

こころ「えぇ!」

 

 あたしは亜蘭の手を取ったわ。

 

亜蘭「__それでは、さようなら。」

こころ「!」

 

 亜蘭は一瞬笑ったと思うと、足を外して飛び降りたわ。

 

亜蘭「__お待たせしました。こころ様。」

こころ「......ありがとう、亜蘭。でも......ここからどうするの?」

亜蘭「大丈夫ですよ。この下は柔らかい草ですから。」

 

 バサバサバサ!!!

 

亜蘭「__こんな感じです。」

こころ「すばらしいわ!亜蘭!」

亜蘭「さぁ、逃げましょうか。」

こころ「えぇ!」

 

 俺はこころ様を連れて弦巻邸の外に出た。

__________________

 

こころ父「__こころ!」

こころ「お父様!」

 

 外に出ると、もう、谷戸と弦巻様がいた。

 

谷戸「お疲れ様でした、亜蘭様。」

亜蘭「いや、まだ仕事は残ってるぞ。」

 

 俺は門の方に目をやった。

 

海斗「四宮ぁ......!」

南「余計なことをしてくれたわね!」

亜蘭「さて、あなたたち二人を片付ければ今回の件は解決ですね。」

 

 俺は一歩前に出た。

 

亜蘭「一つ、俺の話を聞きませんか?」

海斗「あぁ!?」

亜蘭「あなた達、今回の主犯は二人だけでですね?」

南、海斗「!?」

亜蘭「西園寺家自体は関与してない。跡取り二人だけの犯行、ですね?」

 

 これに気付いたのは弦巻邸が居場所だと分かった時だ。

 軽く見ただけじゃ、弦巻様を外に出せないと判断したうえでの判断に見える。

 でも、それはただ、西園寺家が使えないだけだった。

 

?「__海斗!南!」

海斗「お、親父!!」

南「お父様!!」

正豪「お前たちはなんてことをしでかしたんだ!馬鹿どもが!」

 

 この人は西園寺正豪。

 この二人の親だ。

 

正豪「日ごろの態度に加えて、今回の件、お前たちは破門だ!二度と帰ってくるな!」

海斗「お、おい!待ってくれ!」

南「私達はどうなるの!?」

 

 二人は叫んでいるが、正豪さんは意に介す様子もなく弦巻様の前に言った。

 

正豪「申し訳ございませんでした!!!」

弦巻父「そんなに謝らくてもいい。だが、今後このようなことがあれば。」

正豪「はい!再発防止に努めます!」

 

 その様子を見て、俺は肩を落とした。

 

亜蘭「作戦、終了。」

谷戸「お疲れ様でした。......おや?」

亜蘭「谷戸?」

こころ「亜蘭?」

亜蘭「こころ様?」

こころ「少し、来てくれないかしら?」

亜蘭「かしこまりました。」

 

 俺はこころ様について行った。

__________________

 

 来たのは近くの公園だ。

 夜中なだけあって、人通りもない。

 

こころ「__今日はありがとう。亜蘭。」

亜蘭「いえ。」

 

 ベンチに座ると、こころ様は開口一番にそう言った。

 いつもと違い優しい声色だ。

 

こころ「本当に奪いに来てくれたわね。」

亜蘭「......!」

 

 こころ様は俺の方に近づいて来て、手を握った。

 

こころ「......あたし、亜蘭がずっと好きよ。」

亜蘭「はい......」

こころ「何もなかったあたしに、笑顔を与えてくれた亜蘭をずっと愛してるわ///」

亜蘭「......こころ様......」

こころ「亜蘭、あたしと結婚しましょ?///そして、あたしとずっと一緒にいて......?///」

 

 こころ様はそう言った。

 

 涙にぬれ輝いてる瞳は街灯に照らされ輝いていて、赤くなった頬は白い肌に相まってとても綺麗だ。

 

 そんな、こころ様を見ても、俺には揺らぎないものがあるんだ。

 

 だから__

 

亜蘭「申し訳ありません。こころ様。」

こころ「!」

亜蘭「俺には心に決めた女性がいるのです。」

こころ「......燐子よね?」

亜蘭「......はい。」

こころ「そう......」

 

 こころ様は一瞬だけ残念そうな顔をしたが、すぐに笑顔になって立ち上がった。

 

こころ「燐子はとーっても素敵な子よ!」

亜蘭「はい。存じております。」

こころ「頑張りなさい、亜蘭。」

亜蘭「はい。」

こころ「......今のあたしみたいにならないで。」

亜蘭「っ!」

こころ「お願いよ、亜蘭!」

亜蘭「こころ様!」

 

 こころ様は弦巻邸の方に走って行った。

 

__こころ様が涙を流していた。

 心が痛む。まるで、何かに心臓を握られてるみたいだ。

 

亜蘭「......申し訳ありません。こころ様。」

 

 俺は夜、誰も通らない公園でそう呟き続けた。

 

 だが、心の痛みが消える事はなかった。

 

 




”若葉2”

亜蘭「それで、言わないといけない事とは何でしょうか?」

若葉「実はですね......私、天照若葉は花咲川学園に転入することが決まりました!」

亜蘭「えぇ!?」

若葉「というわけで、こころ共々、よろしくおねがいします♪」

亜蘭「は、はい。」

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