亜蘭「__胃が痛い。」
谷戸「私もです。」
俺たちは今、こころ様の家、つまり、弦巻家にいる。
これからあの人と会うのだ、胃も痛くなる。
亜蘭「......谷戸。今日は何時間話をすると思う?」
谷戸「......最悪、日付が変わるかと。」
亜蘭「だよな。」
こころ「__あらーん!」
俺たちが話してると向こうからこころ様が走ってきた。
さっきのような制服と違い、かなりラフな私服だ。
普通の人が見ればそれはとてもかわいらしい物だろう、だが、今の俺にそんな事を考える余裕はない。
こころ「夕飯の用意が出来たわ!行きましょ!」
亜蘭「......はい。」
俺たちはこころ様と共にダイニングに行った。
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弦巻家のダイニングはともかく広い。
こんなスペース何に使うんだと思うレベルに広い。
そんな広い空間に一際存在感を放つ人物が見える、俺がもっともこころ様とセットで会いたくない、あの人物が......
こころ父「__来たか、亜蘭君。」
亜蘭「ご無沙汰しております、弦巻様。」
谷戸「ご無沙汰しております。」
こころ「なんでそんなに緊張してるの?」
こころ父「まぁ、久し振りだからな。仕方ないだろう。」
こころ「そんなものかしら?」
胃に穴が開きそうだ。
もう最悪の状況としか言いようがない。
何が最悪なのか、それは6年前、こんなことがあったからだ......
”6年前”
こころ父『して、亜蘭君。』
亜蘭『はい。』
こころ父『うちの娘はどうかね?』
亜蘭『とても可愛らしいかたと思います。』
こころ父『そうか。......なら、亜蘭君。」
亜蘭『はい?』
こころ父『娘と結婚しないか?』
亜蘭『え?』
こころ父『君なら私の跡取りに申し分ない。こころも君に懐いてる。君なら誰も文句は言わない。どうかね?』
亜蘭『こ、こころ様はまだ10歳ですし、そう言うお話は相応しい年齢になってからがいいかと。』
こころ父『......まぁ、それもそうだな。』
”現代”
こういう具合にあれ以来、弦巻様に会うたびにこういう話をされるのだ。
これまでは上手く流せていたんだが、今回は訳が違う。
高校二年、つまり、こころ様は16歳、つまりそういう事だ。
こころ父「__まぁ、食事を始めようじゃないか。そこで話そう。」
弦巻様がそう言うと、たくさんの料理がすぐに運ばれてきた。
俺が席に着くと、谷戸が......
谷戸「私は少し仕事を残していますので、ここで失礼いたします。」
亜蘭「は?」
そう言うと谷戸はどこかに消えていった。
亜蘭(谷戸、お前、俺の専属執事だから他の仕事ないじゃないか!)
谷戸(お許しください、亜蘭様......私はあんな長い話を聞きたくないのです。)
少しのトラブルがあったが、食事が始まった。
雰囲気はこころ様がいるので明るい。
こころ「とても美味しいわ!」
こころ父「あぁ、そうだな。」
亜蘭「はい。」
弦巻家で出てくる料理は本当に美味しいのだ。
専属の料理人の腕はすごい、流石、弦巻家というところだ。
そんな事を思いながら食べてると、いつの間にか食事が終わっていた。
こころ様は満足そうで、それを弦巻様は嬉しそうに見てる、実に美しい光景だと思う。
そうすると、弦巻様が口を開いた。
こころ父「亜蘭君、少し話をしないか?」
来たか、俺はそう思った。
ここから果たして何時間話すんだか。
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弦巻様に招かれ、俺は書斎に来た。
ここは落ち着いた雰囲気で窓からは綺麗な庭が見えると言う、とてもいい部屋だ。
こころ父「まぁ、座りたまえ。」
亜蘭「はい。」
そう言われ、俺は椅子に座った。
弦巻様も椅子に座り、しばらくの沈黙の後、口を開いた。
こころ父「あの話は考えてくれてかな?こころももう16歳、君の返事を待てば来年には結婚できるわけだが。」
予想通り。
今日ここに呼ばれたのはこの話がメインだったのだろう。
こころ父「と言われても、今の君は困るだろう。」
亜蘭「え?」
弦巻様の口から出たのは、予想だにしなかった言葉だった。
今までから考えてこんな言葉が出てくるのはあり得ない。
こころ父「ここからが本題だ。」
亜蘭「本題ですか?」
こころ父「単刀直入に聞くよ。君は何がしたいんだ?」
亜蘭「......何のことでしょうか。」
こころ父「君は他の名家との縁談などは全て断っている、中には優れた容姿の者もいただろう。それにも関わらず君は頑なに断り続けた、それには理由があるんじゃないかと思ってね。」
亜蘭「それは......」
弦巻様は人の上に立つもの、人を見る目はすごい。
事実、俺には何年も追い求めてる目的があるんだから。
こころ父「まぁ、話しずらい事なら話さなくてもいいよ。」
亜蘭「お心遣い、いたみいります。」
こころ父「だがね。」
亜蘭「?」
こころ父「それを踏まえたうえで、私の、いや、娘の話を聞いてほしいのだ。」
亜蘭「こころ様のですか?」
弦巻様は庭を少し眺め、話し出した。
こころ父「あの子は今でこそ笑顔が増えたが、昔は全く笑わない子だったんだ。あの子は生まれつき弦巻家に生まれ小さい時からやすやすと外に出してあげられなかった。」
亜蘭「こころ様が?」
こころ父「あぁ。私は色々試した。こころに付き人をつけてみたり、おもちゃを買い与えたり、だが、こころはその一切を拒絶した。あの時の私はあの子はずっと笑わないんじゃないだろうかと、思っていたが、あの子は変わった。それが6年前だ。」
亜蘭「6年前?まさか。」
こころ父「君とこころが初めて出会った時だ。」
亜蘭「!」
こころ父「あの子の付き人候補だった君に出会ってから、あの子は人が変わったように笑顔が増えた。」
亜蘭(......まさか。)
こころ父「私はとても嬉しかった。そして、君に感謝してるよ。」
亜蘭「恐縮です。」
こころ父「それから、私は君にこころと結婚しないか、と聞くようになった。」
亜蘭「はい。間違いありません。」
こころ父「だが、多分君は誤解をしているんだ。」
亜蘭「誤解、ですか?」
こころ父「あぁ。それは__」
弦巻様は一瞬、言いづらそうにすると、意を決したように口を開いた。
その言葉は今までの俺の考えを根本から否定する、そんな言葉だった。
こころ父「__君、亜蘭君と結婚したいと言っているのは、こころ自身なのだ。」
亜蘭「え......?」
俺は一瞬、その言葉を理解できなかった。
何もかも分からなくなって、それからの話は何一つ頭に入ってこなかった。
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「___さま__らんさま__亜蘭様!」
亜蘭「__こ、ここは?」
谷戸「お迎えに上がりました。」
亜蘭「あ、あぁ。」
俺は谷戸に言われるまま、車に乗り込んだ。
谷戸「__何かありましたか?亜蘭様?」
亜蘭「......なぜ、そう思う。」
谷戸「亜蘭様がボーっとしてるのは極めて珍しい事です、なので、何かあったのではと。」
亜蘭「そうか......」
かなり時間が経ってるようだが、俺にはあの言葉が脳裏に焼き付いていた。
亜蘭「なぁ、谷戸。」
谷戸「はい?」
亜蘭「こころ様が俺との結婚を望んでる、と言えば信じるか?」
谷戸「こころ様がですか?」
亜蘭「あぁ。」
谷戸「......にわかには信じられませんね。あのようなお方ですから。」
亜蘭「......そうだな。」
谷戸「ただ。」
亜蘭「ただ?」
谷戸「どのような人物でも、人を愛すると言う感情は存在するのではないでしょうか、とは思います。」
亜蘭「そうか。」
谷戸の顔はよくは見えない、が声色から真剣であることがうかがえる。
亜蘭「だが、何にしても、俺はまだそういう事は考えられない。」
谷戸「左様ですか。」
亜蘭「あぁ。俺は俺の探しものを見つけなければならない。」
俺は車の外を見た。
仕事終わりの者、友達同士でいるもの......家族で過ごしてるもの。
亜蘭(俺が探すものは......)
俺は目を閉じた。
次に目を開けたころにはもう、家に到着していた。
こうして俺の慌ただしい一日が終わった。
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