亜蘭「__朝か。」
俺は慣れ親しんだ自室のベッドで目を覚ました。
でも、一つ、いつもと違う事がある。
それは......
燐子「すぅ......」
亜蘭「ふむ。」
横に天使、いや、その程度では言い表せないほど美しい顔で眠っている燐子さんがいる事だ。
俺はたまらず、燐子さんの頬に手を伸ばした。
亜蘭(触れてる毎秒毎秒、心が満たされていくな。少しくすぐったそうにするのもなんて愛らしいんだ。)
燐子「ん......っ。亜蘭君......?」
燐子さんが目を覚ました。
まだ少し眠たそうだ。
亜蘭「おはようございます。燐子さん。」
燐子「おはようございます。それで、何をしてたんですか......?」
亜蘭「あまりに眠っている燐子さんが愛らしくて、頬に触れていました。」
俺は迷うことなく、そう答えた。
すると、燐子さんの顔はみるみる赤くなっていった。
燐子「あ、亜蘭君......///」
亜蘭「はい、なんですか?」
言いたいことは大体わかるが、ここはとぼけてみる事にした。
亜蘭「燐子さん?」
燐子「......亜蘭君は、意地悪です......///」
亜蘭(可愛い。)
俺はそう思いながらベッドの中から出た。
亜蘭「それにしても、良い朝ですね。燐子さん。」
燐子「そうですね。」
亜蘭「朝食にしましょうか。この時間なら、もう雫が厨房に入っているので。」
燐子「はい。」
俺と燐子さんは厨房の方に向かった。
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亜蘭「__?」
燐子「亜蘭君......?」
厨房の前に来ると変な感じがした。
中にいる人間の気配が一つじゃなくて二つ、これは......
亜蘭「......ふむ。」
燐子「どうしたんですか?」
亜蘭「これは、入っていいのか悪いのか。」
燐子「?」
亜蘭「まぁ、取り合えず入ってみましょうか。」
俺は厨房のドアを開けた。
中には、雫と......
谷戸「賀川さん、これはこのくらいの粗さで良いですか?」
雫「うん。ばっちり。」
フリルの付いたエプロンを身に着け、料理をしてる谷戸がいた。
いつ見ても、絶望的、というほどでもないが似合わない。
雫「あっ、亜蘭と燐子。」
谷戸「おはようございます。お二人とも。」
亜蘭「あぁ、おはよう。」
燐子「お、おはようございます。」
二人は俺たちに気付くと、声をかけて来た。
横を見てみると、燐子さんの顔は明らかに引きつっていた。
燐子(あのエプロン、なんなんだろう......?に、似合ってない。)
亜蘭(って、思っているんだろうな。)
雫「朝ごはんかな?」
亜蘭「あぁ、そうだ。頼めるか?」
雫「今作ってるよ。」
雫はそう言いながら俺たちに近づいてきた。
雫「ねぇ、聞いてよ。」
亜蘭「なんだ?」
燐子「?」
雫は谷戸に聞こえない声で話し出した。
雫「谷戸さんのあの格好さ......」
亜蘭(どうにかして、とか言うんだろうな。)
雫「すっごい可愛い。」
亜蘭、燐子「」
俺と燐子さんは開いた口がふさがらなくなった。
今、なんて言った?可愛い?
亜蘭(俺の耳、老朽化したか?)
燐子(聞き間違い......?)
雫「あれはもう、あれだよ、萌えの最終兵器だよ。」
聞き間違いじゃなかったみたいだ。
一体、雫は何をもってあれを良いと思ったんだろう。
少なくとも180後半ある男のフリルのエプロンだぞ?
雫「亜蘭たちはどう思う?」
亜蘭、燐子「え?」
ここで俺たちに振って来るのか?
正直、雫の考えは理解できないが、頭ごなしに否定するのもよくない。
俺はそう思い、もう一度、谷戸を見ることにした。
谷戸「?」
亜蘭(......ダメだ。絶望的にあってない。例えるなら寿司と一緒にホットココアを飲むような、そのくらい絶望的だ。)
雫「亜蘭?」
亜蘭「......まぁ、雫が思う事、それが答えだと思うぞ。」
燐子「私も、そう思います......」
そう答えるしかなかった。
いや、そうとしか答えようがなかった。
亜蘭「ともかく、朝食の用意を頼む。」
雫「了解。」
谷戸「すぐにご用意いたします。」
俺はその言葉を聞いた後、燐子さんと一緒に厨房から出た。
亜蘭「__燐子さん。」
燐子「はい。」
亜蘭「人の感性というのは、極めて難解なものだと思います。」
燐子「私もそう思いました。」
俺と燐子さんは深くうなずきながらダイニングに向かった。
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ダイニングに行くと、すぐに料理が運ばれてきた。
俺と燐子さんは朝食を食べ始めた。
亜蘭「__燐子さんは、この後どうなさいますか?」
燐子「え?」
食事の途中、俺は燐子さんにそう問いかけた。
夏休みとはいえ、課題、バンドの練習など、しなければいけない事はいくらでもある。
特に燐子さんは3年生、進路を確定する時期だ。
亜蘭「夏休みの課題もあるでしょうし、ずっとここにいるわけにもいかないと思いまして。」
燐子「あ、そういえば......」
亜蘭「この後、お送りしますので、燐子さんの家に行きましょう。」
燐子「え?送る......?」
亜蘭「はい。駄目ですか?」
燐子「いえ、大丈夫、だと思います。」
それから、俺と燐子さんは朝食を食べ終え、洗面を済ませた。
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俺と燐子さんは、車に乗っている。
谷戸「__到着いたしました。」
亜蘭「意外と早かったな。」
俺は車から降りて、燐子さん側のドアを開けた。
亜蘭「どうぞ、燐子さん。」
燐子「ありがとうございます。」
燐子さんは車から出た。
燐子「あ、暑いですね。」
亜蘭「そうですね。」
燐子「亜蘭君も、入りますか?」
亜蘭「え?いいんですか?」
燐子「はい。」
俺は言葉に甘えて、燐子さんの家に上がることにした。
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燐子「ただいま......」
亜蘭「お邪魔します。」
俺と燐子さんは家に入った。
燐子母「燐子?おかえりなさ__って、そっちの子は?」
奥から、お母さんと思われる人物が出て来た。
亜蘭「四宮亜蘭と申します。本日は早朝の訪問、申し訳ありません。」
燐子母「え、えぇ、おかまいなく?」
燐子「お母さん、お父さんいる?」
燐子母「い、いるわよ。」
燐子「じゃあ、亜蘭君も上がるね。」
燐子母「え、えぇ。」
燐子「亜蘭君、どうぞ......」
亜蘭「はい。」
俺は燐子さんに言われると、靴を脱いで家に上がった。
燐子「私は課題を取りに行くので、亜蘭君はリビングで待っていてください。」
亜蘭「分かりました。」
燐子さんは自室に向かって行った。
燐子母「リビングはこっちですよ。」
亜蘭「ありがとうございます。」
俺は燐子さんのお母さんについて行った。
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リビングに来ると、ソファにはお父さんと思われる人物が座っていた。
燐子母「あなた、お客様よ。」
燐子父「客?」
亜蘭「はじめまして。燐子さんのお父様。」
俺は頭を下げた。
燐子父「あ、えっと、初めまして。燐子の父です。」
亜蘭「四宮亜蘭と申します。」
燐子父「えぇ!?し、四宮って、まさか......あの、弦巻家に並ぶ......?」
亜蘭「まぁ、そうは言われています。」
燐子父「ほ、本物!?か、母さん、飲み物を出して!すぐに!」
燐子母「は、はい?」
亜蘭「いえ、すぐに帰るので、おかまいなく。」
どうやら、俺の事を知ってるみたいだ。
今までいくつか会社に訪問したことがあるし、それのどこかで働いてるのだろうか。
燐子母「どういうこと、あなた?」
燐子父「弦巻家は知ってるよな?」
燐子母「はい。すごくお金持ちな家くらいしか分からないですか。」
燐子父「その方は近年、出てきた家にもかかわらず、弦巻家と肩を並べるほどの人だ。」
燐子母「えぇ!?」
亜蘭「そんな大した人物ではないですよ。」
俺は驚きの表情を浮かべている二人に笑いかけた。
燐子母「そ、そんな方が今日は何のご用で?」
亜蘭「そうですね。本来は燐子さんをお送りするために来たのですが、この場で話すことにしておきましょう。」
燐子父「はい?」
いつかは通る道、今しようとも何も変わらない。
亜蘭「俺と燐子さんは3日ほど前から交際しています。」
燐子母「まぁ!」
燐子父「いや、気付いてなかったのか?」
亜蘭「それで今回、話したい、いや、お願いしたいのは。」
燐子父「はい。」
亜蘭「俺と燐子さんの交際を認めていただきたいのです。」
俺はそう言った。
すると、二人は......
燐子母「き、聞いた?あなた?」
燐子父「あ、あぁ、聞いたぞ。」
亜蘭「?」
燐子父、母「やったー!!!」
亜蘭「!?」
そろって飛び上がった。
燐子父「認めるどころか、こちらこそよろしくお願いします!」
燐子母「本当に今まで浮いた話の一つもなくて、このままずっと、彼氏なんてできないものだと......!」
亜蘭「は、はい。」
この二人、燐子さんの両親なんだろうか。
勢いがすごいな。
燐子父「ぜひとも、末永くよろしくお願いします。」
燐子母「大切にしてあげてください。」
亜蘭「はい。もちろんです。」
燐子「__お待たせしました。」
亜蘭「あ、燐子さん。」
話が粗方終わったころに燐子さんが来た。
燐子「何の話をしてたんですか?」
亜蘭「少し、燐子さんの話ですよ。」
燐子「私の?」
燐子さんが首をかしげてる。
ちょっとした仕草も可愛いな。
亜蘭「それでは、行きましょうか。」
燐子「はい。」
燐子母「燐子。」
燐子「?」
燐子母「頑張るのよ。」
燐子父「幸せになるんだぞ。」
燐子「え......!?///」
俺と燐子さんはリビングを出た。
燐子(な、何の話をしてたんですか......亜蘭君///)
亜蘭「どうしました?」
燐子「いえ......///」
亜蘭「そうですか?」
それから、俺と燐子さんは車に乗って屋敷に戻った。
そして、二人で夏休みの課題を消化していった。