燐子「__あの、四宮君......?」
亜蘭「申し訳ないです。」
あの後、あの女子二人は諦めて図書室を出て行き、俺は白金先輩に平謝りしていた。
燐子「そ、そんなに謝らなくても......大丈夫です。」
亜蘭「もし嫌なら断っていただいて構いません。その場合はその日に欠席しますので。」
燐子「それはやめた方がいいと思います......」
亜蘭「?」
燐子「四宮君は......皆から一目置かれてる存在なので......騒ぎになりかねません。」
亜蘭「......確かに、考えられますね。」
燐子「私は大丈夫です......組む人がいなかったので......」
亜蘭「本当にありがとうございます。」
燐子「いえ......」
そうして、昼休みの時間は過ぎていった。
それから午後の休み時間には俺のダンスの相手についての話題で持ちきりだった。
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学校が終わると、俺はいつも通り車に乗り込んだ。
谷戸「__本日もお疲れ様でした。亜蘭様。」
亜蘭「あぁ。」
谷戸「そう言えば、社交ダンスのペアはお決めになられましたか?予定が早まったそうですが。」
亜蘭「あぁ、決めたよ。花咲川の生徒会長だ。」
谷戸「なるほど。それなら誰も文句は言いませんね。」
亜蘭「あぁ。」
それから特に会話をすることなく、家まで車を走らせた。
そして、すぐに家に着いた。
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メイド「__おかえりなさいませ、亜蘭様。」
メイドたち「おかえりなさいませ。」
亜蘭「あぁ、ただいま。そして、今日もよく働いてくれてありがとう。」
メイド「滅相もありません。亜蘭様のために働く事こそ幸せですから。」
亜蘭「そう言ってくれると助かる。」
そう言いながら俺はメイドたちの中を進んで自室に戻った。
谷戸「亜蘭様。」
亜蘭「どうした。」
谷戸「亜蘭様に今度オープンするレストランから招待が来ております。」
亜蘭「レストラン?」
谷戸「はい。近隣の権力者を招待したいと。」
亜蘭「という事は、弦巻家も来るのか?」
谷戸「いえ、弦巻家は出席いたしません。」
亜蘭「珍し......くはないか。ほとんど卑屈をしない人だからな。」
谷戸「それで、いかがいたしましょう?」
亜蘭「受けよう、その招待。そう連絡を入れておいてくれ。」
谷戸「かしこまりました。」
そう言って谷戸は俺の部屋から出て行った。
それから俺は社交ダンスの日まで普通の日々を送った。
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社交ダンスの日になった。
元は金持ちが多い学校だけにドレスコードに慣れてるもの、初めてで慣れてないものとで分かれてる。
俺はどちらかというと慣れ過ぎてる。
弦巻家と同席したこともあるし、こういう場に呼ばれることは多い。
女子たち「きゃー!亜蘭君かっこいいー!」
亜蘭「ははは、ありがとう。」
会場に来るなり俺は女子に囲まれていた。
送られてくる声に反応を返しながら俺は建物の中に進んでいった。
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建物の中に入ると、見慣れた社交ダンスの会場の様だった。
周りには自身のペアと会話をしてるもの、出された料理を食べてるものと様々だ。
こころ「__亜蘭!」
亜蘭「!」
俺が会場内を歩いてるとこころ様が近づいてきた。
赤いドレスに身を包み、いつもの爛漫さを感じさせない雰囲気だ。
亜蘭「こころ様、本日も大変お美しく。」
こころ「あら、ありがとう!亜蘭も素敵よ!」
亜蘭「ありがとうございます。」
挨拶を済ませると、こころ様は俺に話題を振ってきた。
こころ「亜蘭はペアが決まっているの?」
亜蘭「はい。白金先輩と組むことになっています。」
こころ「あら、燐子と組むのね!」
亜蘭「はい。」
こころ「良い事ね!仲良くしなさい!」
亜蘭「承知いたしました。」
こころ「じゃあ、あたしは皆の所に行くわね!」
亜蘭「はい。お気をつけて。」
こころ様はどこかに歩いて行った。
燐子「あ、あの......四宮君。」
亜蘭「あ、白金先輩。」
燐子「こ、こんにちは......」
亜蘭「こんにちは。」
紗夜「私もいますよ。」
亜蘭「氷川先輩もこんにちは。」
白金先輩に呼ばれ振り向くと、白金先輩と氷川先輩がいた。
白金先輩は白と黒のドレス、氷川先輩は水色のドレスに身を包んでいた。
二人とも慣れてないはずなのに大分様になってる。
紗夜「四宮君はこういう場に慣れてらっしゃるんですか?」
亜蘭「はい。こういう場に出ることが多くて。」
燐子「確か......近年に現れた名家だと。」
亜蘭「そう言われてますね。」
紗夜「という事は、ご両親が何かをしているんですか?」
亜蘭「......いえ、主は俺ですよ。」
紗夜、燐子「え?」
亜蘭「四宮家初代当主、四宮亜蘭です。」
紗夜「ま、待ってください。四宮家が出てきたのは3年前、四宮君は......」
亜蘭「中学二年生です。」
燐子「ちゅ、中学二年生で当主に......?」
亜蘭「はい。」
二人は目を丸くしてる。
まぁ、普通はあり得ないことだからな。
亜蘭「まぁ、そんな些細なことはいいでしょう。」
紗夜「些細......?」
亜蘭「はい。名の知れた家になるなんて簡単ですよ。それより。」
俺は白金先輩の方を見た。
亜蘭「今日は楽しみましょう、白金先輩。」
燐子「は、はい。」
紗夜「それでは、私もペアのもとに行ってきます。後はお二人で。」
亜蘭「はい。お任せください。」
氷川先輩はペアのもとに行った。
亜蘭「さて、ダンスが始まるまで少し時間がありますね。どうしますか?」
燐子「す、少し......静かな場所に行きたいです......」
亜蘭「なら、そうしましょうか。」
俺たちは会場から出て椅子に座った。
燐子「......はぁ。」
亜蘭「お疲れですか?」
燐子「はい......少し......」
亜蘭「白金先輩は人が多いところなどは苦手なようですね。」
燐子「はい......」
白金先輩はかなり疲れた様子だ。
慣れない雰囲気もこの疲れに一役買ってると見た。
苦労を掛けて申し訳ない。
そう思ってるうちにダンスの時間になった。
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会場に戻るともうダンスは始まっていた。
燐子「もう......始まってる......」
亜蘭「そうですね。白金先輩は経験がおありですか?」
燐子「いえ......すみません......」
亜蘭「いえ、大丈夫ですよ。」
そう言って俺は白金先輩に手を差し出した。
亜蘭「さぁ、手を取ってください、白金先輩。」
燐子「は、はい。」
亜蘭「リードしますので、力を抜いて、俺に身をゆだねてください。」
そうして、俺と白金先輩は踊り始めた。
白金先輩は俺が言ったとおりにしてくれてる。
これならやりやすい。
燐子(な、なんでしょう、いつもより体が動いてる気がする。)
しばらく踊ると、少しの休憩時間になった。
亜蘭「ふぅ。」
燐子「ご、ごめんなさい......疲れましたよね......?」
亜蘭「いえ、白金先輩がしっかりしてくれてるので楽ですよ。俺が元からダンスが苦手なだけです。」
令嬢「__四宮様!」
亜蘭「?」
俺が白金先輩と話してるとどこかで見たことがある人が話しかけてきた。
亜蘭「......あぁ、この前のパーティーでいらっしゃいましたね。」
令嬢「はい、ご無沙汰しております。」
亜蘭「それで、何のご用で。」
令嬢「先ほどのダンスを見させていただきました、亜蘭様は相変わらず素晴らしかったですわ。」
亜蘭「お褒めにあずかり光栄です。」
令嬢「でも......」
その令嬢は白金先輩の方を見てため息をついた。
令嬢「パートナーがあれでは、釣り合ってませんわ。どうせ、四宮様に取り入ろうとしてるのでしょうが、そうはいきませんわ!」
亜蘭「?」
令嬢「次の曲、私と変わりなさい。庶民。」
燐子「!」
令嬢は白金先輩にそう言った。
令嬢「腹が立ちますわ。庶民ごときが四宮様のパートナーだなんて。」
そう言うと令嬢は白金先輩を突き飛ばした。
燐子「__きゃ!」
令嬢「そこで見ていなさい、私と四宮様の美しいダンスを!」
亜蘭「......」
令嬢「そうすれば自分の汚さが身に染みて分かりますわ!さぁ、四宮様!」
自身の家柄で他人を馬鹿にする人がいると聞いたことがあるが、見てて気持ちい物じゃない。
本来、こういう態度はとるものじゃないんだがな......
亜蘭「お断りします。」
令嬢「え!?」
俺は差し出された手を払いのけた。
亜蘭「今日は白金先輩以外と踊るつもりはありません。」
そう言いながら俺は白金先輩に近づいて行った。
そして、手を差し伸べた。
亜蘭「さぁ、手を取ってください。白金先輩。」
燐子「え......でも、あちらの方は......」
亜蘭「いいんですよ。俺は白金先輩とだけ踊りたい。」
燐子「え......?」
亜蘭「白金先輩が踊りたくないと言うなら、俺はこの場から去りましょう。」
俺はそう言って、もう一度問いかけた。
亜蘭「俺と踊ってくれますか?白金先輩。」
燐子「......お、踊りたい......です。」
令嬢「な......!」
亜蘭「よかった、それでは手を取ってください。」
燐子「はい......!」
白金先輩は俺の手を取った。
そして、踊り始めた。
亜蘭「さぁ、本気であの自称高貴な令嬢に恥をかかせましょうか。」
燐子「は、はい......?」
亜蘭「真面目に行くので、少しだけ頑張ってくださいね?」
燐子「し、四宮く__!」
俺たちは踊り始めた。
弦巻様に教えられた技術、経験を総動員して全力で踊る。
女子「すごい......」
男子「世界が違うよ......」
女子2「幻想的......」
女子3「二人とも綺麗......」
男子2「やっべぇ......」
紗夜「......目立ってますね。」
燐子(す、すごすぎです。)
亜蘭「......楽しい。」
燐子「!(今......)」
人生で初めてダンスが楽しいと思った。
資産家同士のダンスは戦略しかないからまったく楽しくなかった。
でも、今は純粋に楽しめてる。
でも、楽しい時間はすぐに過ぎる物で気付けば曲が終わっていた。
亜蘭「__あれ、もう終りか?」
燐子「そうみたいですね......」
亜蘭「ふむ......」
令嬢「認めませんわ!あんなの全部、四宮様のお力じゃないですか!私が相手ならもっとできましたわ!」
燐子「......」
令嬢「やはり庶民は__」
亜蘭「口を慎んでもらおうか。」
令嬢「!」
亜蘭「先ほどからの侮辱の数々、とても高貴な方がする行為とは思えない。お家の品格を疑います。」
令嬢「なっ!でも__」
亜蘭「それ以上の白金先輩への侮辱は四宮家への宣戦布告と受け取る。」
令嬢「っ!」
亜蘭「その勇気があると言うならかかってくるといい。俺たちはその一切を薙ぎ払おう。」
そろそろ堪忍袋の緒が切れそうだ。
令嬢「う、ぐ......」
亜蘭「別に続けてもいい、許可しよう。覚悟があれば続けるがいい。」
令嬢「......も、申し訳ありませんでした......」
そう言って令嬢は下がって行った。
亜蘭「......谷戸。」
谷戸「ここに。」
案の定、谷戸は控えてた。
亜蘭「あれの監視を頼む。不審な動きを見せれば処分は任せよう。」
谷戸「仰せのままに。」
そう言って谷戸はどこかに消えていった。
亜蘭「......全く。」
燐子「あ、あの、四宮君......?」
亜蘭「お恥ずかしい姿を見せましたね。」
燐子「だ、大丈夫なのでしょうか......?」
亜蘭「大丈夫ですよ。白金先輩にもう被害が行かない事をお約束します。」
燐子「い、いえ、そうじゃなくて。四宮君が......大丈夫なんですか?」
亜蘭「?」
燐子「えっと、どこかの令嬢さんのようでしたから......」
亜蘭「あぁ、大丈夫ですよ。所詮は下層のものですから。」
白金先輩は不安そうにしてる。
でも、本当にもう大丈夫だ。
亜蘭「そろそろ、この会も終わりですね。」
燐子「え?は、はい。そうですね。」
亜蘭「色々ありましたが、とても楽しい時間でした。ありがとうございました。」
燐子「いえ、こちらこそ。庇ってもらったりしてしまって......」
亜蘭「お気になさらないでください。」
俺はあの楽しい時間を思い出した。
亜蘭「白金先輩。」
燐子「はい......?」
亜蘭「今日は本当に楽しかったです。」
いつもみたいに言葉が止まらない。
亜蘭「今日のパートナーが白金先輩で本当によかった。」
燐子「っ......!///」
自分でも信じられないくらい優しい声が出た気がする。
初めて、富や名声だけでは得られないものを得られた気がしたからか。
亜蘭「お礼として今日はお送りします。」
燐子「え?あの__」
亜蘭「谷戸。」
谷戸「ここに。」
亜蘭「白金先輩と望めば氷川先輩も乗せていくが問題ないか?」
谷戸「問題ございません。」
亜蘭「なら一応、警戒しつつ車の用意を頼む。」
谷戸「かしこまりました。」
そう言って谷戸は車の用意をしに行った。
亜蘭「それでは、氷川先輩にも声をかけに行きましょうか。」
燐子「は、はい///」
紗夜「白金さん、四宮君。」
亜蘭「氷川先輩、ちょうどよかったです。」
紗夜「お話は聞いていました。せっかくなのでお言葉に甘えましょう。」
亜蘭「なら、車に行きましょう。」
俺は歩きだした。
紗夜「......白金さん?」
燐子「はい......?」
紗夜「先ほどから様子がおかしいですが、どうしました?」
燐子「いえ......なんでもないです......///」
紗夜(これは、まさか?)
亜蘭「お二人とも、どうしました?」
紗夜「いえ、なんでもありません。」
燐子「はい......///」
亜蘭「そうですか?なら、行きましょう。」
そうして、社交ダンス会が終わった。
帰るとき白金先輩の様子がおかしかったが、どうしたんだろうか?
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