ダンス会の翌日の今日は休日だ。
今日の予定は新しくオープンするレストランのゲスト。
谷戸「亜蘭様、車のご用意が出来ました。」
亜蘭「あぁ。こっちも今、準備が終わった所だ。」
谷戸「それでは、参りましょう。」
俺は車に乗り込んだ。
__________________
亜蘭「それで、今日行くレストランの情報は?」
谷戸「ここに。」
亜蘭「ふむ。」
情報を見るに3つ星の店から独立したか。
でも、それ以外の情報は特にないな。
谷戸に限って手を抜いたのはあり得ない、本当にこれだけなんだろう。
亜蘭「だが、独立したって事は自信があるって事なんだろうな。」
谷戸「はい。ですがシェフの情報があまりのも少なすぎます。不審な点は多いですね。」
亜蘭「そうだな。」
俺たちはそう思いつつレストランに向かった。
__________________
”レストラン”
シェフ「今日はVIPを招いている。」
少し薄暗い厨房で従業員が集まってる。
シェフ「精々、俺のために働けよ。賀川雫。」
雫「......はい。」
雫、そう呼ばれたその女は静かにそう答えた。
シェフ「相変わらず不愛想な奴だ。まぁ、働くなら何でもいい。」
雫「......」
シェフ「さぁ、金を稼ごうか!」
シェフは不敵に笑った。
__________________
谷戸「__着きました。」
亜蘭「あぁ。」
俺たちは目的地に着いた。
外装は新店なだけあって綺麗だ。
でも、すこし盛り過ぎだな、もう少し落ち着いた内装ならよかったんだが。
谷戸「さぁ、参りましょう。」
谷戸は俺の後ろに控えたままそう言った。
俺は店に入った。
__________________
店に入ると、どこかで見たことがあるような人物が数多くいた。
最も、こちらから挨拶に行くような人物はいないが。
シェフ「__いらっしゃいませ、お客様。」
店に入るとシェフと思われる男が話しかけてきた。
想像よりもむさ苦しい男だな。
亜蘭「招待状はこれでいいんだな。」
シェフ「はい、間違いありません。席にご案内いたします。」
俺はシェフについて行った。
俺は席に着いた。
シェフ「それでは、少々お待ちください。」
そう言ってシェフは厨房に下がって行った。
亜蘭「......谷戸、あのシェフをどう思う。」
谷戸「そうですね、あの年齢で独立すると言うのは考えずらいです。何か裏を感じます。」
亜蘭「だな。今までもこういう機会はあったが、どこも若い人物だった。何を隠してるか。」
あの年齢で独立するのはあまりにリスクが大きい。
つまり、そのリスクを帳消しにできる手札があると言う事。
それが果たしてどういうものなのか。
谷戸「いかかがいたしましょう。私が調べますか?」
亜蘭「いや、いい。様子を見よう。」
俺は料理を待つことにした。
しばらくすると、オードブルが運ばれてきた。
亜蘭「それでは、いただくとしよう。」
俺は料理を一口、口に含んだ。
その時、俺に衝撃が走った。
亜蘭「__!」
谷戸「亜蘭様?」
亜蘭「これは......」
谷戸「?」
亜蘭「美味しすぎる。」
そう、美味しすぎるのだ。
今まで食べたオードブルの中でダントツ、いや、この先においてもダントツかもしれない。
でも、それは比較したらの話だ。
亜蘭(不可解なのは、この味を邪魔する要素があると言う事。余計な手が加わってる。)
それから運ばれてきた皿もそう言う印象を受けた。
どこかに雲がかかってる、快晴の空に雨雲がかかってるみたいだ。
そして、メインデッシュが運ばれてきた。
亜蘭「......?」
おかしい。
今までのどの料理よりも圧倒的にクオリティが下がった。
まるで作ったものが変わったかのように。
どういう事だ。
亜蘭「......谷戸。」
谷戸「はい?」
亜蘭「これは推測だが、メインまでの料理を作ってた人物とメインを作った人物は別人だ。食べ比べればわかる。」
谷戸「それでは、失礼いたします。......これは。」
亜蘭「分かったか。」
谷戸「はい。明らかにまずくなりました。」
亜蘭「周りの人間は気付いてない、いや、今までの料理のイメージで錯覚してるのか?」
谷戸「ですが、そのようなことが可能でしょうか?」
亜蘭「いや、流石にそんなことは出来ない。どういう事だ。」
シェフ「__いかがなさいましたか、四宮様?」
俺が考えてるとシェフがこっちに来た。
亜蘭(流石におかしすぎる。......強行するか。)
シェフ「あの。」
亜蘭「すまないが、メインデッシュまでの料理を担当した料理人を呼んでもらえないか?」
シェフ「はい?」
亜蘭「素晴らしい料理だったので少し話を聞きたい。」
シェフ「かしこまりました。(よしよし、ばれてないみたいだな)」
そうして、俺の料理を担当したという料理人を連れて来た。
亜蘭「これで全員か?」
シェフ「はい。」
亜蘭「......ふむ。」
俺はいくつか質問をしてみる事にした。
亜蘭「一皿目、何かミスなどはあったか?」
料理人「いえ、そのようなことはなかったはずです。」
亜蘭「二皿目、使われてた肉は羊か?」
料理人「......はい。」
亜蘭「ふむ。それじゃあ、魚料理。使われてた魚は一種類だったか?」
料理人「......2種類です。」
亜蘭「なるほど、もういい。」
シェフ「はい。お前たち持ち場に__」
亜蘭「あなたは余程、俺を馬鹿にしたいみたいだ。」
シェフ「え?」
このシェフがとんだ大嘘つきという事が分かった。
亜蘭「魚料理に使われてた魚は一種類のみだった。それぞれに異なった味付けをし見事に調和を保たせていた。」
シェフ「!?」
亜蘭「俺は担当した料理人を呼んでくれと頼んだんだが、どういうことだ?」
シェフ「......申し訳ありません。」
亜蘭「謝罪などいい。担当した料理人を呼べ、これは頼みじゃない、命令だ。」
シェフ「......かしこまりました。」
そう言って渋々といった表情で呼んできたのは、美しい銀髪をまとめ、綺麗な青い目をした女だった。
雫「......メインデッシュ以外の料理を担当いたしました。賀川雫です。」
亜蘭「あなたが。」
嘘はついてない。
その証拠に谷戸が反応してない。
亜蘭「今回は大変すばらしい料理をありがとうございました。」
雫「......はい。」
亜蘭「メインはそちらのシェフが?」
シェフ「はい。」
亜蘭「なるほど。」
あまりこういう事は言いたくない位だが、仕方ないか。
亜蘭「料理は素晴らしかった、でも。」
シェフ「?」
亜蘭「コースとしては最悪だ。」
シェフ「!?」
亜蘭「メインまでの料理は類を見ないほど素晴らしい物だった。でも、メインでその余韻は全て消された。」
シェフ「っ!」
亜蘭「はっきり言おう。俺にとってはメインの前の肉料理、あれがメインだった。」
シェフ「......」
亜蘭「さて、コースの事はもういい。賀川雫さん、でしたっけ?」
雫「はい。」
元々、不愛想なのか、表情の変化は乏しい。
でも、それを抜きにしても料理を褒められた料理人の顔じゃない。
亜蘭「今日の皿はあなたにとって100点と言えますか?」
雫「......!」
亜蘭「まるで雲がかかってるような感覚、なにか邪魔になるものがあったんじゃないですか?」
雫「......そうです。」
亜蘭「それはそこのシェフが考案したレシピで間違いないですね。」
シェフ「!」
雫「はい」
シェフ「賀川!」
亜蘭「......はぁ。」
大体わかった。
このシェフの自信の正体はこの人だ。
確かに、この人がいれば成功は間違いないだろうな。
亜蘭「あなたは今に満足してるんですか?」
雫「......どういう事でしょうか。」
亜蘭「あなたの料理はこんなものじゃない。こんなおもりを背負ったような状態に満足しているんですか?」
雫「......いえ。」
亜蘭「あなたは何を望んでるんですか?」
雫「......私は好きな料理を好きなように作って、生きていきたいです。」
亜蘭「なるほど。」
まだまだ若いのに目標がはっきりしてる。
素晴らしい事だ。
この才能をこのままにするのはあまりに勿体ない。
亜蘭「シェフ。」
シェフ「.....はい。」
亜蘭「俺と交渉しましょう。」
シェフ「え?」
亜蘭「こちらの要求は一つ、賀川雫をいただきたい。」
シェフ「え?」
雫「......!」
シェフ「こ、困ります!彼女がいないとこの店は__」
亜蘭「一億だ。」
シェフ「え!?」
亜蘭「こちらは一億出そう。谷戸。」
谷戸「はい。こちらに。」
谷戸は札束の入ったケースを取り出した。
亜蘭「賀川雫をいただけるなら、俺は一億を出そう。どうする。」
シェフ「はい!どうぞ!」
シェフはあっさりと差し出した。
まぁ、それはそうか。
雫「あの」
亜蘭「さて、次はあなたへの交渉だ。」
俺は賀川雫の方に向き直った。
亜蘭「こちらが提示する条件は自由に料理できる環境と設備、衣食住、手取り、年俸は最低1億。頼みたい仕事は家の専属料理人。どうだろう。」
雫「え、あの。そんなにいいんですか?」
亜蘭「俺の中で世界最高の料理人という評価で査定した。納得がいかないならいくらでも上乗せしよう。」
雫「いえ、いいです。」
亜蘭「それじゃ、聞こう。YES or Noだ。」
雫「YES」
亜蘭「......契約成立だ。谷戸。」
谷戸「はい。」
亜蘭「賀川雫の移住の手配を。」
谷戸「かしこまりました。」
雫「あの、移住とは?」
亜蘭「あぁ、俺の屋敷で住んでもらおうと思ってな。」
雫「屋敷......?」
亜蘭「あ、他の女性従業員もいるから多分問題ないと思うが。」
雫「い、いえ。話のスケールが大きくてついて行けてなくて。」
亜蘭「?」
雫「あ、もういいです。」
亜蘭「そうか?」
俺たちが話してると谷戸が戻ってきた。
谷戸「手配が済みました。2時間ほどで完了いたします。」
亜蘭「よし。じゃあ、屋敷に帰るか。さぁ、行こう。えっと、何て呼ぼうか。」
雫「雫、そう呼んでください。」
亜蘭「じゃあ、雫。これからよろしく頼む。」
雫「はい。」
こうして、俺の家の専属料理人に最高の料理人が来た。
俺の屋敷に来た時、無表情が驚きの表情に変わってたのが印象的だった。
感想などお願いします。