本当に欲しいもの   作:火の車

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8話です



自覚

亜蘭「......」

 

 放課後、俺は車の中でバンドの音楽を聴いていた。

 

亜蘭(ライブに行くなら多少の予習も必要だろう。)

 

 バンドの音楽には初めて触れたが、良いと思う。

 綺麗だけに拘る音楽よりもずっと俺は好きだ。

 

亜蘭(ロゼリアの音楽は調べれば出てきた、けど今聞くべきじゃないな。新鮮な感動が薄れる可能性がある。)

 

 バンドのライブを楽しむために基礎知識を身に着ける。

 後、もしも白金先輩に誘われたと分かるとしたら、俺の一挙一動が白金先輩に恥をかかせることになるかもしれない。

 それは一後輩として許されない行為、失態は許されない。

 

亜蘭「谷戸。」

谷戸「はい?」

亜蘭「一週間後、俺はバンドのライブに行く。その日は予定を入れるな。」

谷戸「かしこまりました。」

亜蘭よし。」

谷戸(亜蘭様が楽しそうですね。......良い事です。)

 

 俺の予習は屋敷についても続いた。

__________________

 

 気づけばもう、夕食の時間になっていた。

 外ももう暗い。

 俺は谷戸に呼ばれ、ダイニングに向かった。

 

亜蘭「__待たせてしまったな。」

雫「いや、ピッタリだよ。」

亜蘭「そうか。」

 

 俺は席に座った。

 そして、料理が出てきた。

 

亜蘭「いただくよ。」

雫「どうぞ。」

 

 俺は料理を口に含んだ。

 

亜蘭「__おぉ。」

 

 思わず驚嘆の声をあげてしまった。

 朝に比べてギアが上がった。

 一口における満足感もすごい、でも、もっと食べたいと言うのも掻き立てられる。

 

亜蘭(すごいな。雫が一人で店を出したらもしかしたら......)

 

 俺はある事を考えた。

 

雫「......どうしたの?」

亜蘭「雫、給料増やすか?」

雫「え?いや、別にいいよ。」

亜蘭「そうか。」

雫「いきなりどうしたの?」

亜蘭「いや、雫が店を出せばもしかしたらもっと儲かるのかと思ってな。」

雫「それは分からないけど。私は今に満足してるし。......と言うより、これ以上増えても使う場面がない。」

亜蘭「そうか?」

雫「うん。」

 

 雫は深くうなずいた。

 俺は夕食を食べ進めた。

 

亜蘭「__ごちそうさま。」

雫「お粗末様。」

亜蘭「それじゃあ、俺は部屋に戻るよ。」

雫「うん。おやすみ。」

 

 俺は部屋に戻った。

__________________

 

 部屋に戻ると、窓の外に綺麗な月が見えた。

 

亜蘭(綺麗だな。)

 

 気配を感じる。

 

亜蘭「どうした谷戸。にやけているな。」

谷戸「これは失礼いたしました。」

亜蘭「何か楽しい事でもあったか?」

谷戸「そうですね、珍しく亜蘭様が楽しそうですので、私も嬉しくなってしまいまして。」

亜蘭「そうか。出来た執事だな・」

谷戸「ありがたきお言葉。」

亜蘭(あと、一週間か。)

 

 そうして、俺はライブの日まで普通の日常を過ごした。

__________________

 

 ライブの日になった。

 あれから予習をしたが、楽しみ方を考えるのは野暮だと分かった。

 その場の空気に従うのが一番だと。

 

亜蘭(__まぁ、マナーは多分大丈夫だろう。きっと。)

谷戸「亜蘭様、もう間もなく到着いたします。」

亜蘭「あぁ。」

 

 そうして、俺はライブハウスに到着した。

__________________

 

谷戸「__それでは、またお迎えに上がります。」

亜蘭「あぁ。」

 

 谷戸は車に乗って帰った。

 

亜蘭「さて、行くか__って、なんだ?」

 

 周りを見ると何故かみんなこっちを見ていた。

 

亜蘭(なんでだ?これと言って目立つことは......してるな。)

 

 冷静に考えればリムジンに乗ってライブハウスに来る人間なんていない。

 迂闊だった。

 

亜蘭(どうする。この場合は何喰わない態度で受付に行くのが正解か。)

女性「あのー。」

亜蘭「はい?」

女性「あの、芸能人の方ですか?」

亜蘭「え?」

 

 話しかけてきた女性は突然そんな事を言い出した。

 

亜蘭「いえ、俺はそんなものではないですよ。」

女性「ほんとですか!?じゃあ、私と一緒にライブ見ましょうよ!」

亜蘭「え?いや、それは__」

 

 困った。

 初対面の相手だけに強く断る事が出来ない。

 どうしたものか。

 

亜蘭(谷戸も今はいないし。隙を見て走るか。)

 

 俺は走る準備をした。その時。

 

紗夜「__通してください!」

亜蘭「氷川先輩?」

 

 観衆の間を通り抜け、氷川先輩と白金先輩がこちらに来た。

 

亜蘭「こんにちは、先輩方。」

紗夜「やはり、四宮君でしたか。」

燐子「こ、こんにちは......」

紗夜「人だかりがあったのでもしかしたらと思いましたが。まさか、当たるとは。」

亜蘭「お騒がせして申し訳ない。」

紗夜「まぁ、仕方ないですよね。」

 

 そう言うと、氷川先輩が大きな声でこういった。

 

紗夜「この方は私たちが招待した方です!なので、彼は関係者です!」

 

 そう言うと、氷川先輩はこちらを向いた。

 

紗夜「ついて来てください。四宮君。」

亜蘭「はい。」

 

 俺は氷川先輩と白金先輩について行った。

__________________

 

 俺は二人と一緒の通路から建物内に入った。

 どうやら俺は関係者扱いらしい。

 

紗夜「四宮君はどこに行っても人に囲まれていますね。」

亜蘭「今日は迂闊でした。少し遠くで車を降りるべきでした。」

燐子「そう言う問題なのでしょうか......?」

紗夜「まぁ、違いますね。」

亜蘭「?」

 

 少し歩くと、ロゼリアと書かれた札のある部屋に来た。

 

紗夜「私たちの楽屋です。入ってください。」

亜蘭「いいんですか?」

燐子「大丈夫です......」

亜蘭「じゃあ、お邪魔します。」

 

 部屋に入った。

 

紗夜「__ただいま戻りました。」

友希那「遅かったわね二人とも__って、誰かしら?」

リサ「うっわ!すっごいイケメン!」

あこ「え?え?誰ですか!?」

亜蘭「四宮亜蘭と申します。」

リサ「四宮亜蘭......あ、二人が話してた人か!」

紗夜「はい。」

 

 どうやら俺の名前を知ってるらしい。

 まぁ、二人がいるし不思議ではないかな?

 

紗夜「表で人に囲まれていたので連れてきました。」

あこ「囲まれてた!?」

リサ「あー、納得するなー。」

亜蘭「失態でした。」

紗夜「いや、だから、絶対理由はそれ以外ですから。」

友希那「......あぁ、燐子が招待した2年生の男子ね。」

リサ「え?今思いだしたの?」

あこ「まぁ、四宮さん!座ってください!」

亜蘭「あぁ、ありがとう。」

 

 俺は椅子を出されたので座った。

 

紗夜「それでは、紹介しておきましょうか。まず、ボーカルの湊友希那さんです。」

友希那「よろしく。四宮君。」

紗夜「ベースの今井リサさん。」

リサ「よろしくー☆」

紗夜「そして、ドラムの宇田川あこさんです。」

あこ「よろしくお願いします!」

亜蘭「はい。よろしくお願いします。」

 

 ロゼリアの紹介をしてもらったので、俺も自己紹介をすることにした。

 

亜蘭「四宮家初代当主、四宮亜蘭です。」

あこ「当主?」

紗夜「四宮君のお家はかなりのお金持ちらしいです。」

リサ「へぇー......って、初代?」

亜蘭「はい。初代ですよ。」

友希那「学生なのよね?」

亜蘭「はいそうです。が、あまり詮索はしないでください。」

友希那「......まぁ、いいわ。今日は私たちのライブを楽しんでいって。」

亜蘭「はい。楽しみにしています。」

 

 湊先輩はかなり自信があるみたいだ。

 

あこ「紗夜さん紗夜さん。」

紗夜「はい?」

あこ「あの人がりんりんの?」

紗夜「本人は自覚していませんが、恐らく。」

あこ「おぉ......」

亜蘭「どうしました?」

紗夜、あこ「!?」

 

 俺が話しかけると、二人の肩が跳ねた。

 

あこ「......紗夜さん。」

紗夜「?」

あこ「......あこ、行きます。」

紗夜「宇田川さん?」

あこ「あの、四宮さん!」

亜蘭「どうした?」

あこ「四宮さんはりんりんの事どう思いますか?」

燐子「え......?」

亜蘭「白金先輩?」

 

 俺は白金先輩を見た。

 

亜蘭「そうだな、尊敬する先輩かな?後は立派な生徒会長とか?」

あこ「じゃあ、可愛いとか思いませんか?」

亜蘭、燐子「え?」

 

 俺は再度、白金先輩を見た。

 

亜蘭「......」

燐子「......///」

亜蘭(確かに、俺が見てきた中ではたしかに容姿はいい。でも、それだけか?)

あこ「四宮さん?」

亜蘭「そうだな。確かに、綺麗な人だとは思うよ。」

燐子「ふぇ......?///」

あこ「やったー!」

紗夜(宇田川さん......)

リサ(あこ......)

友希那(......むごいわね。)

紗夜「と、取り合えず、四宮君は客席に移動しましょうか。案内します。」

亜蘭「はい。」

 

 俺は客席に移動した。

__________________

 

 会場はすごい熱気に包まれていた。

 会場いっぱいの観客が騒ぎ、今か今かとライブ開始を待ってる。

 

亜蘭(すごいな。今までの体験にはない。)

 

 そんな事を思ってると、ロゼリアが出て来た。

 

友希那『__それではさっそく、一曲目。行くわよ。』

 

 湊先輩がそう言うと演奏が始まった。

 学生とは思えないほどのクオリティ、どれほどの修練を積んだんだろう。

 これが本格派バンドか。

 

亜蘭「......」

 

 だが、俺の目はある人に釘付けになっていた。

 白金先輩だ。

 いつもとは違う空気。

 キーボードを華麗に弾く姿に俺は見入っていた。

 

亜蘭「......美しい。」

 

 気づけば、そんな言葉が零れていた。

 紛れもない本心だ。

 これが、白金先輩のバンドでの姿、全力で演奏する姿はどんな宝石よりも美しい。

 そう思ううちに、演奏が終わった。

 

亜蘭「......素晴らしい演奏だった。でも。」

 

 俺は演奏以上に白金先輩の姿が記憶に残ってる。

 滅多と感じられない美しさ、それが脳裏に残ってる。

 でも、不可解な点がある。じゃあ、なんで白金先輩だけ見てた。

 

亜蘭(全員全力だった。見ればそんな事は分かる。)

 

 なんで、白金先輩だけを。

 思い当たる点......

 

亜蘭(......ダンス。)

 

 あのダンスは人生で一番楽しかった。

 あれ以来、あの記憶がさび付いたことなんてない。

 それで白金先輩に意識が向いていた?

 

燐子「__あの、四宮君......?」

亜蘭「白金先輩。」

 

 俺が考え事をしてると後ろから白金先輩が話しかけてきた。

 

亜蘭「とても素晴らしいライブでした。」

燐子「あ、はい。ありがとうございます。」

亜蘭「あ、白金先輩は何か用がありましたか?」

燐子「えっと、まだいるかなと思いまして......」

 

 白金先輩は控えめにそう言った。

 

燐子「今日のライブは大成功でした......」

亜蘭「はい。そう思います。」

燐子「四宮君はどこが一番印象に残っていますか......?」

亜蘭「そうですね、しろ__!」

燐子「?」

 

 今、俺は何を言おうとした?

 

燐子「しろ......?」

亜蘭「なんでもないです。」

燐子「?」

 

 白金先輩、俺はそう答えそうになった。

 ぱっと出てきたのがそれだった。

 

亜蘭(なんでだ。)

燐子「あの......」

亜蘭「申し訳ありません。まだ余韻に浸ってて、後日改めて感想を言わせていただけないでしょうか?」

燐子「え?あ、はい......」

亜蘭「申し訳ないです。今日はこれで失礼いたします。」

燐子「あ、四宮く__!」

 

 白金先輩が足元の段差に引っかかった。

 

亜蘭「白金先輩!」

 

 俺は白金先輩を抱きとめた。

 

燐子「!///」

亜蘭「大丈夫ですか?怪我などは?」

燐子「あ、だ、大丈夫です///」

亜蘭「よかった。(あれ?)」

 

 俺は何でこんなに心配して、安心してる?

 分からない。

 

亜蘭(......どういう事だ。)

燐子「あの、四宮君......///」

亜蘭「あ、今、放します。」

 

 俺は白金先輩を放した。

 

亜蘭「それでは、今日は失礼します。」

燐子「は、はい......///」

 

 俺はその場を去り谷戸を呼び家に帰った。

 俺は自分の感情の正体を理解できなかった。

__________________

 

 ”燐子”

 

 おかしいです。

 今にも心臓が飛び出してきそうで、顔もすごく熱くて。

 

紗夜「__白金さん。」

燐子「ひ、氷川さん......?」

紗夜「顔が赤いようですが、どうしました?」

 

 氷川さんはいつもと同じ表情です。

 

燐子「おかしくて......」

紗夜「おかしい?」

燐子「何と言うか......心臓がすごくドクンドクンしていて......顔もすごく熱くて......」

 

 答えが見つかりません。

 ただ、ずっと、四宮君が私の中にいるようなそんな感覚があります。

 

紗夜「四宮君。」

燐子「!///」

紗夜「......やっぱりですか。」

 

 氷川さんは少しため息をつくと、私にこう言いました。

 

紗夜「いい加減に理解してください、白金さん。」

燐子「......?」

紗夜「白金さんは四宮君が好きなんです。今の白金さんの状態が何よりの証拠です。」

燐子「こ、これが......///」

紗夜「......やっとですか。」

 

 氷川さんはまたため息をつきました。

 

紗夜「ここからがスタートラインですよ。」

燐子「はい......///」

紗夜「競争率は極めて高いですが、まぁ、頑張ってくださいね。」

燐子「は、はい。......///」

 

 氷川さんはまたため息をつきました。

 でも、それは少し意味が違うように感じられました。

 

 

 

 




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