まどマギ外伝RTA_全員生存ルート   作:計量器

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新年度初投稿です…(懺悔)



第五回・裏

 夢を見た。

 少し久しぶりに見た夢だった。

 ここ暫く会っていない、おばあちゃんと話す夢。

 その顔は相変わらず黒塗りで、何を言っているか分からない。

 懸命に話しかけても、ふっとどこかへ逃げてしまう。

 駆けずり回って探しても、見つけたと思って捕まえても、またすぐどこかに消えてしまう。

 そのうちおばあちゃんは影も形も無くなって、結局いつも最後には私が一人残るだけ。

 なんて、後味の悪い夢。

 こんな夢を見るのはいつも、決まって悪い事があった後だ。

 思い出してきたかつての記憶。

 笑顔が似合う銀髪の少女。

 彼女と名前を教えあい……直後、目の前で閃く刃。

 そして私は確信した。

 

(……ああ。私、死んだん───「おっきろーッ!!!」

「ひゃああああッ!?」

 

 天地がひっくり返るとは、まさに今のような事を言うのだろう。

 沈みかけた意識は急浮上し、ベッドの上の身体に叩き込まれる。

 目を瞬かせ見てみれば、そこにはどこか見覚えのある、黒髪の少女の姿があった。

 

「おはよう。よく眠れた?」

「えっ……と、アレ、私……?」

「ふふ、まずは朝ご飯の時間だよ」

 

 そう言われてみるとふと、甘い香りに気がついた。

 その方向に視線をずらせば、そこには既に先客が二人。

 長髪を後ろで纏めた少女が、膝に乗せた幼女の口元に、食事を運ぶ最中だった。

 

「ああっ、穂波さん暴れないで!朝食は逃げたりしませんからっ」

「ならもっと早く、次を頂戴」

 

 忙しなく食器を動かす少女に対し、膝上の幼女はすぐさまフレンチトーストを飲み込んで、矢継ぎ早に催促をかけていく。

 まるで姉妹のような微笑ましい光景に、私の気持ちは少しずつ和んでいった。

 すると緊張が解れるにつれ、次第に何かが自分の中で、形を得て蘇っていく。

 それは昨夜の、本当の記憶。

 ……そうだ、黒髪の彼女は確か。

 私の生命を救ってくれたのだ、と。

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 はい、お察し頂けますように早速ガバです☆

 本来のチャートでは鈴音ちゃんの一閃に合わせ、佳奈美ちゃんのSGをスるハズでした。

 そうする事で佳奈美ちゃんを死んだように見せかけつつ救助し、今後の動きをやり易くする手筈だったんですね。

 あれ、なんで失敗したんでしょうね? 

 ここちょっと(思考から)消えてますね、4番という魔法少女がいたんですけど。

 

 まあ、そういった経緯で、とりあえずプランB発動です。

 あ?ねぇよそんなもん、との事なので、その場で作成しました。

 何故か飛び出したよばんちゃんに加え、なし崩し的に姉妹も投入。

 2人がかりの戦力で、鈴音ちゃんを圧倒します。

 またこの時、姉妹のSGを預かって不死身にしておきました。

 これによりこちらが魔法少女の真実を知っている事を悟らせつつ、鈴音ちゃんを牽制。

 どうにか彼女を撤退に追い込んだら、一先ずミッションコンプリートです。

 深追いしてこの場で鈴音ちゃんのSGをスる事はしません。してはいけません。

 そうした場合、とある理由でなんやかんやありホモは死にます(5敗)

 詳細は追って説明するとして……さて、この後どうしよっかな(痴呆)

 一応手は打ちましたけど、上手くいくかは……ナオキです……。

 

 ていうか姉妹、いい加減食事の度に拘束するの止めて貰えません? 

 毒でも盛ってんの?(疑心暗鬼)

 よばんちゃんもさぁ……笑って見てないで止めるとかさぁ……。

 彼女が居てもガバが増える一方ですし、加入させた意味どこ……?ここ……? 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 迂闊だった。

 まさか彼女に、あんなに仲間が居たなんて。

 結界付近で待ち構え、誘き出された魔法少女を狩る。

 いつも通りのその作業、変わった事は無かった筈。

 それなのに突如現れた、二人の手練れの魔法少女。

 黒い帽子と、白いドレス。

 決意を秘めた眼差しと、戦いを楽しむ緩んだ口。

 受ける印象は正反対の二人だったが、どちらも実力は本物だ。

 荒れ狂うような炎の波は確実に私を後退させ、多彩な魔法を放つ杖は私の反撃を的確に潰していく。

 攻撃に殺意は見えなかったが、手加減という訳でも無いらしい。

 撤退こそ成功したものの、むしろ意図的に逃されたようにすら感じられる。

 

 兎角、厄介な事になってしまった。

 あれだけの数が居たというのに、全く気配に気づけなかった。

 大方、「陽炎」のような隠蔽魔法の類いだろう。

 もし向こうから奇襲を受けたら、対処できるかは分からない。

 加えて恐らく彼女らは、真実について知っている。

 ドレスの少女の身体には、ジェムが全く見当たらなかった。

 帽子の少女の立ち回りも、耳元のジェムを意識したそれに違いない。

 魔女化まで知っているかは不明だが、その可能性もあり得るだろう。

 だがそれだけならば、大きな懸念にはならなかった。

 例え相手が強者だろうと、真実を知る者であろうと、私がする事は変わらない。

 しかし顔すら見せぬ相手が居るとなると、少し事情が変わってくる。

 

『───あなた一人では勝てない。手を引きなさい』

 

 戦いの最中、突如として響いたその念話は、終始私に撤退を求め続けた。

 単にそれだけだったならば、私は声の主の事を、彼女らの仲間の一人と考えた事だろう。

 そう、その念話があんな事を言い出さなければ。

 

『一人で立ち向かっては駄目。日向茉莉を利用しなさい』

『!? それは、どういう───』

 

 私がそう聞き返して以降、声はピタリと止んでしまった。

 日向茉莉。

 現在私が通う中学の、クラスメイトにあたる少女だ。

 彼女を利用しろというのは、一体どういう意図なのか。

 目の前にいる少女達と、何か関係があるというのか? 

 そもそも声の主は何故、彼女の事を知っている? 

 その時は戦闘に気を取られ、それ以上深く考える事もままならなかった。

 

 そして、翌日。

 私はその声の意図の一端に、触れる事になる。

 日向茉莉を観察し、ある事実に気がついたのだ。

 1つ目の発見は、肌身離さず着けた指輪。

 見慣れた装飾が彩る腕部に、緑の宝石が嵌っている。その異様な煌めきは、彼女の正体を示すモノだ。

 2つ目の発見は、時折見せる謎の態度。

 突如虚空を見たかと思えば、コロコロ表情を変えてみせ、身振り手振りをしさえする。

 まるでそこにいる見えない誰かと、会話でもするかのように。

 これらを合わせて考えれば、自ずと答えは見えてくる。

 そう、彼女は魔法少女なのだ。

 それも集団で活動する、チームの魔法少女。

 指に嵌めたソウルジェムと、隠す素振りの無い念話の仕草がその証。

 

 その事に気がつけば、彼女が名指しされた意図はすぐに分かった。

 彼女はどうにも、人が良すぎる。

 「クラスのみんなが友達だ」等と、きょうび小学生でも言わないだろう。

 けれど彼女はそのフレーズを、現実のものとしつつあった。

 転校したての私にも、一番に話しかけたのは彼女なのだ。

 そして彼女の会話からは、いつも人との繋がりが見てとれた。

 観光先で出会った少女とその日の内に仲良くなり、そのまま自宅にまで招かれるなど、他に誰ができるだろうか? 

 

 そんな彼女の目の前に、一人で戦う魔法少女が居たとしよう。

 彼女はその魔法少女に、どうやって接する事だろう。

 答えは出たも同然だ。

 あの声は暗にこう言ったのだ。

 「彼女に取り入り、仲間を利用し、殺人に加担させなさい」と。

 そうと分かると、私の行動は早かった。

 放課後に彼女を呼び出して、()()()()()を持ちかける。

 果たして彼女の反応は、予想以上のモノだった。

 私の手を屋上へと引き、笑顔で仲間の下へ駆けていく。

 引き合わされた仲間達も、快く私を迎えてくれた。

 

「魔法少女は助け合いでしょ?」

 

 そう言って私の手を、魔法少女殺しの手を握る。

 魔法少女は助け合い。

 確か椿も、似たような事を言っていた。

 だから私も助けているのだ、真実を知らぬ者達を。

 魔女と化し人を呪う前に、苦しまないよう眠らせる。

 例えそれで、誰かの生命を散らせようとも。

 例えそれで、誰かの仲を生と死で引き裂こうとも。

 例えそれで、私に向けた笑顔が、二度と咲く事が無くなろうとも。

 それが私の、使命なのだ。

 

 声の主の真意とやらは、まだ私には分からない。

 だがそんなものはどうでも良い。

 結局彼女も最後には、私がこの手にかけるだろう。

 今しばらくはここに潜んで、機が熟すのを待つ事だ。

 その時までは彼女の策に、便乗するのも悪くない。

 日向茉莉のチームの事も、それまで存分に利用させてもらうとしよう。

 

「……改めてこれからよろしく、日向茉莉さん」

「うん、よろしくね鈴音ちゃん! これでもう茉莉たち、友達だね!」

 

 そんな思惑の私に対し、彼女は満面の笑みでそう返した。

 単なる協力関係、という程度で話したつもりの私にとっては、少し意外な返答だった。

 どうやら底抜けに明るい彼女にとっては、単に同じ魔法少女(同業者)というだけで友達になり得るモノらしい。

 私が久しく聞いた覚えのないその言葉を、彼女は容易に語りかける。

 そのフレーズを耳にして、嬉しいと思う自分も居たが───そんな半端な感情は、すぐさま消えて無くなった。

 もし彼女が私の真意や、してきた事を知ったとしたら、きっと「友達」とは呼ばれない。

 

 もう一度、目の前の少女を見る。

 明るく元気で、友人がいて、愛されている彼女の事を。

 幸福を体現したようなこの少女に、私と正反対のこの少女に、私は何をしようとしている? 

 友人達を巻き込ませ、殺人の為に利用した挙句、その子達さえも殺そうとしている。

 これが「友達」のする事だろうか? 

 そうであって良い筈がない。

 私は彼女達を殺し、彼女達は私を恨むだろう。

 それが訪れる未来の姿だ。

 使命の為なら、やむを得ない。

 私は正しい事をしている。

 後戻りはとうの昔にできなくなったし、今更するつもりなんてない。

 そう、()()()()()()()

 私の決意も、行動も、間違ってなどない筈だ。

 ……間違ってないよね? 椿……。

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 落ち着きを取り戻した私の前には、温かな食事が並んでいた。

 トーストに半熟の卵が乗ったコレは、エッグベネディクトと言うらしい。

 一緒に淹れてもらったコーヒーは、バターをひとかけ溶かし入れるのがコツだそうだ。

 見慣れないものばかりだったけど、どれもとってもおいしくて、黒髪の彼女にお礼を言わずにはいられなかった。

 

「そう言ってもらえると嬉しいな。他の二人も食わず嫌いせずに食べてくれるとありがたいんだけど……」

「だって甘いモノの方が美味しいもん。ね、萌香?」

「チョコが食べたい……」

 

 軽い会話を交わしながら、長髪の少女は膝元の子の口を拭う。

 賑やかな朝の家庭の一幕、といった雰囲気だ。

 見る人の気持ちをも明るくしそうなやり取りに、思わず私も笑顔が溢れる……と、そう言えたら良かったけれど。

 私はこういう団欒が、ちょっとばかり苦手だった。

 失ってしまったあの時間。

 守れる筈だったモノを、守れなかったあの願い。

 それらが勝手に這い出てきては、陰から私を責めたてる。

 そんな気持ちが付き纏うから、ほんの少し、苦手なのだ。

 

「……そういえばまだ、名前聞いてなかったよね?」

 

 ふと気づくと、黒髪の少女がこちらを覗き込んでいた。

 暗い気分が外に漏れ出て、気を遣わせてしまったのだろう。

 その顔は少し困ったような、複雑な笑みを浮かべていた。

 慌てて取り繕おうとする私だったが、彼女は「無理はしなくていいよ」と言って、そっと私に手を差し伸べた。

 

「人に聞く前に、先に名乗らなくちゃだよね。私は()()()。向こうにいるちっちゃい方は萌香で、もう一人は今は……あやせだね」

 

 そう言って奥を見やれば、あやせと呼ばれた少女は笑顔で手を振ってくる。

 萌香という子の方からは特に何も無かったけれど、少なくとも拒絶はされていないらしい。

 私は二人に一声かけると、スバルに握手を返す為、手を差し出そうと動かした。

 すると手と手が触れる直前───

 

『アナタノナマエヲオシエテ?』

 

「っひっ……!?」

「ど、どうしたの? 大丈夫!?」

 

 ……私の脳裏を支配したのは、閃く刃の幻影だった。

 手を差し出して、名を名乗る。

 たったそれだけの行動が、何故かできなくなっていた。

 手足が震え立てなくなり、目眩と頭痛と腹痛がゆっくりと襲いかかってくる。

 呼吸が荒く乱れると同時、思考が白く塗り潰される。

 スバルの腕に抱えられ、しばらく経ったその頃には……私の中から、()()は消えて無くなっていた。

 おばあちゃんから貰った筈の、一番大事な贈り物。

 

「……どうしよう……私……名前が、分からない……」


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