───御崎邸。
私たちプレイアデスは、海香達を捕らえていた魔女を打倒し2人を解放した後、全員で拠点であるこの場所に集まっていた。
但し、これから行われる議論の対象となる、かずみを除いて。
「全員、揃ったわね。では」
海香に促され、ニコがピッと3本指を立てる。
「お題は3つ。
1つ、飛鳥ユウリの過去と正体。
2つ、それを襲った謎の下手人。
3つ、ジェム狩を見たかずみの記憶」
「まずは私からね」
そう言って海香は、小瓶に入った飛鳥ユウリを取り出し、机に置く。
「彼女の記憶を見たわ。結論から言って、彼女は飛鳥ユウリではない」
「やはりそう……か」
正直に言って私は、恐らくは他の者も、それを聞いて少し落胆した。
もし彼女が本当に飛鳥ユウリなら、それは
その事情を把握できれば、私たちの計画に大いに参考になっただろう。
しかし、薄々感づいていた事ではあった。
それを実らせる事の難しさは、私たちが良く知るところだったから。
「で、ユウリじゃなきゃそいつは誰なのさ?」
「彼女は杏里あいり。飛鳥ユウリの友人であり……彼女の生を引き継ぐ事を願って、魔法少女になった者よ」
そこから語られた飛鳥ユウリ……そして、杏里あいりの過去は、私たちに重くのしかかるモノだった。
「まさか、私たちの知らないところでそんな事が……」
「……でも、ボクらを恨むのってお門違いじゃない? ボクらはただ
「みらい!? あんたなんて事言って───」
「彼女は契約の際に、真実について詳しく聞かされていたワケでは無いわ。魔女化の真相を知らなければ、私たちを恨むのも無理の無い事」
黙りこくるみらいとカオル。
「結局は彼女も、魔法少女システムの被害者の1人という事か……」
「……その子は何故、急に意識を失ったの?」
次に問いかけたのは里美。
「それについては、記憶を見ても分からなかったの。唐突に、としか。ただ……」
「ただ?」
「気になる人物との接触があったわ。顔や声は分からなかったけれど……」
そう言って取り出したのは、GSに似た歪な何か。
「
「この間の刑事さんに使われてた、人を魔女モドキに変えるしゃらくさい代物だよ」
「そうか、彼女にそれを与えた存在……黒幕が居るんだな?」
「ええ。そして今考えられる限りは、それが彼女のジェム喪失の原因」
「黒幕の刺客として送り込まれたが、意にそぐわない行動をとった為に粛清……そんなところか」
無言で肯く海香。
しかし、だとすれば彼女は既に……
「それって、その子のジェムはもう、この世に」
「その可能性は否定できないわ」
海香がそう言い切った刹那、全員の間に緊張が走る。
この事実が示すのはつまり、黒幕の目的が何であれ、そいつは私たちを
現に私たちは、飛鳥ユウリ……杏里あいりのジェム強奪という凶行の瞬間に、目の前に居ながらにして気づけなかった。
正体が分からない以上、今もこの中の誰かが狙われていないという保証は無い。
里美は自分がこの話を切り出した事を後悔したのか、床にうずくまってしまっている。
「そんなの……そんなの私たちにどうしろっていうの!? 私たちが何か悪い事した!? 何でそんなのに狙われなきゃいけないの!」
里美の叫びに共感しなかった者はこの場にいないだろう。
しばし空間を沈黙が支配したが、それを打ち壊す者がいた。
「はい、それじゃ私のターン。ささやかながら嬉しいニュースかもよ」
そう言ってニコは、端末を取り出して自作のアプリを起動させる。
「あの後現場に戻って、魔力の痕跡が無いか分析した。で、ものの見事にビンゴ」
「黒幕の正体が分かったのか!?」
「……ごめん、そこまで万能じゃない」
あまりにも堂々とした発表だったので、本人の想定以上に食いついてしまったらしい。
ついずっこけてしまうが、お陰で場の空気も少し和んだようだ。
「奴さん姿を隠すのはプロ級だが、足跡を隠すのは素人だね。データは十分手に入った。みんな、ジェムを」
ジェムを集め、得られたデータとやらを共有するニコ。
「これで半径100m以内の同パターンの魔力は検知できる。狙われてるかどうか位は分かるハズさ」
それを聞いて少し安心した表情になる里美。
確かに、今はジェムに反応は見られない。
「私からは以上。じゃ、最後の議題に入ろう。かずみの、記憶について」
場に再び、重苦しい沈黙が訪れる。
こればかりは、私たちが逃れる事のできない問題だ。
もしこの一件の記憶を残しておくなら、遅かれ早かれ、かずみには魔法少女の真実を伝えねばならないだろう。
しかしそれは同時に、かずみが
「私は、このことは忘れさせるべきでは無いと思う」
「同感」
聖団の二大ブレインの意見が一致した。
それに真っ先に異を唱えたのは、里美。
「どうして!? このままにしておいたら、今度のかずみちゃんも……」
「いずれ知る事よ。それが少し、早まっただけ。加えて、記憶を消すという選択は今となっては合理的ではないわ」
「どういう意味だ?」
私の質問に答えたのは、海香では無くニコだった。
「つまり海香嬢はこう言いたい。『仮に記憶を消したとして、次の脱落者が自分になれば、その時はどうするのか』」
「はぁ!? どういう事だよ海香! そんなのまるで……」
私もカオルと同じ感想だ。
その言い草はまるで、次の標的が自分である、と分かっているように聞こえる。
「杏里あいりの記憶から推測するなら、黒幕の当面の目的はかずみを手に入れる事でしょうね。そう考えると、彼女がかずみを襲ったあのタイミングで消されたのも肯ける」
「それがどうさっきの結論につながるんだよ?」
「かずみを狙う理由を考えればいい。なぜ他の誰でもなくかずみなのか?」
「それってもしかして……かずみの
カオルを指差し、正解、という風に舌を鳴らすニコ。
「仮にそうだとすると、かずみが狙われているのは人造魔法少女だから、という事になる。単純にその存在に興味があるのか、黒幕にも生き返らせたい相手がいるのかは分からないけど……」
「いずれにせよ、この計画で
その予測に思わず私は圧倒される。
仮にそれが事実なら、黒幕は一体どこまで私たちの事を知っているというのだ?
「そこまで……知られているものなのか?」
「分からない。だからこそ、あり得ない話ではないわ」
「今でこそ私のデータが有るが、無きゃずっと隣に居ても気づかなかったかもね」
「……」
結論としては、かずみの記憶を消す事はせず、かずみ自身があの一件を問い詰めてきたら全て話すという方針に落ち着いた。
そして海香達の推測が正しかった場合に備え、今後は必ず2人以上で固まって行動しよう、という話になったのだが、ニコからは「自分は単独で行動するから、残りはかずみと海香について欲しい」と対案が出た。
かずみへの処置を考えるなら自分より海香の方が重要である、というのと、何やら他のメンバーには見せたくない策があり、それを試したいからだそうだ。
皆思うところが無いワケでは無いようだったが、それ以上の案が出せず、結局はそこでお開きとなった。
それから数十分。
海香とカオルはかずみの様子を見に、ニコは策を詰め直す為に、それぞれ部屋から離れていた。
今もこの場に残っているのは、私とみらい、そして里美。
私たちはかずみの記憶を残すという選択が本当に正しかったのか、議論を続けていた。
「私やっぱり、かずみちゃんの記憶は消しておくべきだと思うの」
「里美も、そう思うか」
「もし海香ちゃん達の推測が当たっていたとしたら、それが分かる時にはもう手遅れなワケじゃない?」
「と、言うと?」
「私は、6人の内誰か1人でも欠けたら、もうかずみちゃんは造れないと思う」
里美の言う通りだ。
私たちの計画は、海香とニコの魔法を核として、それを残りの4人で補強する事で成り立っている。
私たちの内1人でも欠ければたちまち出力不足となり、今まで以上に計画が難航するのは目に見えている。
それが中核である海香かニコだったならば、再起は不可能と考えていいだろう。
だが、それは黒幕が狙った聖団のSGを砕いた場合の話。
海香達の推測が正しいなら、黒幕はかずみの秘密を知り尽くすまで、捕らえた聖団を生かしておくハズだ。
だからこそ、私は里美の次の発言に耳を疑った。
「だから多分、今のかずみちゃんは最後のかずみちゃんなのよ。それだったらせめて、今のかずみちゃんには最後まで、かずみちゃんのままでいて欲しい」
「はっ?」
「だってこの瞬間も、私たちの命は狙われているワケでしょう? 明日の朝、私たち全員が無事だって保証がどこにあるの?」
「待て、さっきニコが対策を施してくれただろう! 今の私たちには十分な自衛策が有る!」
「本当にそう思うの?」
真っ直ぐな、そして深く暗い里美の目に見つめられ、私は固まってしまった。
「海香ちゃん達の推測が正しいなら、何故黒幕はニコちゃんの対策を止めに来なかったの? 彼女はいつでもどこでも、誰にも気づかれずに他人に近づけるんでしょう?」
「それ、は……」
「きっとこういう事なのよ。『ニコちゃんの対策は、彼女が意に介するようなものじゃない。あんな対策とったところで、彼女を止める事なんかできない』。だから───」
「おい」
あっけにとられる私をよそに、里美の話を遮ったのはみらいだった。
「一人ではしゃぐな。少しはサキの話も聞け。さ、サキの番だよ」
みらいは里美に冷たく言い放つと、私に笑顔で発言を促した。
あまりに急な事だったので対応が一寸遅れたが、私は少しずつ、言葉を選んで話しはじめる。
「……私は、黒幕が必ずしも、私たちの命を狙っているワケでは無いと思う。それに海香も言っていたが、黒幕の当面の狙いはかずみ。海香やニコ、他の団員が標的になるのは、その次の段階じゃないか?」
それならば、また残った団員でかずみを造り直せば良い。
そう続けようとした矢先───
「なぁんだ。サキちゃんも私と同じ考えなのね。
「なっ……」
「黒幕の狙いはかずみちゃん。私たちじゃない。なら、私たちが取るべき選択は一つだよね」
「里美、まさか」
「ミチルちゃんのおばあさまは、延命を拒否してたって言ってたよね。きっとかずみちゃんも、そういう運命なんだと思う」
そう言うや否や、里美はスッキリした顔で立ち上がって伸びを始めた。
「あぁ、聖団の中に味方が居るって分かって良かったぁ。それがサキちゃんなのはちょっと意外だけどね」
「待て里美! 私は……」
「
何故。
何故里美がその事を。
12人のかずみ達が生きている事を、知っている?
「ふふっ、サキちゃんて隠し事が下手だよね。サキちゃん大好きなみらいちゃんも、もちろん知ってたでしょ?」
咄嗟にみらいの方を向く。
みらいは再び里美の発言を遮ろうとしていたのか、口を開いたまま固まっていた。
私の視線に気づくと、少しバツの悪そうな顔をして横を見やる。
みらいまで?
そんな、バカな。
私がこれまでしてきた事は、一体───
「それじゃ私、最後のかずみちゃんの顔を見てくるね。サキちゃん、後は、ヨ・ロ・シ・ク♡」
スキップしながら部屋を出て行く里美。
みらいはその後ろ姿を、ぬいぐるみを抱きしめながら睨んでいた。
「ったく、サキを散々苦しめやがって。聖団でさえ無ければ……」
そう悪態を吐いたかと思うと、今度は天使のような笑顔で、私に語りかけてきた。
「で、どうする、サキ? ボクが代わりに始末しておこうか? それとも、里美のヤツの方にする?」
ああ、ミチル。
「ねぇ、サキ」
ああ、ミチル。どうすればいい。
「ねぇ、サキ。どうすればいい?」
答えを。
「答えを」
答えを、教えてくれ。
「答えを、教えてよ」
「サキ」
(今後も裏パートを書くかは分から)ないです。