ハルの目の前には、ユイが立っていた。両手を背後に組んで、ハルが備えた花の少し奥に立って、ハルの方を見つめていた。
ハルはウサギの形をしたナップザックをおろして、中から日記を取り出し一枚一枚ページをめくっている。ユイは、ハルに近寄り一緒に横から見る。
そこには、ハルが立ち向かった困難や恐怖が詰まっていた。
「……ユイ」
「どうしたの?」
ユイはハルに優しく声をかける。
「……きょう、ひっこすの」
「……ッそうだね」
寂しい、それは口には出さない。喉から出ようとする気持ちを抑えて、親友を笑顔で迎えるんだと気合で乗り切ろうとする。
「……わたし、あたらしいともだち、できるかな?」
「できるよ。ハルはおっちょちょいだけど、イイこだもん」
ユイは、あの時の……ハルが私に引っ越す事を伝えた日にハルに言ったあのセリフを思い出す。
“秋になったら、この子たちも連れて、みんなで山にピクニックに行こうよ”
ユイは、次第に目の前が熱くなった。次第に涙が溢れて止まらなくなる。
「ぅぅ……こわいよ。つらいよ……」
「……ハルッ」
ハルは、地面に膝をついた。
ユイはすぐに、ハルのもとへ近寄り、優しく頭を撫でた。
「ハルには、げんきがいちばん、にあうよ。だから、げんきになって?」
すると、ユイの手を貫通して花びらがハルの頭の上にのる。
「……だよね。げんきださないと!」
そう言いながら、ハルは泥を落として立ち上がった。まだ泣いた跡があるけど、いつものハルだった。
「そうだ」
「どうしたの?」
ハルはナップザックから一輪の花を取り出す。その花はユイのリボンのような、鮮やかな赤色の花だった。
「きれいな色を、またみつけてきたよ」
「わ!!きれい!」
木の根元に花を添える。
「あと、これもおいていくね」
ハルは、日記を地面に置いた。
「かならずよんでおくよ」
ユイはハルに言った。聞こえてないだろうと分かっていても、言わないと気が済まない。
「さっ、チャコもどろう。おとうさんたちがまっている」
「きをつけてね」
チャコはそのまま勢いよく走り出す。
惜しむ気持ちを抑え、ユイはハルに手を振った。
けど、耐えられなくなったユイはハルに抱きつく。
「ハルッ、げんきでね!!」
「ユイ?」
ハルと目が合ったように思えた。けど、すぐにユイに背を向け、ゆっくりとした足取りでこの場を去っていった。
ユイは、その姿を最後まで見続け……話したそうにしている背後にいる少年の方に振り返る。
「どうしたの?」
そこには白髪の少年が立っていた。この人……と言うべきなのだろうか。この元神は縁結びの神であり、ユイを自殺に追いやり、さらにハルに攻撃させるように仕向けた張本人。最初に会った時は、とても大きな巨人のようで怖かったけど、二度目は人間の少年のような風貌に変わっている。
「いや、最期にね」
何を今更、この人に死は無いはず。そうユイは思った。
「さいご?」
「もちろん、死ぬわけでは無い。消える……けど、人間にとっては死ぬと大差ないさ。僕は自ら消える事にした、前まで怖くて踏み止まっていたけどね」
「そう……」
「もちろん、巻き込んでしまった事は謝罪する。それに、今回ここに来たのは、謝罪だけじゃない」
「??」
すると、目の前の少年は、服のポケットからあかい糸を取り出し、ユイの左腕に巻きつけた。
「これはなに?」
「ユイ、君も消えるタイミングには気をつけた方がいい。僕みたいになる前に、ね」
そう言い残すと、少年は光の粒になって次第に見えなくなった。
「……これは……」
ユイは、自分の腕に巻かれたあかい糸をただ見つめていた。