(真田誠治side)
俺は、柊木先生に真剣に恋をしていた。同級生にかわいい子がいても俺の頭の中は柊木ちゃんでいっぱいだった。1年の時に吹奏楽部の浜名さんっていう子がいて、話しやすいかわいい子だったなとそのときは感じることはあったものの、自分の頭の中を占めていたのは、柊木ちゃんのことばかりだった。だからほかの科目をやらなきゃいけなくても社会科係に手を挙げた。当然柊木ちゃんめあての生徒はいるから、じゃんけんになる。俺は見事じゃんけんに勝利して、授業の準備や教案の準備を手伝うことになったのだ。
世界史準備室へ行くと、柊木ちゃんがなにやらうなっている。
「どうしたんですか?先生」
「2年B組の...真田君だっけ?教科書に載ってるこれ、ウルのスタンダードというんだけど、発掘調査ではばらばらに出てきたから授業でパズルにして組み立てたらおもしろくないかなと思って...」
なにやら古くてぶ厚そうで難しそうな本を見ながら、うなっているのだ。
「見ていいですか?」というと
「どうぞ」
と言われたので表紙を見る。
C.Leonard Woolleyと著者名が書いてある。表題は、Ur Excavations, Vol. 2 : The Royal Cemetery
と書いてあった。
「ウルの王墓から見つかったの。この教科書の挿絵にあるやつ。だけど古い本にはよくあることなんだけど、平面図でどのように出てきたかの図がないの。けっこうこの本高かったから。ウルのお墓のことや発掘調査の様子がわかるからおもしろいことはおもしろいけど...。」
「先生、英語読むというかペラペラ?」
「う~ん旅行会話は、世界遺産巡りでそれなりだけど、ほかはちょっと無理かな。この本は専門用語さえ覚えればいいから読みやすいの。」
しばらくして先生はなげやりにこういう。
「あ~やめたやめた、帰る。見て見て!実物大のペーパークラフトはつくったの」
①
それは青い大きな将棋の駒のように見えた。青地にたくさんの人物が描かれている横が50cmくらいある長方形、横が台形の紙の箱。
「すごいですね」
「でしょ~」
美人のドヤ顔がかわいい。
「先生、このお墓の図実物大にコピーしたら?」
思わず口走って、しまったと思う。
「おお、いいアイデイアだね。う~ん、だけど、12m×8.5mだよ。すごい量の紙が必要。教室はみでちゃうね。ウルのスタンダードが出土したChamber Dだけだったらなんとかなるか。でも立体にしたら文化祭の工作みたいなさわぎだよ。」
「教室の床にテープはるだけならなんとかなる?」
「高さもわかるから棒とひもを使って大きさをあらわすのもいいかもね。それならあまり大きくならないですむかも。まあ、次の授業は、楽しみにしてて。作ったやつと地図を運んでもらうから」
「はい。」
俺は、次の授業で柊木ちゃんの手伝いができることを楽しみに世界史準備室をあとにした。
(柊木春香side)
「へえ、ウルのスタンダードって発掘したときは、破片ばっかだったんだ...これは授業でパズルにすればおもしろいかも。」
ウルのスタンダードのペーパークラフトを作りながら調べ物をしていてネットでウルの墓のことがわかって次の授業のアイディアを思いついた。
私は、ネットで検索し、レオナルド・ウーリーのウルの王墓の発掘調査報告書を見つけた。
「カラー図版があればいいけど...あとけっこう古い本だから、どこまで図があるかわからないけど、まあちょっと高いくらいだから買おう。明日届くみたいだし。」
アマゾンマーケットプレイスで奇跡的にヒットした。送料込みで29,000円。アメリカのアマゾンよりもちょっと高い買い物だけどまあ許容範囲。蓮森高校の世界史資料室は、それなりに充実していて前任者の先生方の教材用の私物置き去りで昼休みの楽しみだけどウルの報告書はなかった。
学術書については、校長先生、教頭先生に頼んで、学校に直接送ってもらってもいいことになっている。教材費が十分じゃないからそれくらいの便宜は図ってくださいと頼んだので学校で読むことができる。明日が楽しみだ。
さて届いた、Ur Excavations, Vol. 2 : The Royal Cemeteryだけど墓の平面図はあるが、件のスタンダードのバラバラの状態の写真か図版があればいいなとおもったけど、案の定1930年代の本だから、やっぱりなかった。内容はそれなりにおもしろそうだから授業にどう使おうかと思っていると扉をたたく音がする。
「どうぞ」と返事をすると、
「失礼します」と2年B組の社会科係の男の子が入ってきた。
私の様子をみて、「どうしたんですか。先生?」
とたずねてくる。
今日届いたウーリーの本を見て、
「見ていいですか?」
たずねてきて、本の表紙をみるとけげんそうな顔をしている。
「ほら、教科書のここに載ってるこれ、ウルのスタンダードっていうんだけど」と話してパズルを授業でできたらと考えたと話す。
男の子、-名札に「真田」ってあるから真田君か-は、ぱらぱら付箋のはってあるページの写真を見て、こんな形でみつかったんですかと驚いている。
「古い本にはよくあることなんだけど、平面図でどのように出てきたかの図がないの。けっこうこの本高かったからちょっと残念ではある。ウルのお墓のことや発掘調査の様子がわかるからおもしろいことはおもしろいけど...。」
「先生、英語読むというかペラペラ?」
と聞かれた。
「う~ん旅行会話は、世界遺産巡りでそれなりだけど、ほかはちょっと無理かな。この本は専門用語さえ覚えればいいから読みやすいの。見て!見て!ペーパクラフトはつくってみたんだけど」
「すごいですね」
真田君がおどろいて見せる。
「でしょ~」
わたしはドヤ顔してみせる。あ~めんどくさい、もうペーパークラフトだけでいいや。
「あ~やめたやめた、帰る。」
そのとき真田君の声がした。
「先生、このお墓の図実物大にコピーしたら?」
彼は、思わず口走って、しまったという顔になる。わたしは、びっくりした。そうか思いつかなかった。
「おお、いいアイデイアだね。」といったものの、図のスケールに目をおとす。
「だけど、12m×8.5mだよ。すごい量の紙が必要。教室はみでちゃうね。ウルのスタンダードが出土したChamber Dだけだったらなんとかなるか。でも立体にしたら文化祭の工作みたいなさわぎだよ。」
「教室の床にテープはるだけならなんとかなる?」
「高さもわかるから棒とひもを使って大きさをあらわすのもいいかもね。それならあまり大きくならないですむかも。まあ、次の授業は、楽しみにしてて。つくったやつと地図を運んでもらうから」
「はい。」
真田君は、楽しそうにでていった。
①ウルのスタンダードの大英博物館の展示の様子※Denis Bourezによる