戦争はいりませんか?今ならお買い得ですよ。セットで人形もおつけしましょう!【完結】 作:畑渚
僕は目の前にそびえたつビルを見上げる。その最先端のデザインのビルは、周りの古い造りを威圧してるようだった。
「緊張してるの?」
「もちろん。僕は小心者ですからね!」
九美はやれやれと首を振った。僕も首をすくめて、軽く笑った。
「笑わせないでよ」
「笑ってないように見えますが?」
「仕方ないでしょう?表情制御のパーツは入手が難しいんだから」
彼女の表情は動かない。まあそれもこれも、パーツ不足のせいなのだが。彼女に適合する規格が独特ということも相まって、唯一直せていない部分である。
「まあ、いずれ僕が買ってきてあげますよ」
「うん、期待してるね」
「さて、それではいきますか」
正面玄関から中に入る。僕と九美と、そのあとに5人の美少女たちを連れて。
=*=*=*=*=
「ナオ・ハルロフさんですね?お噂はかねがね」
「手厚い歓迎ありがとうございます、カルロワフさん」
目の前の差し出された手を、力強く握り返す。その感触に、目の前の大男は少しのけぞった。
「ところで僕の噂とはいったい何をお聞きしたのですか?」
「えっああその……」
「冗談です。せいぜい、死の商人とかそのあたりでしょうし」
「そうです。いやあ武器を売っていらっしゃると心のない噂が――」
「ああいえ、否定するつもりはありませんよ」
大男は固まる。この反応がたまらないなぁ。そして、この反応をしてくれる客はカモだ。
「なんたって利益のためだけに僕は商売をしますからね。たとえ相手が誰であろうと」
「誰であろうと……?」
ああ、単純だ。単純で明快だ。きっとこの大男は人道とかテロリストどもにとか、そういった正義じみたことを言い出すのだろう。カルロワフ、元軍人、退役後も慈善事業に従事。しかしそんな裏では、僕なんかという死の商人に話かける腹の座った人物。実にいい相手だ。
「ちょっと……ナオ」
九美から小突かれて意識を取り戻す。いけないいけない。つい面白い相手だと思考が暴走してしまう。
「ええコホン、前座はここまでにして本題に入りましょうか」
「そ、そうですな」
今日は稼ぎに来たんだった。さすがの僕でも稼がないと死んでしまう。金はいくらあっても足りないんだ。
「それで、ご注文の品はこちらに」
アタッシュケースを机の上に置き、相手に見えるように開く。
「ほう……。随分と良い状態ですな」
「ご存じとは思いますが、僕の製品はすべて一度オーバーホール済みです。こちらも中古品をメンテナンスしたもののため……こちらの価格で提供させていただきますね?」
大男の目がきらりと光る。もうここまでくれば、押すまでもない。勝手に落ちていく。でも、だからこそ、背中を押す。
「それと、もう一つ頼まれていたものですが……なんとかご用意できましたよ」
「なんと!さすがはナオさんといったところでしょうか」
「いえいえ、今回は偶然、本当に運が良かったとしか言えませんね」
九美に目配せすれば、コロコロとスーツケースを転がしてくる。
「流通量が限られた第2世代型の人形です。もちろん烙印済みです」
「そんな……さぞかしお高いんでしょう?」
「今回は銃の方もご注文いただきましたからね、まとめて……こちらの値段でいかがでしょうか?」
答えは聞くまでもない。その数秒後には、僕とこの大男は握手をしている。
――手を離してくれない?
「これほどのものを仕入れる力量を見込んでのことです。ぜひ追加の注文をお願いしたいのですが」
ありがたい話だ。といいたいところが今回は状況が悪い。僕はチラリと腕のスマートウォッチで時間を確認する。
「残念ですが持ち合わせが今乏しいもので。注文だけでも聞いておきましょうか?」
「是非!それでは」
大男の言っていく内容を、メモ帳に書き込んでいく。
「このご時世にメモ帳ですか?」
「ええすみません。紙の感触がわすれないもので」
「いえいえ、その気持ちは理解できなくもないですよ。オールドタイプと言われることもありますがね」
注文をかき終えたメモ帳を、胸ポケットにしまう。
「それでは本日はありがとうございました。またの機会を」
「ええ、よろしくおねがいしますよ」
大男は満足そうにその顔に笑みを浮かべた。思わず僕の口角も上がってしまう。
ビルから出れば、九美が脇腹をつついてきた。
「ナオ、変な笑顔」
「おっと、いけないいけない。ついつい高揚してしまったよ」
「性格悪い」
九美の指摘に僕は苦笑いする。黒のSUVに乗り込む。鍵を差し込み回せば、体に響くエンジン音が心を震わせる。僕は胸ポケットからメモ帳を取り出すと、さきほどのメモを破ってゴミ箱に捨てる。
「それじゃあ、帰ろうか」
「うん」
後ろに皆が乗り込んだのを確認して、僕はアクセルを踏んだ。
突如、後方で爆発が起きる。これも計算どおりだ。先程僕がいたビルで、銃撃戦が起こっている。もちろんこれも計算どおり。
しばらくして音が止み、街をサイレンの音が切り裂き始めたころ……僕の電話がなる。
「ナオ、君の武器は優秀だった。このカルロワフとかいうクソ野郎の脳天を見事にぶち抜いたよ」
「そうですか、そりゃなによりですね」
「ところで、このクソ野郎がいつのまにか戦術人形を護衛にしててな?俺の味方が何人も殺されたんだ」
「それはそれは……ご冥福をお祈りします」
「ははは!おまえはやっぱり頭のおかしいやつだ!」
電話の向こうから、パトカーのサイレンと武装解除を呼びかける声が聞こえる。
「そんな褒められても次回の取引で割引をするくらいですよ」
「くそっ!いずれ地獄に引きずり下ろしてやる!」
スピーカーから銃声が聞こえてくる。僕はため息をはいて電話を切る。
「終わった?」
「ああ、終わったさ」
「あの人形、かわいそうだね」
「かわいそう?まあ安心しなよ九美」
九美――九美の手を握る。ほのかに温かいそれは、くすぐったそうに僕の手から逃げた。
「君は手放さないさ」
「やだな、ナオ。皆も手放さないでね?」
「もちろんさ」
バックミラーで後部座席に座る皆の表情を見る。皆、やれやれと首を横にふっていた。
=*=*=*=*=
僕の生まれは、この時代にしては恵まれているほうだった。商家に生まれ、幼少期からしっかりと学校に通った。ひととおりやんちゃなこともして成長した僕は、父の後を継ぐために社会に出た。
「おまえは才能がある。それがまだ眠っているだけだ」
父の口癖だった。というのも、僕はあまり良い成績ではなかった。というのも、この安定していない世界とはいえいつも最悪のタイミングで紛争に巻き込まれていたからだ。いつも命からがら逃げ出して、ほぼ無一文、商談もまともに行えず実家に転がり込んでは泥のように眠っていた。
「お兄ちゃん、今回はどんな話を聞かせてくれるの?」
そんな僕にも妹がいた。好奇心旺盛で、いつも僕の土産話を楽しみに待ってくれている。思春期に突入したというのに、いまだ反抗期は見えない。それが怖くもあり、それ以上に愛らしかった。
「お願いだから、必ず生きて帰ってきなさい」
母はいつもそう言って僕を送り出した。まあ安全区域のフライトでハイジャック犯に遭遇するレベルの不運な僕には、言っても言い足りなかっただろう。
もちろん僕も命を守る手段には金を注ぎ込んだ。安全なルートを模索し、護衛をやとった。
だけど僕の不運はそれすらも超える。
安全なルートは突発的な事故やテロにより封鎖され、護衛は皆殺し。それでも、僕だけは生き延びた。
次第に僕の身を守る手段はなくなった。どんなに金を支払っても、誰も僕には寄り付かなくなったのだ。
そんな僕は、父親から任された一世一代の大きな仕事すらも、白紙に戻した。
僕の家がどうなったか?言うまでもない。その取引をのがしたことで取りつぶしになった。父は病気を患い、母は日銭のために体を壊しかねないペースで働き始めた。妹は父親の看病をしつつ、また家を立て直すために良い学校に奨学金をもらって通い続けていた。
そんな中、僕は少し焦げのついたスーツのまま、街をさまよっていた。
=*=*=*=*=
足が疲れてきたなとぼんやりと思い始めたころ、顔を上げるといつのまにかスクラップの山に囲まれていた。どうやら歩きすぎて、街のゴミ捨て場に来てしまったらしい。
周りにはスクラップを漁る子どもたちと、それからヒトガタの何かが蠢いている。中には、ヒトガタのスクラップをバラしてバッグに詰め込むスカベンジャーもいる。
「どっこいしょ」
僕はてきとうに座り込むと、ポケットから煙草を取り出す。ラスト一本だったため、箱を握りつぶして投げ捨てた。
火をつけて紫煙を吸い込むと、意識がはっきりとしてくる。
次第にあたりが鮮明になっていき、見えなかったものが見えはじえめてくる。
ふと、右手にあたったものをみる。それはマガジンだった。銃弾をこめ、薬室へと運ぶ、マガジンだ。
これを商売に活かせれば、などと考えた。僕にはもうなにもない。けれど金は必要だ。
でも、ばからしいと投げ捨てた。
投げ捨てたあたりで、物音がする。軋んだ金属が擦れ合う音だ。先程まで僕が座り込んでいた山から、一体のヒトガタが這い出てくる。それは、生体パーツのない、骨格がむき出しの自律人形だった。彼女は先程僕が捨てたマガジンを大事そうに握る。
状態は、良い方だった。このスクラップの山の中にいたにしてはというい脚注はつくものの、骨格パーツはすべてそろっていそうだった。
僕は無造作にその人形の手を引っ張る。ギシギシと金属がきしみながら、その全貌が明らかになる。
「これは良い、今夜は焼き肉にでもするか」
人形はまるで抗議するかのように僕を殴ってくるが、モーターのトルクは死んでいるようだ。全く痛くない。
僕は軽く笑いながら肩に担いだ。
さて、帰ろうとしたところ。ボロボロの衣服を身にまとった少女がたまたま目に入る。ちょうど僕の妹と同じくらいの年だったからだろうか。それとも良い拾い物をして気分がよかったからか、ポケットに残っていたお金を全部渡した。
「……えっ?」
「とっておくことだ」
「そんな、受け取れない!えっと……」
そんな少女が何かのパーツを渡してきた。
「これ、持っていって」
「君が売ればいいんじゃないか?」
「私じゃ……売りさばけないから」
見たところなにかのモジュールのようだが、詳しくない僕はとりあえずスーツのポケットにしまっておいた。
「あ、ありがとうございます」
「うん、その感謝の言葉を忘れずにね」
お金とそれから何かの紙を大事そうに胸に抱える少女は、見えなくなるまでずっと頭を下げたままだった。気分がよかった僕は、神に彼女の幸福を願ったりした。
そういえば人形はどこで売ればいいのか、僕には知識がなかった。とりあえず人形を取り扱っているジャンク屋に持っていき、担いでいた人形とポケットの中のモジュールをカウンターの上に置く。
「これは……お客さん、お急ぎですかい?」
「ん?いや、そうでもないが」
「明日……まで待ってくだせえ。こいつはえらいもんを持ってきてくれたな」
「何?そんなにかい?」
ジャンク屋の店主が驚いている表情を見て機嫌が良くなった僕は、説明も何も聞かずに店を出てしまった。
だからこんなことになる。
「UMP9-4だよ、よろしく!」
次の日、すごく馴れ馴れしい人形と得意げな店主を見た僕は、思い切り頭を抱える羽目になった。
これが、僕とUMP9-4――つまりは九美との出会いだった。
次回は未定
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