戦争はいりませんか?今ならお買い得ですよ。セットで人形もおつけしましょう!【完結】 作:畑渚
「ねえナオ!どうしたの突然!」
「バルソクさん、早く車をだしてください」
「お、おう」
珍しくは僕は焦っていた。ネクタイを締めながら廊下へと出る。
「落ち着いて?」
「……、車で移動中に説明します」
僕は説明を放棄して、ロビーに出る。そこにはすでに、57とG36が準備を終えて待機をしていた。
「じゃあ車とってくるな」
バルソクが走ってホテルを出ていく。僕は腕時計の時刻を確認して、それからバッグの中からタブレットを取り出す。
「ナオ?」
「待ってください……、もう少し」
タブレットで地図を開き、最短経路を計算させる。
「ただの畑?」
「確かに畑の地帯ですが、少し違いますね」
キキッと軽快なブレーキ音を聞いて、ロビーから外にでる。車に乗り込み地図をバルソクに見せると、一瞬で暗記してアクセルを踏み込む。本当に良いドライバーを手に入れた。
「見てください。これ、なんだかわかりますか?」
「倉庫?でも何の」
「軍事物資です」
「え?」
九美が僕からタブレットをとりあげる。
「どう見たって普通の倉庫だけど」
「航空写真だとそうなるように建てられているんですよ。手口としてはよくある話です」
「でもここに急行してどうするの?」
「実はですね、中のものに気になる商品がありまして」
「強奪しにいくってこと?」
「まさか、ちゃんと取引しますよ。僕は商売人なのでね」
それにこの倉庫は軍の息がかかっている可能性が高かった。そういう敵に回すリスクはなるべく避けておきたい。
「今回奇跡的に管理人に電話が通じたんで、現物を急いでとりに行くところですよ」
住宅街を抜け、あたりに畑が多くなってくる。景色の変化を楽しみつつも、今回の商談で切れるカードを確認していた。
「九美さん。今回は僕一人で行きます」
「危険だよ?」
「しかし……」
「私も行くよ。ナオが言いよどむってことは相当危険なんでしょ?」
僕は黙りこくってしまった。それはつまり肯定の意を表しているに等しい。
「それにバックアップは十分だよ。もう私とナオ以外に3人もいるんだから」
「そう……ですね。わかりました」
「もう、最初っから素直に守らせてよ」
九美さんはブツブツとつぶやきながらケースを取り出し、中からUMP9を取り出している。ホロサイトの電源をいれ、調整を始める。
「そういえばナオ」
運転中のバルソクが、ハンドルを握ったまま話しかけてくる。
「なんですか?」
「後ろに新しいケースがあったけど、あれは?」
「今回の商談のカードです……が」
「が?」
「最悪の場合は使ってください。バルソクさんには長物を渡してなかったので」
「おいおい私はついでか?」
「でも気にいると思いますよ?」
「まあナオが言うならそうなんだろうな。楽しみになってきた」
「使わないのが一番ですからね?」
「わかってるって~」
急に機嫌を良くしたバルソクは、鼻歌まじりにハンドルを回転させた。
=*=*=*=*=
「ここですか……」
倉庫の扉には、大きな錠前でロックがかかっていた。そしてなにより、サビだらけの扉はここにめったに人がこないことを伝えてくれていた。
『ナオ様、道路東側から一台接近』
「ありがとうございます。とりあえずは待機を」
G36と57には少し離れたところで監視をしてもらっている。バルソクは運転手として、そして九美は僕の護衛として隣に待機している。
目の前に停まった車から、サングラスをかけた人物が降りてくる。
「はじめまして。あなたが管理人ですか?」
「ああ、たしかナオとか言ったか。商談に入ろうじゃないか」
男は鍵を取り出すと錠前に差し込む。随分と前時代的なセキュリティ
は、その鍵一本であっさりと僕たちを受け入れる。
「ようこそ、我らが武器庫へ」
男はそう嗤い、慣れた足取りで奥へと向かう。
「おっと、これ以上先は一人で頼むよ。狭くなってるんでね」
「……、わかりました。九美さん」
また何か言われるかと思ったが、九美はあっさりと了承して外に出ていった。
「今回は電話をどうも。ナオさん、最近話題の武器商人だとか」
「いえいえ、まだまだ若造です。勉強ばかりですよ」
当たり障りなく会話を続けながら、倉庫内を見渡す。そこには、所狭しと前時代の兵器が詰め込まれている。小銃から爆発物、多少ながらに車両もだ。
「気になるか?」
「ええ、この量の武器を見るのは初めてでして」
「はは!なるほど。なあに、すぐにナオさんもこういった倉庫を持つようになるさ」
先程から笑ってこそはいるものの、男の言葉にはなにか冷たいものを感じていた。
『ナオ、今度は西側から車両。それも複数よ』
「おっと失礼、電話をかけても?」
「ああ、どうぞ」
57の通信を聞いて僕は電話をかけるフリをする。
「もしもし、はいナオです」
『えっと大きめのバンで数は3。運転席に一人。後ろはスモークガラスが入っててわからないわ』
「そうですか……、少し待ってください」
僕は男のほうへと振り返り、嗤い返す。
「すみませんが今日は他に商談が?」
「いや、予定にはないが」
「そうですか、ありがとうございます」
僕は再び携帯を耳にあてる。
「とのことですので、プランどおりに」
『りょーかい!』
「いったいさっきから何だ?」
「いえ、こちらの都合ですので。それでは商談に戻りましょう」
無性に笑いたくなるけれども、そんな場合ではない。
「……、これだ」
机の上に置かれた大型のキャリーバッグを開く。そこには、身体を折りたたむようにして少女が入っていた。まるで眠っているようなそれは生命活動をしていない。つまりは人形だった。
「なるほど……」
見たところ大きな傷もなく、手を加えられた様子もない。
「このような代物をどこで?」
「コネがあるんでな」
「これほどとは驚きましたよ。では、対価の方ですが——」
「いらねえよ」
カチャリと音がしたと思うと、次の瞬間にはすでに銃を突きつけられていた。
「SIG SAUER P220、いい銃です」
「お前の頭をぶち抜く銃だ、覚えてな」
「しかしどうして僕なんですか?」
「なぁに簡単なことさ」
男は大声で笑う。
「武器商人を殺すにはコレが手っ取り早いだろ?」
「そうですか……、まあ良い商品には目がないですからね」
「あれは手に入れるのは苦労したんだぜ?」
「ところで一つ、その引き金を引く前によろしいですか?」
「なんだ?お祈りなら後にしな」
「簡単なことです。あなたはミスを犯してますよ」
「ああ?」
「まさかこの程度のことに備えてないとでも?」
パスっと気の抜けた音がしたかと思うと、男は膝から崩れ落ちる。
「九美さん、ありがとうございます」
「間に合ってよかった……、撃たれてたらどうするの」
「そのときはそのときですよ」
呆れたというジェスチャーをする九美を横目に、僕は男のポケットを漁る。
『ナオ様?』
「ああ、やっちゃってください」
倉庫の外で、銃撃戦が始まる音がする。しかし5分ともたたずに、また静寂が戻ってくる。
「皆、お疲れ様です。それでは撤収!」
「……、ナオ。そのキャリーバッグは?」
「今回の目的の品です」
僕は持ってきたバッグから金銭取引の契約書を取り出し、机の上に投げ捨てる。
「さて行きましょう。長居は無用です」
ガラガラとキャリーバッグをひきながら出ると、もう全員が揃っていた。西側の道路には、3台のバンがまるで事故を起こしたかのように停まっていた。
「G36さん、中の人たちは?」
「全員自殺ということにしています」
「ならばよし。さて、次のホテルに向かいましょう。はやくシャワーを浴びたいです」
正直に言うと、冷や汗で背中がベトベトだった。皆言わずともそれがわかったのか、少し口角を上げて車に乗り込んでいった。
「ナオ、たばこはいいの?」
「よくないですね。吸っても?」
「ホテルについてからなら」
そう言って九美はタバコの箱を投げてくる。危なげなくキャッチすると、僕も車に乗り込む。扉横のポケットにとりあえず入れておき、僕は次の商談のためにタブレットを取り出した。
「ナオ、少し休んだら?」
「ホテルに着いてから休みますよ」
半分は本当で、半分は嘘だった。そしてそのことよりも今は、トランクに積まれたキャリーバッグの中身のことのほうが大きな問題だった。
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