戦争はいりませんか?今ならお買い得ですよ。セットで人形もおつけしましょう!【完結】 作:畑渚
「良い旅を。次」
僕は肩にかけている荷物を持ち直して、先の通路へと進む。同じタイミングで通過した九美とバルソクに合流する。
「あの二人、大丈夫かな」
「不安ではありますがね。あの二人なら大丈夫でしょう」
それぞれのブースで入国管理官の前に立っている二人を見る。
「国は……」
「珍しい国でしょ?いままで同じ国出身の人に会ったことがないの」
女性審査官にフランクに話しかけているのは57だ。
「巡礼の旅ですか」
「はい、ここの一つに場所がありまして」
敬虔な信徒のマネごとをしているのはG36である。手を合わせる姿が様になっている。
今回の国は、とあるPMCが自治権を持っている国である。この国では人形の入国制限が厳しい。よって僕以外の皆は偽の身分で入国することにしたのだった。
二人の審査官は、パスポートをしばらく眺め、それから印鑑を手に取り、そしてその手を止めた。そしてほぼ同時に口を開く。
「?!*&@%$?*&」
「洗礼名は何と言うんです?」
それは、想定外の事態だった。片方は何語かもわからぬ言語であるし、もう片方に至っては僕の知識にはないものだった。パスポートは先程渡したばかりで、事前に準備できていたわけもない。
「九美さん、一応銃の準備を」
最悪の場合、騒ぎをおこしてでも逃げる必要がある。バルソクも意図を理解したようで、先に車を確保しに行ってくれた。
しばらく何も答えずに沈黙している二人を見て、審査官は無線に手をのばす。
「!*&&?&@%?!*@%$?*&」
最初に口を開いたのは57だった。
「?!*&@%&!@%$*&」
「&@%$?*&?!*$?*&?*&$?*&」
会話のようなものが終わると、なにやら審査官はうれしそうな表情を浮かべていた。そして無事に、Five-seveNはパスポートに印をつけて返される。
G36も、意味ありげに目を瞑って答える。
「聖書36章2段。ここまで言えばわかりますよね?」
「なるほど!良い名前を授かりましたね」
G36の方も無事に通過できたようだった。
「二人とも良かった」
「ご心配をおかけしました」
頭を下げるG36に無事で何よりと告げつつ、57に尋ねる。
「57さん、あれは何語ですか?」
「知らない?〇〇語っていうんだけど」
もちろんそんなマイナーな言語を僕が知るわけもない。57はそう答える僕をみて「じゃあ今度じっくり教えてあげる」と意味ありげに笑みを浮かべていた。
=*=*=*=*=
「ナオ、行き先は本当に間違っていないのか?」
「ええ、ここで間違いないです」
不安そうにハンドルを握るバルソクに、僕はそう答える。確かに、バレてないとはいえ違法入国してきた僕らの行き先にしては、目的地は随分と危険なところだ。
「ナオ様、I.O.Pにはいったい何の目的で向かわれるのですか?」
「G36さんなら既にわかってそうですが、まあ僕の口から説明しましょう」
僕はコーヒーをすすりながら、バックミラー越しに後部座席を見る。
「目的は一つ、人形に烙印を刻むことです」
「そんなことが違法人形にも可能なの?」
九美の言う通りである。そもそも、一般人が戦術人形を持つことは基本的に禁止されている地域だ。
「ですが何事にも抜け穴は見つかるものです。I.O.Pもまっさらな企業ではないということです」
「じゃあその抜け穴を使って人形を戦術人形化するってこと?」
「57さんの言う通りです。そして今回つないだパイプは今後に大きく役立つでしょうから、すごく重要です」
こんなチャンスは二度とやってこないだろう。この日のための下準備には相当な時間をかけた。この商売を初めてから最も手間がかかっているといってもいい。
「ねえナオ」
「なんでしょうか57さん」
「私は近くのどこかで降ろしてくれない?」
「なにか用事が?」
「いいえ、そういう訳ではないけれど。でも待ち時間が多いなら街の散策をしてみよっかなって」
声色で本意は判断できなかった。顔を見ても、いつもどおりの表情で読めない。
「わかりました。ただし単独は危険なので……、G36さんと一緒でしたら」
「拒否するわけがないじゃない。喜んで美人とデートしておくわ」
G36ならば、57の監視役としては適任だろう。それに、もしこちらでなにかあっても彼女なら臨機応変に対応がとってくれるだろう。
「ナオ様……?」
「頼みましたよ、G36さん」
「え、ええ……わかりました」
微妙な顔をしているけれど許してほしい。バルソクには車の運転を任せたいし、九美にはI.O.Pで少ししてもらいたいことがある。
「幸いここは治安が良いので護衛もそこまで必要ではないでしょう」
「それに私がナオのことしっかり守るから!」
「九美様もそう言うんでしたら」
「あっここで降りましょ。アーケードになってるみたい」
路肩へと車が停まるなり、57は颯爽と降りてG36へと手を差し伸べる。G36は、ため息をつきながらも、その手をとって車を降りた。
=*=*=*=*=
正門に車をつけ、警衛室へと向かう。
「すみません、先日連絡したナオ・ハルロフと申します」
「はい、ナオ様ですね。少々お待ちください」
警備員が無線で通信し始めたのを見て、僕はタバコを一本取り出した。なにやら長話になりそうな気配がした。
ちょうど一本吸いきったタイミングで、警備員から声がかかる。
「ナオ様、すみませんがそういった連絡は来てないようですが」
「あれ、おかしいですね……」
不安そうに後ろに立っている九美をなだめつつ、僕は警備員に近づく。
「いろいろな部署に確認をとりましたが、そういった話はないと……」
そうはいいながらも、警備員は媚びたような表情を浮かべてくる。
「ああ、そういうことですか」
やたらと演技がかっているわけである。僕はポケットから札を数枚とりだし、こっそりと警備員に渡した。
「ああそう言えば、もう一つ部署がありました。連絡してみますね」
警備員は白々しくそういうと、警衛室へと戻っていった。
「ナオ、これも計画のうち?」
「いえ、そういうわけではありませんよ。しかし、想定内ではありましたが」
そもそも違法な改造依頼を受け付けるような連中だ。一癖二癖ある人間がいるのはなにもおかしいことではない。
ゲートが開き、車が敷地内へと入っていく。目的の建物と駐車場とは離れているため、車をバルソクにまかせた。ガラガラとキャリーバッグを引いて建物に入れば、すぐに白衣を着た男が迎え入れてくれる。
「お待ちしてましたよ、ナオさん」
「お世話になります、博士」
「ささ、こちらへ」
博士の案内で手術室のような場所へと案内される。部屋の真ん中にはカプセル状の大きな機械がおいてある。
「依頼の内容は事前に話した通りです。おねがいできますか?」
「ええ、しかし条件がありまして」
博士は申し訳無さそうにペコペコと頭を下げる。
「いえ、無理は言えませんよ。それで条件とは?」
「施術は機密ですのでどうか外でお待ちいただきたく」
「その程度でしたら全然」
「そうですかありがたい。いえ、これで一定数拒否する人がいらっしゃるもので」
確かに危険かもしれない。この博士が僕らを騙し、通報したり商品を窃盗したりする可能性もあるだろう。
だからこれは賭けでもある。ハイリスク・ハイリターン。いわば僕らしからぬ取引だ。
「それではお願いします。近くのベンチにでも座ってまっていますので」
「はいはい、完了したら再パッケージしておきますので」
僕は博士にキャリーバッグの鍵を渡して部屋を出る。あとから着いてきた九美は、やはりどこか不安そうにしていた。
「とりあえず座りましょうか」
「ナオ、本当に大丈夫なの?」
「正直言えばもう一服したいくらいに僕も不安ですよ」
「まったく……。でも残念、禁煙みたい」
九美の指差す方向には、禁煙の注意書きが入念にされていた。非常に残念である。
「少し外に行ってきても?」
「ダーメ。それにあまりウロチョロしてると警備の人につかまっちゃうよ?」
「確かにそれは困りますねぇ」
タバコは諦めることにして、僕は飲み物を求めて近くの自販機へと向かった。
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