戦争はいりませんか?今ならお買い得ですよ。セットで人形もおつけしましょう!【完結】 作:畑渚
「はじめまして、ナオ・ハルロフです」
「AUGです」
握手を求めると快く返してくれた。淑やかだが、接しづらいわけではないようだ。
僕らが57とG36と合流すると、もう1人女性が出迎えてくれる。いや、正確には女性ではなく——戦術人形だ。ステアーAUG、オーストリア製アサルトライフル。独特なシルエットをしていたから記憶に残っている。
握手を求めると快く返してくれた。淑やかだが、接しづらいわけではないようだ。
「それで、57さんはどうして正座を?」
「それは……」
事の経緯を聞く。つまりは57が安請け合いしてしまったとのことである。ただの口約束とも言えればよかったが、そうとは言えなかった事情があるらしい。
AUGの近くで静かに佇むG36を見る。彼女は先程から目を合わせていない。果たして僕を呼んだ理由に同情が含まれているのか否か。もちろんそれを確かめる術はないし、無闇矢鱈に聞こうとも思わない。
「事情はわかりました。いいでしょう」
「本当でしょうか」
「ただし」
一点だけ、と人差し指を立てて意思表示をする。
僕は慈善団体ではなく、ただの商売人だ。
「僕らはボランティアをするつもりはありません」
「……、金銭は持ち合わせてません」
「ふむ……、それでは」
僕は彼女が持つアタッシュケースを指差す。
「その中身でどうでしょうか?」
「IDロック付きですよ」
「構いませんよ」
さすがに自分の半身を手放すのは、覚悟がいるらしい。AUGは自分の中の天秤を傾けているようで、人間のように目をそむけて考え込む。
「わかりました」
どうやら、弔いの方に傾いたようだ。
「それはなによりです」
商談はこれで成立だ。
「さて、九美さん」
「なにかな」
「休憩にしませんか。せっかく良い雰囲気のカフェにきたので」
「そうだね!」
先ほどから良い香りで胃が刺激されてばかりだった。車で待機中のバルソクも呼んで、皆で午後のティータイムと洒落込む。
「ところでさ、ナオ」
「なんですか?」
思い出したかのように九美さんが呟く。
「お財布にお金入ってるの?」
「……、マスター。ここってカードは」
冷や汗が出る。無情にも、マスターは首を横に振った。
「はあ。いいよ、私が出しとくよ」
「九美さん……あとですぐに返します……」
まったく、僕は九美に迷惑をかけてばかりだ。
カフェから出てすぐにATMへと駆け込むことになったが、食後の運動だと思っておくことにしよう。
=*=*=*=*=
全員で車に乗り込めば、随分と増えたもんだと僕は感嘆の息をつく。
「じゃあ出発するぜ」
「お願いします、バルソクさん」
車が進み始める。僕はタブレットで目的地付近の地図を表示する。
「確かに、遠い墓ですね」
「そこくらいしか空いてなかったものですから」
「まあ安心してください。連れて行くと商談したからには確実に送り届けますよ」
国境線ギリギリの僻地。この用事がなかったら絶対に立ち寄らないところだ。車が環状線にのり、走行速度があがる。
「ところでAUGさん」
「はい、何でしょうか」
「廃棄と言ってましたね。しかも逃げ出したと」
「ええ、そうです」
なんとなく嫌な予感がしていた。そして僕のこういった予感は、いつも最悪の形で当たってしまう。
「ナオ。後ろから二台……いや三台だ」
「来ちゃいましたか……」
明らかに不審な黒い車。それが後方から近づいてきている。バルソクには一般車に紛れ込むように指示を出し、すぐに地図を切り替えて付近の地形を把握する。
「バルソクさん、このまま逃げることは可能ですか?」
「無理だな。この先は車が少ないから強硬策を取ってくるかもしれない」
「……九美さん、やれますか?」
「ちょっと厳しいかなぁ。せめて二手に分かれていたら違ったかもだけどね」
二手にわかれて移動するというのは、人数が増えたこともあって検討中だった。後回しにしたツケがここにきたようである。
「あの……」
「AUGさん、まさか自分のことをここにおいていけというわけじゃありませんよね?」
「私のせいでこれ以上皆様にお手数をかけるわけには」
「残念ながら、あなたを差し出してそれで終わりなら考えていたかもしれないですね」
だがそうではない。後ろに積んである違法人形を見られては、ごまかしも効かない。
「安心してください。どうにか切り抜けますよ」
とは言ったものの、案がない。このまま何もなく走り続けられるわけもない。
「ナオ様、どういたしますか?」
「仕方……ないですね。バルソクさん、次のパーキングエリアで停まってもらえますか?」
「りょーかい」
車内に緊張が走る。
「さてと、57さん」
「えっ私?」
「厄介事を持ちこんだ報い、受けてもらいますね」
「えーっ!」
それはあんまりだとぽかすか僕の背もたれを殴る57さんを見て、少し車内が和んだ。
=*=*=*=*=
「ねえナオ、私まだ死にたくないなぁって思うわけ」
「57さん?」
「だからさ、できれば少し離れてくれないかなぁって」
「ダメですよ」
パーキングで車を降りた僕たちは、配置へとつく。黒い車の一団が到着するのに、それほど時間はかからなかった。
「おい、そこの男。その場で停まれ」
まるで僕を囲むように、黒い車から武装した男たちが降りてくる。容姿は装備は異なっている。おそらくあちらも、非合法の部隊だ。もし正規部隊だったら殺すことすらできなかったので完全に詰みだったから助かる。
「男、その女と離れて地面に這いつくばれ。手は頭の上だ。言葉わかるか?」
リーダー格のほうが僕へと指示してくる。
僕は側の57を抱き寄せて、男たちに手放すつもりはないという意思表示をしてみせる。
「きゃっこわーい。誰なのあの人たち!」
57は人選ミスだったかもしれない。せめて演技とばれないようにしてほしかった。
「抵抗すれば撃つぞ!いますぐ手を上げろ!」
どうやら相手は鈍感なようで。うちの大根役者の芝居すら見抜けないらしい。しかし、好都合というものだ。
「ちくしょう!絶対手を出させないからな!」
僕はそう言って身体で守るように57を抱きしめる。さすがの女性型人形だけあって、柔らかい。
などと堪能している場合ではなかった。
「リーダー」
「ああ、やれ」
サプレッサーで減衰された、発砲音が聞こえる。けれど、僕はそれどころじゃなかった。
「ナオ!」
殺意のこもった目で敵を睨む57を、手で制する。足を見てみれば、血が流れ出ていた。撃たれたと認識したら、自然と痛みは感じなかった。
「大丈夫です……このままいきます……」
小声で指示を出す。苦しんでおけば、敵の注意は余計に僕へと向く。視線を集中させるという目的はこれで達成だ。
あとは他に人がいないのをいいことに——
「あっぶな!」
——弾の数で固まった敵を殲滅するだけだ。
「57さん、無事ですか?」
「こっちのせりふよ!」
掃射が終わるや否や、57は僕の足を掴む。
「圧迫止血するわ。……いたくないの?」
「この程度なら我慢できますよ」
ああでも、安心したらだんだん痛みが登ってきて——
「すみません嘘言いました。すごく痛いです」
「ああもう。これでも噛んでて」
57はポケットからハンカチを出して僕の口へと突っ込む。モガモガとなっていると、痛みの信号が脳へと届いた感触がした。
「んーーーーっ!」
「まったくもー!G36さーん!」
その後、急いで応急処置をされて難を乗り越えた。しかしながら僕は、敵を興奮させるような危険な真似をするなと九美に怒られることになるのだった。
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