戦争はいりませんか?今ならお買い得ですよ。セットで人形もおつけしましょう!【完結】   作:畑渚

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大変おまたせいたしました。


滴り落ちる雫 下

「ナオ」

 

「んーーー!ングング!」

 

「私の目をちゃんと見て」

 

「ングング」

 

 ごきげんよう皆さん。ただいま絶賛タオルを噛まされているナオと申します。本日はお日柄もよく晴れ晴れとした天気の中、漂うのは血と硝煙の香り。

 

 ああご安心を。これは同意の上でタオルを咥えていますので。いえいえ、そういったプレイという訳ではありませんよ?だってほら……

 

「ではナオ様、行きますよ」

 

 九美さんが僕の手をぎゅっと握りしめる。そして、寝転がる僕の足元にいるG36が、ピンセットで僕の足の傷を抉った。

 

「ん゛ん゛ーーー!」

 

「無事取れました。57、酒を」

 

「ナオ、今タオル外すね」

 

「はぁ……はぁ……う゛っそれは貴重な酒なんですが」

 

「消毒液を丁度切らしていて、すみません」

 

「ああ、G36さんが謝る必要はないです。物資の管理は僕の管轄ですからね。自業自得ですね」

 

「そうだよ。まったく無理して……」

 

 九美の手に力が入る。表情こそ動かなくとも、それが心配や不安の顕れであることくらいはすぐにわかった。

 

「商談に行ってこその商人ですからね。危険は付き物です」

 

「それでもだよ。もっと私たちを使って。もっと自分を大切にして」

 

「九美さん」

 

 地面を見つめていた九美が僕へと目線を上げる。その瞳は、表情こそ動かずとも訴えかけてくるものがあった。

 

「わかりました。もう少し自分を大切にすることにします。ああでも、九美さんたちのことも大事に扱いますよ」

 

「それは私達が大事な商品だから?」

 

 これは痛いところをつかれた。

 

「安心してください。君たちを売らなくて済むようにするのが僕の仕事です」

 

「ということは売る気はまだあるんだね」

 

「まあ、人形の単価はとても高いですからね。手放したくない商材です」

 

「うーん、まあ合格かな」

 

「合格……ですか?」

 

「ナオから『手放したくない』という言葉が引き出せたから合格」

 

 そう言いながら九美さんはペシペシと背中を軽く叩いてきた。

 

「いつの間にか僕も検査される側ですか」

 

「財政に関してはもう私が完全に掌握したからね。次は組織トップでも狙おうかな?」

 

「はははっ、それが冗談であることを切に願います」

 

 そんな冗談を交えていたおかげか、その後はあまり痛みを気にせずに治療が終わるまでを過ごせた。こういうときは本当に、皆がいてくれて助かったと感じる。

 

「さて、行きましょうか。目的地まではまだあります」

 

「あの……」

 

「どうしたんですかAUGさん」

 

「いえ……その……」

 

「ああ、この戦闘の件ですが……被害は九美さん。費用損害はどの程度ですか?」

 

「えっと、弾数消費くらいかな。運用想定内だよ」

 

 九美は計算が早くて助かる。

 しかし、弾薬消費と僕の怪我だけでこの規模の敵を制圧できるようになるとは、最初に2人で初めたときは想像もしていなかった。

 

「というわけなのでAUGさん。追加料金は特になしで構いません」

 

「いえ、そうではなく。ハルロフさんに怪我を負わせてしまうなんて、本当に申し訳ありません」

 

「ああ、このくらい気にしないでください」

 

 ヘラヘラと笑っている僕がおかしく見えるのか、AUGが気味が悪そうな顔でこちらを見てくる。

 

「銃弾の摘出は慣れてますから」

 

「ハルロフさん……いったいあなたは何者ですの?」

 

「ただのしがない商人ですよ。少しあらっぽい体験をしてきただけで」

 

「少し……」

 

 おかしい。どうやら引かれたようである。まあ自分の悪運の強さは認めるけれど、だからといってあからさまに変なものを見る目を向けられると傷つく。僕だって人間なんだぞ。

 

「それより先を急ぎましょう。次は尻に銃弾をくらいそうです」

 

「そうなっても必ず私が摘出いたします」

 

「G36さん?はは、冗談ですよね?」

 

「冗談かどうかは……、撃たれてからのお楽しみでしょうか」

 

「わ、笑えない……」

 

 僕がたらりと汗を流している光景を皆が笑い、車に乗り込む。

 

「そういやナオ」

 

「なんですかバルソクさん」

 

「病院には行かなくて大丈夫か?」

 

「大丈夫ですよ」

 

「了解!」

 

 バルソクさんがエンジンをかける。

 

「じゃあ墓参りのあとに病院だな!」

 

「……、バルソクさんも随分と僕の扱いに慣れてきましたね」

 

 その進歩は嬉しいようで、でも、少し不安な気もしていた。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「着いたぜ」

 

 車が止まったのは、植物園を思わせる建物だった。管理されている形跡はなく、建物全体を植物の生命力が覆い尽くしてしまっている。

 

「AUGさん。ここで間違いないですか?」

 

「ええ、まちがいありません」

 

 弱々しくも、確信の強さを持った声でAUGがそう答える。どうやら本当にここが目的の墓がある場所らしい。

 

「では行きましょうか」

 

「おっと、ナオはここで待機だぜ。俺もここに残る」

 

「じゃあ私もかな」

 

 バルソクと共に、九美もそう言う。

 

「あれ?これって私がついて行かなきゃいけない感じ?」

 

「いえ、その必要はないでしょう。そうですよね、AUG様」

 

 G36の声にAUGは静かにうなずく。そうして車を降りると一度振り返り、大きく一礼した。

 

「感謝いたします」

 

「いえいえ。これもビジネスの一貫ですから」

 

「あなたのような優しい人に出会えて本当に」

 

「ほら、早く行ってあげてください。人をあまり待たせるものではありませんよ」

 

 僕の言葉にAUGはハッとなり、もう一度頭を下げてから建物へと入っていった。

 

「銃一丁だけだと赤字だよ?弾薬だけじゃなくて手榴弾もいつのまにか減ってるし」

 

「嫌ですねぇ、九美さん。十分黒字です」

 

「そんな怪我まで負ったのに?」

 

「わかってないんですね。いや、これは個人的な思想も含まれるので理解されることはないかも知れないんですが」

 

 こちらを不思議そうに見る九美に、僕は少しだけカッコつける。

 

「情けは人のためならず。回り回って僕の利益になる可能性だってあるんですよ。それに、良いことをしたあとは気持ちも良くなりますからね。最高のドラッグです」

 

「まったく……、ナオは計算高い偽善者だね」

 

「おおっと、偽善ではないですよ?本当にそう思ってます」

 

「ほんとかなー?」

 

 そんな言葉を交わしながら、僕は車を降りる。

 

「タバコ?」

 

「ええ、一服だけいいですか?」

 

 九美さんに肩をすくめられながらも、車に背を預けて、僕はタバコを咥えた。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 馬鹿な人達だ

 

 私をここに送り届けてくれるなんて、いい人たちだ。この忌まわしい土地に帰ってくるとは思わなかったけれど、悪くはないめぐり合わせだ。

 

 植物をかき分けて、中へと進む。手入れされていない施設内は、まるで私の侵入を拒んでいるかのようだった。

 

「指揮官さん……」

 

 墓標にたどり着く。円形のホールになっている中心に、それは色とりどりの花に囲まれて、不自然に立っていた。墓参りの形跡はなく、ところどころに蔦が巻きつきつつある。しかし、それでも寂しそうな印象を与えないのは、人手を離れても咲き誇る花々のおかげだろう。

 

 近づいて、墓石に巻き付く蔦を引きちぎる。きっとまた伸びてくるのだろうが、今このひとときだけでも、全体が見えるようにして上げたかった。

 

「ん、これは……」

 

 墓石の最下部。まさに蔦が覆いかぶさっていた部分に、小さく文字が刻まれていた。まるで意図的に隠されたかのようである。

 

「人は人の行くべきとこへ、人形は人形の行くべきとこへ……ですか」

 

 私はポケットから、手榴弾を取り出す。先程の偽善者から盗み取ってきたものだ。

 

「人形の行くべき場所はいったいどこなんですの、指揮官さん」

 

 私は安全ピンを抜く。

 

 ふと、ぽたりとなにかが手榴弾を持つ手に落ちた。

 

「これは……」

 

 それは花の蜜のようで、しかしどうやら自分の瞳から流れているようだった。

 

「ああ……故障ですわ……直さないと」

 

 そう何気なしに呟く。

 

 呟いて気がつく。

 

「直さないと……だなんて。あてなんてもう、ありませんのに」

 

 私は抜いたピンを戻す。そしてその手榴弾を持って、再び来た道を返っていく。

 

 

 

 

「おや、意外と早いお帰りですね」

 

 偽善者は、車の外に無防備に立っていた。

 

「ところで火、持ってませんか?先程の戦闘でライターを落としたみたいでして」

 

 そうヘラヘラと笑う偽善者は、私が無言で近づいても全く動かない。車に乗っている護衛の人形たちも、警戒している様子はない。

 

「もう一度。取引をしませんか?」

 

「おや、ビジネスの話ですか?」

 

 男は火の着いていないタバコをしまう。取引と言葉にした瞬間、一気に雰囲気が変わった。

 

「ええ、人形の行くべき場所へ、連れて行ってほしいんですの」

 

「ほう……?」

 

 男は顎をさすってなにやら考えた後、ちらりと車の中へと目を向けた。

 

「先に対価の方を聞いておきましょうか」

 

「私の体でお支払いしますわ」

 

 ガタリと車が揺れる。その開きそうになっている扉を抑えて、ハルロフさんは見事な営業スマイルで返答する。

 

「残念ながら人形の行くべき場所というものがどこにあるのか、僕も知りません。ですがそこにたどり着くまでの足にはなれます。どうです?よかったらそれまで協力関係を結びませんか?」

 

「協力関係……ですか?」

 

「ええ、僕らはAUGさんを運ぶ足となる。そしてAUGさんは僕らに協力する。もちろん途中下車してもらっても構いません」

 

「随分と……商魂たくましい方ですわ」

 

「それは商売人にとっては褒め言葉ですよ」

 

「わかりました。よろしくおねがいします」

 

 私が手を差し伸べると、少し驚いたような顔をしながらハルロフさんは手を握り返してくる。

 

「ですが……」

 

「おっと?」

 

 手をすぐに引こうとするハルロフさんを、傷めないほどに強く握って逃げられないようにする。

 

「私の協力は高く付きますわ。足になる程度では少し足りないませんわね」

 

「これは話を急ぎすぎましたかねぇ……」

 

「いえ、それほどな追加要求はしませんわ」

 

 一度言葉を切ってから、私は言葉を続ける。

 

「ただ……、その商売の知識、私にもご教授して貰いたいと思っているだけですわ」

 

「なるほど、それなら喜んで」

 

 非常にありがたい返答が返ってくる。

 わざわざこうしてまで生きる術の教えを請う必要が私にはあった。

 

 

 だって私、人形の行くべき場所に辿り着くまで死ねませんから。




SMG、AR×2、HG、MG
こうして見るとアンバランスですね。ですが、メイン入りする人形はあと1体となっております。乞うご期待。

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