戦争はいりませんか?今ならお買い得ですよ。セットで人形もおつけしましょう!【完結】   作:畑渚

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おかしい、また3編構成に伸びてしまった……
キャラ崩壊に注意


金髪赤目の賭け 中

「確かに……」

 

 将軍は自慢するかのように髭をさする。

 

「SV-98は倉庫にたくさんあるはずだが――」

 

 気づかれたか?

 

「貴様ほどの手腕があれば入手は容易いはずだ。どうして今求める?」

 

 さすがにアホではなかったようだ。しかし、この程度の返しを想定しなくては商売人の名折れである。

 

「将軍は、銃のIDロックについてご存知ですか?」

 

「ああ、征服軍とやらが適用しているアレだろう?」

 

「ええ、それです。ロックがかかれば、銃はただのハリボテです。確かに正規の運用をする軍などには良い話なんでしょうが……」

 

「貴様ら武器商人には苦しい話だろうな」

 

 ものわかりの良い客は大歓迎だ。

 

「ですので、ロックのかかってない銃を求めてやまないわけです。何の処理もなしに売り物にできるわけですからね」

 

「なるほど……よしわかった。明日は倉庫に案内しよう」

 

「感謝いたします、将軍」

 

 ここでの滞在一日目。なんとか無事に終えることができたようだ。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 本日の宿として案内されたのは、客人をもてなすには不十分な揃えしかない安宿だった。最初こそ顔の端が引きつったが、よくよく考えてみれば、ここがこの国で最高峰の宿なのだろう。

 

「宿というより、そういうお店っぽいけどね」

 

「滅多なことを言うものでもありませんよ、九美さん」

 

 その実、入り口のピンク色のネオンだとか受付での様子などを見るにそういった用途にも使われているのだろう。まだ日が高いというのに聞こえてくる嬌声は、同じ建物内からしてくる。

 

「まだしっかりベッドがあるだけマシですよ。一応は客として迎えられてるみたいです」

 

「まあいいんだけど……部屋を無理に分けられたのは少しね」

 

「不安ですか?」

 

「そりゃもちろんだよ。ナオ」

 

 今は部屋の前で話しているが、部屋自体はそれぞれ別だ。

 

「でも隣の部屋でしょう?緊急時には逃げ込みますよ」

 

「わかった。くれぐれも気をつけてね」

 

 九美さんが隣の部屋に入っていくのを見届けてから、僕も自分の部屋へと入る。

 

「……?」

 

 入った瞬間、ぶわりと背中に汗をかく。嫌な予感がここまで顕著なのは久しぶりである。

 僕は、わざと物音を立てながらベッドルームへと入る。電気をつけても、変わった様子はない。荷物をおろし、鞄から拳銃を取り出す。素人の僕が当てられるとは思えないが、牽制くらいには使えるだろう。

 

「疲れたな。ようやく1人だ」

 

 少しわざとらしく、そうつぶやく。しかし、反応はなにもない。僕の思い過ごしだったかとベッドに腰掛ける。意識の緊張が途切れそうになったその瞬間

 

 カタリ

 

 クローゼットの方から物音がした。あわてて銃を向けようとするが、襲撃者の方が早かった。

 襲撃者は僕の銃を弾き飛ばし、そのままベッドの上に僕を押し倒す。僕の両手はしっかりと相手の足に踏まれており、両手を首にかけられている。襲撃者は助けを呼ぶ暇も与えずに僕を無力化し、挙句の果てに生殺与奪権まで手に入れた。やり慣れている、という感想が漏れ出しそうだった。

 

「……君は」

 

 真っ赤な目でこちらを見下ろしてくるのは、先程将軍から紹介された人形だった。

 

「どういうつもりですか?」

 

「言われなきゃわかりませんか?」

 

「ええ、是非お聞かせ願いたいですね。残念ながら僕は被虐嗜好は持ち合わせてませんよ」

 

「どうしてそんな話になるんですか」

 

「だってあなた、今の自分の格好を見直してください」

 

 襲撃者の人形は、スッケスケのランジェリーを身にまとっていた。正直に感想を言うならば、趣味が悪い。似合ってもない。

 

「格好は……気にしてほしくないですね」

 

「そうですか。それで、僕を殺してどうするおつもりですか?」

 

「変態に犯されるくらいなら殺して逃げた方がマシだと思いまして」

 

「犯される……?」

 

「ヤツが犯されてこいと」

 

「ああ……」

 

 僕は見えない空を仰ぐ。やはりそういうふうに捉えられていたか。

 

「まず始めにですが、僕は人形愛者ではありません。そこの誤解から解いておきますね」

 

「えっ……それじゃあどうして」

 

「どうして人形を侍らせているかですか?」

 

 襲撃者の言葉に割り込む。

 

「成り行きという言葉が近いですね。こういった商売の都合上、戦力となる良い駒なんですよ」

 

「そう……だったんですね」

 

 襲撃者は、ようやく僕の首から手をどかしてくれた。阻害されずに存分に息を吸いながら、この状況をどうしようか考える。ふんわりと香る柑橘系の匂いが、より意識を鮮明にさせてくれた。

 

「とりあえず着替えを」

 

「ないです」

 

「それならとりあえずコレを」

 

 僕は着ていたコートを渡す。相手もわかってくれたようで、僕のコートを羽織ってぎゅっと前を閉じた。

 

「さて、この商談が無事に終われば晴れて君は僕の所有物だったわけですが……」

 

「残念ですけど、従う気はないですよ」

 

「ですよね」

 

 このじゃじゃ馬をどうしてやろうか模索する。今までのようにただ雇ったり、協力関係を結んだりといった方法は難しそうである。しかし、なにか他にいい案も思いつかない。

 

「そういえば、あなたはもと軍所属か何かですか?見たところ……戦闘用に改造済みのようですが」

 

「何も言いたくないです」

 

「そう……ですか」

 

 八方塞がりである。こちとら長旅で疲れているのである。

 

「あーもういいです。わかりました。おやすみなさい」

 

「えっ……ちょ!」

 

 こういうのは行動したもの勝ちだと、父も言ってましたからね。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「一定の呼吸リズム……まさか本当に寝たんですか」

 

 私が話しかけても、相手からの返事はない。普通に人間なのだとしたら、とんでもない精神の持ち主である。

 

「変な人……ですね」

 

 相手からもらったコートをギュッと握りしめる。人間特有の匂いを検知した電脳が、メモリーに相手を焼き付けてくる。

 

「何してるんだろ、私」

 

 自分らしくない、とコートの中身を思い出す。無理やり着せられた布切れは、何も守ってくれない。

 

「寝てますか?」

 

 返事はない。相手が覚醒状態にないことをいいことに、相手の鞄へと手をのばす。中に入っている難解な図表やリストは、彼の人柄を顕著に表していた。

 

「……、これは」

 

 1つ目のファイルは、ヤツとの取引用だった。綺麗に整理された書類は、どこか機械じみていた。

 問題はもう一つのファイルだった。

 

「……っと、見られてしまいましたか」

 

 先程までぐっすり寝ていたはずの男が、目を開けていた。そして私が止めるよりも先に、彼は隣の部屋との壁を叩いた。

 

「いますぐその汚らわしい手を離して」

 

 私は無意識のうちに男を絞め殺そうとしていた。しかし、後ろから感じる圧にそれどころではなくなった。

 

「聞こえなかった?その手を離してって言ってるのよ」

 

 音もなく部屋に侵入していたソレは、私の後頭部に銃口を突きつけてきた。

 

「まあ待ってください、九美さん」

 

「ナオ?まさか情けをかけるつもり?」

 

「ほら、理解しているわけではないかもしれないじゃないですか」

 

 男はヘラヘラと笑いながら、どこかへと連絡を取り始めた。

 

「失礼、少し予定変更の連絡をね。さて、おはなし、しましょうか?」

 

 その男はにっこりと微笑んでいる。立派な営業スマイルだ。

 しかし私には、それが死神の笑みにしか見えなかった。

 

 私の手から一枚の紙が落ちる。記憶が正しければ、2つ目のファイルに入っていた重要書類だ。

 

 カチャリ

 

 と小さな音を立ててもうひとりが部屋に入ってくる。3対1、しかもうち2体は人形。私の勝ち目は消えた。

 

「まったく、鞄にはお気をつけくださいとあれほど」

 

「すみません、G36さん。思ったよりも疲れが溜まっていたようで」

 

「だから先に休むようにと申し上げたのですよ」

 

「お見通しだねぇ」

 

「だいたいの状況は聞きました。それで、こちらの方ですか?」

 

「そうです。よろしくおねがいしますね」

 

 G36と呼ばれた人形が私の目の前に立つ。そして先程の書類を拾って私に見せるように掲げる。

 

「この書類が何だかわかりますか?」

 

 わかると言えば殺される。

 

「わ、わかりません」

 

「なるほど……。では、この書類を上から音読してください。ああ、あまり大声を出さなくても良いですよ」

 

 音読を拒否すれば殺される。大声を出しても殺される。

 ボソボソと、つぶやくように書類を読み上げる。

 

「では、内容を要約してください」

 

 あまりにもひどすぎる。私の逃げ道がどんどんと塞がれていく。後頭部にいまだ触れている銃口が冷たい。

 

「征服軍との……商談契約です」

 

「よくできました」

 

 G36という人形が、優しくほほえみながら頭を撫でてくる。

 

「良い子には選択権を与えましょう。一つはここで死んでナオ様逃亡の時間稼ぎになるか、もう一つは――」

 

 そんなもの、私の答えは決まっている。

 

「死なない方でよろしくお願いいたします」

 

 私は昔覚えたDOGEZAをして、許しを請うことしかできなかった。

 


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