戦争はいりませんか?今ならお買い得ですよ。セットで人形もおつけしましょう!【完結】 作:畑渚
それと情勢を踏まえて重ねて注意書きをします。
この物語はフィクションであり、実在の国・団体・その他諸々を示唆する意図は一切ありません。
「我が武器倉庫へようこそ、武器商人どの」
「ありがとうございます将軍」
僕は営業スマイルを浮かべてながら、その広々とした倉庫の中を見回す。銃器はもちろん、溢れんばかりの弾薬、明らかに他とは違う存在感の戦闘ヘリや戦車。旧世代の武器が多めではあるが、整備はしっかりとされているらしい。戦の準備にしては十分な量だ。
「おい、SV-98を何丁か持ってこい。できる限りいい状態のやつをな」
「ああ待ってください」
将軍の指示を遮る。
「まあそう不機嫌にならないでください。簡単な話ですよ」
「なんだ、言ってみろ」
「すべて、買い取らせていただきます。もちろん余剰分のみで結構ですよ?」
「全部、全部か」
将軍はわざとらしく、大声で笑う。しばらく笑い声が倉庫に響いた後、すっと表情が素に戻る。
「何を企んでいる、商人」
「なに、簡単なことですよ」
裏の表情を隠し、あっけらかんと言い張る。
「いろいろと積んでいたトラックを空にしたまま帰ってしまっては、商人の名に傷がつきかねませんから。物流は回数を少なく、一度に多くですから」
「なるほどな」
将軍はうんうんとうなりながら髭をなでている。ごまかせたのか……?
「貴様の言いたいことはわかった。好きなだけ持っていくと良い。おい、何人か集めて積み込ませろ」
「ありがとうございます」
「なに、あまり使う場面のない武器だ。無駄な在庫が金に変わるのだからこちらにとっても利点があるからな」
「そのあたりの説明の手間が省けてなによりです。九美さん、お金の用意はすぐにできますか?」
トラックの中に隠してあるへそくりまでだせば、なんとか払いきれない額でもない。手際よくまとめてきた金を、将軍に手渡す。
「ああそれと」
「何でしょうか、将軍」
ギラリと彼の目が光る。軍人上がりはすぐに目を光らせるから嫌いだ。
「こういったものを注文することはできるか?」
将軍が胸ポケットから取り出したのは、クシャクシャのメモ用紙だった。そこには、人間の女の特徴が何種類も書かれている。
つまりはそういうことだろう。
「なるほど……」
「さすがの貴様でも無理か?」
「人間の売買は基本的に違法ですからね。それに流路にまだ参入していないのもあります」
「そのようなものか」
「ええ、ものがものなので、新規参入者にいい顔をする人は限られているんですよ」
「貴様では無理か?」
僕は悩んだふりをする。答えは悩むまでもなく、無理である。しかし、ここで無理と言ってしまえば、その程度の思われるかもしれない。今必要なのは、この場限りでも将軍の信用を得ることだ。
「いえ、任せてください。たまには販路の拡大を狙ってみなければいけません。商人とは冒険ですから」
隣で震えている九美の腰を肘で付きながら、僕は将軍の方へと向き直る。
「そのメモ、頂戴しても?」
「ああ、頼むぞ」
僕はしわくちゃのメモを伸ばして、スケジュール帳に挟み込む。これで、不意に落としてしまうことはないだろう。
「それでは将軍、失礼しますね。それと彼女……本当に良かったです、ありがとうございます」
「気に入ったようでなによりだ。また頼むよ」
「ええ、またいずれ会う機会がありましたら、お願いします」
車に乗り込めば、すでにスタンバイしていたG36がエンジンをかける。ミラーに映る将軍の姿を眺めつつ、新たな搭乗者であるSV98に目を向ける。
「バレなていないようですね」
「……」
「どうですか、感じますか?」
「動いている……トラックの中で間違いない」
何の話かといえば、彼女の銃である。薄着をすれば、ASSTの痕がくっきりと見える。そして彼の発注内容から見るにスナイパーライフルを使う戦術は使わない。
そこからが賭けだ。SV-98の在庫を買い占めれば、その中にASSTのものが含まれている可能性が高い。人形とASSTの2つを知らないアナログ人間だからこそ、この賭けが成立する。
そしてここからが作戦。この在庫の買取先はもう見つかっているようなものだ。
「おい止まれ、そこの車」
「お疲れ様です、政府軍の皆さん。ナオ・ハルロフという名でアポをとったはずなのですが」
「少々お待ちを……」
1人の兵士が連絡して確認している間、僕はスケジュール帳を開く。ぱらりとクシャクシャのメモが落ちたが、気にしない。
「大変申し訳ありません。こちらの入り口から通すことはできないようです」
「なるほど。こういった仕事は初めてですか?」
「ええ、まあ」
「そんなに震えていては交代させられますよ。さて、皆さんここを出て東と西のどちらに行かれますか?」
「東には大きな街に続く道があります」
「ありがとうございます。これはほんの気持ちです」
お札を数枚彼のポケットにねじこみ、運転してくれている九美に目で合図する。
「えっと、西でいいんだよね?」
「そのとおりです。いやしかし、ひどい有様ですね」
「なにが?」
「政府軍だったり征服軍だったり、名称くらいは統一してほしいものです」
「はいはい、それじゃ出発するよ」
窓から吹き込む風を感じながら、空を見上げる。これほどに晴天の二文字が似合う日もないだろう。きっと歴史の教科書に乗る偉大な日となるだろう。
=*=*=*=*=
「内容はこれですべてです」
「ナオさん、ご協力に感謝します」
「いえいえ。代金は頂いてますから、慈善事業というわけではないですよ」
「それでも我々政府軍からしたら願ったり叶ったりですよ」
たくさんの武器に囲まれてにこにことしている相手は、陽気なようで何を考えているかわからない。
「そういえば少し内密に話をしたいのですが」
「ええ、あーっと護衛なしというわけには」
「そこをなんとか」
「……九美さん、少しの間下がっててくさだい」
九美は無言で頷き、車の方へと戻る。
「護衛の方々、戦術人形で間違いありませんよね?」
「ええ、刻印済みです」
「1体でも良いのでお譲りいただけないかな?これも正義のためです」
「……正義ですか」
「ええ。代わりに対価は何でも揃えましょう」
「いえ、結構です。残念ながら連れてきている子たちを手放すつもりはないので」
「……そうですか、残念です」
相手がホルスターに手を伸ばす。
「まあ早まらないでください。すぐには無理ですが、取引自体はしても構いませんよ」
「というと?」
「人形の売買はまだ日が浅くてですね。常に余分な商品を持ち歩けるほど在庫を揃えていないのですよ」
「……その話、信じても?」
「ええ。金になる話に関して嘘は言いませんよ」
「よし、それでは都合がつきしだい今回と同じ方法で連絡を」
「わかりました」
僕は端末を取り出し、メモアプリを起動して書き込む。実に良い商談だ。自立人形というものはやはり金のなる木である。商売の競合相手も、まだ少ない。実に良いビジネスである。
「ただいまです」
「無事で良かった」
「ええまったくです。本当に、相手方を撃たなくてよかったです」
「……気づいていたの?」
「ええ。信頼していてはダメですか?」
「嬉しいけどさ。でも危険だよ」
「大丈夫ですよ。どちらにせよ、彼には僕を撃てませんし」
「まあ、そうだけどさ」
「ああ、そういえば。後学のために、どんなバックアップをしていたのか教えて下さいよ」
「……私の聴覚データを頼りに、トラックの上部スペースに隠れたSV98に敵を照準し続けてもらってたの」
「うわぁ。ちなみにちゃんと足とか腕を狙ってたんですよね?」
「……」
「九美さん?あの?聞いてます?」
「さ、さあ出発しよー!次はどこに行くの?」
「……あとで少しお話しましょうか」
このあと無茶苦茶OHANASHIした。
=*=*=*=*=
『先日未明に始まった政府軍の一転攻勢は見事に敵軍を打ち破り、中枢都市を取り返した時点を持って勝利宣言を公布しました。これに対して隣国は、勝利を祝福するとともに、復興支援を約束しました。しかし、未だに敵軍の将の死亡は発表されておらず、現在もなお厳戒な警備体制が取られています』
「じっくりと見てどうしたんですか?」
「ナオさん……私は」
「自分のいた陣営が滅ぶとさすがの人形にも涙ですか?」
「私は!」
興奮しているSV98をなだめて、僕はソファに体を沈める。
「今回、とても良い商談ができました。その良い商談の内訳にはあなたも含まれてるんですよ?期待してますから」
「……」
何も返ってこないのは結構。だが、信頼関係が築けないのはいささか問題かな。まあ、九美に任せることにしよう。そう考えて満足し、僕は瞳を閉じて仮眠をとることにした。
『なお、今回の戦闘での死者は過去最大級となっており、両軍ともに何らかの介入によって武装が更新されていた可能性が示唆されています。これに対して両大国は関係を否認しており、国際犯罪捜査班は大手の武器ディーラーの関与を疑い捜査を始めるとのことです』