戦争はいりませんか?今ならお買い得ですよ。セットで人形もおつけしましょう!【完結】 作:畑渚
2方向における大口の取引が昔のように感じ始めたころ、僕らは行き詰まりを感じていた。
人間関係、というより人形関係は良好だ。信頼関係は問題なく、連携作戦も完璧な練度だ。
問題は、外側の方だった。なんともまあ大変なことに、とある捜査組織に目をつけられているのだ。今はまだ決定的な証拠はとられていないものの、隠蔽の手間が増えて商売に影響が出ている。
「ナオ、次の商売先だけど……」
「またですか……本当に面倒です」
机の上に広げた資料を、丁寧にかばんにしまう。こういった資料ですらも、敵からしたら大事な手がかりになりえない。それどころか、ここ最近は家族との連絡すらとれていないのだ。ハイテク化にも困るもので、電話一本自由に、それに盗聴されずにかけることすらできない。
「ナオ、そろそろ休みなよ」
「すみません九美さん。でももう少しやらせてください」
入荷元も、違法行為が立て続けに検挙されて潰されてきている。それだけでなく、目をつけられた僕から手を引く販売先も少なくはない。
「ナオ様、いらっしゃいますか!」
「どうかしましたか、G36さん」
「偵察に出ているFive-seveN様からの連絡です。すでに次の街では戦闘行為が始まっていると」
「ちっ……。失礼、あまりにも早すぎるものですから」
商売の算段も狂い始めている。次の街では、革命派の市民たちに武器を売る予定だった。しかし、どうやら僕らの到着も待たずに政府との戦闘を初めてしまったようである。
「ナオ、どうする?」
「……」
九美もG36も、じっと僕の意見を待つ。そうだ、僕が決めなければ彼女らは動けない。そして、僕がYesと言えば、例えどんな状況でもYesと行動するのだ。
「街に向かいます。危険ではありますが、まだ非戦闘区域も残っているはずです」
一般市民の避難情報はまだ出ていない。本当に始まったばかりの混乱に乗じて、手早く商売をして退避するしかないだろう。幸い、人を隠すには人の中、混乱による行き交う人混みは、ちょうど僕らを隠していくれるだろう。
「ナオ、本当にそれでいいんだね」
「九美さんの意見も聞いたほうがよかったですか?」
「ううん。私の意見はナオの意見と常に同じだよ。ただ……」
「なにか問題が?」
「ナオ、最近疲れているようだから」
「……さすがに隠し通せませんね。今日は早くに寝ますから。また明日から頼みますよ」
「うん」
そういって九美とG36を見送り、1人になった部屋で僕は瓶のまま酒を煽る。どぎついアルコールが喉を焼き、痛みとともに頭をはっきりさせてくれる。
プルルル
部屋に備え付けの電話がなる。瓶を机に置いて、受話器をとる。
『ナオ、飲みすぎはよくない』
「SV98さんですか。見てるんですか?」
『もちろん。西側の窓から見える高層ビル』
僕は窓へと近づき、適当に手を振ってみせる。そして机の瓶を手にとった。
『九美さんに報告されたいならいいけど』
「……それはご勘弁を」
机に瓶を戻して、栓をする。まだお楽しみには早かったようだ。
「それでは僕は一眠りします。警護、頼みましたよ」
『了解』
頼もしい声を聞き届けてから、受話器を戻す。アルコールがまわってきて思考がふわふわと漂ってきた。
ベッドに倒れ込むように飛び込んでから、数秒後にはもう意識はなかった。
=*=*=*=*=
「今回もうまくいって良かったね、ナオ」
「ええ。違法行為の証拠も完全に隠蔽できたはずですし、安泰です」
戦闘区域に入るときは少し手こずったものの、あとはこれでもかというくらいに順調だった。久々の大口取引が完了し、僕はネクタイを緩める。肩の荷がおりた感触を確かめながら、端末を開く。メールをいくつかチェックし、次の取引の目星をつけはじめる。
うまくいった後だからだろうか。今なら次も成功させる自信がある。
「ニュース、見たほうがいいよ」
「ええ、わかってます」
情報収集は基本だ。とうとう、僕の顔写真が乗ってしまった。これによる逮捕は不可能だが、ニュースサイトデビューが容疑者としてとなるとは昔は考えてもみなかった。顔写真は一枚のみ、サングラスもしているしはっきりと写っていないから、家族でもない限りは特定は不可能だろう。
「……どうしました?」
車がやけに長く止まっている。
「それが、何故か混雑してて」
「おかしいですね。下調べではそんなに交通量がないはずなんですが」
「いや、これは……ナオ!検問だよ!」
思わず顔をしかめてしまう。最悪だ。これも戦闘が早まった影響か。
「どうせこの車はレンタルです。ここに置いていきましょう」
「歩いていくの?」
「仕方ないです。今日の宿までの辛抱ですよ」
車を乗り捨てて裏路地へと入る。少し遅れて着いてくる九美は、すぐに撃てる状態で銃を携行している。他のメンバーも同様だが、一団だとばれないように間隔を開けて配置しているようだ。
「ナオ、大通りに抜けるよ」
「わかりました。くれぐれも銃、使わないでくださいよ」
「ナオの命が最優先だよ」
「まあ、そうでしょうけどね……、いざというときは逃げてくださいよ」
「そんなことできるわけないでしょ?」
思ったとおりの答えに、僕は気づかれぬように小さくため息をついた。