戦争はいりませんか?今ならお買い得ですよ。セットで人形もおつけしましょう!【完結】   作:畑渚

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連載頑張ろう習慣


九美

「UMP9-4?」

 

 僕は店主の方へと視線を向けた。無言でサムズアップしてる。

 

「えっと……どういうことでしょうか?」

 

「いやー、久々にやりがいのある仕事でしたよお客さん」

 

「えっいやそうじゃなく」

 

「まさか戦術人形をいじくれる日がくるなんてな、思いもしなかったんでさ」

 

 店主はとてもいい笑顔でサムズアップしたままだ。そのとなりで、無表情でこちらを見つめてくる美少女もいる。

 

「た、たしかに骨格は無事だったけれども生体パーツなんてどこから」

 

「そりゃぁお客さん、あんたが持ち込んだモジュールでさ」

 

 どうやらそういうことらしかった。骨格だらけの人形と生体パーツ用のモジュールを持ち込んだ僕を見て、店主は直して欲しいと勘違いしたようだった。

 

「お代は、いらねえ。久々にやる気をもらったからな。またご贔屓に!」

 

 意気揚々と店に入った僕は、となりに無表情の人形を率いながら消沈して店を出る羽目になった。

 

「どうして……どうして……」

 

「あの……大丈夫?えっと何と呼べばいいのかな」

 

「僕?僕はナオ。ナオ・ハルロフと言います」

 

「そう!じゃあよろしくね、ナオ」

 

「……その、表情はどうにかならないのですか?」

 

 彼女は終始無表情だった。まるで感情が欠落しているかのように。

 

「表情のモジュールは適合する規格のパーツがなかったんだよ」

 

「そう……ですか」

 

 僕は頭を抱えながら近場のベンチに座る。UMP9-4……いや、呼びづらいな。

 

「何か別の名前はないのですか?UMP9-4というのはどうにも呼びづらくて」

 

「うーん、そもそも名前が必要にならない環境だったし……。そうだ、ナオがつけてよ」

 

「僕がですか?」

 

「うん。だって私を拾ってくれたのはナオだから」

 

「そうですね……」

 

 僕は端末で適当に名前を調べ始める。そうして見つけた名前が、九美だった。

 

「九美……?いい名前だね、ありがとう!」

 

「き、気に入ってもらってなによりです」

 

 はぁとついため息をついてしまう。だって多額のお金が入ると期待してきたのに、手に入れたのは不良品の人形である。戦術人形?必要ない。僕は武力を持ったところで何の意味も成さない。

 

「それで、これからどうするの?」

 

「どうするもなにも、いったん家に帰らないと。今日は何も持ち合わせていないんですよ」

 

「そう!それじゃあ家族に挨拶しないとね!」

 

 僕は顔が固まるのを自覚する。果たして今の家族になんと言おうか。拾った人形を直しました?そんな維持費はうちにはない。

 

「そういえば九美さん」

 

「九美でいいよ!」

 

「いえ、これは癖ですので。九美さんは戦術人形なんですよね?」

 

「うん、そうだね」

 

「ということは高値がつきそうですね」

 

「ふふん、それはどうかな」

 

 九美さんは腰に手を当てながらそう言った。おかしい、表情は1ミリも動いていないのにドヤ顔に見える。

 

「私は少し特殊だから、正確な値段をつけられる人はいないよ!」

 

「そうですか……ならばオークションですね」

 

 確か中央区にそう言った闇市があると聞きました。きっと九美さんは良い資金になるでしょう。

 

「待って待って。どうして私を売る前提なの!」

 

「だってそのために拾ったので」

 

「お願い!売らないで!仕事でもなんでも手伝うから!」

 

「とは言ってもですね……」

 

 残念ながら、僕は今失業中。アルバイトをさせればある程度は稼いでくれるかもしれないけれど、無表情の人形なんてどこが雇ってくれるのか。

 

「この通りだからさ!お願い!」

 

 九美さんは深々と頭を下げる。人の往来のある街中だ。無表情とはいえ見てくれの良い美少女が、青年期ギリギリの僕に頭を下げている。

 人目を引くのは考えるまでもない。

 

「わかった!わかりましたから顔を上げてください!」

 

「ほんと?私捨てられない?」

 

 無表情で顔を覗き込まれると、少し怖い。

 

「え、ええ。善処します」

 

「良かった。また捨てられたくはないからね」

 

「また?」

 

「ああ、まあポイってされたわけじゃないけどね」

 

 九美さんはあははと声に出して笑った。表情には出てなくとも、それが苦笑いであることくらいは僕にもわかった。

 

「それで、ナオは何の仕事をしてるの?」

 

「無職」

 

「えっ……」

 

「昔は商家の跡取りとして働いてたんですけどね。大きな取引を逃してそこからなし崩しに」

 

「そ、そうだったんだ……無職、無職かぁ」

 

 とりあえず近くの喫茶店に入った僕らは、コーヒーを2つ頼む。

 

「私も戦闘とそれに関する知識しかないし……商売……うーん」

 

「なにをそんなに悩んでるんですか?」

 

「どうにか活かせないかなって」

 

「いいですよ。またコツコツ資産を作っていきますし、数字の計算だけでも手伝ってくれれば——」

 

「そうだよ!」

 

 突然、九美さんは机を叩いて思いっきり立ち上がった。

 

「ど、どうしたんですか?」

 

「売ればいいんだよ!私の知識を活かしてさ!」

 

「売る?一体なにを」

 

「これだよ」

 

 そう言って九美さんが机に置いたのは、昨日僕が投げ捨てたマガジンだった。

 

「マガジン……まさか武器を売れといいたいんですか?」

 

「うん。これなら私も力になれるよ」

 

 妙案ではあるが、その道を考えたときの結論は「殺される」だ。ただでさえ不運な僕がそんな危ない仕事をできるはずがない。

 

「でもさ、ものは試しって言うじゃない?」

 

「いいえ、無理ですね。そもそもそんな資金すら」

 

「資金か……わかった。一週間……いや、3日だけ頂戴?」

 

「3日?まあいいですが……」

 

「よし、それじゃあ待っててね、ナオ!」

 

 それだけ言うと、九美さんは店を飛び出していった。

 

「あっ会計……まあいいか」

 

 僕は2杯分のコーヒーの代金を支払って、家に帰った。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 次の日も、その次の日も何も起こらなかった。僕はいつもどおり街をさまよい歩き、ずっと考え事をしていた。

 そして約束の3日目――

 

「ナオ、おまたせ」

 

 ふと歩いていたら、目の前に九美さんが立っていた。少し申し訳無さそうな声で、こちらにアタッシュケースを差し出してくる。

 

「ごめん、私じゃこれだけしか」

 

「……、中身を見ても?」

 

「もちろん。これはナオのものだよ」

 

 ごくりとツバをのみこみ、ベンチに置いてゆっくりと留め金を外す。その中身は――二丁の拳銃だった。

 

「これ、どうやって手に入れたのか聞いても?」

 

「出どころは……言いたくないかな。でもちゃんと取引で手に入れてるから安心していいよ?」

 

「そう……ですか」

 

 ベレッタ92F。数少ない僕が知っている銃の一つ。その信頼性は未だ市場に出回る程だ。

 

「しかしこれは……中古ですか」

 

「ごめんね、私じゃこれが限度だったから」

 

 申し訳無さそうにする九美さんに、僕は持ってきたコーヒーを渡す。

 

「いえ、ほぼゼロの状態からこれは素晴らしい戦果です。ありがとうございます」

 

「そんな!それに、ゼロっていうわけでもなかったから……」

 

「どういうことですか?」

 

「ううん!なんでもないよ。それよりさ、これをどう活かす?」

 

「……わかりました。ここから、始めましょう」

 

 武器を売るということには、不思議と忌避感はなかった。その時点で僕はすでに壊れていたのかもしれない。

 僕には、金が必要だった。父の治療費、母への仕送り、妹の学費。どうにか商売を軌道にのせてこのすべてを補ってあまりあるほどの金が、僕には必要だ。

 

「それじゃあ、私ともどもよろしくね?」

 

「ええ、九美さん。けれどこれだけは聞かせてください」

 

「ん?なに?」

 

「九美さんが僕に付き従うメリットは何ですか?」

 

「うーん、内緒……というわけにはいかないよね」

 

 迷っているようだった。しかし、これだけは聞いておかないといけない。メリットのない契約なんて、僕は信じることができない。

 

「恩返しだと……思って?私はあなたに恩を返したい。あのゴミの山から拾ってくれたこと。偶然とはいえモジュールと一緒に人形技師のところへ運び込んでくれたこと。そして手違いでも私を直して、そして受け入れてくれたこと」

 

「恩返し……ですか」

 

 それなら少しは大丈夫かもしれない。いまのところ彼女の存在はメリットしかない。一人でするには危険すぎる仕事だ。その分、彼女なら気にせずに巻き込めるということもある。そんな彼女が僕に恩を感じてくれているというのだから、しばらくはそれを利用してみようと思ったのだった。

 




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