戦争はいりませんか?今ならお買い得ですよ。セットで人形もおつけしましょう!【完結】   作:畑渚

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お久しぶりです。


崩壊

 街中は人でごった返していた。謎の検問により交通網が乱れ、徒歩で外出している人が増えたというのが原因となっているのは明らかだった。

 

「九美さん、聞こえますか」

 

「うん、聞こえてるよ」

 

「どうやらこのルートは通れなさそうです。後続の人たちに連絡を」

 

「了解」

 

 検問は思った以上に厳しく、徒歩ですら街を出るルートを絞られているようだった。しかし、僕の頭の中には、この街を抜け出したあとのことしかなかった。

 

 だから僕はミスした。

 

 考えてみれば簡単なことだ。ターゲットを見つけるならば、その行動を制限してしまえばいい。しかし、まさかそこまで本気だとは僕も思っていなかったのだ。

 

「見つけたぞ!」

 

「こっちだ!至急応援を!」

 

 地元警察が大声を上げる。その視線の先は確かめるまでもない、僕だ。

 

「ナオ!」

 

「わかってます!援護を!」

 

 九美が銃弾を空にばらまく。人混みで騒がしかった広場に静寂が訪れ……そして悲鳴で埋め尽くされた。突然走り出す人、無意味に泣きわめく人。そしてただ地面に伏せ、その災いが去ることを願うだけの人。

 

「ナオ!急いで!」

 

「わかってます」

 

 カバンを掴み直し、僕は走り出した。人の流れに沿うように、自分の存在感をそこに溶け込ませていく。九美も後続の皆も、同じように人混みへと紛れ込んだ。

 地元の警察と言えど、この人だかりの波の中から僕らを見つけ出すことは不可能だろう。

 

 なんとか撒けたところで、僕は公園のベンチで一休みすることにした。

 ふう、まったく体力は衰えるばかりで嫌になる。

 

「おつかれ、ナオ」

 

「ありがとうございます、九美さん」

 

 九美から受け取った水のボトルを、全て飲み干す。本当は体に良くないらしいが、水を求めている今はそんなことを言ってられない。

 

「すぐに追手が来るよ。早くいかないと」

 

「わかってます九美さん。このカバンを持って先に進んでいてください」

 

「えっ……?でも」

 

「大丈夫ですよ。それに後続で他の皆も来るわけですし」

 

 久々に全力で走ったから、恥ずかしながら疲労ですぐには動けそうになかった。公園のベンチで息を整えていると、突然隣に誰かが座った気配がする。

 

 はっとして顔を上げる。刺客にしては早すぎると焦りを隠せずにいた。

 

「おじさん、苦しいの?」

 

 しかし、想像とは違ってそこにいたのはただの少女だった。

 

「いやその、久々に走ったからね。疲れただけだよ」

 

「そう?なら良かった」

 

 白いワンピースの少女は、その純白な服にふさわしい笑顔を浮かべながら僕の前に立った。

 

「それでは僕はこの辺で」

 

 サイレンの音が近づいてきた。早く先に進もう。

 

 僕がそう思って立ち上がった時だった。

 

「おじさん……」

 

「ん?なんだい?」

 

 相手が少女だから油断した?警戒を解いた?いや、違うと言えるだろう。それまで本当にこの少女は自然体だったのだ。それこそ、僕だけでなく人形の皆すら反応できないほどに。

 

「おじさんがいなければ、おとうもおかあも死ななくて済んだのに」

 

 腹部に鋭い痛みが走り、僕は倒れ込む。そんな僕を気にも止めず、少女は『僕に突き刺したナイフ』を引き抜いた。

 

「ぐっぅぅ」

 

 純白のワンピースが紅く染まっていく。それが僕の血であることを認識するのには時間が掛かった。

 しかし、指示だけは早かった。

 

「九美さん、行って」

 

 人混みの中、首を横に振る九美が見える。その手に抱えたカバンさえあれば、九美や他の皆はやっていける。だから……

 

「僕に構わず……進んでください」

 

 最後は掠れて声にならなかったが、九美なら読み取ってくれるだろう。

 

 パトカーのサイレンの音に紛れ、別のサイレンも聞こえてくる。それがすぐ近くで止まったとき、僕は意識を手放すことを選択した。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「945番」

 

 ここでの名前を呼ばれ、僕は立ち上がる。

 

「傷は十分に癒えたようだな」

 

「ええ。おかげさまで」

 

 ここに来てから一週間。僕は囚人として個室を与えられていた。というのも、お腹の刺し傷が思ったより深く、医者に完全安静を言い渡されたからだ。そんなこんなで僕は、久々に完全に独り身な一週間を過ごした。しかし、個室というものは僕のような矮小な存在には与えられない。

 

「じゃあ移動だ。これから共同房での生活だ」

 

 僕は牢屋仲間を作ることになった。まさか、数年前までの僕は、このような仲間を作ることを想定していなかっただろう。

 

「よぉ新入り。お前は何してここにぶちこまれた?」

 

「先輩、ご機嫌よう。まずはそちらから話すのが礼儀では?」

 

「ほう、生意気なもんだ。まあいい。俺は銀行強盗だ」

 

「ふむ。よほど金に困っていたんですか?」

 

「違うさ。中毒なのさ」

 

「クスリかなにかの?」

 

「いや、強盗のだ」

 

「おや、そりゃまた珍しい病をお持ちで」

 

 冗談ではないのだろう。態度を見ていればわかる。というかこの銀行強盗先輩はとてもわかりやすい。

 

「で、お前は何をしたんだ?」

 

「ニュースはあまり見ないんですか?」

 

「よっぽどな重大犯罪でもしてねえ限りニュースで見れねぇさ」

 

「なるほど、じゃあ今日のニュースが楽しみですね」

 

 夕食後の30分の自由時間。囚人たちは各々のやりたいことをできる範囲でする。そんな僕は、広場に備え付けられた一台のテレビの前を陣取っていた。

 

『それでは次のニュースです。あの話題の武器商人が捕まってから一週間が経過しましたが、彼の仲間は見つかっていません』

 

 画面にでかでかと僕の写真がのり、広場が騒然とする。

 

『捜査班は次第に激化する戦争ビジネスについて苦言を呈しており、このナオ・ハルロフ一派に関しても監視を続けているとのことです』

 

 僕に関してのニュースといえば、あと何年で釈放ですとかいう情報のみだ。

 

『続いてのニュースです。あのテロ組織に動きがあったとして―』

 

 興味のないニュースを仕入れるほど、今の僕には余裕がなかった。部屋に戻りベッドに寝転がる。どうせ夜の点呼までは何もない。仮眠を取っていても問題ないだろう。

 

 僕が寝息を立て始めるまで、そう時間はかからなかった。

 




あとちょびっとだけ続くんじゃ
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