戦争はいりませんか?今ならお買い得ですよ。セットで人形もおつけしましょう!【完結】 作:畑渚
点呼で叩き起こされてから、僕は目をこすりながら起き上がる。多少眠気はあるが、問題はないだろう。
「随分と元気そうじゃねえか」
「えっそうですか?」
銀行強盗先輩は面倒だ。だが使えると僕の中の勘がそう告げていた。
「ここに来たやつは最初はそりゃもうしょげにしょげて、もう二度と罪は犯しませんとかなるもんだぜ?俺みたいな根っから悪なやつじゃねえ限りな」
「そういうもんですかね」
まあ理解できなくもない。根っからの悪というのが何だかは知らないが、こんな監獄に入れられたら普通は改心の1つや2つするものなのかもしれない。だがしかし、僕はそんなことを気にも止めてなかった。つまりは僕は根っからの悪ということなのだろうか?果たして僕にもわからない。
「お前ってあと何年なんだ?」
「さあ?詳しい年数は忘れましたよ。とりあえず、僕がじいさんになるくらいまでです」
「うげ、お前ほんとにえげつない罪なんだな」
むしろ、生きている間に釈放されるというだけで幸運まである。それほどまでに僕がやったことは世界に反する行為だ。
「刑期くらい覚えとけよな~」
「そういう先輩は何年なんですか?」
「ん?あと1ヶ月だ。そしたら彼女にも会えるしな~」
「あー、それはご愁傷様です」
「ん?どういう意味だそりゃ」
「なに、簡単なことですよ」
点呼の警備員が回ってきて、僕らの点呼が終わる。あとは消灯までベッドで寝て過ごすのが普通だった。
しかし、僕がこっちの共同房に引っ越してきた今日だけは、その限りではなかった。
ドカーン
建物全体が揺れ、電気がチカチカと明滅したあとに消える。騒然とする牢の中、必死になだめようとする警備員たちだったが、非情にも牢屋の電子ロックが機能しなくなる。
「おいおいなんだなんだ!?」
「ニュースは見ておいたほうがいいですよ」
この刑務所、幸か不幸か、ニュースになっているテロ組織の幹部が収監されている。自由時間にひと目拝んだだけだが、すでにこの刑務所内でも人を集めるほどのカリスマ性を持っていた。そんな幹部をテロ組織が放っておくわけがない。計画は『ずいぶんと前』から念入りに組んであった。刑務所の構造の把握、部隊の構成、そして……『武器の準備』。
そして、僕が移動した今日こそ、決行日であったというだけの話だ。
「というわけでテロリストの襲撃です。テロリストか警察に撃ち殺されるか、それとも命がけで脱獄犯になるか選んでもいいですよ」
「おいおい嘘だろ!あと一ヶ月だってのに」
「だから言ったんです。ご愁傷様ですと」
必要な荷物なんて牢屋の中には存在しない。僕が着の身着のままで飛び出すとすでにロビーは脱獄した囚人で溢れており、警備員に対しての残酷な行いが横行していた。さすがは凶悪犯専門の刑務所である。
僕らは近くのガソリンスタンドまで歩き、ひと休憩する。売店はすでに他の囚人に荒らされたあとで、飲み食いできるものすら残っていなかった。
「お前はこれからどうするんだ?」
「さあ。先輩こそどうするんですか」
「俺はそうだな、とりあえず恋人をひと目拝んでから考えるさ」
「先輩らしいですね」
いい人だ。会うんじゃなくひと目見るってだけなあたりが特に気に入った。
僕はレジの脇からメモを取り出し、電話番号を書き込む。
「じゃあ、この電話番号にかけてみてください。僕からの餞別です」
「なんだこりゃ。てかお前はどうするんだよ」
「少し忘れ物を思い出しました。取ってきます」
「おいおい、今から戻るってのか?」
「はい。先輩はどうぞ行ってください」
=*=*=*=*=
「ほんとに行っちまった」
あまりの命知らずな行動に俺は開いた口が塞がらなかった。あのナオとかいうやつ、得体が知れなさすぎるだろ。しかも今や戦場になった刑務所に戻るなんて、正気を疑う。
「とりあえず、かけてみるか」
そのままガソリンスタンドのスタッフルームに入り、電話を拝借する。電気や電話線は問題ないようで、電話はすぐに繋がった。
「はいもしもし」
「あっえっと、俺はナオってやつにここに電話するように言われたんだが」
「……」
しばらく謎の沈黙が続く。
「えっと……?」
「失礼、少々取り乱しました。場所は……刑務所近くのガソリンスタンドですね。すぐに迎えが行きますので」
「迎え?」
「ええ。ですので、本通りから離れた安全な建物内などに避難しておいてください」
「は?迎えが来たのはどうやって知ればいいんだ?」
「音でわかります」
「音?」
外から、ゴォォォという謎の音が聞こえてくる。
「ええ、普通の車などとは音が違うので」
謎の音はどんどんこちら側へと近づいてくる。
「は、はぁ」
なんとなく察しが付いた気がする。
キキィィィィィィィッ
とてつもなく長いブレーキ音、明らかに普通車とは違うエンジン音。間違いなく迎えが到着したに違いない。
俺は売店から出て表通りへと近づく。そこには、黒に緑のラインが入ったバイクが止まっていた。
「お前がG36の言ってたニンゲンか?」
「しょ、少女!?」
黒いフードの中から、銀髪ロングの少女が顔を覗かせる。
「あん?聞いてねえのか。私達は……っと、ゆっくり喋ってる暇はなさそうだ」
遠くから近づくサイレンの音。
「ほら、ヘルメットだ」
「お、おう」
「早く乗れ、逃げるぞ」
「逃げる?もしかして追われてるのか?」
「当たり前だ。ここら一帯は例のテロ騒ぎで封鎖中だ」
「封鎖!?じゃあどうやって逃げるんだよ」
「そこらへんは私らに任せとけ。ナオの残してくれたものも沢山あるしな」
その後つべこべ言う暇もなくバイクの後ろにまたがった俺は、その異常な音を立てるバイクに乗ってしまったことをすぐに後悔することになった。
=*=*=*=*=
数年後
俺はナオという青年の商売を継いでいた。と言っても、実質的に社長の役回りをしているのは九美という人形だし、経理などの資料に目を通すこともない。
ナオは刑務所に戻ったあと、所内で起きた大規模な火災によって死んだと聞いた。うちの商会の人形たちはその情報にだいぶ取り乱していたが、すぐに商売を再開させたあたり、できた連中だ。ナオが残した商談を全て終わらせた頃、ようやく墓に手を合わせに行った程度しか弔いの時間はなかった。
俺は下働きから始めた。といっても、こいつらは自律人形なため、俺がやることと言えば顔役くらいだった。この世界、未だに人形に良い印象がない者が多い。それに、人形だけで運営する会社などもなく、必ず人形を指揮する人間がどこかにいる。
ナオという人物は、おそらく人形だけで運営できる商売を軌道にのせた初めての人間だろう。外の連中は俺を複数体の自律人形を駆使する敏腕商社マンだと思っているが、実際俺は彼女らの指示通りに動く人形である。もはやどっちが人形だとツッコんでいるが、俺には人間の話し相手はいないので虚空に向かってしかつぶやけていない。
ああ、ちなみに余談だが、彼女をひと目拝むことは叶った。叶ったが、すでに新しい男ができているようだった。まあ、ムショ入りの男から恋心が離れるのはよくあることだ。俺は何も言わずそっとその場を去った。その日だけうちの人形たちが優しかったのは、俺の気の所為ではないと思う。
「早く行きますよ」
「ああ、待ってくれよ。ネクタイが」
「まったく……そろそろ覚えてください」
G36が俺のネクタイを締める。ちょいちょい締めすぎだ首が絞まる。
「準備はできた?出発するよ」
「今いくよ九美さん」
今日は各国の武器会社が一同に集まる大規模なコンペティションが行われる。俺らは観客として視察に行く程度だが、それでも死ぬほど名刺を持たされている。そこで人脈を作れるかどうかが武器商人の人生に関わってくると耳にタコができるくらい聞かされた。
「うわぁ、規模すごいな」
「当たり前です。いまや軍事力こそ国力。自衛できない国から滅びますから」
となりに立つG36が表情を変えずにそう言う。彼女ほどメイドらしい人形もいないだろう。実際、役割としては俺の世話係の人形という立場になっている。人形をメイドにする人間は多いから、説明も少なくて済む。
「ほら、あそこにいる人。九美さんが指定した人物ですよ」
「なにあのあからさまに石油王って感じの人」
「実際に燃料関連の大企業の社長ですよ」
「マジ?」
「ちなみにそのお隣が近隣諸国の防衛大臣で、あっちが某警察機関の部長ですね」
「俺、もしかして場違い?」
「安心してください。曲者と呼ばれる人たちは九美さんが一手に引き受けてますから、我々はイージーモードですよ」
「イージーってなんだろうな」
ネクタイを緩めて、殻のタバコケースを片手に、俺は喫煙所へと歩いていく。
「ちょっと待ってください。どこに行くつもりですか?」
「ナオってやつがどうやってたかは知らんが、俺は俺なりにアウトローなやり方があるんだよ」
頭を抱えるG36を置いて、俺は喫煙所にいる件の人物へと、コミュニケーションを試みる。俺にかかれば、権力に守られあぐらをかいている連中なんて、カモでしかない。
数分後に全員の名刺を抱えて帰ってきた俺を、まるで鳩が豆鉄砲を食ったような顔で見つめるG36の姿があった。初めて表情がにらみ顔から変わるところを見たかもしれない。
しかし、その顔目が更に見開かれるのを見れるなんて、思っても見なかった。
「順調そうですね、先輩」
「なっ!?お前」
後ろから声をかけられ、思わず振り向く。そこにいたのは、数年前刑務所で焼け死んだはずのあいつだった。
「お久しぶりです。まさかまだ顔を覚えてくれていたとは」
「忘れるわけねえよ」
俺の人生を変えやがった張本人の顔を忘れるわけがねえ。
「G36さんもちゃんと仕事できているようでなによりですよ」
「……」
G36は声すら出ないようだ。それもそうか。死んだと思っていたはずの自分らの主がそこにいるのだから。
「生きてたんならどうして連絡をよこさなかった?」
「残念ながら、九美さんが僕の指示を完璧にやり遂げたからですね」
聞くに、ナオの収容後は俺に渡した使い捨ての電話番号を残し全ての関わりを処分させたらしい。つまりはトカゲの尻尾切りをさせたわけだ。
「さすがに、何の伝手もないところからこの会場までたどりつくのは苦労しましたよ」
「だが、これでようやく本業に戻れるってわけだ」
ということは俺はお役御免になるかもな。また放浪生活に逆戻りするのはちょっと面倒だなぁ。
「いえ、そのつもりはありませんよ?」
「は?どういうことだよ」
「いえ、もともと戻るつもりはないから離れたわけですし。今日は商売の調子と先輩の顔を拝みに来ただけなので」
「じゃあお前これからどうするつもりだよ」
「えーっと。まあとりあえずもう少し世界を歩いてみようかなと。お金もなんとか工面できましたし」
「でもなぁ」
「あ、引き止めるのはやめてくださいよ?」
「ま、まあ俺は引き止める気はないさ」
だって俺は、お前みたいな器の人間をどうこうできるような話術なんて持ち合わせてないからな。というか、これまでの記録なんかを見せてもらった限り、この会場の中で最も扱いづらいタイプの人間だと思う。それほどの話術と商売力で1人と1体からこれだけの規模の金を動かす人間になったのだから。
「だが、そのまあ」
「ん?なんです?」
「俺は、引き止めないさ。だけど彼女らはどうかな」
我らが実質社長、黒幕、親分の九美さんがこの場でナオに泣きながらラリアットをかますまで、あと10秒。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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