戦争はいりませんか?今ならお買い得ですよ。セットで人形もおつけしましょう!   作:畑渚

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魂を削る。投稿のために……


青年に仕えた彼女

 目が覚めると、何の変哲もないホテルの天井が見える。先日泊まっていた武器だらけの部屋とは大違いだ。となりのベッドに寝ていた九美さんもちょうど起き上がる。

 

 軽く身だしなみを整え終わった頃、扉がノックされる。ルームサービスで頼んでおいた朝食が届いたらしい。ついでに頼んでおいた新聞を手に取り、僕はベッドの上に広げる。

 

 

”〇〇グループの御曹司、反乱により死亡”

 

 僕の目は、その書き出しで止まった。その死亡した御曹司とやらに見覚えがあったからだ。将来が有望そうなだけあって残念だった。

 記事によると、反乱グループは全員死亡。突入部隊は全員軽症だったとのこと。なのに御曹司は死亡。直接は書いてないが、つまりはそういうことなのだろう。

 

「何見てるの~?」

 

「ああ九美さん。いえ、先日の青年が亡くなったみたいで」

 

「ふ~ん。そういうの見たら人間って普通は動揺するんじゃないの?」

 

「動揺ですか……してますよこれでも」

 

「嘘だー」

 

 朝食をもぐもぐと食べながら九美さんは顔を覗き込んでくる。その瞳に映る僕の顔は、通常通りの営業スマイルだった。

 

「僕の場合、小さい頃から営業スマイルを叩き込まれましたからね。基本的に表情に出さないように」

 

「私だけのときは別にいいのに」

 

 頬をぷくっと膨らます九美さんを見ながら、僕はコーヒーを啜った。苦味が口に広がって目がすっきりと覚める。

 

「癖ですから」

 

 僕は軽くあははと苦笑いした。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「ここですか」

 

「うん、964番。ここだね」

 

 僕は渡された鍵で南京錠を開く。鎖を取り外せば、コンテナが重々しい音を立てながら開く。中身はもちろん空だ。これから埋まることはほぼ確定はしているけれど。

 

「ようやく拠点ができるんだね」

 

「随分と嬉しそうですね」

 

 九美さんは表情こそ変わらないけれども、声が陽気を隠しきれていなかった。きっと彼女の荷物も増えることだろう。一角は彼女のためのスペースにしておこう。

 

「これでやっと商品に添い寝する生活は終わりだね!」

 

「前回は本当に堪えましたからね」

 

 流石に銃の入った箱と同衾する羽目にはもうあいたくないと僕自身も思う。寝返りをうつことすらままならないのは耐えられそうにない。

 

「そういえばさ」

 

「ん?何ですか?」

 

「どうして閃光手榴弾をあげたの?」

 

「彼の可能性に……賭けたんですよ」

 

「賭けには負けたんだ」

 

「まあ想定の範囲内ですかね。むしろ突入部隊に被害なしなら上出来ですかね」

 

 想定の中ではどちらかというと良い方だった。そう考えていると、じっと九美さんがこちらを見つめてくる。

 

「やっぱ変わってるよね、ナオって」

 

「そうですか?」

 

「今の話は私以外にはしないでね?」

 

「大丈夫ですよ。今の所話し相手になってくれるのは九美さんだけですし」

 

「それもそれでどうにかしないとね~」

 

 そういいながら九美さんはコンテナから外に出た。太陽を浴びているように腕を広げると、こちらに振り向く。

 

「それともう一つ聞きたいんだけど」

 

「何でしょう?」

 

「人形を取引しなかったのはなんで?」

 

 その言葉は、どう答えるのが正解か迷った。迷ってしまった。

 

 九美さんはゆっくりとこちらに近づいてくる。コンテナの中にいる僕は、入り口を封じる九美さんをどけない限りは出ることができない。逆光で九美さんの顔に影が差し、表情が見えなくなる。

 

「もしかしてだけど私に遠慮してる?」

 

「そんなことは……いえ、していますね」

 

「そう。じゃあさ、これからは私に遠慮なくしてよ」

 

「わかり……ました」

 

 一歩一歩、九美さんは近づいてくる。そして僕の手を取った。

 

「そろそろお腹が空いてこない?お昼を食べに行こうよ」

 

「そう……ですね。いきましょうか」

 

 何故か冷や汗で背中が濡れていた。僕の手をにぎる九美さんの手は柔らかい。まるで人間のように。しかし、何故か違和感を抱いてしまう。力のかかりかただとかそんな些細な問題なのだろう。それでも、違うという何かを感じてしまったのであった。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 よく行くランチの店が閉じていたため、僕らはあまり行かない道を歩いていた。この先を行けば、ネットで調べた店があるはずだった。

 

 ふと、すれ違ったフードの少女に目が行く。その黒いパーカーで顔を隠した彼女は、随分と優しい匂いの香水をつけていた。

 

 少女は僕を路地裏へと引きずり込んだ。明らかに人の力ではない。人形だ。その細腕からは考えられぬ、万力のような力で僕の頸動脈を絞めてくる。

 

「ナオ!」

 

 一瞬遅れて九美さんが掴みかかる。げほげほと咳き込む僕を目にもくれず、襲撃者は逃走を図った。

 

「逃さないよ!」

 

「九美さん!いいんです」

 

 どうしてと言うかのように、九美さんは勢いよく振り返った。その隙を逃さず、襲撃者は走り出し――

 

 

――そして速度を落としてゆっくりと立ち止まった。

 

「どうして……」

 

 そしてゆっくりと振り返る。フードは脱げ、手入れのされていない髪が露わになった。その瞳は、涙を流していた。

 

「どうしてご主人様を殺した!」

 

「まあ待ってください。ここは話をするには暗すぎます」

 

 ふたたび近づいてきた襲撃者は、僕の胸ぐらを掴む。僕は懐からナイフを取り出している九美さんを目で制すると、襲撃者の瞳をじっくりと覗き込む。そこには、こんなときでも営業スマイルを崩さない僕が映りこんでいた。

 

「そうやってご主人様にあなたは!」

 

「落ち着いてください。僕は人間です。あなたの力には敵わない。だから少しでも対話をしたいのであればこの手を離してもらえないでしょうか?」

 

「私は……ご主人様は……」

 

 襲撃者はへなへなとその場に座り込む。僕の胸ぐらを掴みながら。僕はその重さに耐えきれずに、彼女と共に地面に膝をついた。

 

「どうして閃光手榴弾なんて渡したんですか。あれがなければご主人様は……」

 

「気づいてほしかったんですよ。あの数は撤退用にしかならないってことをね」

 

「撤退……?」

 

 襲撃者は、まるで意もしないことを言われたかのように、その大きな瞳で僕を見つめる。

 

「その様子ですと、本当にあれを交戦のために使ったんですね」

 

「ご主人様は……突入部隊にも呼びかけました。でもアイツラは……まるでそれを無視するかのように撃ってきました。鎮圧じゃなく、皆殺しでした。念入りに、死体に向かって何度も」

 

 目の前の少女はつらつらと語り始める。僕はそれを聞きながら、九美さんに目配せをする。どうやら理解してくれたようで、九美さんは路地から出ていった。

 

「なるほど。あなたはどうして生き延びれたのですか?」

 

「私は……ただの自律人形です。倒れたご主人様の下で、ただ何もできず……、息を潜めて彼らが去るのを待つだけでした」

 

「そうですか」

 

 僕は彼女の目を覗き込む。涙で瞳は濡れていても、強い意志をこめてこちらを睨みつけていた。

 

「残念ながら僕は神でもなければ、医者でもありません。だから彼に対してこれ以上にできることはありません」

 

 僕は懐から財布を取り出し、キャッシュカードを取り出す。そしてその少女の胸ポケットへと突っ込んだ。

 

「そして、あなた自身に対しても、やれることは多くはないです」

 

 もってきていたかばんから、タブレットを取り出す。そこには僕が抱える在庫のリストが載っている。

 

「もう一度だけ言います。僕があなたにしてあげられるのはこれだけです」

 

「私に戦えと言うのですか」

 

「いいえ、まさか」

 

「……あなたは、最悪な人です。そんなに争いを見るのが好きなのですか」

 

「とんでもない。僕は得た金を眺めているだけで、争いを見たことはないですよ」

 

「やはり最悪な人です」

 

「そう呼ばれても僕には否定のしようがありません。それでは、この街にいるのでしたらまた会う機会もあるでしょう。そのときに答えを聞かせてください」

 

 僕はタブレットのリストを外部記憶装置に移して、彼女の前に置く。

 そして僕は、路地を去った。

 

 

 

 

「良かったの?」

 

「おっと九美さん。まあこれも賭けですよ」

 

「彼女がお金を持って逃げたらどうするの?私たちほぼ素寒貧になっちゃうよ?」

 

「うーん、それは流石に困りますね」

 

 僕は顎に拳をつけていかにも悩んでいますとジェスチャーをとる。

 

「でも、そんなに分が悪いわけでもないんですよ」

 

 後ろ――先程僕が出てきた路地から足音が聞こえる。その音は、まるで意思を持っているかのように硬かった。

 

「私に戦う力を売ってください」

 

 その声に僕は笑顔で振り向く。自分でも100点満点をつけたくなるようなスマイルで。

 

「かしこまりました。それではこちらのG36なんてどうでしょうか、お客様?」

 

 少女はゆっくりとうなずいた。

 




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