戦争はいりませんか?今ならお買い得ですよ。セットで人形もおつけしましょう!   作:畑渚

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あけましておめでとうございます。
今年も忙しい年になるとは思いますが、頑張っていきたいと思います。


大口注文

 G36——件の金髪の人形——が来てから、僕らの生活は少し変わった。

 

「おはようございます、ナオ様」

 

 まずモーニングコールが専属になった。彼女は僕が起きたことを確認すると、何も言わずにキッチンの方へと歩いて行く。

 そう、キッチンのあるホテルに入ったのも変化の一つだ。手狭だったホテルをやめ、少し値は張るもののキッチンのある部屋を借りた。

 結果的には金の節約になった。無駄に高いルームサービスをとらなくなったからだ。そのかわりに部屋の清掃や食事などは、G36が管理してくれるようになった。彼女の腕は、想定以上だった。

 

「いい拾いものをしたね」

 

「そうですね。すごく助かります、G36さん」

 

「いえ、お役に立てて何よりです」

 

 彼女は今までずっときていたメイド服をやめ、スーツに身を包むようになった。驚くことに、かわいささと美人さを兼ね持つ少女らしさはどこかへ消えてしまった。かわりに、どこか中性的で妖艶な雰囲気を感じる女性が、僕の側にたつようになった。

 

「それでは九美様……」

 

「うん、今日もよろしく」

 

 動きやすい格好に着替えた九美とG36が部屋を出ていく。つかの間の一人の時間だ。

 九美はG36に稽古をつけてもらっているらしい。最近は何種類かのナイフをねだられた。銃もいくつか準備しておいたほうがいいかもしれない。

 

「さて……」

 

 僕は携帯電話をとりだし、電話をかける。

 

「もしもし?はい、お世話になります、ナオです。そうです。その件でですね、今夜にお伺いしたいと思いまして。はい、ではその時間に埠頭(ふとう)でお待ちしてます。はい、失礼します」

 

 続けてもう一件だ。

 

「もしもし?はい、お世話になっております、ナオです。商談の日程なのですが……はい、今夜ですか……。できれば他の……はい、わかりました。なんとかしてみましょう。はい、それではその時間に埠頭近くのレストランですね。わかりました、では後ほど、はい失礼します」

 

 メモ帳にガリガリと書きながら、次々と電話をかけていく。

 

「はい、ナオです。入金を確認しましたので番号をいいますね。3329876、はい、そうです、3329876です。はい、では縁があれば次のご利用もお待ちしておりますね。はい、それでは」

 

「……もしもし。今夜に予約をお願いします。はい、その船で構いません。名前は……九美で、ええ、僕の名前ではないんですが。はい、よろしくおねがいします」

 

 他にも何件か電話をしたあと、携帯電話からSIMカードを抜き取る。

 

「これで今回はすべて終わり……か」

 

 利益としては莫大(ばくだい)といっていい。そして、これらの商談はさらなる利益を呼ぶ予定だ。

 

 僕はSIMカードを裁断して、窓を開ける。すぐ下には、側溝がある。僕は誰も見ていないことを確認して、SIMカードの残骸をそこに投げ捨てた。

 

「ただいま!」

 

「九美さん、おかえりなさい」

 

 汗をかいている九美とG36が部屋に戻ってくる。彼女らは着替えだけ取ると、そのままバスルームに直行していった。

 

「あれ?その下着かわいいね。どこで買ったの?」

 

「……関係のないことです」

 

「え~、おしえてよ~」

 

 薄い扉で中の声がこちらまで響いてくるので、僕はヘッドホンをして目を閉じることにした。ヘッドホンによってノイズキャンセルされた世界で、僕は一時のクラシックコンサートに耳を傾けていた。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「……オ、ねえナオ!」

 

「ん?ああ、九美さん。お風呂は終わりましたか」

 

「うん、さっぱりしたよ。それで今日の日程は?」

 

「何もないです」

 

「何も?」

 

「ええ、もう終わりました」

 

「もう!?まだお昼前だよ?」

 

「ナオ様、お昼ご飯はいかがなさいますか?」

 

「久しぶりに皆でどこかに食べに行きませんか?たまには良いでしょう?」

 

「わかりました。ではフロントに車の手配を……」

 

「いや、いい」

 

 僕はG36をとめて、ケースを渡す。

 

「これは?」

 

「今日は一般人の格好ででかけましょう。九美さんの分もこちらにはいってます」

 

「え?ほんと!?」

 

 武器との輸入と同時並行で、女性ものの服の入手にも手をだしてみた。それそのものを商材にするつもりは、いまのところ僕はない。

 

「僕はエントランスで新聞をとってきます。そのうちに着替えておいてくださいね」

 

 僕はそう言い残してから、部屋を出た。人形相手だとはいえ、服をプレゼントするという経験に、少し気まずさも感じていたのは否定できない。

 

 階段をくだっていく。その途中、僕とは逆に上っていく人とすれ違う。二人が同時に通れるほど、階段は広くなかった。

 

 踊り場で待って、その人に階段をゆずる。

 

「ありがとう、紳士」

 

「いえいえ。よい一日を」

 

 僕はとっさに営業スマイルで表情を隠す。もはや嗅ぎ慣れてしまった……硝煙の臭いで顔をしかめそうになってしまったからだ。

 

「ところで君は……」

 

 階段を登っていく途中で、その男は立ち止まった。

 

「このホテルに滞在中の武器商人を知っているかい?」

 

「武器商人……ですか?」

 

 背筋を汗が冷やす。気候にしては分厚いコート、手首まで覆う手袋。人相を隠す深めの帽子、目の前の彼がただものでないと、今更ながらに僕は気がつく。

 

「その武器商人とやら、名前はなんというんですか?」

 

「名前?たしか……ナオ・ハルロフだったかと」

 

 残念ながら、護身用の武器は持ち合わせていない。ついでに護衛は今、部屋でおめかし中だ。

 

「ナオ・ハルロフは僕ですよ」

 

「そうか、さがす手間が省けた」

 

 男は懐に手を差し込む。

 

 僕は、恐ろしく冷静だった。根拠もなく、彼は僕を殺害しにきたわけでないと確信していた。

 

「うちのボスからのメッセージだ」

 

 懐からでてきたのは、メッセージカードだった。かわいらしいカードからは予想もつかないような注文が、僕の目の中へと飛び込んでくる。

 

「わかりました。来週までとのことですが、ちょうど在庫があります。今夜にでも渡せますが?」

 

「待て、連絡をとる」

 

「ええ、どうぞ」

 

 脳内で算盤(そろばん)を弾く。奇跡的に、この偶発的な注文をさばききれそうだった。数日前に身を切る覚悟で大量入荷しておいた自分を褒めたい。

 

「ボスからの返答だ。今夜に頼む」

 

「わかりました。では今夜までに、埠頭のこの番号のコンテナ倉庫に用意しておきます」

 

「頼む。それでは」

 

 男が階段を登っていくのを眺めながら、僕は背中を壁に預ける。新たな収益に、顔のほころびを抑えきれなかった。

 

「ああもしもし、G36さん。ええ、黒猫(運び屋)に連絡を。詳細はいつものように送ると、はい」

 

 僕はプライベート用の携帯電話でそう伝えると、エントランスで新聞を一部握る。

 

 そこにはどうでも良いスキャンダルや、政治家の批評記事などが散乱していた。きっと、明日にはこの新聞の一面はでかでかとした文字で飾られるだろう。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 辺りがすっかり暗くなった頃、僕らは海の上に浮かんでいた。

 

「すごい!ナオ!このクルーザーどうしたの?」

 

「レンタルですよ。今は何でもレンタルで済ませられるのが良いですね」

 

 クルーザーのテーブルには、色とりどりの食事も並んでいる。どれも有名店のものをとりよせた。

 

「ナオ様、よろしいですか?」

 

「なんだい?」

 

 イブニングドレスに身を包んだG36が、僕の耳元でささやく。

 

「どうして今日はこんなことを?」

 

「ああ、そういえば説明をしてなかったですね」

 

 波に揺られる感覚を楽しみながら、ワイングラスを傾ける。芳醇(ほうじゅん)な香りが口内を満たした。

 

「これも依頼なんです。埠頭に人を集めてくれというね。さすがに大口な依頼だったので大変でした」

 

「へえ、じゃあ餌にした銃は不良品?」

 

「まさか。あそこに用意した武器はすべて本物ですよ」

 

 

 

 

 突如、埠頭の灯台が爆発する。それを皮切りに、あたりが騒がしくなってゆく。

 

 僕はその様子を見ながら、再びワイングラスを傾ける。

 

「本物じゃないと意味がないってどういうこと?」

 

「もともとの依頼は人を集めるだけでした。しかし、その後に『戦える人種であると好ましい』との追加依頼をいただきまして、なにやら新兵器の試験のようでしたが」

 

「それで本物の銃を与えたってこと?」

 

「そうですね」

 

 九美はしばらく腕を組んでうーんとうなっていた。

 

「それで、ナオは平気なの?」

 

「正直な話、あまりよくないですね」

 

「そうなんだ」

 

「ええ、さすがに食べすぎました」

 

「そっち!?」

 

 九美はあきれたかのようにため息をついてくる。

 

「ナオ様、クルーザーは汚さないでくださいね」

 

「大丈夫です。でも少しお手洗いに行ってきますね」

 

 僕はトイレの個室へと駆け込む。胃がひっくり返りそうだった。

 

 少しすっきりさせたあと、洗面台で顔を洗う。冷たい水が心地よかった。

 鏡に映る自分は、いつもの笑顔はどこへいったのか険しい目つきをしていた。

 

「まったく……僕もまだまだですね」

 

 無理やり手で口角をあげる。そうすれば、気味が悪いほどに嗤う男が映りこむ。

 その表情で固定したまま、僕はふたたびデッキのほうへと戻っていった。

 




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