ふゆしおの艦長室は晴風に比べても中型艦故狭い、一応ベットと小さいながらも執務用の机が設置されてはいるが。
まあ個室など無くベットのみの乗員達よりはまだましかもしれない。
艦長室に入った綾は麻耶をベットに座らせ、来客用のソファなど無い為だが、自分は椅子に座る。
「・・・事情を話してくれますか遠藤電信員。」
ベットに座った麻耶は暫く俯いていたが顔を上げて綾を見ると話し始める。
「俺っちには漁師だった親父いったす、頑固だったけど頼りがいがあって、他の漁師連中に慕われていったす。」
そこまで話すとまた俯き暫し沈黙した後続ける。
「でもある日漁中に遭難して・・・ブルーマーメイドが捜索してくれたんっすけど天候が悪化してきた為打ち切られて。」
麻耶はまたそこで暫し沈黙した後辛そうに続ける。
「そして翌日に発見されたんすっけど、結局一緒に遭難した他の漁師達を含めて亡くなっていたっす。」
そんな麻耶を綾は何も言わずに見つめていた。
「もちろんブルーマーメイドの人達に恨みは無いっす、天候が悪化する中ぎりぎりまで捜索してくれたんですから。」
そこで顔を上げた麻耶は綾を悲しそうな表情を浮かべながら話す。
「それでも・・・あと少し捜索が続けられていたと思い出す度に・・・だから・・・」
「なるほどだから貴女はあそこで何故捜索に私達が出ないのかと言った訳ですね。」
過去父親を失った事を思い出し麻耶はその時の状況を重ねてしまったのだろうと綾は思った。
「艦長達に校則違反をさせてしまって申し訳ないっす・・・だから責任は自分が・・・」
そう言い掛けた麻耶を綾は両肩を掴んで止めさせると微笑みながら言う。
「例え貴女が言わなくても捜索を決めたでしょう・・・私だって救えるチャンスがあるのなら迷わず行動しますよ。」
「艦長・・・」
ほほ笑む綾を見ていた麻耶は涙眼になると抱き着いて来る。
「遠藤電信員!?」
突然の事に綾は固まる、女の子の身体になってから抱き着かれる事が多くなったのだが未だに慣れないからだ。
「嬉しいっす艦長。」
麻耶はそう言って涙を流しつつ抱き着いていた、恥ずかしかった綾だが結局は引き離す事が出来ないまま暫くそのままでいるのだった。
「艦長!発令所へ救助者を発見・・・一体何をしているんですか二人とも?」
ノックもせず艦長室へ入って来た亜紀は抱き合う綾と麻耶を見ると、報告を止めて冷たい視線と声を向けて来る。
「いやこれは別に深い意味は・・・澤田記録員誤解です!」
冷たい視線に浮気のばれた男の様に背筋が凍る思いをしながら綾は亜紀に弁解する。
「誤解ですか艦長・・・何がですか?」
益々冷たくなる視線と声に綾は背筋でけではなく前進が凍る思いを、麻耶が我に帰って離れてくれるまで味合う羽目になるのだった。
まあ別に恋人同士ではないので慌てる必要は無い筈の綾だったが、残っていた男の感性故にそんな反応を示してしまったのだが。
なおこの後綾は亜紀と今度の休暇時に一日中付き合う事を約束させられたのは言うまでもない。
修羅場(笑)を終えた綾は亜紀と麻耶と共に発令所に戻って来る。
そして麻耶は通信機に向かい、綾と亜紀はタラップを登って司令塔上に出る。
「それで救助者は?」
司令塔上で待機して居た優香に綾が確認する。
「前方500にボートらしきものが有ります艦長。」
探照灯で照らされた海上を双眼鏡で見ていた航海管制員の優香が答える。
綾もまた持って来た双眼鏡を構えて見て洋上を漂うボートを見つける。
どうやらボート上に誰かが乗って居る様だが意識を失っているのか動かない。
「機関反転、現在位置にふゆしおを停止させて下さい。」
艦内通話機を使い綾は発令所に指示を送る。
『機関反転、停止します。』
機関長の舞の復唱が帰ってくると綾は今度は亜紀に指示を出す。
「ボートを用意して救助者の収容を急がせて下さい。」
「了解です艦長。」
指示を受けた亜紀は甲板上で待機していた乗員達に声を掛ける。
「ボートを用意、救助者の収容を行って下さい、急いで!」
「「「はい。」」」
乗員達は既に艦内から持ち出していたボートを付属のボンベで膨らますと、洋上に浮かべると飛び乗って救助者へ向かう。
そして到着するとあちらのボートに素早く乗り移る。
『艦長要救助者を確認・・・意識はありませんが大きな外傷は無しです。』
その報告に綾は亜紀や優香と顔を見合わせて微笑合う。
「ご苦労様です、それでは収容して戻って下さい・・・あと澤田記録員は衛生長に連絡を。」
『了解、直ちに収容して戻ります。』
「はい艦長、衛生長に連絡をします。」
救助に向かった乗員と亜紀は綾の指示を復唱すると行動を開始する。
それを見ながら綾は深い溜息を付きつつ呟く。
「あとは・・・宗谷校長先生に報告ですね。」