潜水直接教育艦ふゆしお   作:h.hokura

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13.7月25日・その1

青い海、広がる砂浜、真夏の日差し。

正に夏の海と呼べる光景だがそれを見つめる綾の心情は真冬の様だった。

「何景気の悪い顔をしているのかしら綾は。」

絶対面白がっているだろうと綾は声を掛けて来た親友でありふゆしお記録員の亜紀を睨むのだが・・・

「良いわね綾のその水着。」

途端に真っ赤になりあたふたと自分の水着姿、青のビキニに白のパレオ姿を何とか隠そうとする綾に亜紀は微笑む。

いや亜紀だけで無く一緒に来ていたふゆしおの発令所メンバー達も同様にそんな綾を見て微笑でいるのだった。

「はあ・・・だから来たくなかったのに。」

真っ赤になって俯く綾はこうなった経緯を思い出していた。

事の始まりは長期休暇に入る直前に交わしたふゆしお食堂での亜紀との会話だった。

「そうそう休みに入ったら発令所メンバーで海に行くから綾も準備を忘れずにね。」

食後のコーヒーを飲んでいた綾は亜紀の言葉に危うくそれを吹き出しそうになってしまった。

「ちょ、ちょと待って下さいいつの間にそんな話が・・・」

自分の知らない所で決まっていた予定に綾が慌てて聞き返す。

「だって綾言ったら行かないって言うでしょ。」

だからこちらで決めておいたからと言う亜紀に綾は頭を抱えてしまう。

確かに亜紀から休みに入ったら海かプールに行こうと誘われていたのだが綾は断っていたのだ。

海に行くとすれば水着姿になるいやさせられるのは明白だったからだ、それは女子になって間もない綾には恥ずかしい展開だ。

それでなくても授業で学校指定のスクール水着(例の青と白のやつ)を着るのに苦労している有り様なのに。

「それそうですが・・・だからと言って。」

「私は綾と海に行きたいと思っているのに・・・」

抗議しようとする綾に対し目を伏せ悲しそうな表情と声(もちろん演技だ)をして見せる亜紀。

「はあ・・・もう良いです。」

そんな亜紀の演技に綾は自分が悪いのかと理不尽に思いながらも受け入れるしかなかった。

「ありがとう綾、貴女のそう言うとこ好きよ。」

嬉しそうに微笑みながら言う亜紀の台詞に当然真っ赤な顔になる綾だった。

「綾も参加してくれる事になったし休みに入ったら直ぐに水着を買いに行きましょう。」

だが次に亜紀が言った台詞に綾は今度は顔を真っ青にして聞き返す。

「そ、それって私もですか!?」

「当り前よ綾、年頃の女子だったら学校外でスクール水着なんか着ないわよ。」

綾が海でスクール水着を着るだろうと思っていた亜紀は人差し指を突き付けながら断言する。

「まそう言う訳で綾、横須賀女子に戻った翌日に行くから宜しくね。」

死刑判決に等しい亜紀からの宣言に綾は項垂れるしかなかった。

そして亜紀の宣言通りふゆしおが横須賀女子に帰港した翌日に綾は亜紀によって水着ショップ連行され散々着せ替え人形にされた。

その結果選ばれたのが今綾が着ている水着(青のビキニに白のパレオ)である。

なおかなり過激な水着も候補に上がって綾が卒倒しかけた場面が有ったのは言うまでも無い。

「艦長、まるで女神みたいっす。」

某電信員が顔を真っ赤にして目を潤ませながら言って来るが綾には恥ずかしくてたまらないだけだった。

「そ、そんな事無いと・・・って写真撮らないで下さい亜紀、皆さんもです!」

何時の間に亜紀達が綾を取り囲みスマホやタブレットでの撮影会が始まってしまい綾が顔だけで無く全身を真っ赤にしながら叫んだが。

余計亜紀達を煽る結果になっただけだった・・・(笑)

だが綾にとって地獄の撮影会が終わっても受難は続く。

「やあ皆どこから来たの?」

「ねえ一緒に遊ぼうよ。」

そうこう言った場では当たり前のナンパである、行く先々で出て来るそれに綾はいい加減困ってしまっていた。

「どこからでも良いでしょう。」

「残念ながら間に合っているっすよ。」

「貴方・・・死線が出てますよ・・・」

まあこのメンバー相手に対抗できる男達など居る訳も無く次々に撃沈されていくだけだったが。

何でもまあこんなに寄って来るのかと綾は内心深い溜息を付いていたが、その理由が自分に有るとは気付いていなかった。

黒髪で清楚、スタイルだって胸のボリュームは控え目だがそれを含めて美しい身体のライン。

加えて自分の水着姿に恥ずかしがっている姿が男性達どころか女性達にも受けているからだ。

まあ綾本人はその理由を知っても嬉しくも無いだろうが。

そんな些細な出来事(綾はもちろんそう思っていない)が有りつつも皆海を楽しむ発令所メンバー達。

メンバーによる遠泳大会では男どもが乱入したが彼女達の半分にも満たない距離で全員リタイヤし砂浜に屍が並ぶ結果になった。

まあ本当に亡くなった訳では無く体力を全て使い果たし足腰が立たなくなっただけだが。

大体ナンパなどやっている軟弱な連中が海洋学校の生徒として厳しい訓練を受けている綾達に敵う訳無いのだが。

そして昼食が賞味期限切れ寸前のレトルトを許可を得て持って来て携帯コンロで温めたものだったのはまあ彼女達らしいと言える。

その後は偶然にも浜辺で行われたビーチバレーに飛び入り参加したりもした。

ここでは綾&亜紀の艦長&記録員組と以外にも真奈美&麻耶の低テンション&高テンション組が決勝で戦う場面もあった。

ちなみに優勝したのは艦長&記録員組の綾&亜紀の方だった。

まあ優勝が決まった瞬間亜紀に抱き着かれた綾が真っ赤になって硬直していたのは何時もの事だったが。

そんな楽しい時間も終わりそろそろ帰ろうとしていた時に事件は起こったのだった。

持って来た荷物をまとめ着替えをする為海の家に来た綾達はそこに何人かの人々が集まり深刻そうに話している場面に遭遇する。

「まだ戻っていないって・・・どこへ行ったて言うんだ。」

「話じゃあそこからしいがはっきり分からん。」

「だがあそこだとしたら早くしないと・・・」

その深刻な様子に綾達は思わず顔を見合わせてしまう。

「あの・・・何かあったんですか?」

余計なお世話かと思ったが綾は傍に居た海の家の女性従業員に聞いてみる。

「え?ああ実は子供2人が海に出たまま戻って無くってね。」

「ブルーマーメイドに通報はされていないのですか?」

亜紀がそう尋ねる、海で事故になったと言うならブルーマーメイドかホワイトドルフィンに通報した方が良い筈だ。

「それが・・・子供達の行った場所がはっきりしないって言って、でもあそこだったら間に合わないかもしれないのに・・・」

その従業員はイライラした様子で議論している男達を見ている、いや彼女以外の女性達が同じ様な感じでいるみたいだった。

「あの皆さん、そんな事をしているより通報をされた方が良いのではないですか?」

綾がそう言うと議論していた男の1人が睨みつけながら答えて来る。

「何だお前は・・・子供は黙っていれば・・・」

「いい加減にしな!この娘の言っている通りだろうが。」

男の言い方にイライラしていた女性が綾を援護してくれる。

「そうですね、これでは助けられる人も助けられなくなります。」

「これだから男ども駄目っすね、議論している暇があれば動け良いじゃなっすか。」

女性に続いて亜紀と麻耶も援護に入り、他の発令所メンバーを口々に「何をやっているのか。」と言って男達を睨む。

これに周りに居た女性達が加わり男達は何も言えなくなってしまうのだった。

その光景に元男性の綾は女性は強いなと今更ながら思ったのだった。

「それじゃ子供達は海底洞窟に行ったかもしれないと?」

役に立たない男達(元同性の綾として情けなくなったが)の代わりに事情を知る女性が詳しい話を綾達にしてくれる。

「そうさ、しかもそこは時間が経てば水没してしまうんだよ。」

この海岸から1時間程行った小島にその海底洞窟への出入り口があるらしく子供達はそこから入ったかもしれないと女性は言う。

不味い事にその洞窟は潮の流れの関係で日が暮れる頃には内部が完全に水没してしまうらしい。

だとすれば事態は急を要する事になると綾は表情を曇らせ隣でタブレット端末を操作している亜紀に問い掛ける。

「ブルーマーメイドの方はどうですか?」

男達を黙らした後綾は亜紀にブルーマーメイドへ通報を入れる様に頼んだのだが。

「直ぐに救助チームを送るそうですが・・・到着にかなり時間が掛かるみたいです。」

近くの海域で漁船の遭難が有ったらしく時間が掛かるらしいと亜紀は深刻な表情を浮かべ答える。

ちなみにホワイトドルフィンの方も同様に駆り出されている為ブルーマーメイドより時間が掛かってしまう。

「確か19時には完全に水没してしまうと言ってましたから・・・」

綾は自分のスマホの時刻表示を見ながら考え込む、現在17時を過ぎており猶予はほとんど無いと。

「・・・澤田記録員、横須賀女子に救助作業の許可を至急要請して下さい。」 

「綾、艦長?」

「あんた何を?」

何かを決意した綾が出した指示に亜紀が思わず艦長と呼んでしまう、説明していた女性もその雰囲気に聞き返して来る。

「私達ならギリギリですが辿り着いて救助作業出来ます。」

「分かりました艦長、皆さん。」

「スキッパーなら確かそこの港に係留されていたっす。」

「スキューバの・・・器材なら・・・貸し出している・・店がありました。」

「よし愛先ずはスキッパーを確保しに行くぞ。」

「はい!」

「八重さんと美沙さんは器材の方をお願いします。」

綾の言葉を受け亜紀達は即座に役割を決め動き始める、この辺は常にふゆしおで培ってきたチームワークがものを言った。

「あ、あんた達が行くのかい?」

茫然としていた女性が我に帰って聞いて来る、一応綾達が横須賀女子の学生で有る事は説明されていたものの驚きは隠せなかった様だった。

「その為の訓練を私達はやってきました・・・出来るのにやらないなんて選択はありません。」

そう言って綾は微笑む、ちなみにそれを見て男性陣だけで無く女性陣まで見惚れてしまっていたが。

「艦長、スキッパーを確保しました。」

「器材借りて来たっす。」

「艦長、横須賀女子より救助任務の許可が下りました・・・何を優先すべきか常に考えて行動する様にと宗谷校長先生から伝言です。」

全てが揃い綾は亜紀達の顔を見渡しながら命じる。

「それでは救助活動開始です皆さん。」

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