暗くなっていく海上を明かりで前方を照らしながら2隻のスキッパーが航行していた。
搭乗して居るのはウェットスーツを着込んだ綾と亜紀、2人がスキッパーとスキューバのライセンスを両方とも持っていたからだ。
残りのメンバーは横須賀女子やブルーマーメイドへの連絡の為待機している。
やがて前方に子供達が探検と称して入り込んだ海底洞窟の入り口がある岩礁が見えて来る。
綾が手で合図を亜紀に送るとスキッパーは速度を落としつつ岩礁に接近して行く。
そして岩礁の周囲を回り止められているボートに気付くと綾は更に速度を落とし亜紀と共に近くまで寄ると停止させる。
「まだ洞窟内に居るみたいですね。」
停止したスキッパー上から大型のライトでボートを照らしながら亜紀が溜息を付きながら言う。
「ええ、残念ですが・・・」
綾と亜紀にすれば岩礁の上か洋上に居てくれる事を願っていたのだがそうは行かなかった。
気を取り直し綾と亜紀は岩礁に上陸すると海水で満たされている洞窟の入り口を覗き込む。
この洞窟は住民の言によればU字型の洞窟らしく海水で満たされなければ一旦下方に降り暫し水平に歩いて再び登れば奥に到達するらしい。
子供達が居るとすればその洞窟奥だろう、そしてそこが海水で満たされるまで後1時間も無い。
「急ぎましょう。」
「はい艦長。」
綾と亜紀はスキッパーから装備を降ろし身に着け始める、普段の訓練もあって2人は素早く支度を終える。
互いに相手の装備を確認した綾と亜紀はレギュレーターを加えマスクを降ろすと洞窟の入れ口から海中に潜って行く。
海中と違い洞窟の中は暗く水中ライトで前方を照らしながら綾と亜紀は進む。
やがて水平だった底が上方へ向かう場所に着いた綾と亜紀は顔を見合わせて頷きあうと上方へ向かって行く。
「わーんお母さん・・・」
「泣くなって、うう・・・」
2人の子供達は迫って来る水面に怯え泣きながらも洞窟の上方に逃げていたが最早それも限界に近づいていた。
今自分達の居る場所まで海水が満たされたらどうなるかは子供達でも分かっているだけに恐怖と後悔に押しつぶされそうになっていた。
彼らもこの洞窟の事は知っており海水が入って来る前に出る積もりだったのだが、珍しい石を見付け夢中で収集していて時間を忘れてしまったのだ。
ただ泣きじゃくるしかなかった子供達は突然目の前の海面が割れ何かが出て来た瞬間抱き合うと大きな悲鳴を上げる。
「・・・もう大丈夫ですよ。」
「「えっ?」」
だがそんな子供達は掛けられた優しい声に視線を戻しそこにマスクを上げレギュレーターを外した2人に気付く。
「「うわぁぁん!!」」
「よく頑張りましたね、さあ帰りましょう。」
その声に一瞬茫然とした子供達は次の瞬間泣きながら抱きついて来る、それを受け止めながら綾が言う。
「で、でも僕達お姉ちゃん達みたいに潜れないけど・・・」
まだ幼い彼らにスキューバダイビングの経験どころか知識も無いのは仕方ない話だ。
実は救助の際に一番問題なると思われたのはこの事だったのだが、もちろんその辺は考慮済みの綾達だった。
「心配しなくても良いから、貴方達はこれを使って貰うから。」
そう言って亜紀が子供達に見せたのはフリーフローヘルメット、水中で逆さまにしたバケツには水が入らないことを応用した潜水具だ。
これは首下あたりまでを覆うヘルメット状のもので、水上の空気供給装置からホースで空気を供給して使用する。
よく海底観光に使われているもので、これも八重と美沙がショップから借りて来たものだった。
このヘルメットは非常時を想定して、オクトパスと呼ばれる予備のレギュレーターと接続出来る様になっていた。
今回綾達はその機能を使って子供達を救助しようと考えたのだった、これなら彼らもパニックにならずに海中を移動できると。
子供達も安心した様子でどうやら問題無いと綾と亜紀はほっとした表情を浮かべる。
とは言えこのヘルメットは救助作業を想定した潜水具ではないので最後まで気が抜けないのだが。
綾と亜紀は子供達にヘルメットを被せ、各々のオクトパスを接続し空気の供給を確認すると一組づづ海中に入って行く。
底に着いた綾と亜紀は子供達を抱きしめながら慎重に進み、上に向かう場所に到着するゆっくり浮き上がって行く。
洞窟入り口の海面に浮き上がった綾と亜紀は子供達のヘルメット外すと先に上がらせた後自分達も続く。
抱き合って喜び合う子供達を見て微笑み合う綾と亜紀は突然こちらを照らす光に目をそちらに向ける。
その洋上には改インディペンデンス級沿海域戦闘艦が停泊しており、光は発進して来た3台のスキッパーからのものだった。
やがて3台のスキッパーは岩礁に到着するとブルーマーメイド制式のダイバースーツを着た隊員達が降りて来る。
「横須賀女子の生徒さんね、私達はあけぼの所属の救助隊の島村です。」
3人の先頭に居た女性が綾と亜紀を見て声を掛けて来る。
「はい、横須賀女子所属のふゆしお艦長神城 綾です。」
「同じくふゆしお記録員澤田 亜紀です。」
現れたブルーマーメイド隊員達に綾と亜紀は姿勢を正し答える。
「救助ご苦労様でした、流石は横須賀女子と言う事かしら・・・そんな後輩達にOGとしては鼻が高いわね。」
微笑んで島村隊員がそう言って来る、どうやら彼女は横須賀女子の卒業生の様だった。
そんな先輩の言葉に綾と亜紀は恥ずかしげになりながらも「「はいありがとうございます。」」と答える。
その後綾と亜紀は子供達と共にあけぼのに乗って来たスキッパーと一緒にに収容され港に戻って行った。
「「「艦長、澤田記録員お疲れ様です。」」」
港に到着したあけぼのから降りて来た綾と亜紀は留守番役の発令所メンバー達に迎えられる。
「ありがと皆、救助は完了、子供達も無事です。」
綾と亜紀と共に降りて来た子供達は、あけぼのからの連絡を受け待ち構えていた親達に抱きしめられ再び泣き出していた。
それを見ていた数名の住民達が綾と亜紀の元に来て深々と頭を下げてお礼をして来る。
「ありがとう、あの子達が助かったのは君達のお陰だ。」
「本当にありがとうございました皆さん。」
「ありがとうお姉ちゃん達。」
子供達とその親達もやって来てまるで拝むように礼を言って来る、お陰で綾と亜紀は恥ずかしさに何て答えて良いか分からず固まってしまう。
そんな綾の肩に手を置いて島村隊員が微笑みながらアドバイスをしてくれる。
「貴女達は感謝されるだけの事をしたのだから堂々としなさい。」
そのアドバイスで落ち着けた綾は囲んで居る住人達に堂々とした態度で答える。
「いえ私達は当然の事をしたまでです、ブルーマーメイドを目指す者として。」
こうして綾達の海水浴は大波乱の中に終わったのだった。
なおこの救助の為帰りの電車に乗れなくなってしまった綾達だったが、あけぼの艦長の好意で横須賀まで帰る事が出来た。
「皆さん横須賀女子生徒としてとても立派でした。」
ただ宗谷校長がそう言って直々に出迎えてくれるとは思っていなかった綾達が大いに慌てたのはまあ余談である。
もっともこれで終わった訳では無く、綾達の救助の事はマスコミで大々的に報道される事になった。
また綾達は救助された子供達の住んで居る街とブルーマーメイドから表彰され、それもまた大々的に報道されたのだ。
発令所メンバー達は大いに喜んでいたのだが、綾は『横須賀女子の美少女艦長が子供達を救助。』と言う見出しの記事に真っ赤になっていた。
「何ですか美少女艦長って言うのは・・・」
そんな事当然だと言う顔をして頷いている発令所メンバー達を綾は恨めしそうに見つめるのだった。