洋上を1隻の漁船が漂流していた。
『第一大東丸』
船尾にそう船名が書かれている漁船上で漁師達は疲れた表情で居た。
「エンジンはやはり駄目か?」
年季の入った漁師と言う風防の男性が尋ねる。
「駄目ですね・・・まったく動かねえ。」
第一大東丸は漁場へ向かう途中でエンジン故障を起こし、現在漂流中だった。
「まったくついていないな・・・お前さんも。」
漁師が1人が苦笑しつつ若者の肩を叩きながら言って来る。
だが肩を叩かれたまだ10代の少年は何でもない様に答える。
「いえこれも良い経験になります!」
そんな返事を聞いて話し掛けた漁師は苦笑する。
「お前らしいな、まったく。」
今回が初めての漁なのだがこの少年、大山 大輔は最初からこんな感じだった。
「まあ漁師をやるならこれくらいで良いさ・・・でブルーマーメイドから通信はあれから入ったのか?」
そのやりとりを見ていた船長も苦笑しつつ通信員に尋ねる。
「さっき船を向かわせるって言って来た後入ってこないです。」
通信機に向かっている漁師がダイヤルを回しながら返答する。
「そうか・・・」
船長はそう言って溜息を付く、エンジン故障が起き、自力で回復できないと分かった時点で救難要請をだしたのだが。
運悪く近くにブルーマーメイドの艦艇がおらず暫く待つよう指示があった。
その後救助の船を向かわせると連絡があったが未だに現れなかった。
「こんなちんけな漁船なんか忘れたんじゃないんですか?」
漁師の1人が皮肉っぽい表情を浮かべて言うと他の漁師達が笑いながら相槌を打つ。
「だな・・・こっちが男だから見捨てられたんじゃないのか。」
「だとしたらお前の所為だな、俺はイケメンなのにな。」
「馬鹿野郎、鏡をよく見ろ。」
漁船上で漁師達はそう言って笑い合う、まあこうでもしていないと不安だったからだが。
だからそんな彼らを海の中ら見てる者が居る事に気付いてかった。
「・・・薫の奴元気かな。」
大輔はそんな漁師達の声を聞きながら遠くの水平線を見つめて呟く、だから彼が一番先に気付く事になった。
「あれって・・・うぉ!?」
海面上に何か棒の様な物が見え大輔は目凝らす、すると突然海面が盛り上がり何かが現れ彼は思わず叫んでしまう。
「どうしたっておいあれ!」
大輔の声に漁師の1人が振り向きそれを見て彼も叫んでしまう。
「何んだどうし・・・」
他の漁師達も気づき言葉を途切れさせてしまう、がそれはしょうがないかもしれない。
眼前に現れたのが潜水艦だったのだから・・・
司令塔上に出て来た綾は漁船上でふゆしおを見て固まっている漁師達を見て苦笑する。
「まあ仕方ないですね、目の前に潜水艦が現れたらそうなりますよ。」
隣に立ち同じ様にその光景に苦笑していた亜紀が言う。
硫黄島の訓練基地へ向かう途中のふゆしおに横須賀女子を通し、ブルーマーメイドから第一大東丸への救助要請があったのは数時間前の事だ。
どうやら近くにブルーマーメイドの艦艇が居なかったらしく、現状で一番早く救援に行けるのがふゆしおだったからだ。
第一大東丸がエンジン故障で最寄りの港まで曳航するだけで良かった事もあって横須賀女子の許可も直ぐに下りのだった。
まあ故障した船を曳航するのは訓練にもなるので綾達もそれ程気負っていなかった。
「ボートの準備を記録員。」
「はい艦長。」
状況の確認と救助の説明に第一大東丸へ向かう為綾はボートの準備を指示する。
亜紀の指示で乗員達がボートを引き出し膨らませるとふゆしおの舷側の海上に浮かべる。
「それじゃ行ってきますので艦をお願いします。」
「・・・まあ問題無いとは思いますが慎重にやって下さいね艦長。」
数人の乗員と乗り込みながら綾がそう指示すると亜紀が心配そうに答える。
「心配過ぎですよ。」
苦笑しながら綾が言う、確認と説明だけし1人と言う訳でも無いのオーバーだと思って。
もっとも亜紀が心配しているのはそんな事では無かった、綾の男性に対する無防備な姿勢についてだった。
亜紀や他のふゆしお乗員からすると綾は年頃の少女だという自覚に欠けて見えるのだ。
加えて自分がレベルの高い美少女だと言う事もだ、同性さえも魅了してしまう綾を男性がほって置く訳が無い。
「・・・」
だから同行する乗員達に亜紀は目で綾を頼むと伝える。
「・・・」
乗員達も亜紀の目での指示に深く頷いて見せるのだった。
発進したボートが第一大東丸に接近すると乗員がロープを投げ漁師の1人が受け取り固定してくれる。
綾はそれを確認すると漁船に慣れた感じで乗船する。
「お待たせしました横須賀女子所属のふゆしお艦長神城 綾です。」
漁船の甲板で待っていた漁師達の前に立ち綾が話し掛けるのだが・・・
「「・・・」」
1人を除いて漁師達は綾を見て茫然として答えられなかった、その美少女ぶりに当てられて。
「どうかしんですか船長?」
唯一それに当てられなかった若い漁師がそう聞いてくる。
「あ・・いやすまん船長の・・・」
慌てて自己紹介する船長、良い大人が自分の娘位の少女に見とれてしまった恥ずかしさに襲われながら。
「き、機関長の・・・」
良い年した男どもが焦った様子で返答する姿に綾以外の乗員達は苦笑していた。
「俺は漁業学校から実習で乗船中の大山 大輔です。」
「!?」
そんな自己紹介をした彼を見て綾は驚きに襲われていた、何しろ大輔は綾が薫だった頃の親友だったからだ。
こうして綾は意図せず自分の過去と対面する羽目に陥ったのである。