大輔と綾(その頃は薫だったが)は何故か仲が良かったのだ、性格も身体つきも両極端にも関わらずだ。
当時の同級生達も不思議がっていた。まあそれはそうだろう、男臭さの象徴の大輔と、容姿は女の子っぽい薫の組み合わせなのだから。
そのお陰か、二人は同級生の間では凸凹コンビとして有名な存在だった。そしてその腐れ縁は中学時代まで続いた。
だが中学在学中に薫が病気療養と言う名目(実際は半陰陽の為だが)で別れる事になった以後は連絡を取ろうとはしなかった。
それがまさかこんな所で再会する事になるとは綾は思ってもみなかった。
「艦長?」
動揺する綾を見て乗員の1人が声を掛けて来る。
「あ、いえ何でもありませんよ、で、ではこれから曳航について説明を行います。」
我に帰った綾は顔を真っ赤にしつつふゆしおによる大東丸の曳航について説明を始める。
言って置くが綾が動揺し顔を真っ赤にしたのは自分の過去と唐突に対面した所為で、決して大輔に再開出来たからでは無い。
だが乗員達は挙動不審になった原因が大輔だと気づき、綾との関係を誤解してしまったのだ。
「「「まさか艦長と彼って!?」」」
綾にしてみれば完全に勘違いなのだが、恋愛に関心の強い年代の少女達であった事が事態を余計ややこしくしていた。
ちなみにこの時点で亜紀の綾を守ってくれとの願いを彼女達は忘却の彼方に捨てていた(笑)。
「説明は以上です、では作業に入りますね。」
流石艦長に選ばれるだけあり綾は説明している中に何時もの冷静さを取り戻していた。
「ええお願いします。」
「了解です、それでは皆さん作業に入って・・・どうしましたか?」
説明を終え乗員に指示を出そうとした綾は何故か浮足立っている皆を見て困惑してしまう。
「いえ何でもありません艦長、それでは頑張ってくださいね、皆行くわよ。」
「「了解!」」
今までに見た事の無いテンションに目を丸くして綾は乗員達を見送るのだった。
「「むっ綾(艦長)に何か!?」」
その時記録員と電信員が何かを感じたのは言うまでも無い(笑)。
「ワイヤーを・・・そういいわよ。」
ふゆしおからワイヤーが第一大東丸渡され乗員達が固定して行く。
「第一大東丸側固定良しです艦長。」
「了解です、ふゆしおへ前進微速。」
『こちらふゆしお、前進微速。』
ふゆしおが微速で前進を始めるとワイヤーがピンと伸びて大東丸を引っ張って行く。
「ワイヤー問題ありませんか?」
綾がワイヤーを監視している乗員に確認する。
「今の所問題なしです艦長。」
「了解です、それでは慎重に行きましょうか。」
ふゆしおと大東丸双方を注意深く監視しつつ綾が曳航を見守る。
「今の所問題なしですね。」
そう綾がほっと一息ついた時だった。
「いやご苦労さんだね。」
そう言って大輔が話し掛けて聞きたのだ、思わず綾が硬直してしまったは言うまでも無い。
「い、いえどうも・・・ありがとうございます・・・」
傍から見ると挙動不審の綾だが、大雑把な性格の大輔は気づかない。
一方傍にいた乗員の少女達は顔を寄せ合って「やっぱり。」とか「艦長頑張って。」と勝手に盛り上がっていた。
まあ綾は動揺した状態で大輔は周りを気にしないタイプだったので、2人ともそんな周囲の様子に気づいていなかったが。
「それにしても同じ年で艦長か・・・たいしたもんだぜ、俺なんか未だに見習いだぜ。」
「わ、私も似たようなもので・・・艦長なんてやってますが、それも入学時の成績が良かったからで・・・」
全身に冷や汗が出る思いで綾は会話を続ける、正直言ってこの場から今すぐ逃げ出したい思いだった。
過去の薫の事を知っている大輔相手ではそうなってしまってうのは綾しては当然だろう。
とはいえ艦長として作業の監視をしなければならず今の持ち場を離れる訳にいかず綾は進退窮まっていた。
「そうだ俺の中学の時の親友が東舞鶴男子海洋学校に進学したいと言っていたな・・・薫のやつ入学出来たのかな・・・」
懐かしそうに話す大輔を見て綾は罪悪感捕らわれる、本人が目の前に居るの薫だと言えない事に対して。
だが今は少女になってしまった事を告白する勇気を出せず、綾は自分の心の弱さを悔いていた。
「まああいつなら俺より出来がいいから大丈夫だろうな、っと悪いな俺の思い出話してしまって。」
「いえお気になさらいで下さい・・・彼もきっと頑張っていると思いますよ。」
東舞鶴でなく横須賀の方で・・・
「おい大輔!サボってないでこっちを手伝え。」
「おっといけね!それじゃな艦長さん。」
先輩漁師に怒鳴られた大輔はそう言って離れて行く、綾はようやく緊張を解く事が出来て座り込みそうになってしまった。
何とか気を取り直して監視に戻ろうとした綾は周りに居た乗員達の生暖かい視線にようやく気付く。
「えっと何か?」
「「「いえ何でもないです艦長。」
彼女達してみれば何とももどかしい綾と大輔の会話にヤキモキしてしまったからだが。
もっとも綾と大輔の2人の間にロマンスが芽生える事は無いだろう。
今は少女になったとはいえ綾にとっては大輔は男時代の友人であり、異性としての認識は無いのだ。
「そうですか・・・では引き続き監視を。」
「「「はい艦長。」」」
そんあ皆の心情に気づく事も無く綾は指示するのだった。
「「大東丸に行かなければ!!」」
「ちょっと2人共落ち着いて下さい・・・誰か止めるのを手伝って!」
その頃記録員と電信員がふゆしおで暴走していた(笑)。
まあその後は何事も無く、綾は監視に忙殺され、大輔は先輩漁師に叱咤(嫉妬?)されこき使われていただからだが、目的地に到着した。
「ワイヤーを外して下さい、注意を払うのを忘れすにお願いしますね。」
近傍の漁港の沖合に到着したふゆしおと大東丸は曳航を引きついてくれる漁船と合流した。
『こちらふゆしお、ワイヤーの回収完了です。』
「ご苦労様でした、それでは戻りますね。」
通信を終えた綾の元に船長と大輔を含む漁師達がやって来る。
「世話になったな嬢ちゃん、感謝するぜ。」
少々顔を赤らめながら船長が礼を述べる。
「いえこれも私達の務めですからお気になさらずに。」
そう答えて綾がほほ笑むと、大輔を除く船長と漁師達が顔を更に赤くして固まる。
まあ綾はそれを見ても皆体調が悪くなったのかと見当外れの思考にしていたが、相変わらず自分の容姿が与えるインパクトに疎いのだった。
「それじゃ元気でな、頑張れよ。」
「はい貴方も。」
結局最後まで自分が綾だと気づかなかった大輔に内心苦笑しながら答えると他の乗員達と共にふゆしおに戻って行くのだった。
ふゆしおの司令塔上から他の漁船に曳航されて港に入港して行く大東丸を見つめる綾。
自分が薫だったとばれなかった安堵感と最後まで隠してしまった罪悪感に胸中複雑な思いを綾を抱いていた。
「何時か話せる時が来ればいいんですが。」
だが今の自分の姿を改めて見てそんな日が一体いつ来るのだろうかと自嘲気味に思う綾だった。
「・・・それでは実習に戻りましょう・・・って澤田記録員に遠藤電信員どうかしましたか?」
背後に何時の間にか立っていた亜紀と麻耶に綾は問い掛ける、何故か2人とほほ笑んでいるのに目が笑っていなかったからだ。
「「艦長、お話があります(あるっす)。」」
そう言うと亜紀と麻耶は綾の左右の腕を掴み艦内へ引っ張っていこうとする。
「ちょっと待ってください、2人共どうしたんですか?」
有無を言わさない亜紀と麻耶の行動に綾は戸惑った声を上がる。
「大東丸で何があったか・・・」
「・・・教えてもらうっす。」
「ひっ!」
綾は瞳にハイライトが無い亜紀と麻耶の2人に恐怖を感じて悲鳴を上げかける。
亜紀と麻耶は大東丸に行った乗員から綾と大輔との話を聞いていたのだ。
その結果・・・
「た、助けて下さい。」
綾は司令塔上で見張りに就いていた航海管制員の優香に助けを求めるが。
「すいません艦長・・・私には2人逆らう勇気はありません。」
と言われ視線を逸らされた、要は見捨てられたのだった、まあ今の亜紀と麻耶を見れば当然だろう。
「そんな!!」
悲痛な声を上げながら綾は亜紀と麻耶に艦内に引き込まれるのだった。
「艦長、ご武運を。」
そう言って姿勢を正して綾を見送る優香だった。
その後艦長室に亜紀と麻耶によって軟禁された綾が大東丸上であった事を洗いざらい白状させられたのは言うまでも無い。