潜水直接教育艦ふゆしお   作:h.hokura

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17.8月11日・その1

『ただいま到着した王室専用船からエルグランド王国のエミリー王女殿下が降りていらっしゃいました。』

ふゆしおの食堂で自分達が用意した昼食を取取りながら愛、美沙、真奈美はそのニュースを聞いていた。

『エミリー王女殿下の今回の来日理由はブルーマーメイドの視察と言われており明日横須賀基地を訪問する予定であり・・・」

「明日来るんだ・・・見てみたいけど駄目なんだろうな。」

愛が残念そうに言う、ふゆしおはちょうど明日横須賀基地に寄る予定でありその時に会えたらなんて考えたからだ。

「それは仕方ないでしょう、相手は超VIPなんだから。」

自分達の様な学生では歓迎式典が行われる場所に近づく事さえ出来ないと、こちらも残念そうに美沙が言う。

「まあ・・・ブルーマーメイドの視察が目的なんだから・・・元々私達との接点なんか無い・・・」

自分達とは関りなど最初から無いと何時も通りテンションの低い声で真奈美は呟く。

「おっと2人とも時間が無くなっちゃう、早く食べないと。」

昼食時間が押している事に気付いた美沙が言うと愛と真奈美は急いで食べ始める。

その間ニュースは王女の事を伝え続けていたが3人は聞いていなかった、自分達には関係ない話だと思って。

・・・だがそれが間違いで会った事を3人はやがて知る事になる。

訓練海域に向かって航行していたふゆしおに緊急通信が入って来たのはエミリー王女の歓迎式典から2日後の事だった。

「横須賀女子の宗谷校長先生から『至急指示された座標へ行く様に。』という指示っす・・・」

通信の内容に綾は亜紀と顔を見合わせると質問する。

「理由は言ってきましたか?」

「いえ、ただ向かう様にだけっす艦長。」

その答えに眉を顰める綾に亜紀は問う。

「どういう事でしょうか艦長?」

宗谷校長から指示が来る場合には必ず理由を説明してくれるのだが、それが無い事に亜紀は不安を感じたからだ。

「座標は?」

「こっれす。」

麻耶が書いたメモを綾に渡す。

「航海長。」

受け取ったメモも一瞥した綾はそれを航海長の愛に渡す。

「すぐ近くでね、ふゆしおの速力なら1時間くらいで到着できますが・・・」

座標を確認した愛が何時も通り直立不動の姿勢を取りながら答える。

「指示であるならばそこへ行くしかないでしょう澤田記録員。」

「それはそうですが・・・」

もちろん亜紀だってそれは理解しているのだが。

「実際何かあったら心配しましょう。」

綾の言葉に亜紀は彼女らしいなと思い苦笑しつつ頷いて答える。

「了解です艦長、航海長指示された座標へ進路を取って下さい。」

「了解です。」

1時間後、ふゆしおは指定された座標に到達した。

「潜望鏡深度へ浮上。」

「潜望鏡深度へ浮上します。」

ふゆしおは深度を上げ海上に潜望鏡と共に電測用及び通信用アンテナを上げる。

「艦長潜望鏡深度です。」

その報告を聞いた綾はレバーを引き潜望鏡を上げると覗き込む。

「艦長、海上3時の方向に3隻の船舶の反応があります。」

電測員の美沙の報告に綾はそちらに潜望鏡を向ける。

「・・・ブルーマーメイドの改インディペンデンス級沿海域戦闘艦が2隻、後1隻居ますがこれは一体?」

困惑しているらしい綾の様子に発令所のメンバー達は不安そうに顔を見合わせる。

綾が困惑するのも無理は無いだろう、海上に見えるブルーマーメイド艦の中1隻は傷ついた船体を左舷側に傾けて停船している。

更にその戦闘艦の近くに居る1隻は貨物船の様だがこちらも傾いているうえにあちこちから煙を上げている状態なのだ。

状況から見て3隻が交戦したのは間違い無い様だがまさかそれでふゆしおが呼ばれた訳では無いだろうと綾。

応援を呼ぶなら学生艦ではなくちゃんとしたブルーマーメイド艦を呼ぶだろうからだ。

「識別信号を確認・・・ブルーマーメイド所属のみくらとみやけです。」

船舶識別システムからのデータをタブレット上で確認した亜紀が報告する。

「艦長、みくらから通信っす『浮上して停船し待機せよ。』と。」

「・・・メインタンクブロー、浮上して下さい。」

みくらからの通信に暫し考え込んだ後綾は浮上を指示する。

「メインタンクブロー。」

「浮上します。」

操舵員の八重と注排水管制員の由里が復唱しふゆしおは浮上する。

綾は亜紀や航海管制員の優香と共に司令塔上に上がってみくらとみやけを見る。

改めて見ると損傷しているのはみやけの方でみくらは無事の様だった、あと貨物船の方は船名も識別番号も付けていない。

「まっとうな船では無いようですね・・・みやけの状態はどうですか?」」

双眼鏡でその貨物船を見ながら綾は隣で同じ様に双眼鏡でみやけを見ている亜紀に聞く。

「沈み心配は無い様ですが、あれでは自力航行は無理みたいですね。」

亜紀は双眼鏡を降ろすと溜息を付きながら答える。

『艦長!みくらの福内艦長から通信っす、迎いを寄こすのでこちらに来て欲しいとの事っす。』

「了解したと伝えて下さい、澤田記録員あとの指揮をお願いします。」

教育艦行方不明の時みたいだなと綾は苦笑しつつ指示を出す。

「はい艦長。」

それに心配そうな表情を浮かべつつ亜紀は答えるのだった。

迎えに来たスキッパーに乗せられみくらに到着した綾は直ぐに艦長室へ連れて行かれる。

そして入室した綾はそこに居た高貴な雰囲気を身にまとった女性を見て固まる事になる。

「エ、エミリー王女?」

みくらの艦長室にメイドや従者と共に居たのはニュースで見た王女殿下だったからだ。

「ご苦労様神城艦長。」

艦長室のデスク前に座って居た福内艦長が話し掛けて来る。

「はい福内艦長お疲れ様です。」

敬礼をしつつ綾が答える。

「さて突然呼び出して御免なさいね神城艦長。」

福内艦長は席から立つと綾を見ながら言う。

「・・・エミリー王女殿下、彼女が横須賀女子所属ふゆしお艦長の神城 綾です。」

「エミリーと申します、以後よろしくお願いしますね神城艦長。」

ほほ笑みつつ挨拶する王女に綾は緊張を隠せない、そもそも何で自分がこんな場面にいるのだろうかと疑問が尽きない。

「以後・・・?」

そして王女の言葉に気になる点を見つけ綾は不吉な予感を感じてしまう。

「神城艦長、ここに来て貰ったのは王女の事でお願いがあるからです、これは宗谷校長も承認されています。」

そう言って福内艦長が綾を見つめながら話し始める。

「ふゆしおで王女を横須賀基地までお送りして欲しいのです。」

「・・・はい!?」

綾は福内艦長の要請に驚きの声を上げるのだった。

「王女をふゆしおに?本気ですかブルーマーメイドは・・・」

ふゆしおに戻って来た綾の説明にそれを聞いた亜紀は思わずそう聞き返してしまったのは当然だろう。

「私も最初聞いた時はそう思いましたよ。」

深い溜息を付きながら綾は答える。

「ですが事実です、受け入れの準備を行わなければならないのですが・・・」

「受け入れってそんなVIPを一体どこに乗せろって言いうんですか?」

中型艦であるふゆしおに乗員以外の人間を乗せるスペースなど元々無い。

ましてや王女様なんて高貴な人間を狭い潜水艦内の何処に居させろと言うのかと綾と亜紀は頭を抱える。

「仕方ありません、取り合えず乗艦中は艦長室に居てもらうしかありませんね。」

「その間艦長はどうなさるお積りなんですか?」

溜息を付きつつ綾が結論を出すと亜紀が心配そうに問い掛けて来る。

「予備のベットで過ごすしかないでしょうね。」

「「「・・・・!?」」」

綾がそう言った瞬間、何故か発令所内に緊張が走った事に綾は気づけなかった。

そして亜紀と麻耶の2人が目を輝かせ綾を見つめていた事に。

ちなみに予備のベットは艦首発射管室内にあり、非常時に使用されるものだった。

一連の発令所内の様子に気づく事なく綾は部屋を整理すると言って出て行った。

「ああ艦長手伝います。」

「私も手伝うっす。」

綾の後を追いかけて亜紀と麻耶が発令所出て行くと、残された一同は顔を見合わせて溜息を付く。

「・・・修羅場に・・なりそう・・ですね。」

真奈美の呟きが全員の今の心情を表していたのだった。

案の定亜紀と麻耶どちらが艦長と発射管室で休むか熱い議論が起こって大騒ぎになった。

もっとも王女を乗せた事で起こる騒動に比べればこの時がまだ平和だった事を乗員達はまだ知らなかった。


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