潜水直接教育艦ふゆしお   作:h.hokura

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18.8月11日・その2

1時間後、綾達が王女様を迎える準備を終えた頃、横須賀女子の宗谷校長からふゆしおに連絡が入る。

『こんな事になり神城艦長達に迷惑を掛ける事になって申し訳ないわね。』

宗谷校長から謝罪と共に事情が説明される。

『どうやら王女様の国で彼女を排除しようとする勢力があって、その連中が今回偽装貨物船を使って襲撃を企てらしいわ。』

その偽装貨物船との戦闘でみやけが損傷し護衛を続けられなくなった。

『そしてこのまま水上艦での護衛は危険と判断されたの・・・だから潜水艦と言う事になったのだけど。』

王女様が襲撃されたのは極秘の筈の視察コースが漏れた為であり、随行の人間の中に内通者が居る可能性を否定できなかった。

そこで王女様を少人数の随行の人間と密かに横須賀に送る為潜水艦が最適だと海上安全整備局は判断した。

『ただ短時間で到着できるブルーマーメイドの潜水艦が手配出来なくて、ちょうど近くにいたふゆしおにと言う話になったの。』

他のブルーマーメイドの潜水艦はかなり離れた海域におり、たまたま近くで実習中だったふゆしおに白羽の矢が立ったらしい。

『下手をすれば今回の事は重大な国際問題になりかねない事案よ、神城艦長十分に注意を、常に連絡を怠らない様にして下さい。』

「分かりました宗谷校長、私以下ふゆしお乗員全力を尽くす積りです。』

まだ学生の身でこんな重大事案に関わる事になるとは運が良いのか悪いのか綾が溜息を付く。

宗谷校長との通信を終えた直後にみくらから福内艦長が王女様と随行の女性と共にふゆしおに到着すると甲板に亜紀と共に綾が出て迎える。

到着したエミリー王女は式典やみくら艦内で着ていたドレスでは無く作業用の繋ぎ姿だった。

まあ流石にあのドレスではふゆしお艦内ではまともに動けないから仕方がないだろうと綾と亜紀は察する。

ドレスに比べればやぼったい服だが王女が着るとそれでも高貴な雰囲気が消えないのは流石と言うべきか。

その王女は綾を見るとにこやかな笑みを浮かべ一礼をする、綾と亜紀はその笑み固まってしまう。

ただ心情的にいうと、綾はその笑みに当てられて緊張した結果だったが、亜紀の方は違ったのだった。

「もしかして艦長狙いなの王女様は?・・・」

恋する少女の直観(笑)で亜紀は王女の心情を正確に理解したのだった。

ただ王女ほどの超VIPと綾が出会うことなどありえない筈だ、だとしたら一体どうしてと亜紀は考える。

これは調べてみないと亜紀は決意するのだった。

「それでは神城艦長よろしく頼む。」

「はい福内艦長。」

福内艦長の言葉に綾は返事をすると王女様に対して敬礼して歓迎の言葉を言う。

「エミリー王女、ふゆしおへの乗艦歓迎します。」

「ええ神城艦長、お世話になります。」

優雅にほほ笑みながらエミリー王女が答えると、綾はその笑顔に困惑しつつも艦内へ導く。

初めてだから戸惑うかと思った梯子を降りる事を王女は難なくこなしてみせ綾達を驚かす。

そして乗艦中の場所である艦長室に王女と付き添いのメイドと共に入る。

「王女様と付き添いの方は航海中はここで過ごして頂きます。」

王女様とメイドの2人はそんな綾の言葉を静かに聞いていた。

「こちらのベットを王女様が、こちらのソファはメイドの方がお使いください。」

ちなみにソファはみくらの艦長室から運びこんだものだ・・・狭いハッチから入れるのが大変だったが。

「狭くて申し訳ないのですが・・・あとメイドの方もソファなのもですが。」

とは言え無理を承知で乗艦するのだからこれくらいは我慢して欲しいと思う綾。

「気にしないで下さい、これも安全の為と思えば耐えられますから。」

「そう言って頂けると助かります。」

まあメイドは王室直属の警護官で、演習では寝袋で寝た事があるらしいので問題ないとの事だった。

「食事は時間になったら届けさせます、もっとも味の方は期待しないで下さい、何しろ潜水艦なもので。」

「それも大丈夫ですよ神城艦長。」

ほほ笑む王女に頭を下げ艦長室を出ると綾はこれから何もな事を深く祈りたかった、現実にはかなわないのだが。

「艦長・・・王女様はどうでしたか?」

発令所に戻って来た綾に亜紀が聞いてくる、他の者達も気になるのか集まってくる。

「以外と言ったら失礼ですが、思ったよりは大丈夫の様ですね。」

王族ならこんな環境耐えられないと言われてもしょうがないのが潜水艦だ、まあ馴染みのない者なら一般人でもそうだが。

およそプライベートとか快適などとは程遠い場所だ、平気で居られるのは綾達の様に望んで乗り込む人間くらいだろう。

「・・・取り合えず出発しましょう。」

「はい艦長、皆さん出発準備を。」

「「「「了解です。」」」」

発令所要員達は亜紀の指示を受けそれぞれの配置に着いて行く。

「目的地は横須賀基地、それでは出発しましょう、潜航開始。」

綾の指示でふゆしおは潜航すると、深度80を維持しながら横須賀基地へ向かって航海を開始したのだった。

そして3時間後、綾の願いも空しく厄介事がふゆしおに訪れる事になる。

「艦長・・・本艦の前方より・・・接近中の推進器音・・・があります・・・相手は潜水艦と思われます。」

真奈美の何時もに増してテンションが低い報告で厄介事は始まった。

「潜水艦ですか・・・識別出来ますか?」

「少々お待ちください艦長。」

亜紀が聴音機に自分のタブレットを繋ぎ、推進器音をデータベースと照合する。

「ブルーマーメイド及びホワイトドルフィンの潜水艦ではありませんね、民間の登録されたものにも該当無しです艦長。」

「どうやら応援としてブルーマーメイドかホワイトドルフィンの潜水艦が来てくれた訳ではないらしいですね。」

綾は亜紀からの報告から接近して来る潜水艦の正体を推測し指示を出す。

「記録員、総員を戦闘配置に着けて下さい。」

「戦闘配置ですか?」

唐突な戦闘配置に亜紀が戸惑った表情で聞き返す、他の発令所要員の者達は不安そうなに綾を見る。

「王女様を狙っている連中は貨物船に偽装した戦闘艦を用意していました・・・それなら潜水艦も可能性が高い。」

最初の襲撃失敗に備えて第2の手を考えるのは常道だろうと綾は考えたのだ。

「横須賀女子かブルーマーメイドに救援を依頼した方がよくないっすか艦長。」

麻耶がそう問い掛けて来るが綾は首を振って答える。

「こちらの通信を密かに傍受されている危険があります、王女様の視察コースさえ漏れていたくらいですからね。」

コースの情報と共にブルーマーメイドの専用通信チャンネルも襲撃者側に漏れている可能性を綾は否定出来なかった。

「つまりこちらの動きは襲撃者側に筒抜けだと・・・」

「その可能性を考え行動すべきでしょう、下手に動きを読まれば危険が増します。」

「しかしそれでは宗谷校長先生からの指示に反しますが。」

もちろんその行動が宗谷校長からの指示、常に連絡を取るに反する事になる事を綾も理解している。

「先に言った通り危険が考えられる以上仕方がありませんね、まあ責任は私が取りますから心配しないで下さい。」

「前にも言いましたが、我々は艦長だけに責を負わす積りはありませんよ。」

発令所のメンバーは綾の説得力ある言葉を聞き納得した一方、責任を負うなら全員との意思を示す。

1年に満たなない期間だが乗員達は綾の状況判断力に絶大な信頼を持っていたからだ。

「ありがとうございます皆さん、それでは行動開始です。」

「はい艦長、総員戦闘配置に。」

そう答えて亜紀は艦内通話機に向かい戦闘配置のアナウンスをする、他の発令所要員達もそれぞれの職務を果たす為に行動を開始する。

「それにしても・・・ブルーマーメイドはこの事を予期していなかったんでしょうか。」

戦闘配置の指示を出した後、綾の横に戻って来た亜紀が小声で綾に問い掛けてくる。

「私でさえ気づいたんです・・・少なくとも上層部の方だってそう考えていても不思議じゃないでしょう。」

「それを学生の私達にやらせる積りなんて本気ですか連中は。」

深い溜息を付きつつ亜紀は愚痴をこぼす、それを見て綾は肩をすくめて言う。

「誰も責任を取りたくないのか、体裁を整えたいだけなのか分かりませんがね。」

兎に角学生が背負う事態では無いとふゆしおの乗員からすれば当然そう思える。

だが理不尽な事とは言え現状を打破できるのは、現状綾達しかいないのも確かだ。

だから出来る事を全うし必ず乗員達と王女様を守り切って、横須賀に帰り着いてみせると綾は改めて決意するのだった。

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