考えてみれば晴風だって常に戦闘速力を出している訳も無く、通常の速力で言えば潜水艦とさほど変わらないと思いまして。
1.4月5日
西之島新島沖の海中を横須賀女子海洋学校所属の潜水直接教育艦ふゆしおが潜望鏡を上げて航行していた。
元来潜水艦に分類される艦艇は、全て男性のみで運用されていたのだが、近年進む海底開発の大幅な進展等により海中航路の重要性が増して来た事もあり、ブルーマーメイドもそれらに対応せざるを得ない状況になっていた。
その為まだ小規模ながらブルーマーメイドにも潜水艦部隊が組織されつつあり、それに合わせて横須賀女子に潜水艦乗員養成コースが設けられた。
ふゆしおはその為に横須賀女子に配属された直接教育艦だった。
そのふゆしおの発令所から潜望鏡で海上を見ていた艦長である神城 綾は激しい困惑に襲われていた。
「電探の反応は?」
「付近に艦影無しです艦長。」
綾の問いかけに電測員が答える。
「水測はどうですか?」
「・・・感・・・無し・・・です。」
テンションの低い返答を返す水測員。
「航海員、集合場所に間違いはありませんね?」
「はい!間違いありません艦長!」
姿勢を正し直立不動で答える航海員。
「時間も予定通りです艦長。」
記録員がタブレットを操作しながら報告してくる。
「だとすればこれは・・・どういう事なんでしょうね?」
潜望鏡から目を離し綾は深い溜息を付くのだった。
初の海洋実習に参加する為、ふゆしおは艦隊の集合地点である西之島新島沖へ到着したのだが・・・
その集合地点には一隻の教育艦の姿も確認出来なかったのだから、艦長の綾を始めふゆしおの乗員達が困惑したのは当然だった。
但し艦隊の正規な集合時間には大幅に遅れていた、理由は出発前にトラブルが起こった為だった。
ふゆしおに積み込む予定の訓練用魚雷の到着が手違いで大幅に遅れ、他の教育艦と一緒に出発出来なかったのだ。
お陰でふゆしおは集合時間より6時間遅れで艦隊に合流する事になってしまった。
幸先が悪いなと乗員達は噂しあったものだが、どうやらその予感が当たってしまった様だった。
「電信員、何か通信は入っていませんか?」
「共通チャンネルには何も入って無いっす、緊急チャンネルにも。」
ヘッドホンを付けた乗員が首を振りながら独特の言葉尻で答える。
「それにしても何でこう雑音が酷いんだが・・・この海域に着いてから特にっす。」
通信機を操作しながら電信員がぼやく。
「艦長、戦術ネットワークの方も駄目ですね、繋がらないか繋がっても通信エラーになってしまいます。」
自分のタブレットを操作しながら記録員の乗員が報告する。
「もしかして予定が変わったのでは?」
航海員が相変わらず直立不動な姿で聞いて来る。
「そんな通信入って無いっすよ。」
「お前もしかして聞き逃したじゃないのか?」
操舵員がジョイ・スティック型の操舵装置を操りながら聞いて来る。
「馬鹿言わないで欲しいっす、そんな重要な通信聞き逃す筈無いっすよ。」
操舵員の言葉に電信員がむきになって反論して来る。
「戦術ネットワークで入って来たのを見逃したん・・・」
「そんな事ありません!私は常にチェックを・・・」
「皆さんそこまで、貴女達が自分の職務で怠慢を行うとは私は思っていませんよ。」
言い争いになりかけた乗員達を止める綾。
「議論は構いませんが感情的にならないで下さいね。」
乗員達は綾の言葉にばつの悪い表情を浮かべ顔を見合わせると謝罪してくる。
「はい艦長すいませんでした。」
「言い過ぎでした艦長。」
「以後、気を付けます。」
乗員達の答えに満足そうに微笑むと再び潜望鏡を覗き込む綾。
そんな綾を見て「艦長に選ばれるだけに凄い人なんだなと。」と航海員は思った。
ある意味個性的な乗員達をここまでまとめてふゆしおを機能させているのだから。
「・・・連絡が無いとすれば・・・予定外の事態が起こったと言う事・・・ですか・・・艦長・・・?」
それまで黙って他の乗員達の話を聞いていた水測員が相変わらずテンションの低い声で聞いてくる。
「その可能性は高いですね・・・問題は何が艦隊に・・・!?」
潜望鏡を回転させ水上を見ながら水測員の問いにそう答えていた綾は何かに気付いた様に緊張した様子を見せる。
「艦長、何か?」
記録員がただならぬ気配を感じて聞いて来る。
「浮上します、メインタンクブロー。」
レバーを引き潜望鏡を降ろした綾は険しい表情で命令する。
「りょ、了解、浮上。」
「メインタンクブロー。」
慌ただしく命令を復唱する操舵員と注排水管制員、その姿を見ながら他の乗員は困惑した表情を浮かべる。
「・・・洋上に多数の漂流物があります、もしかすると・・・」
そんな乗員達に綾は険しい表情のまま説明する。
「それってまさか?」
顔を青くして記録員が聞き返してくる。
「考えたくはありませんが・・・」
そこで言葉を切る綾、乗員達は再び顔を見合わせる。
海面を割ってふゆしおが浮上して来る。
真っ先に指令塔のハッチを開けて双眼鏡を持って飛び出して来た航海管制員に綾と記録員が続く。
「これは・・・」
ふゆしおの周りに多数浮かぶ漂流物に記録員は絶句してしまう、何しろ浮かんでいるのは破損した機器や船体の一部らしき物。
どう見ても普通の漂流物には思えなかったからだ、それが見渡す限りふゆしおの周囲に浮かんでいる。
『艦長!』
指令塔上の艦内通話機から綾を呼ぶ声が響く。
「さるしまと連絡は取れましたか?」
『全然駄目っす、相変わらず通信状態は最悪っす。』
浮上と同時にさるしまと連絡を取る様に命令した電信員からの返答に綾は唇を噛む。
「艦長、漂流物以外には何も見えません。」
双眼鏡で周囲を見渡していた航海管制員が報告して来る。
「救命ボートも漂流者も無いって・・・まさか・・・?」
記録員の言葉に首を振って綾も持って来た双眼鏡で漂流物を確認する。
「漂流物の中に船名を確認出来る物が無いか探させて下さい。」
「はい艦長。」
綾の命令に記録員は頷くと、甲板に出ている乗員達に「船名を確認出来る物を探して下さい。」と指示する。
「さるしまとは戦術ネットワークの方も駄目ですか?」
指示を終えた記録員に綾が尋ねる。
「はい・・・やはり駄目ですね・・・さるしまも他の教育艦とも繋がりません・・・あの艦長・・・」
操作していたタブレット端末から顔を上げ、暗い表情とか細い声で記録員は続ける。
「ネットワークの接続状態も悪いのは確かですが・・・どうも一部の艦は・・・故意に接続を絶っている節が有ります。」
記録員の報告に綾は眉を顰めて言う。
「故意にですか?それは・・・」
記録員は綾の問いに首を振って俯く、ネットワークの接続を故意に絶つ事は完全な規定、この場合校則違反を意味する。
その意味する事は・・・綾は記録員同様に表情を暗くして考え込む。
「艦長!!これを・・・」
その時、持って来た棒切れで漂流物を幾つか引き上げていた乗員が大声で綾を呼ぶ、その手に救命用の筏を掲げながら。
「・・・・!?」
「う・・・うそ・・・」
綾と記録員はその筏に掛かれている船名を見て絶句する。
・・・『さるしま』と書かれた船名を見て。
潜水艦好きが高じて衝動的に書いてしまった作品です。
まあはいふりの世界でサブマリン707的な話をやりたかっただけですが。
それでは。