硫黄島基地の港を出港したふゆしおは潜水航行で演習海域に向かっていた。
ちなみに東舞鶴男子の伊202も同時に出港しておりかなり離れた所を航行している。
まあ同じ課題を課されているので当然だが。
「艦長、もう間もなく演習海域です。」
航海長の愛が何時もの如く直立不動の姿勢で報告する。
「分かりました、総員戦闘配置に付いて下さい。」
綾は愛の報告に頷くとそう命じる。
「総員戦闘配置繰り返す総員戦闘配置。」
亜紀が艦内放送で綾の指示を伝えると共にスイッチを入れアラーム音を響きさせる。
「艦首発射管及び魚雷準備良し。」
「メインモーター及びバッテリー問題無し、何時でも最高速力発揮可能です艦長。」
水雷長(水雷委員)の加藤 万梨阿と機関長のが舞が報告して来る。
「水測・・・問題無し・・・現在付近には伊202以外感無し・・・」
相変わらずテンションの低い声で水測員の相沢 真奈美が万梨阿と舞に続いて報告する。
まあこれも何時もの事なので綾も他の乗員達も気にしない。
「澤田記録員、演習準備完了を報告。」
「了解演習準備完了を報告します艦長。」
綾の指示を亜紀が復唱するが先程から何時もに比べ事務的になっているのは彼女の機嫌が悪いからだ。
出港前に綾は亜紀を艦長室に呼び伊202の乗員達との間に有った事を話したのだが。
「なるほどそう言う事ですか、連中には困ったものですね・・・でも綾が黙っていたのは許せませんが。」
伊202の乗員達の行為に呆れ顔して呟いた後綾を睨みつける亜紀、様は何故その事を話してくれなかったのかと彼女は言いたいらしい。
「どうせ変な心配を掛けたくないと考えたのでしょうけど。」
本当に女の子は勘が鋭いなと綾は思わずにはいられない、中学生の頃(もちろん当時は男だったが)もそうだったなと。
まあ亜紀としては親友である綾が隠し事した事が許せなのだ、何でも話せる間柄だと思っていただけに。
先に書いた通り亜紀は初めて会った時から綾を気に入った様で、入学式後の顔合わせで会ってから数時間後には「私の事は亜紀と呼んでね綾。」と言われたのだ。
女の子の名前を呼ぶ事に綾は最初躊躇させられたのだが、実習時間以外で2人きりなる度に言われ続け、結局根負けして今は「亜紀」と呼ぶ様になった、まだ恥ずかしさは抜けないのだが。
「それについては謝りますよ亜紀、ただ隠すつもりは無かったのですが。」
「本当かしら。」
綾の謝罪にジト目で言う亜紀に綾は苦笑するしか無かった。
まあ出港時間が迫っていた為話はそこで打ち切らざるしかなく、綾は亜紀の機嫌を直す事が出来ず今の状況になっていたのだ。
流石に公私の区別は弁えているので亜紀は内心の思いとは別にきちんと職務をこなしてくれてはいるが。
今度上陸したら前から亜紀に誘われていたケーキバイキングに付き合わなければならないかなと綾は内心溜息を付く。
「艦長・・・推進機音有り・・・感3接近中・・・」
真奈美が報告して来る声に綾は気持ちを切り替える、兎に角今は実習の事を優先せねばならないと思って。
「潜望鏡深度へ浮上願います。」
水中航行中だったふゆしおは深度を上げて海面に近づいて行く。
「艦長、潜望鏡深度です。」
八重の声に頷くと綾はレバーを引き潜望鏡を上げると覗き込みながら旋回させ周囲を見渡す。
やがてこちらに向かって来る船影を見つける、どうやらあれが目標らしいと綾。
「接近中の船舶を確認、距離6千、方位右舷40。」
同時に電測員の八木 美沙が目標の情報を報告する。
「それでは始めますか、電信員通信を・・・」
「艦長救難信号っす!」
まず通信による確認を命じようとした綾の指示を遮って麻耶が振り向いて叫ぶ。
「救難信号ですか?」
予想外の状況に思わず綾と亜紀は困惑した表情で顔を見合わせる。
こうして実習は最初から反乱含みで始まったのだった。