海面を割ってふゆしおが浮上すると、指令塔上に航海管制員の優香と共に艦長の綾と記録員の亜紀が出て来る。
「それにしてもかなり大きな振動でしたね。」
優香が双眼鏡で周りを見渡す横で亜紀が綾に話し掛けて来る。
「そうですね、あれはきっと・・・」
『艦長、艦に異常無しです。』
機関長の舞が艦内通話機を通して報告して来る。
「了解しました、あと電信員に、何か通信が入っていないか確認させて下さい。」
ひとまずふゆしおに異常が無い事に安心した綾は情報が来ていないか電信員の麻耶に確認する様に伝える。
そして間を入れず返答が帰って来た。
『艦長!ブルーマーメイドの緊急指令を受信したっす。』
綾は亜紀は顔を見合わせると頷く。
「行きましょう。」
2人はタラップを滑り降りて発令所に向かう。
『行動中の全ブルーマーメイドに緊急連絡、本日14:26に伊豆沖にM6.5、震度7の地震が発生。』
発令所内の乗員達は緊張した様子でその通信を聞いていた。
『発生した津波により一部の港湾施設に被害あり、なお陸上でも建物の一部崩壊及び崖崩れが発生した模様。』
思ったより被害が出てる事に綾は眉をひそめる。
『政府よりブルーマーメイド及びホワイトドルフィンに災害出動の要請あり、各艦艇は指示を待て。』
「我々はどうしますか艦長?」
緊急連絡を聞いた亜紀が艦長である綾を見つめながら聞いて来る。
「・・・このまま待機ですね、勝手に救助活動には入れませんから。」
綾達はまだ学生の身分だ、救助活動や警察権の行使は勝手には出来ないと校則で決まっているからだ。
「はい艦長。」
亜紀としては歯痒いところだが校則を破る訳にはいかない事は理解している。
「艦長横須賀女子より通信っす、現在位置と艦及び乗員の状況を知らせる様にとの指示っす。」
横須賀女子から各教育艦の状況を確認する通信が入って来た様だった。
「航海長ふゆしおの正確な座標は?」
「座標7-12です艦長。」
綾の問い掛けに何時も通りに直立不動の姿勢で即座に答える航海長の愛。
頷くと綾は麻耶に返信内容を伝える。
「現在位置は座標7-12、乗員及びふゆしおに異常無し。」
「了解っす、座標7-12、乗員及びふゆしおに異常無し、返信するっす。」
麻耶が復唱して横須賀女子へ通信を送るの横目に見ながら綾は指示を出す。
「総員警戒配置へ。」
その指示に亜紀が頷くと艦内通話機に向かいマイクを作動させる。
「総員警戒配置繰り返す総員警戒配置。」
アナウンスを受け乗員達が慌ただしく配置に着き艦内は緊張感に包まれる。
「艦長、横須賀女子からふゆしおは現在位置にて別命あるまでそのまま待機する様にとの指示が来たんっすけど・・・」
だが暫くして入って来た通信内容はふゆしお乗員達の誰もが予想しなかったものだった。
「待機ですか、でも何故?」
亜紀が困惑した表情で綾の顔も見ながら問い掛ける。
「私にも分かりませんね、他の教育艦にはどんな指示が出ていますか?」
通信機を操作しながら麻耶が答える。
「それが『各艦とも実習を中断して一旦帰港せよ。』と言う指示が出ているらしっす。」
他の教育艦に一旦帰港する様に指示が出たのに、何故ふゆしおだけ待機なのかと綾は首を捻る。
そしてその答えは1時間後に横須賀女子校長である宗谷 真雪から直接ふゆしおに入った通信で分かった。
「救援物資を孤立した村に届ける任務をふゆしおにお願いしたいのです。」
崖崩れで村への道が塞がり救援物資を届けられない為、海上より行う様ブルーマーメイドに依頼が入ったらしいのだが。
運が悪い事に伊豆近海に居たブルーマーメイドの艦艇は津波による港湾や船舶の救助で手一杯の状態だった。
そこで横須賀女子にブルーマーメイドから代わりに出来ないかと打診が来たのだと宗谷校長は説明してくれた。
「こちらで検討した結果、教育艦の中で一番村に近い位置に居て、中型艦であるふゆしおが適任だと判断しました。」
どうやら村に隣接する港は小規模なものらしく、駆逐艦クラスでも接近するのに困難が伴うと宗谷校長。
「了解しました宗谷校長先生、ですがふゆしおは十分な物資を積んでいないのですがどうすれば?」
自分達が選ばれた理由は分かった綾だが、ふゆしおに乗せられた物資はそんなに多くない。
だから綾はその点について宗谷校長に指示を仰ぐ。
「それについてはブルーマーメイドの補給艦が近くまで来てくれるそうなので受け取る様にして下さい。」
詳しい合流座標を教えられふゆしおは物資を受け取る為に補給艦との会合地点へ向かう。
「あと言うまでもありませんが、貴女方の任務は物資を届ける事だけです、それを忘れない様にして下さい。」
宗谷校長からそう注意を受けて・・・