潜水直接教育艦ふゆしお   作:h.hokura

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8.6月25日・その3

「戻っていないって・・・まさか地震の前に海に出ていたのか?」

駆け込んで来た村人の言葉に村長は顔を青くさせて呻く。

綾達は突然の展開に顔を見合わせてそれを聞いているしかなかった。

「何でそれを早く言わなかったんだ?もう日が沈んでいるんだぞ。」

村長と居た村人の1人が知らせに来た男に聞き返している。

「それが崖崩れで村が大騒ぎなっていて言い出せなかったって。」

その返答に村長を始め村人達は押し黙ってしまう。

「そうだ彼女達に頼めないのか?」

村人の1人が綾達を見てそんな事を言うと、周りの者達が期待の籠った目を向けて来る。

「待って下さい、私達は学生の身分なので特別な許可がなければ救助活動は出来ません。」

村人達に申し訳ないと思いつつ答える綾、出来るのであれば救助活動をしたいところだが、校則で決められている。

そのうえ事前に『物資を届ける事だけです、それを忘れない様にして下さい。』と宗谷校長から釘を刺されているのだ。

「至急ブルーマーメイド連絡を取って・・・」

「そんな時間は無いっす、何で救助活動出来ないんっすか!?」

妥協策を言おうとした綾を遮ったのは、村人達ではなく運搬を手伝いに来ていた麻耶だった。

「遠藤電信員?」

普段は見られない必死な表情で抗議して来る麻耶に綾は面食らってしまった。

「遠藤無茶言わないでよ、勝手に出来ない事あんただって知ってるでしょうが。」

乗員の1人がそう言って麻耶の肩を掴んで綾から引き離す。

「そうっすけど・・・そんな・・・悔しいじゃないっすか艦長。」

本当に悔しそうに身体を震わせる麻耶、村人達も息を飲んでそれを見守っている。

「・・・村長さん、帰ってこない方がどちらへ向かったか分かりますか?」

「えっ?・・・それは分らん事も無いが。」

「「艦長!?」」

暫く考えていた綾が村長にそう質問すると、聞かれた村長はもちろん乗員達も驚いた表情を浮かべてしまう。

だが綾はそれに構わず行き先を聞くと、全員ふゆしおに戻る様指示を出してボートに向かう。

乗員達は戸惑った様に顔を見合わせながらも綾に続く、自分で言い出したくせに突然の展開に茫然としてしまった麻耶も促されて。

「救助ですか?しかしそれは・・・」

戻って来た綾の指示に亜紀を始めとした発令所のメンバーは全員当惑した表情を浮かべる。

「校則については理解していますよ澤田記録員。」

亜紀の言葉に綾は頷いて見せる、校則により救助活動や警察権行使は海洋学校を通じてブルーマーメイドの許可が必要になる。

もちろん突発的な場合は別だが、その場合でも学校に確認が必要とされる。

「消息が経ってからの時間を考え私は緊急事態権限の発動を行いたいと思います。」

『緊急事態権限の発動。』

艦長が緊急事態と判断した場合に通常の手順を踏まずに行動出来ると規定されたものだ。

RATtウィルス事件で晴風がさるしまから攻撃を受けた時、明乃が緊急事態権限を発動し艦と乗員達を守る為反撃したのがそれに当たる。

だが一歩間違えば越権行為として最悪査問会議に掛けられる事になるだけに亜紀達の顔に不安が浮かぶ。

「・・・皆さん心配しないで下さい、責任は私が全て負いますから。」

そんな綾の言葉に亜紀達が顔を見合わせる、責任は自分が負い皆を処罰させる事はさせないと言っているからだ。

「まって下さいっす!責任は言い出した自分にあるっす、艦長が責任を負うなんて・・・」

そんな中麻耶が慌てて詰め寄って来る、彼女にしてみれば綾が責任を負う事になるのは承服出来ないからだ。

「いえ遠藤電信員、これは私が決断した・・・」

「艦長、それに遠藤電信員そこまです。」

綾と麻耶の会話に亜紀が割り込んで来る。

「艦長の決断を私達は支持します、ですので処罰は全員が負います・・・2人だけに押し付けると思われるのは心外ですね。」

良い笑顔を浮かべて亜紀は綾と麻耶を見ながら宣言してみせる。

「澤田記録員・・・」

亜紀の発言に発令所に居る他の乗員達も頷いて見せる。

「・・・感謝します皆さん。」

綾は皆の気持ちに心が温かくなるの感じながら答える。

「航海長、座標3-4へのコース設定して下さい。」

「了解です艦長。」

愛は返答すると発令所にある海図台に向かう。

「澤田記録員、コースの設定が終わり次第出発を、あと航海管制員に加えて見張りの人員を配置して下さい。」

亜紀に指示を出す綾、それが終わると先程から俯いてしまっている麻耶に声を掛ける。

「遠藤電信員は私に付いて来て下さい・・・暫く指揮をお願いします澤田記録員。」

「了解です艦長。」

麻耶を促し綾は発令所を出て艦長室へ向かうのだった。

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