最強の俺が最弱の私になった理由   作:しが

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include『運命の決断』

人生って言うのは選択の連続だ。

 

何かを選ばなければそっちは捨てる。そして選んだ方を得て、選ばなかった方を捨てる。

 

たとえ後悔したって選ばなかったものはもう戻らない。その選択を誤らないように最善手を選び続ける必要がある。

 

 

 

 

 

なぁ、もしもだ、もしも、自分の人生を左右する選択が今、目の前にあったとする。片方を選べば、もう片方はもう、絶対に手に入らない。そんな重要な選択なんだ。

 

 

 

片方を選ぶんだったら俺は、多分人並みの幸せを手に入れることが出来る。平穏な日常で、本当に過ごしたい奴と控えめでも、幸せに過ごせる。高望みしないならこれが最善だろう。

 

 

 

もう片方を選べば俺は、人並みの幸せを手に入れることはできない。けれど、多分世界中から賞賛されるような名誉を手に入れることが出来る。困ったことに今の俺にはそれが出来るだけの力がある。

 

 

 

人並みの幸せを選ぶなら世界中から賞賛される栄誉は永遠に失われる。世界中から賞賛される名誉を選ぶなら人並みの幸せを得る機会は二度と存在しなくなる。

 

 

 

「ユーリ!こっちだ!」

 

 

 

目の前に居るのは世界で一番憎たらしいやつ。こっちに来るように手を伸ばしている。こいつのせいで俺は今この選択を強いられているんだ。それすらも知らないで、本当にマイペースな奴だ。憎たらしくて…どうしようもなく愛おしい。

 

 

 

 

 

「こっちよ、私たちと来なさい、ユーリ。」

 

 

 

後ろに居るのは俺の世界で一番仲のいい親友。こいつもまた俺に来るように望んでいる。こいつと行くことを選べば…多分俺は輝かしいものを手に入れることが出来る。

 

なぁ、もしもだ。俺の人生を分ける二択が今ここにあったら、どうする?

 

どっちも大切なんだ、どっちか片方を見捨てることなんてしたくなかったんだ。

 

けどな、けど、世界ってのは、人生って言うのは本当に、選択の連続なんだ。

 

俺は、決断を前に総てが始まったあの日に記憶が戻っていた。

 

 

────────

 

 

人生ってのは何時かは終わる。何時終わってもいいように準備をしておく必要がある。

 

悔いなく逝けるためにやり残しがないようにしておかなければならない。けれど、それはとても無理な話だろう。

 

人間には必ず一つ二つの執着はある。それはどんな年齢だって同じだ、赤ん坊だろうと、小僧だろうと、おっさんだろうと、爺さんであろうと。未練を残して逝く人なんて沢山いる。

 

多分自覚しないまま死んでいく人だっているし、自覚しただろうがどうしようもなく死ぬ人だっている。死は突然にと思うが本当に突然死ねばそれは幾つでも悔いは残る。未練だって当たり前だ。

 

そう、長々語ってきたが、俺は死んだ。勿論悔いなく死ねたかと言えばそれはウソだ。家族は心配だし、他に怪我人はいなかったかということも心配だ。明日発売のゲームを買い損ねたことも間違いなく未練だった。

死ねばそこで終わりだが、終わりたくないと思う人も沢山いる。

 

 

「そうです、貴方の脈は停止し心臓は鼓動することを放棄し、血液が体内に循環することはなくなりました。」

 

「要するに死んでるっていうことですよね。」

 

「有り体に言えばそうなります。貴殿方の世界の言葉で言うならば心肺停止状態と言うようですが。」

 

理屈はどうでもいい。言い換えもどうだっていい。俺が知りたかったのは死んで俺はどうなってここは何だっての話だ。

 

「言葉の齟齬がないよう努力しますがあったとしたら申し訳無く思います。では貴方の質問に答えましょう。ここは謁見の間です。」

 

「謁見の間?誰のですか」

 

「私のですよ。」

 

ああ、どうやらこの無機質な女は偉い人だったらしい。いや、人なのか怪しいが。こういうのは人ではないと相場は決まっている。

 

「お察しの通り私はヒトではありませんよ。ナイアラトテップ、と言う定義がされてる存在です。」

 

「……すいません、何て?」

 

「邪神です。それだけ覚えていただければいいでしょう。…鷹山雄里さん、貴方は先程死亡しました。そして本来ならば輪廻転生の輪に乗る筈でした。」

 

その邪神の筈でした、という言葉に嫌な冷や汗が顔を蔦る。ああ、何となく察するな。

 

「ええ、輪廻転生にのる筈の貴方の魂を私が引っこ抜きました。そしてここに呼び出しました。」

 

 

どうしてそんなことしたんですか???

 

「一つ、実験をするためですよ。」

 

ナイアは言葉を区切ると一つの霞み染みた珠を浮かばせた。水晶のようなそれには世界が映っていた。

 

「これは私が創生した世界です。」

 

サラッとぶっ飛んだこと言ったがそこは神様にとって児戯なのだろうか、いや、本題はそれではない。

 

「惑星の名を『ユゴス』…ここでは貴殿方地球人とは違う生物が文明を築き、発展しています。ああ、ですが流行りに乗ったため機械文明ではなく魔法文明が発達した世界と設定しますが。」

 

「…それで、どうしろと?」

 

「貴方にはここに転生して貰います。」

 

それは願いでも、推奨でも、ましてや忠告ですらない……命令だった。

 

 

「そして世界で一番に立てる力を授けましょう。」

 

だがその二言目は救済措置だった。これはチート転生というものなのかと訝しんだ

 

「ですが、貴方の行動次第では貴方は弱くもなり強くもなるでしょう。貴方が人を想えば想う程その力は弱くなります。そして貴方が伴侶を得た瞬間、その力は消えるでしょう。」

 

 

それはデメリット宣告だった。

 

俺に拒否権はない、どうせ死んだ魂だ。抵抗だって意味を成さないだろう。ならばここなら第二の生を得ることが出きるだけマシなのではないだろうか?賭けてみるというのも、選択肢なのだろうか。

 

 

いや、分かりきったことだ。俺は転生する、有無を言わさずに、この邪神は端から意見なんて求めてない。

 

 

「感情と理性は人をヒトたらしめるもの。貴方がどれだけそのヒトとしてを抑えれるか、楽しみに見ていますよ。」

 

 

ああ、確かにこういう奴は限りなく邪神なんだな…と俺は思う。

 

 

 

─────────

 

 

多分……上手く表現できないけれど、多分その時に僕は運命に出会った。

 

彼女と逢った時、頭ではない何処かで叫んでいたんだ。これこそが運命の出会いだって。彼女こそがお前の運命だって。

 

多分それは直感から来た戯れ言。けれど整合性を求めた脳は直感にそれを押し付け、あたかも心が叫んだと思わせただけ。

 

けれどもやはり僕が運命を感じたのは…間違いがなかった。

 

 

どれだけ貴い身分であったもしても軍に入れば下っ端から始まるし、教官からの扱きに貴賤はない。命を失わないために教育に手を緩めるわけにはいかない、そこは教官の配慮ということらしい。

 

けれどもまあ、そんな身分も関係ない扱きにより僕は学校を出れたし最低限だが戦える力も覚悟も身に付いた。

 

騎士っていうのはある種の花形の職業だ。例えば騎士団長ならその名声は計り知れないし戦争で功を挙げれば昇進は狙える。

 

平民でもなれるし、貴族でもなれる。…ああ、でも貴族でなろうとする人はいなかったよ。与えられたものを享受するだけで満足する人が世界には沢山いる。彼らもその部類だけだった話だ。

 

騎士は規律に厳しく、秩序を重んじている。

 

対を成す冒険者は多分、規律は厳しくない。秩序よりも自由を重んじているだろう。

 

ただ似たような仕事をする二つの職業が顔を合わせる現場も多く一兵卒の僕も冒険者の話はよく、聞こえてきた。

 

その中でも更に異端な話はすぐに伝わった。

 

曰く「最速で最強へと登り詰めた少女がいるらしい、その少女はまだ20にも満たぬ歳で、黒い髪をしていた」

 

人呼んで「黒姫」。最年少の最強の少女の話は僕も知っていた。

 

 

「また、やりすぎたか…もう少し加減をしないと本当に跡形もなく消し飛ばすかもな…」

 

だから、僕は分かった。

 

「あー…あんた、大丈夫か?悪かったな、怪我してないか。巻き込まれてもないか。」

 

 

この乱暴な言葉遣いで先程の熊の魔獣を跡形もなく消し飛ばした少女が。

 

「オレは…ユウリだ。立てるか?」

 

 

彼女が、運命だって。

 

確かに心が叫んだんだ。

 

 

 


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