幽世の聖杯は戦闘用の神滅具なんです!   作:ハズレアタリ

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遭遇

最初は期待をしていた。

 

明確に誰かに期待し、望んでいたわけではない。

でも、誰かには期待していた。

こちらが与える代わりに、誰か与えてはくれないだろうかと。

心のどこかで願っていた。

 

結局は叶わなかったけれど。

 

 

雪解月(ゆきげつき)那由他(なゆた)の朝は遅い。夜中の0時に寝たとしても、目覚しをかけない限り昼の12時までは起床することはまずない。

 

季節は7月の下旬。そろそろ冷房をつけないと寝苦しい季節。

もうすぐ本格的な夏が始まる。湿度が高くなり、今よりも更に気温も上昇することだろう。日が照っていても、雨が降っていてもうっとうしい季節だ。

そんな季節、気温、気象状況でも那由他の睡眠は変わらない。

寝てい時に寝て、起きたい時に起きる。それが最も健康に良いと那由他は信じていた。確証は持っていないが。

早起きは三文の徳?そんなことは知ったことではない。寝たいから寝るそれが一番。肉体的にも、精神的にも。

高校に通っていたときは、無理にでも朝早く起きて学校に通学していたけれども。

 

♢♦♢♦

 

5月初旬、普通の高校生にとって、一生に一度しかないビックイベント

青春の思い出の一ページ。楽しさも、少しのほろ苦さも兼ね備えている高校の修学旅行。中学の時の修学旅行とは違く、さぞや羽目を外すことだろう。

 

那由他が通っていた陵空高校もその例には漏れず、豪華客船でハワイ諸島を巡る10日間のツアーが予定されていた。

小学校、中学校とまともに学校に通っていない那由他にとっては、初めての修学旅行であった。

しかし、虫の知らせと言えばいいのか、それともなんとなくと言えばいいのかわからないが,参加しようとは考えなかった。

 

七月の下旬の今となって考えてみれば、参加しなくて正解だった。青春の思い出の一ページを無駄にしても、命の危険とをはかりにかけるのならば、那由他は命を選ぶからだ。参加できなかった生徒は幸運だっただろう。

なぜなら、修学旅行に参加していた陵空高校の生徒233名は、修学旅行中の豪華客船で海上事故に遭い、帰らぬ人となったのだから。

 

虫の知らせに従い修学旅行に参加しなかった結果、事故を回避したとは、那由他の勘も捨てたものではなかった。

昔から、ひどい目に遭ってきた人生ではあったが、こんなところで幸運の貯金を使うことになるとは。

海上事故程度(・・・・・・)のことで使いたくはなかったが・・・

 

なんでも、後から聞いた話では、那由他以外にも修学旅行に参加しなかった生徒が、10人弱ではあるが少しはいたらしい。哀れなことである。

さぞや楽しみにしていたに違いない。今となっては参加しなくて正解ではあったが、不幸な選択が最も良い生き残る選択だったとは、何とも皮肉が効いている。

 

そのため、通っていた陵空高校にも通い続けられるはずもなく、生き残りの生徒はそれぞれ別の高校に散っていった。

那由他も別の高校に通うことも考えたが、那由他が通いたかったのは、高校ではなく陵空高校であったため、どの高校にも転校しなかった。

高校に通うということ自体が、那由他にとっては気まぐれだったのだ。

高校卒業という学歴が欲しいのではなく、思い出作りのためだけに入学したのだから。

 

そもそも、那由他は14歳になるまでまともな教育を受けるどころか、日本にすらいなかったのだ。

5歳で日本を出国し、中国に密入国。古くにシルクロード呼ばれた道を歩き、中東、欧州で表の人には言えない活動をしてきた。

悪魔や堕天使、人間などと殺し合いを繰り広げてきた那由多には、まともな一般教養を学ぶ時間も、学ぼうとする気もなかった。

そんな人間が表の一般教養や常識などは知るはずもなく、通っていた陵空高校では、友人は一人もできずボッチだった。ほかの生徒と話が合うこともなく、他とは違うという理由で物理的に手を出してきたいわゆるヤンキーの部類に入る者に対しては、物理駅に再起不能にしてしまったりといろいろとやらかしてしまった。これらはすべて、表の一般常識をまったく知らないから起きたことであった。裏の事情には詳しいが・・・。

 

そんなこんなで約2ヶ月ちょっとの間高校にも通わず、特に何もしていなく自堕落な生活をしている那由多は

 

「・・・・・・・・・腹減った」

 

平日の昼にもかかわらず、寝起きの眠気で何も考えられず、ただ枕に顔をうずめていた。

 

♢♦♢♦

 

12時30分。うたた寝から20分が経過し、一般家庭であれば母親に4回はたたき起こされているはずだが、そんなことは知らんとばかりにようやくベッドから這い出てきた。那由他の部屋には朝のニュースならぬ昼のニュースがついていた。

那由他の部屋はマンションの最上階にあり、5LDKであるが、それぞれの部屋がとても大きくリビングに至っては、10人が雑魚寝をしてもスペースがあるという高級住宅だった。

どうもこの昼のニュースは昼に放送している番組にもかかわらず、星座占いをやっているようだ。もう既に仕事に出ている人は見れないだろうに。主婦層に必要なのだろうか?朝から洗濯やら朝食を作るやらしている主婦層に。この時間帯に。

そんなニュースの星座占い。どうやら今日のうお座の運勢は最悪。最下位でありとことんついていない一日になるらしい。朝から(もう昼だが)気分が下がる話である。そして頭上にも注意らしい。何だろうか?那由他達うお座の者だけに、雨でも降るのだろうか?

 

寝間着である半袖半ズボンから、Tシャツジーパンの私服に着替えた那由多は昼食を外で済ました後、そのまま帰宅せず、気まぐれに散歩をしていた。

住宅街を抜け、商店街に出る。この辺りは駅をまたがないとショッピングモールがないため、下町然とした商店街は昨今では珍しいくらいに賑わっていた。

近頃、それなりに近場で誰かが戦っている気配がする。しかし、魔法の気配は一人分にも関わらずどうも2人で戦闘をしているようではないようだった。

神器使いが悪魔と戦っているのか?それとも堕天使か。

 

詳しくはわからないが、どうにも那由多を狙っているわけではないようだった。

それにしてもお粗末な連中である。結界も張らず周りを顧みず戦闘をするなど宴会でもしているつもりなのだろうか?

そんなことをしていれば、この国にいるほかの組織にバレバレだと思うのだが。何か考えがあってのことなのか、それともただあのバカか、はたまた結界を張ることができないのか。

しかし、そうなると誰かが那由他とは関係ないところで戦っているということなのだろう。話に聞いていたほど、日本も平和ではなかったということか。ちょっと残念。

自分に関係がなければ放っておこう。もし自分にもそいつが関わってくるのならば、そのとき考えよう。

そうのんきに結論付けた那由多は、それらのことに対して不干渉を決め込むことにした。

 

後に自分も巻き込まれるとは露知らず。

 

♢♦♢♦

 

夜の6時、日が暮れ周囲が薄暗くなった逢魔時。那由多は夕飯を食べるために、住宅街を抜けて商店街に向かうため、またもや道を歩いていた。

何を食べようか、昼はチャーシューメン大盛りを食べた。店自慢の超特大ラーメン。完食したら賞金5000円、失敗したら5000円払うというメニューもあったが、流石に食べきれないだろうと思い遠慮した。あれは食べきれない。そもそも、ラーメン10杯分を一人で食べきれるものなんて居るのだろうか?

道も薄暗くなり、鳥目の人ではまともに歩けないだろう暗さになってきていた。

暗い。街灯があるのだから早くつければいいものを・・・。電気代がかさむからなのか?そもそも一つの市で一日に使う電気代って幾ら位なのだろうか?

そんなしょうもないことを考えていたときだった。

 

突然、周りの民家から人の気配が消え失せた。

先ほどまでは確かに気配があり、外にまで話し声が聞こえていたにもかかわらずだ。

 

「人払いか」

 

人を指定した範囲に寄せ着けない結界。日本の術師はこのような『隠す』『退ける』といった『祓い』に長けている。

よく見ると、那由他を中心にして結界が張られている。

周りに戦っている気配がないのも関わらず、那由多だけが人払いの結界の中にいた。

そもそも一般人が遭遇しないようにするための結界なのだ。間違えて巻き込まれるという考え方そのものがありえない。

つまり、結界を張った術者は那由多が目的ということなのだろう。

 

だが、なぜ那由他を狙ったのか。まぁ、那由他からしてみれば理由は両手の指では数えきれないほど思い当たるけれども。しかしそれは、欧州や中東、東南アジアでの話だ

東アジアの、それも日本で襲われる理由は那由他には思い浮かばない。一つだけ思い浮かぶが、それは那由他が思い浮かぶものであり、周囲には隠しているものだ。

だとすればこの襲撃は那由他の行動が招いた結果ではなく、何かしらの事情に巻き込まれたと考えるべきだ。

と、那由他はこの事態の原因を自身の独断と偏見で勝手に結論付けた。

 

「最悪だ。誰だか知らんが俺を巻き込みやがって。……巻き込んだやつはいつかシバく」

 

一方的な決意を新たに、那由他は改めて周りを見渡した。

逃げ道も何もない住宅街の一本道。

時刻は午後6時過ぎ。周囲は薄暗く、月は雲で隠れてり、光源は電柱に取り付けてある該当4本のみ。

しかし、周囲がどれほど暗くとも那由他には全く問題ない。気配のみでも戦うことはできるし、ちから(・・・)を使えば暗視ゴーグル以上に鮮明に見ることができるからだ。

 

だが、何故こんな戦い辛いところで仕掛けてきたのだろうか。もっと別にいい場所があったと思う。

開けた公園とか、廃工場とか。周りの家に被害が及ぶということが分からないのだろうか。

馬鹿なのだろうか?馬鹿なのだろう。馬鹿なんだと思う。

 

「—————ッ」

 

ふと突然、那由他は頭上に気配を感じた。見上げてみると、ずんぐりした物体が空から降ってくる。

大きな動物だろうか?灰色というよりもネズミ色に近い。

落下の衝撃で注意に土煙が舞った。土煙で周りが見えない。一寸先は闇ならぬ一寸先は土煙な状態だった。

 

地面はアスファルトなんだが、この土埃はどこから来たのだろう。

 

「邪魔」

 

土煙が鬱陶しかった那由多は、少しだけ力を使うことにした。魔力を少量練り上げ、無造作に周囲に解放したのだ。

瞬間、那由多を中心にした突然の突風が発生。周囲の土煙が晴れるどころか、周囲にあった家の屋根の一部が吹き飛び、電線が切れ、挙げ句の果てに複数の電柱がただの風で根本から折れ、周囲の民家に向けて倒れ込んでしまった。

 

・・・ちょっとやりすぎた。

 

周囲の惨状を見て見ぬふりをして、土埃が晴れたため、改めて落ちてきたものを見てみる。

 

「うっわ~~~。サイアク」

 

那由多は落下してきたものを目で確認すると、呆れとドン引きを足して2で割ったような声を出してしまい、思わず眼前の物から目を逸らしたくなってしまった。

ネズミだった。正確に言えば、とても大きなネズミだった。ミニバンほどの大きさのネズミだった。大きさは違えど、まごうことなきネズミであった。

 

そのネズミの目がとても怖い。あのクリッとした目が異様に怖い。円らな目をしているにもかかわらず殺意がむき出しなのが異様に気持ち悪かった。

・・・だって・・・白目がないんだもの・・・

その異様に気持ち悪い目をしているネズミの背中には、白いシャツを着ている高校生くらいの女が乗っていた。

まるで、馬にでも乗っているかのような乗り方。ネズミの乗り心地とはいかほどの物なのだろう。そんなしょうもないことが那由他の頭にふと浮かんでしまった。

 

上から落ちてきた一人と1匹。攻撃してくるのなら、ぬっころす。攻撃してこないのなら、シバき倒す。そう決め、いったい何の要件かと那由他は要件をうかがうことにした。

 

「何用か?」

 

目の前の、一般人なら腰を抜かすレベルの異常事態に対して、那由他は実に冷静に、観光地で旅行客に道を聞かれた地元住民くらい気軽な問いかけをした。

 

「・・・・・・・・」

「———————ん?なぜそこで止まる?」

 

那由他は思わず、相手の予想外の行動に対してあきれたような声を出してしまった。

女は動かなかった。何の行動もなく何の発言もしないまま、ネズミの上に乗った状態でその場に固まってしまっていた。まるで派手な登場の際に頭を強くどこかにぶつけてしまい、フリーズしてしまったロボットのようだ。

——————あれ?

なぜか動かないので、那由他はネズミに乗っている女の顔をよく見ると、どこかで見た覚えがあるような気がした。

どこかで見たことがあるようなないような。しかし、どこかで見たとしても、どこで見たかは覚えていない以上どうしようもない。何とも後味が悪い。

——————まぁ、どうでもいいかな。うん。見たことないということにしよう。

気にしないことにした。

 

「何か用か?」

 

再度、那由他は相手に問いかける。すると、女はようやく動き出した。乗っていたネズミから降り、ゆっくりとこちらに体ごと振り返る形でふり向いた。

その動きはまるで、幽霊のようで、腰を起点に振り向き、指先に力が入らないのかだらんとした手をしていて、重心も片足にかかっていた。

決して健康的な状態には見えなかった。

 

「・・・ミツケタ」

 

女から声が発せられる。とても平坦で、感情がこもっていない声だった。

次の瞬間、女の隣でじっと那由他を見ていた巨大なネズミが、その巨体からは到底想像することができない速度で上空に飛び上がった。

飛び上がったネズミの高度は周囲の民家の屋根に高さを軽く超えて、近くにあった5階建てのマンションの屋上ほどに達していた。

 

(よし、殺そう)

 

殺意と殺気を隠さず、襲い掛かってくるネズミに対して、那由他は簡潔に判断を下した。

那由他は非常事態にもかかわらず、外出する支度をするように、ズボンのポケットから黒い綿手袋を取り出し、両手につけた。

ネズミはその高さから、まっすぐ那由他の立っている地点に、ボディープレスを仕掛ける。

殺すと判断したはいいが、まったく動こうとする気配がない那由他。ネズミが落ちてくるまでにしたことといえば、ポケットにしまっていた黒い綿手袋をつけたことくらいだった。

落下によるエネルギーもプラスして、ネズミは全体重をかけて那由他を押しつぶした。

————刹那、周囲に衝撃が走った。衝撃は周囲の大気を大きく震わせ、ともに発生した爆発に似た大きな音は、もし周囲に人がいたならば、数秒の間は耳が聞こえなくなるであろう程の音量だった。

 

一拍あけ、衝撃と爆が止むと同時に周囲に肉片が散らばった。その肉片になかには、毛深い表面の肉片も含まれており、とても人間の肉体の成れの果てとは思えなかった。

それもそのはず。死んだのは那由他ではなくネズミのバケモノだったのだから。

衝撃があったであろう場所にはクレーターは出来ておらず、ネズミのバケモノではなく那由他がそこに立っていた。

傷を負うこともなく返り血を浴びることもなく、多々悠然とつまらなそうな顔をしてその場に立っていた。

先ほどの衝撃は、ネズミが那由他を押しつぶし地面に激突したために発生した衝撃ではなく、刹那がネズミを右手一本の搏撃で消し飛ばしたために発生したものだったのだ。

 

先ほどのネズミのバケモノの攻撃は、普通の人間ならば即死だっただろう。それほどの重量と体格をネズミは持っていた。

しかし、残念ながら那由他は普通の人間ではない。いや、種族としては普通の純粋な人間だけれども、一般人ではないという意味で、普通の人間ではない。

 

「しょうもない」

 

那由他は目の前の相手に、心底あきれていた。攻撃に何のひねりもなくただ単に重い重量の物体(今回は生き物)をぶつけただけの今回の相手に対して。

これで勝てると思ったのだろうか?これで殺せると思ったのだろうか?確かに相手が一般人ならば、この攻撃で大半は殺すことができるだろう。

しかし、今回の相手のターゲットは自分だったのだろう?ならばなぜもっと綿密な計画を立てて、万全の態勢で奇襲をかけてこなかったのだろう?

そもそも、今回は奇襲ですらなかったのだが。人払いの結界を張り、目の前に登場し、攻撃を行う。小学生か?もしや相手は小学生なのではないだろうか。もしそうなのであれば保護者をぬっころす。親権者には子供を監督する義務があるのだから。責任を取ってもらうために一回死んでもらわないと。もし相手が小学生でないのであれば、ただのバカであろう。ヒーロー漫画の読みすぎである。もしそうなのであればそいつをぬっころし、輪廻転生させて新たな親の子宮の中からやり直させてやる。まあ、次も殺すけれども。

 

「・・・はぁ~。・・・さてと・・」

 

いらん奴もぬっころし、さて本命と那由他は女のいたほうを振り返ってみると、なぜか女も倒れていた。

 

(なんでだよ)

 

気絶か?いや、そもそもなんかこいつ正常な生き物って感じがしないんだけど。なんか、使い魔っぽいというか、独立具現化型の神器っぽいというか。

詳しいことはわからないが、普通ではないということは那由他にも分かった。

どうするべきか?放っておくか?

 

「間に合ったのですよ」

 

突然、ウンウンどうするべきか悩んでいた那由他に頭上から若い女の声がかかった。またしても上かよ。今日は頭上注意の日なのかな?そういえば朝(昼だったが那由他からしてみれば朝)の占いでそんなことをいっていたな。ドンピシャじゃないか。明日からちゃんと見よう。

 

那由他が本日、何度目かわからない程のうんざりした顔で空を見上げると、魔女がいた。とんがり帽子をかぶり、マントを羽織っていた。THE魔女としか言えない魔女のような服装のため、逆に魔女っぽく見えなかった。だが、魔力を使い魔法を発動し空を飛んでいるのだから正真正銘の魔女以外の何者でもないのだけれども。

魔女っ子A(仮)は那由他と同年代ほどの外国人の少女だった。とても端正な顔立ちをしており、普通に街を歩いたら10人中10人がすれ違いざまに振り替えるほどの美少女だった。現状の服装では100人中100人が振り返りそうであるが。服装という意味で。

 

「何に対して間に合ったんだ?俺が襲撃犯を殺す前だったからか?それとも、俺が帰る前だったからか?」

「あなたが帰る前だったからなのですよ。あなたがウツセミ程度にやられるわけがないのですよ」

 

目の前の魔女っ子A(仮)は那由他のことを知っているらしかった。確かに、那由他は裏の世界では有名人ではあるが、名前や存在などが有名なのであって、決して那由他の顔が広く知られている訳ではない。

何より、那由他の名前は悪い意味で有名なのだ。そんな那由他の顔を知っている。ましてや、怖がらず、正面から警戒せずに会話してくるとは、那由他自身もこの現状にとても驚いていた。

 

那由他は人の機微にはそれほど敏感ではないが、それでも、相手がおびえているのか警戒しているのか程度は、目を見れば大体わかる。つまり、那由他の目を正面から見て怯えの一つの見せないということは、少なからず那由他の性格、人柄を知っているということだ。

 

「その口ぶり、オレのことを随分知っていそうだな。誰?お前」

 

那由他は目の前の魔女っ子A(仮)に対しての少しだけ警戒度を上げることにした。

そんな那由他の警戒を感じ取ったのか、はたまた素の性格なのか、目の前の魔女っ子A(仮)はマイペースに自己紹介を始めた。

 

「私の名前はラヴィニア・レーニなのです。よろしくなのです」

 

ラヴィニアと名乗る少女は那由他に対して笑顔で自己紹介をした。何が楽しいのかわからないが、なぜか満面の笑みだった。

いや、確かに誰だとは聞いたけれども。

 

自己紹介オンリーでも困るのだけれど。しかし、こちらが聞き、あちらがそれに対して答えたのならば、こちらも答えるのが礼儀というものだろう。

 

「そうか。オレの名前は雪解月那由他。何がよろしくなのかはわからんが、まぁ・・・よろしく」

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