これが私の執筆スピードなんです。
本当なんです!!!
エタるってそういう意味ですよね?
「ここなのです」
予期せぬ襲撃から一夜明け、那由他は会わせたい相手がいるということなので、ラヴィニアと名乗る女に朝の10時からとある場所に連れてこられてた。その場所は、指定された駅から徒歩15分ほどにある、何の変哲もない雑居ビルだった。
整備はされているのだろう。雑居ビルには目立ったヒビや損傷もなく、どこかの名前も知らぬ会社がテナントを借りて利用しているのだろう。と、一般人ならば思うであろう装いだった。
その雑居ビルには、人除けの結界が張られており、人の気配どころか生物の気配すらなかった。その手のことに敏感な者には、逆に何かあると思わせてしまうのではないかという程の違和感を那由他は感じていた。
————————もう少し工夫したほうがいいんじゃないか?確かに一般人は入ってこないだろうが、逆に
ラヴィニアの後に続き、雑居ビルの中に入る。エレベーターは使わず、階段を上り目的の部屋を目指す。場所は4階の一部屋。中は特に目立ったものは何もなく白くて長い椅子と、複数の椅子があるだけだった。特に気になるといえば、暗幕が窓にかけられていて、とても暗い部屋ということだけだった。
何よりも、目的の相手がいない。部屋の中にいるのはラヴィニアと那由他だけだった。
「ここで待ち合わせなのか?」
「はい。ここで会う約束なのですよ」
一応、ラヴィニアに確認をとる那由他。確かに、一般人は寄ってこないだろうけども、話し合いの場にしたら随分と殺風景な部屋だった。何より暗い。
立って待つのも面倒だからと、那由他はいくつかあった椅子の一つに座った。使いまでよこして自分は遅れてくるとか、なにを考えているのやら。そんな文句を心の中で垂れ流していると、不意に、部屋に最初から備え付けてあったスピーカーに音が入りだした。
《……よう。初めまして。雪解月那由他》
スピーカーから聞こえてきた声は男性の声だった。声からして若くはなく・30代~40代ほどの年齢だろうか。何やら軽薄そうな声のトーンだ。
《こちらの招待に応じてくれて感謝しているよ》
「感謝という割には、姿を見せないんだな。どこかの誰かさん」
招待したくせに、名前どころか顔さえ見せない相手に対して、那由多は少し不信感を感じた。
—————礼儀も知らんのかこいつは
「それについては済まないと思っている。だが、俺の立場的に安易にそっちの世界に行くわけには行かなくてな。顔を見せないことは勘弁してほしい」
「……世界?」
世界。その言葉を聞いた途端、那由他の動きが止まった。
世界各地には、様々な勢力の世界がある。北欧神話、オリュンポス、インド神話、須弥山、日本神話などだ。
そんな勢力が世界に渦巻く中、日本を主に勢力下に収めているのは日本神話だ。那由他は日本神話のことは詳しくは知らないが、それぞれの神話勢力の本拠地である土地では基本的に、その勢力たちの行動を縛るものなどそうそうない。そんな中、人間界に出てくるのに都合が悪く、そして、日本に干渉する勢力といえば、那由他には心当たりが一つしかない。三大勢力だ。キリスト教、聖書の神話体系。天使、悪魔、堕天使からなる、常に三つ巴に戦いを繰り広げている勢力だ。
那由他は、三大勢力の中でも悪魔という種族が、とてつもなく嫌いだった。どれほど嫌いかといえば、人間界で見かけた瞬間速攻で殺してしまうほど嫌いであった。ランクで言えば、ゴキ〇リと同順位ほどであった。
……あんた、冥界側の奴か?まさか、あの
空気が、震える。その瞬間、那由他を起点に殺気が周囲を走った。重く、鋭く、何よりも濃厚な殺気だった。部屋にあった窓ガラスはガタガタと揺れ、閉まっていた黒い暗幕は、その役割を果たさぬ程はためいている。まるで、ビルの屋上で天日干ししてい時に、突風が吹いたかの様に。那由多の放つ殺気に耐えられず、那由他が座っている以外のイスには大きくヒビが入る。
那由多が放つ威圧感、気配、そして何よりその殺気が部屋のみならず建物全体を揺らしていた。それらは、その場にいたラヴィニアがその様に感じたのではなく、物理的に揺れていたのだ。
「なぁァ……どうなんだ?」
那由多は鋭く、そして低い声で再度問い掛けた。顔に浮かんだ嫌悪感と憤怒を隠しもせず、殺気が体から溢れ出し周囲に放たれている。
その目は今にも暴れ出しそうなほど凶暴に、そして同時に冷たい目をしていた。一般人だけではなく、殺気に耐性のないものや心が弱いものが居れば、卒倒してしまうほどには重苦しい気配だった。
偽りは一切許さないとその目は語っている。
「————ッ!」
共にその場にいたラヴィニアは、那由多のその変わり様と放つ殺気に、思わず身震いを覚えてしまった。
その身震いは、最初に戦場で異形のものと相対した、命をかけた戦いの武者震いに似た身震いではなく、圧倒的な強者に睨まれた時のような身震いの感覚だった。
《あー、待て待て、早とちりするな。…まったく、相当
———————グリゴリ。堕ちた天使たち。堕天使の集団。
やはり、世界にある様々な勢力の中でも俗に三大勢力と呼ばれている集団の一角。そのトップ。
三大勢力ではあったが、悪魔ではないということ。
そして、アザゼルと名乗った相手が発した、依頼という言葉。那由他は、日本に戻ってくる以前、世界中を廻っていたころはちょくちょく依頼人不明の依頼を受けていた。どんなにアウトローな生活をしている者にも金銭というものは必要なのだ。
学歴もなく、働ける年齢ではなっかた那由他は主な収入源として、その依頼人不明の依頼を受け、資金を稼いでいた。
「……本当か?」
アザゼルと名乗った男の話を聴いた那由他は、アザゼルの声が聞こえるスピーカーにではなく、隣にいる自分の殺気に気押されているラヴィニアに対して問いかけた。
「ハイなのです。提督はあなたが嫌っている悪魔ではなく、本当に堕天使の提督なのです。ですが、その依頼の話に関しては、私はグリゴリのメンバーではないので分からないのですよ。」
ラヴィニアの答えを聞き、相手が悪魔ではない可能性が強まったと考えた那由他は、暫定的に相手が悪魔ではなく、堕天使であると納得した。
一応納得した那由他は、無作為に発していた殺気を収めた。冥界に本拠地があるとしても、相手は堕天使。神器狩りをしているという話もあるが、実際は何をしているのかを那由他は知らない。
何より那由他は今まで、依頼人と名乗る相手と会ったことがない。そして、那由他と依頼人以外は依頼に関することは知らないはずだった。依頼人が情報を漏らしたりしていなければ。
那由他は堕天使とは戦ったこともなければ、実際に堕天使を見たこともない。そのため被害を受けたことがない。というよりも直接受けようがない。
顔を見せない以上相手が本当に悪魔かなどは、那由他には分かりようがない。以上のことから、相手を悪魔だとは決めつけることはできず、逆に一方的に悪魔だと決めつけ、殺気を放ち威嚇した自分に落度がある。
「失礼した、堕天使アザゼル。冥界と聞いてあの
那由他は謝罪の言葉とともに、アザゼルの声が聞こえるスピーカーに向けて頭を下げた。相手が悪魔ではないということが確定したわけではないが、悪魔であるという確証もない。早とちりしてしまったのは自分だ。相手が悪魔と確信がない以上、こちらが勝手に決めつけるわけにはいかない。悪魔という言葉で先走ってしまったが、そもそもしっかりと考えてみれば違和感がある。那由多の悪魔嫌いな話は、その筋では有名な話だった。那由他もそのことを隠してはいない。そうなると、悪魔がコンタクトを取ってくるということは考えづらい。何より那由多が領空高校に通うことだできていたのも、依頼人が便宜を図り、戸籍を用意してくれたから平穏に日本にいられたのだ。
「ああ、気にするな。そういう反応をするだろうなと思ってあえて言ったんだ。むしろ、お前が顔も見せない相手に謝罪をするとわかって、こちらとしても僥倖だった。ちゃんと話せる奴だってわかったんだからな」
アザゼルの声はとても嬉しそうな声だった。その声のトーンだと、本当にそう思っているのだろう。そう那由他は感じた。
「感謝を。堕天使アザゼル」
♢♦♢♦
挨拶も含めた話がひと段落したところで、那由他は改まって話を切り出した。
「堕天使アザゼル改めて聞きたいのだが、何故今回は俺を呼び出したんだ?」
那由他には今回呼び出された理由に、まったく思い当たることがなかった。
『今回、俺がお前をここに呼んだのは、直接話したかったというのもあるんだが、本題は別にある。……雪解月那由他。君に依頼があったからだ』
君。アザゼルの言葉遣いが変わった。毎回、那由他に依頼が来るときには、手紙やメール時には伝書鳩など様々な連絡手段で送られてきたが、そのすべてに共通する点は言葉遣いがすべて同じという点だ。
君、してもらいたいなど、スパイ映画の指令が下される時のような言葉遣いだったのだ。今回もその例に漏れなかった。
「内容を聞いてから決めてもいいなら、話を聞こう」
『ああ、それで構わない』
アザゼルの依頼は、簡単に言えば子守りだった。
現在、ウツセミ機関を名乗る集団が陵空高校2年生の生き残りを狙って暗躍している。その集団は、ウツセミと呼ばれる元陵空高校2年生の生徒を素材に使った独立具現型の神器の模造品を作り出し使役している。先日、那由他を道端で襲ったものがそうらしい。今、アザゼルの下には神器に覚醒した陵空高校2年生の生き残りの一部が身を寄せている。彼らはウツセミ機関と戦い、ぞれが失ったと思っていた友達や大切な人を取り戻すと決めたそうだ。那由他にはそいつらの支援と監視をしてほしいそうだ。
なんでも、降りかかる火の粉を払うのは、セイクリッド・ギアを宿した者の宿命らしい。
アザゼル達ができるのはサポートまで。
那由他は、元陵空高校の2年生であり、セイクリッド・ギア保有者でもあることから参加しても問題ないらしい。
だが、他の陵空高校の生徒たちとは違く、那由他はすでに自分の神器を使いこなせていて、たとえ一人であってもウツセミ機関程度の組織ではとてもではないが那由他には歯が立たない。
しかし、彼らとともにいるのがラヴィニアだけでは、もしもの場合に彼らを完璧に守りきることができるかと言われれば、そうは言いきれない。また、ラヴィニアにはラヴィニアの目的があるため、常に彼らと一緒にいられるわけではない。
だからこそ、那由他に依頼を出し、今回の事件に関わらせようと決めたそうだ。
─────なるほど。昨日の奴はそういう理由で自分を襲ってきたのか。納得。
♢♦♢♦
駅にほど近い、見た目はごくありふれた普通のマンション。しかしそれは、一般人視点な見方でしかなく、実際には高度に組み上げられた結界が所狭しと作用しており、少なくとも、そこいらのちんけな結社の本拠地よりも、防犯防衛に優れている立派な拠点だ。
そんなマンションの一室で、幾瀬鳶雄、皆川夏梅、鮫島綱生ら陵空高校の生き残り3人と自称魔王の血を引くドラゴンと名乗るザ・厨二病少年ヴァーリ・ルシファーは仲間の1人である、ラヴィニアを待っていた。
「助っ人を連れてくるって言ってたけど、どんな人なのかしら?」
夏梅はラヴィニアが連れてくる予定である人物に対して、不安と興味を寄せていた。鳶雄達から見ればラヴィニアやヴァーリも助っ人という立ち位置だろう。そんな者達が、助っ人を呼んでくると言い、そしてその助っ人が頼りになると言った。つまりその助っ人は少なくとも異能異形の世界である裏と繋がりがある者ということだろう。
「さあな。だがラヴィニアは頼りになる奴だって言ってたな。どんな奴が来るんだか」
夏梅とは逆に、鮫島はこれから現れるであろうにあまり興味を寄せていないようだった。確かに、どんな奴が来るのかわかったものではない。つい3日前に童門計久と名乗る、黒幕の1人と相対したのだから。ラヴィニアとヴァーリを除き、こちら側の世界に関わって初めて会った異能力者が外道だったのだ。新たに裏に関わっている者と会うというのは、未だ経験が浅い3人には難しいものがあった。
「確かに、不安だよな」
鳶雄も今回のラヴィニアが連れてくる相手に不安を感じていた。そもそも、連れてくる相手が人間かどうかさえ分からない。そんな中で、不安にならないという方が難しかった。
鮫島はヴァーリの方に顔だけ向け尋ねた。
「ルシドラ先生は何か知らないのか?」
「俺が知っているのは、今回来るやつは人間で、以前はヨーロッパで暴れていたというくらいしか知らん」
暴れていた。その言葉を聞いた途端、3人の表情には先ほどよりも不安な色が濃くなった。
「それは……大丈夫なのか?」
鳶雄がそう口にすると、夏梅もその言葉に同意の声をあげた。
「確かに。不安になる情報ね。その人、呼んでも大丈夫なの?ちゃんと協力してくれる?」
「フッ、安心しろ。どんな奴が来ようともこの魔王ルシファーの血を引きながらも、伝説のドラゴン『
『ここなのですよ』
ラヴィニアの声がドアの向こう。玄関の扉側から聞こえてきた。
どうやら、件の助っ人を連れてきたようだ。
『神器使いは3人じゃなかったのか?気配が一人分多いんだが』
『それはヴァ―くんなのですよ』
『ヴァーくん?それは名前か?』
『はいなのです。とってもいい子なのですよ』
何やら二人はリビング前の廊下で話しているようだ。ラヴィニアが話している相手は声からして若い女のようだ。その女が助っ人なのだろう。気配を感じるだけでなく、その人数を感じ取るとは、最近まで一般人だった鳶尾達にはできない芸当だ。
『神器使いだな?そのヴァーくんって奴も。封印系か?ドラゴンの気配がするぞ、それもとびっきりのが』
『はいなのです。ですが、とってもいい子なのですよ。なのでナユも仲良くなれると思いますよ?』
『だといいがな……おい待て、なんだその呼び方は。俺とお前は会って精々1日だぞ。馴れ馴れしすぎるだろう』
『では入るのですよ。挨拶はきちんとするのですよ』
『待て、話を聞け。そしてお前は俺の母親か何かか?余計な世話だ』
ドアが開いた。先に入ってきたのは、やはりラヴィニアだった。もう一人もラヴィニアに続いて部屋に入ってくる。
「連れてきたのですよ」
入ってきた者は一見、凛々しい印象を受ける女……少女と女性の中途半端な時期を切り抜いたような容姿をしていた。年齢は、鳶雄達と同じく高校生くらいの年頃だろう。
身長は、隣に立っているラヴィニアと同じか、少し高いくらい。
髪型は長い黒髪をうなじのあたりで包帯のようなものでシンプルに一纏めにしており、長さはもう少しで地面に着きそうなほど長い。しかし、毛先のあたりは赤く染まっており、荒々しい印象も受ける不思議な髪色だった。
容姿はとても整っていて、和服を着て髪型を整えれば、外国人が真っ先に想像しそうな大和撫子に見えるだろう。髪の色を変えれば……。
しかし、鳶尾達はその人物に見覚えがあった。というよりも、その人物を知っていた。
「雪解月くん!」
夏梅が名前を呼んだ。
彼女が那由他の名前を知っているのは、ある意味当然だった。雪解月那由他は鳶尾や夏梅、鮫島と同じく、陵空高校の2年生、同級生であると同時に学校では有名人だったからだ。
それも、不良で有名だった鮫島のような理由ではない。学校一の変わり者という理由でだ。
容姿端麗でありながら運動神経抜群という上っ面だけを見れば、所謂勝ち組に属しているはずの人物であったにもかかわらず、突飛な行動や発言などの一般人では決して行わないような行動、普通に日本で生活していれば考えつかないような思想の吐露。そのような行動や言動が理由で、学校では浮いた存在として有名だったのだ。
那由他はまるで今回の事件を今回の出来事を何とも思っていないような軽いノリで
「ん?ああ……俺のこと知ってんのか?まぁ、それならちょうどいいか。俺の名前は雪解月那由他。お前らと同じく陵空高校に在籍していた。俺のことを知っているなら分かっているだろうが、俺はこう見えても男だ。忘れんなよ?……今回、提督にお前らの子守りを頼まれてここに来た。そんなわけで、ヨロシク」