紫煙燻らす彼の話 作:社畜的な社畜
カタカタとキーボードの操作音が断続的に響き、ディスプレイには世界の仕組みが着実に構築されていく。
「…………よしよし、良いぞ、良いぞ……!いい感じに指が踊ってきやがった…………!」
デスクトップ型のパソコン画面が二つ並んだデスクに座り、火のついていないタバコを口にくわえた彼は黒縁眼鏡にパソコン画面を反射させながらぶつぶつと何かを呟いていた。
ボサボサの黒髪は癖っ毛なのかゴチャゴチャしており、眼鏡の下にある目はどんよりと淀んで目の下には濃い隈が作られれており明らかに疲労困憊の様子。
それでも、彼の指は走っており画面には絶え間なく文字が刻まれ止まる気配が無い。
時間にして凡そ、三十分。その間ずっと動き続けていた指だが、ここで初めてその動きを止めた。
「……………………ふひゅー………SAN値チェック」
メガネを外し、凶悪な皴の刻まれた眉間を揉んで目薬を差した彼は少しの間目を瞑り、出来を立ち上がった。
データの保存を終えて、社員証とタバコの箱、百円ライターを片手にフロアの外へ。
現在朝の五時三十七分。昨日の夜からほとんどぶっ通しでパソコンの画面と向かい合っていた彼の脳は今はとろとろに蕩け切っているのだ。
上ってくるエレベーターに乗り込み、最上階へ。
解放された屋上は、朝日も未だ射し込んでこない。
黒いワークパンツに白のTシャツ。その上から肩から手頸にかけて緑のラインが入った藍色のジャージを羽織った彼からすると、ほんの少し肌寒い気がしないでもないが茹った頭には朝風が程よく熱を奪ってくれるお陰で丁度いいというもの。
「あ~、まっじぃ……………」
苦い煙を肺一杯に取り込んで、空へと吐き出す。体に悪い事は理解しているが、止められないので致し方なし。別段趣味なども無い彼からすれば、食費光熱費水道代と必要な金額を給料から差し引いてしまえば結構な額が手元に残り、タバコ代も三日に一箱前後。一万円を超える事は無い。好みも特になく、一時期はコンビニの一番から最後までタバコを流し買いしていた事もあった。
屋上の手すりに背中を預けるようにして、寄りかかる。
「えぇっと………あっちのプログラムを書き直して、で、多分向こうでバグが出るし…………」
休憩のはずなのだが、自然と頭に仕事の事が出てくるあたり、彼は社畜道を邁進していると言えるのではなかろうか。
気づけば、ほとんど吸う事無く火が進んでおりフィルター近くまでタバコは燃えてしまっていた。
ポケットに常備している携帯灰皿に捩じ込み、もう一本を咥えて火をつける。
新たな紫煙が朝の空へと昇っていった。
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ゲーム会社イーグルジャンプ。
春先のこの日、新入社員として入社したレディーススーツが完全に中学生の制服にしか見えない童顔小柄な彼女、涼風青葉は憧れのキャラクターデザイナーである金髪美人、八神コウに出会い同時に衝撃的な姿にショックを受けることとなる。
そんな彼女にフォローを入れるのは、コウの同期でありADを務めている遠山りんである。
「そう言えばコウちゃん。ケイちゃん知らないかしら?」
「け、ケイちゃん?」
「えー?またパソコンに齧りついてるんじゃないの?それか、屋上じゃない?」
「また、タバコね…………ハァ、止めてって言ってるんだけど」
「まあまあ、キヌも私達の事考えて屋上にまで登ってくれてるし」
「けど、体に悪いでしょ。ただでさえ、直ぐに徹夜するのに…………」
「でも、キヌが体壊したことないじゃん。むしろ、私達がインフルで倒れても一人だけ元気だったし」
「あれは!…………あ、ごめんね涼風さん。放っておくみたいな事しちゃって」
「い、いえ!大丈夫です!あの、ケイちゃんさん?って…………」
「ああ、ケイちゃんは―――――」
「よぉ、朝からどうしたんだお前ら」
りんが青葉の疑問に答える前に、男性の声が三人娘の間に割り込んでくる。
青葉が振り返れば、そこに居たのは黒髪がもっさりとしており黒縁の眼鏡をかけた一人の男性。無精ひげの生えた左の頬を、右手で掻いていた。
「あ、キヌ。今日も貫徹?」
「気づいたら朝になってただけだ。ちょいと小休止挟んだら続きをやるさ」
「ケイちゃん?」
「怖い顔すんなよ、遠山。別に無理してねぇし。生まれてこの方風邪も…………っと、悪いな、新人だろ、君」
モサモサ頭の彼は、眼鏡に蛍光灯の光を反射させて表情の伺えない顔を青葉へと向けた。
「俺は鬼怒川。
「騙されちゃダメよ、青葉。キヌは、何でも屋の仕事人間だからね。キャラやモーション、企画までいろいろやってるの」
「仕方ねぇだろ…………」
茶化すように言うコウに対して、啓路はため息をついた。ただ、本人が否定しないという事はそう言う事である。
そこで、いつの間にかその場を離れていたのかりんが四人分のカップをもって戻ってきた。
「はい、二人ともコーヒー。涼風さんは紅茶にしたけど、良かったかしら?」
「あ、はい!…………」
元気よく返事をしてカップを受け取った青葉だが、その視線はコーヒーを受け取ったコウや啓路の手元のカップへと向けられていた。
その視線に気づいたのかコウが首を傾げた。
「どしたの青葉。コーヒーが良かった?」
「え、あ、いえ!そういう訳じゃ…………皆さん、コーヒーはブラック、ですか?」
「私は違うよ?砂糖は入ってるし」
「私は、ブラックね」
「俺もだな。まあ、普通にカフェオレとかも好きだが」
「遠山さんも鬼怒川さんも凄いですね…………」
「何でそこに私は入って無いんだ?」
「八神が子供っぽいのは前からだろ」
「大丈夫よコウちゃん、スティックシュガー一本分は入ってるから」
「そこまで子供舌じゃなーーーーーいっ!」
騒ぐコウ。とはいえ、別段二人が虐めているわけでもなく、日常的なおふざけでしかない。
「皆さん、仲が良いんですね」
「まあ、同期だしね……あ、そうだ。青葉に問題出しちゃおうか」
「えっ……」
「そう、堅くならないでよ。単なる質問。私達は一体幾つでしょうか?」
「えっと、えっと……と、遠山さんが二十三歳位?鬼怒川さんが、に、二十八歳?八神さんも同い年…………?」
「ふふっ、コウちゃん固まってるよ?」
「俺はこんな成りだしな」
「違ってました?」
「私もコウちゃんもケイちゃんも、同い年の二十五だよ。私達はみんな高卒で入ったの」
「ああああああああの、ご、ごめんなさい!私、失礼な事…………」
「気にすんな。質問した八神が悪い。当人が答えに固まっちまうのは、ざまあみろだがな」
見た目を気にしない啓路は老けて見られることが多いらしく気にした様子もない。
この後、コウが騒ぎ始めたりコミュ障な先輩が現れたりと色々あるのだが、それはまた別の話。
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《プロフィール》
鬼怒川 啓路
身長:178センチ
体重:64キロ
視力:右0.4 左0.8
備考:髪を切りに行くのは、数ヶ月に一回。髪を切ると一転して短髪になる為、場合によってはイメチェンにも見える
タバコの銘柄に拘りは無く、両切りや葉巻、電子タバコも吸える。酒の強さは程々、記憶は翌日残るが悟られないタイプ
基本的に年上、目上の相手は性別問わずに“さん”を付ける。例、葉月さん
後輩、同輩は呼び捨て。うみこだけはアハネと呼ぶ。これは、彼女が後輩で入って来た際に彼が名字が読めずにアハネと読んでいたから
過去にゲーム作りを個人でしていたらしく、そのノウハウを買われてフロアスタッフの様な何でも屋擬きとなってしまった