この世界とは別の位相にある世界、その世界に巨大な異形が潜んでいた。
それの姿はまるで地獄の番犬であるケルベロスそのものだった。
フィンディッシュタイプビースト、ガルベロス。ビースト頻出期にも出現したビーストであり、ビーストたちのオリジンであるザ・ワンに近い存在でもある。
ここにいるガルベロスはこれまでに確認されたガルベロスと体色が異なっていた。通常のガルベロスは茶色を主とした体色だが、このガルベロスは漆黒の体色だった。
ダークファウストとダークメフィスト、暗黒破壊神ダークザギが生み出した暗黒巨人たち。ウルトラマンネクサスに撃破された彼らの残滓、暗黒の力を喰らい強化したのがこのガルベロスだった。
ダークガルベロス、暗黒巨人の力を受け継ぐ魔獣がこの世界に居た。
身動き一つしないダークガルベロスに変化が起きる。その肉体から小型のビーストが続々と誕生し始めたのだった。
ダークガルベロスは無数に誕生した小型のビーストたちに咆哮した。
その咆哮は、ダークガルベロスから自身の分身である小型ビーストたちへの指示だった。自分たちの餌となる恐怖を、知的生命体を喰らえという指示だった。
小型のビーストたちはダークガルベロスの指示を受けて別の位相=現実世界へと向かっていく。これがこの後に起きる大事件の前触れであることはまだ誰も知らなかった。
フォートレスフリーダム、ナイトレイダーの基地であるそこは10年前に有していた機能の大半を取り戻していた。
「いよいよ、ナイトレイダーの正式運用だな。」
フォートレスフリーダムの格納庫では、クロムチェスターα機の整備をしていた弾が整備を終えて言った。
整備を手伝っていた大紀もその言葉に同意する。
「ここまで、和倉さんや隊長たちの尽力があったから何とか来れたんだと思います。俺たちも頑張らないといけないですね。」
大紀の言葉に、弾が近づいて肩を組む。
「そうだな、大紀の言う通りだ。ただ、同僚にいつまで敬語なんだ?かれこれ、色々な任務をこなしてきたのに、敬語は無いだろう。俺と話すときはタメ口で良いぞ。」
「いや、そうは行かないですよ。だって、弾隊員は俺よりも先輩ですし。」
「別に礼儀正しいのは悪いことじゃない。だが、ここまで何度も背中を預けているんだ。もうそろそろ、堅苦しいのは抜きにしようぜ。」
キムンウルズス討伐から半年、その間にも多くのビーストが出現した。新宿に出現したペドレオンの別個体、クラスシティアンタイプビーストのグランテラ、ブルームタイプビーストのラフレイア、インセクトタイプビーストのバグバズンといった巨大ビーストを始め、10m級の小型ビーストなど多くのビーストの討伐を行った。
頻出期を潜り抜けた隊長と副隊長の元、若い隊員の尽力によりここまでに出現したビーストの討伐は成功してきた。当然、その中にはウルトラマンネクサスの活躍もあった。
かなりの激務を訓練していない一般人、ましてや児童通所デイサービスに努めていた大紀がこなすのは並大抵の苦労ではなかった。
その激務を乗り越えられたのは、幼馴染みの鈴音や過去にウルトラマンになった孤門と凪の存在があった。そして、その3人の他に助けになったのは今肩を組んでいる弾だった。
この半年は大紀と弾はコンビを組むことが多かった。それは、ナイトレイダーとしての基本的な仕事を教える他にも、年の近いメンバーの交流を深めようとした孤門の考えがあった。
大紀から見た弾は自身より少しばかり年上で、元自衛隊ということで初対面の時は少しばかりの恐怖心があった。だが、キムンウルズスの討伐後からコンビを組むようになったことで弾の人柄も分かるようになってきた。
弾の方はというと、元々は一般人だという大紀のことを当初は心配をしていた。自分たちのように訓練をしているならいざ知らず、入ってきた大紀は戦闘訓練を受けたことのない人物だった。元自衛官だからこそ戦闘任務の過酷さを理解している弾は大紀がそれに耐えられるかを心配していた。
そんな弾の心配をよそに、というわけではないが普段の訓練に加えて自主トレも行う大紀。そうやって努力している大紀の姿を、弾はコンビを組む相手として好ましく思っていた。
「まあ、今すぐにとは言わねえから。」
「はい。」
そんな時、二人のパルスブレイカーに通信が入る。
「はい、こちら剣崎。」
「剣崎隊員、反町隊員。至急ブリーフィングルームへ来てください。」
通信の主はナイトレイダー参謀の吉良沢であった。
「了解。行きましょう。」
「そうだな。参謀が通信を入れたってことは緊急だろうな。」
大紀と弾はブリーフィングルームへ急ぐ。
大紀と弾がブリーフィングルームに入った時には、吉良沢を除く他のメンバーが既に準備を始めていた。
「弾、大紀。二人も急いで準備を!」
「「了解。」」
既に準備を終えていた孤門の指示から二人は即座に準備をする。
「孤門隊長。出現した地点を全員のパルスブレイカーに送信しました。」
「ありがとうございます。今回はあまりにも出現地点が多いので自衛隊への協力要請も。」
「TLT日本支部で戦闘に従事できる者全てに出撃準備を通達しています。」
孤門と吉良沢の会話から今回の出動がかなり大掛かりなものであることが分かる。
「隊長、何があったんですか。」
大紀が準備を進める中で孤門に質問する。
「東京のいたるところにビースト反応が確認された。それと同時に新種のビーストの被害が次々と連絡されるようになった。」
大紀の質問に孤門が答える。今までにないレベルでのビーストの出現、ナイトレイダーというよりTLT日本支部へ協力要請が出たのだ。
「確認されたビーストは体長1mから1.5m程度です。過去に出現したガルベロスと類似した特徴が見られます。私はここでビーストの解析を行います。皆さんは複数のチームに分かれて、ビーストの制圧をお願いします。」
吉良沢の指示を聞き、ナイトレイダーの面々は今回の作戦が大規模なものであることを理解する。
「今回の作戦は非常に大規模です。TLTのみではなく、自衛隊など他の機関と連携することが必須です。私はここから指示をしますが、現場での皆さんの判断を最優先にします。」
「よし、行こう。ナイトレイダー出動!」
これまでにないレベルの大規模襲撃。そこから始まる一連の事件はザ・ワン、イズマエル、ダークザギと言った最大級の被害を出した過去のビースト事件と同列に扱われるようになる。この時の大紀たちはそれを知らずに、現場へと急行する。
新宿、東京都庁。そこでは、既に自衛隊が作戦本部として準備を進めていた。関係各所への連絡と同時に、自衛隊が有する戦力の準備も行っていた。
新宿を除いた東京各所では、警察と自衛隊、消防による避難誘導が進められていた。その中で、至る所で爆発音が響く。戦うすべを持たない一般市民は辺り一帯で起こる爆発音、異質な鳴き声に怯えパニックになる。
パニックになる人々の前に、ビーストたちが姿を見せる。
ダークガルベロスが生み出した分身、後にその特徴がアメリカウィスコンシン州のン・ガイの森で確認された小型ビーストと一致した。地獄の猟犬から名前が取られ、ヘルハウンドと呼称されるようになるこのビーストは圧倒的な数で多くの人々を死に至らしめることとなる。
ヴアアアアアアアアアア!
異質な咆哮を上げてヘルハウンドたちは多くの一般市民に襲いかかる。人々の悲鳴と肉や骨が引きちぎられる音が東京各所で響き始める。
都庁で自衛隊と合流したナイトレイダー。各地から通達される被害から孤門が迅速に指示を出す。
「副隊長は本部で自衛隊と協力して各地へ指示を出してください。鳳隊員と菊池隊員は自衛隊と協力して市民の避難の補助を。僕と反町隊員、剣崎隊員は実働部隊と一緒に各地に出現したビーストの殲滅。今回は自衛隊、警察、消防とも情報を共有して作戦行動を取る。解散後、行動開始。」
「「「「了解。」」」」
自衛隊と合流したナイトレイダーは孤門の指示に従い、各地へ散らばった。
各地では被害を出し続けるヘルハウンド、避難が遅れている地区へ鈴音と数馬は市民の避難を誘導する。
「落ち着いて避難してください!この先の避難所まで自衛隊の指示に従ってください!」
「こちらです。鳳隊員、俺はこのまま市民先頭で避難を誘導する。ビーストが出てきたら、連絡する。」
「了解。気をつけて。」
都庁に残る凪は東京の地図を見ながら、各地からもたらされる情報を元に各地に指示を出す。
「すぐに、情報をください。被害が大きい霞が関周辺へ戦力を集めてください。通常兵器でもダメージが出るので、牽制してください。隊長、反町隊員、剣崎隊員は3チームに分かれて行動して。」
凪の指示を聞いた大紀たちは3チームに分かれて、各地に出現したヘルハウンドの殲滅に動く。
3チームに分かれて、ヘルハウンドと接敵する大紀たち。ビーストとの戦闘を初めて行う自衛隊と動きを確認する。
「俺が主にビーストを攻撃します。皆さんはとにかく攻撃して牽制をしてください。」
「他にはどう動く?」
「皆さんは建物に、逃げ遅れた市民が居ないか確認をお願いします。それでは、行きます。」
大紀はヘルハウンドたちがいる方向へ向くとディバイドランチャーの引き金を引く。
ディバイドランチャーから発射された光弾は次々とヘルハウンドたちを青白く発光させて消滅させていく。
ヘルハウンドたちは同族が死んだことで大紀たちの方を向く。
複数のヘルハウンドが次々と襲いかかる。
先頭に立つ大紀は襲いかかるヘルハウンドたちを撃ち抜く。背後の自衛官たちもヘルハウンドを牽制するべく持っている機銃の引き金を引き続ける。
別の位相の世界にいるダークガルベロス。現実世界にいるヘルハウンドたちが知覚するもの全てを共有していた。その中に、ダークガルベロスの気を引いたものがあった。
迷彩柄の自衛官たちを率いる紺色の姿。その顔を見た時に、ダークガルベロスはその世界で咆哮した。
ダークガルベロスの咆哮に明確な殺意があった。
(やっと見つけたぞ、適応者!かつて、我々を滅ぼした忌まわしき光め!!)
その意思は現実世界のヘルハウンドたちへ伝わる。ダークガルベロスの意思を受けたヘルハウンドたちはある一点を狙い始める。
日が沈み始めた頃、大紀はヘルハウンドたちの突然の行動に驚きを隠せなかった。
「急にどうしたんだ。」
先程まで自分たちを襲っていたヘルハウンドたちが別の場所を目指して走り出したのだ。そのまま追いかけか考えた時、パルスブレイカーに凪からの通信が入る。
「至急、隊長の援護に行って。ビーストたちが隊長のチームに殺到し始めた。」
凪からの情報で大紀、弾はすぐに行動した。
2つのチームが動いて、孤門のところへ向かうのだった。
「撤退します!援護しながら建物に!!」
ヘルハウンドたちが殺到し始めた孤門のチーム。多くなったヘルハウンドたちにより多くの自衛官が負傷した。
孤門は自衛官たちに指示を出しながらヘルハウンドたちを攻撃する。なぜ、多くのヘルハウンドがここに集中したのか、その理由をこの時の孤門は分からなかった。絶体絶命と思われたその時、別働隊で動いていた大紀と弾のチームが加わった。
「これだけ集まれば殲滅も楽だ!隊長、助けに来ましたよ!!」
「隊長、もう少し耐えてください!」
大紀と弾のチームが加わり、ヘルハウンドたちは三方向からの攻撃に怒り狂い反撃する。
無数のヘルハウンドたちが大紀、弾、孤門のところへ殺到した。
「うおっ!」
「なっ!」
「反町隊員!剣崎隊員!くっ!」
殺到するヘルハウンドに埋もれる3人。
大紀は咄嗟にエボルトラスターを引き抜いた。
ヘルハウンドたちは衝撃を受けて吹き飛んだ。
そこに、ウルトラマンネクサスが居た。ネクサスの姿を見て、弾は一息つく。孤門はネクサスを見て、安心する。
ネクサスは二人と自衛官たちの無事を確認する。そこに、時空の裂け目が現れ中からダークガルベロスが現れる。
ジュアッ!
ダークガルベロスを見るやいなやネクサスはファイティングポーズを取る。
ダークガルベロスはネクサスを確認すると、その眼を赤く輝かせる。
夕焼けに染まる街は瞬く間に漆黒の闇に包まれる。
ネクサスは漆黒の闇の中、ダークガルベロスめがけて走り出した。
デアッ!
ダークガルベロスに向かって飛びかかり、チョップでダークガルベロスの頭部を狙う。
ネクサスのチョップが当たると思われた次の瞬間、ネクサスのチョップは空を切った。
ネクサスが着地して、その場を見るとダークガルベロスの姿は既になかった。そして、ネクサスの背後から突如火球が当たり、爆発した。
ディアア!!
背中の衝撃から背後を確認するネクサス。そこには、先程までネクサスの正面に居たダークガルベロスが居た。
ネクサスはダークガルベロスに向かって、パーティカルフェザーを放つ。
ダークガルベロスはその場を動かず、漆黒の闇と同化するとその場から消えてしまった。
姿を消したダークガルベロスは次の瞬間にはネクサスの真横に居た。
ネクサスはダークガルベロスに気付き、そこを向くがダークガルベロスの爪が振るわれ攻撃を受けてしまう。
「隊長。あのビースト、なんかおかしいっすよ。」
「闇に隠れて移動する能力があるんだろう。今のままだとウルトラマンが危ない。」
「次に現れた瞬間に撃ちますか。」
戦いを見ていた孤門と弾。敵の能力を前にネクサスが不利であることから援護することを決める。
二人はダークガルベロスを狙い、ディバイドランチャーを撃つ。
放たれる光弾に気付いたダークガルベロスは闇に溶け込んで消える。消えたダークガルベロスはネクサスの背後に移動していた。
ネクサスは背後に移動したダークガルベロスにパンチを繰り出す。
それを再び闇に同化して回避しようとするダークガルベロスに孤門と弾が放った光弾が直撃した。
キシャアアアアアアアア!!!
光弾が直撃して怯んだ瞬間、ダークガルベロスの眼のない頭部にネクサスのパンチが炸裂した。
ネクサスはそのままジュネッスストロングに変身、怯んだダークガルベロスに強烈なパンチを叩き込む。
パワー形態のジュネッスストロングのパンチに大きなダメージを受けたダークガルベロス。ダークガルベロスは闇の中から2体の分身を召喚、三方向から火球を放った。
ダークガルベロスの攻撃を見て、ネクサスはナックルレイ・シュトロームを3連続で放った。
ネクサスのナックルレイ・シュトロームはダークガルベロスの火球を打ち消し、3体のダークガルベロスを爆散した。
「よしっ!」
弾はダークガルベロスが撃破され、ガッツポーズする。
孤門もそれを見て、凪たちに通信をしようとした時だった。
撃破されたダークガルベロスの体にどこからか現れたヘルハウンドたちが群がり始めた。
ヘルハウンドとダークガルベロスの肉体は融合、新たな姿となる。
「あれは、暗黒巨人。」
その姿を見た孤門はかつての暗黒巨人たちを連想した。
ヘルハウンドとダークガルベロスが融合したビーストは、人間と同じ体型の2足歩行で両手に巨大な爪を持っていた。胸部には漆黒のカラータイマー、眼のない頭部は後方に伸び、両肩にはガルベロスの犬の頭部があった。
「忌まわしき光の巨人め。お前を倒して、この星を食い尽くしてやる!」
新たに誕生したビーストは流暢に言葉を喋った。それはここまでに出現したどのビーストとも違うことの証明だった。
ネクサスは新たに現れたビースト、フィンディッシュタイプビースト=ティンダロスに向かってファイティングポーズを取る。
フィンディッシュタイプビースト=ダークガルベロス
初登場はウルトラマンギンガ。闇の力で強化されたガルベロスで、本作では暗黒巨人たちの残滓を取り込んで強化したガルベロスである。
闇に隠れて瞬間移動する能力と複数の分身を生み出す能力を持つ。
フィンディッシュタイプビースト=ヘルハウンド
ダークガルベロスが生み出した小型ビーストで、その風貌は犬のような姿のビーストである。群れで行動するビーストであるため、人間を捕食する時は群れで追い詰めてから捕食する。